灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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文章力が足りないのか、一章始まってからアクセス数が減って私は悲しい………あ、いつも読んでくれてる方々、ほんっとうにありがとうございます。
どうも、作者です。現在下層に行くか、飛竜の谷からショトカして病み村行くか迷い中。
楽しんでいただけると嬉しいです。


襲来

「なんだって!?」

『それだけじゃない、さらに四つの反応……五騎ものサーヴァントが接近している!かなりまずいことになったよ!』

 

 驚くマスターに、通信魔術越しの彼は珍しく焦った様子でそうまくし立てる。

 

 五騎のサーヴァントと聞き、マシュ殿やジャンヌ殿の表情も硬くなっていた。戦力差はほぼ倍だからな。

 

 ……どうやら、感傷に浸っていられるのはここまでのようだ。聖鈴と指輪をソウルにしまって双槍を取り出す。

 

「落ち着きたまえ。焦っていては取り返しのつかないことになる」

「バーサーカー……うん、そうだよな」

 

 顔面蒼白となっていたマスターは、私……というよりも、第三者の声によって少しだけ落ち着きを取り戻した。

 

「とにかく、時間がない。まずは人々を避難させよう」

「賢明だ。火防女、〝家路〟と結界を同調させて彼らを砦に送る。手伝ってくれ」

「はい、灰の方」

 

 彼に逐一サーヴァントの位置を把握してもらい、マシュ殿たちに警戒を頼んで助けた人々を避難させる。

 

 幸い、転送はすぐに終わった。現代の魔術の知識と、元聖女としての奇跡の素養を持つ火防女のおかげだ。

 

『っ、きた!』

 

 そして結界を解除したその瞬間──彼の言葉とともに、強い気配をソウルで感じ取った。

 

 平原に、大きな影がさす。見上げれば、そこにいたのは巨大な生き物。まるで闇そのものの如く太陽を覆い隠している。

 

 ほどなくして、それが竜であると理解した。全身に漆黒の鱗を纏うそれは、豪風とともにうっくりと降り立つ。

 

 

 

グルルルルル……

 

 

 

「この、威圧感は……!」

「さっきのワイバーンとは決定的に違います!」 

「……これは、桁違いだな」

 

 黄金の眼でこちらを射抜くそいつは、まさしく〝竜〟であった。ワイバーンのような紛い物とは根本的に違う。

 

 かつて古竜の頂で相見えた飛竜に匹敵する巨躯、そして古竜の末裔とは比べるべくもない力強いソウル。

 

 おそらく召喚されたものだろうが、とてもこの世にいてはいいものではあるまい。

 

『絶大な魔力量、そいつは本物のドラゴンだ!気をつけろ!』

「……それだけではないようだ」

 

 え?という彼に、竜の背中を見上げる。そこにいるものに、面頬のスリット越しに鋭く目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

「──なんて、こと。まさか、こんな事が起こるなんて」

 

 

 

 

 

 

 

 そいつは、私たち……否、驚愕の表情を浮かべるジャンヌ殿を見て、いかにも驚いたという顔をする。

 

 竜の背から飛び降りてくると、その表情のまま一歩、二歩と歩み寄ってきた。その度に竜と同じ漆黒の具足が音を立てる。

 

 そして微動だにしないジャンヌ殿の数メートル前で立ち止まった。するとどうだ、とても奇妙な光景となった。

 

「ねえ、お願い。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの。本気でおかしくなりそうなの」

「あな、たは」

 

 何故なら──その少女は、もう一人のジャンヌ・ダルク。死人のごとき肌の色も、その魂すら反転したような存在なのだから。

 

「だって──そのくらいしてトばさないと、滑稽すぎて笑い死んでしまいそうなんだもの!」

「──────」

 

 無言で驚くジャンヌ殿と、心底おかしいように哄笑する黒いジャンヌは瓜二つ。しかしてその在り方は正反対。

 

 ジャンヌ殿は儚いながらも、純白のソウルを。対する黒いジャンヌは……闇術の火の如く、激しく燃え盛る黒いソウル。

 

 ああ、けれどそれは──どこかこの胸に宿る、ドス黒い裏切りと憎しみの血で染まったソウルに似ていた。

 

「ほら、見てよジル!あの哀れな羽虫のような小娘を!同情が湧かなすぎて涙が溢れてしまいそう……」

 

 まるで踊る演技人のように、胸に手を当てて嘲笑という名のその嘆きを訴える黒いジャンヌ。

 

 たっぷりと侮蔑のこもった言葉に、ジャンヌ殿は顔を歪める。されどそれに笑みを深めて、黒いジャンヌは声を張り上げた。

 

「ああ、本当──くだらない。こんな小娘にすがるしかなかったこの国(フランス)は、やはり救いようがありません」

「……ッ!」

「それに何?その貧相な()()()()は。ジルの代わりのつもりかしら?」

 

 クスクスと笑う黒いジャンヌ。順繰りにマスター、マシュ殿、火防女と、軽蔑と嘲りが宿った目で見下してくる。

 

「悪いが、私のマスターをあまり悪く言わないでもらえるか」

「バーサーカー……」

 

 私は、マスターたちを守るように一歩前に出た。自分の言葉を否定されたのに苛立ったか、黒いジャンヌはこちらを見る。

 

 そうして──目を見開いた。それまでの芝居がかったわざとらしい反応ではなく、本気の驚愕をした様子で。

 

 それはほんの一瞬、すぐに不機嫌そうに目元を歪め、口角を下げて私を射抜くように睨み据える。

 

「あんた、何?」

「見ての通り彼のサーヴァントであり、貴公の敵だ」

「ハッ、あんたが英霊ですって?もし本気で言ってるなら不気味すぎて気持ちが悪いわね」

 

 ……彼女はルーラーの力を持っているのだったか。それにはサーヴァントの情報を把握するものもあると聞く。

 

 ならばきっと、私の霊基とやらが見えているのだろう。この世にいるものとしてはあまりにも歪な本質が。

 

「不気味、とは。なかなか辛辣な言葉だな」

「ええ、不気味。〝座〟に縛られた英雄の影法師でもなければ、生きても死んでもいない。存在として矛盾してるわよ、アンタ」

「それでも私はここにいる。たとえ今の世界に招かれざる、消えるべき遺物だとしても……な」

「………………」

 

 火防女の目線を感じる。しまった、彼女にとって今の発言は、少し無粋だったか。

 

 けれど何も言わないで肯定も否定もしないのは、彼女の優しさなのだろう。今はその沈黙が、一番楽だった。

 

「まあいいです。それでなんでしたっけ? ああ、あなたが哀れだという話でしたね。ねえ、(ジャンヌ)?」

「貴女は……貴女は、何者ですか!?なぜこのようなことを!?」

 

 叫ぶジャンヌ殿。悲痛……いや、もはや絶叫といって差し支えない声で、目の前のもう一人の自分に問いかける。

 

 激しく揺れ動く儚いソウルは、必死に自分とあの渦を巻く黒いソウルの持ち主を否定していた。理解ができない、と。

 

 それは当然だろう。だって彼女とこの少女は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「呆れた、そんなことも理解できないなんて。属性が反転するとここまで鈍いものかしら?」

 

 黒ジャンヌは、そんなジャンヌ殿を見てため息をつく。腰に手を当て、やれやれと首を振った。

 

「どういう意味ですか……!?」

「そのままの意味に決まっているでしょう?私の目的など決まっています──このフランスを一掃する」

 

 息を飲む音が三つ。先んじて知っていたとはいえ、当人が凄絶な笑みを称えて言えばそれだけで違う。

 

「私、サーヴァントですもの。それなら政治とか地道とか、そんな遠回しにやるよりも、直接こうして叩き潰したほうがよっぽど効率的です」

「バカなことを……!」

()()()()()? それは私たちでしょう?」

「……え?」

 

 ジャンヌ殿の口から、呟きが漏れた。

 

 それを待っていたと言わんばかりに、黒いジャンヌは大仰に片手を振り上げ語りだす。

 

「なぜ、こんな国を救おうと思ったのです? なぜ、こんな愚者たちを救おうと思ったのです? 裏切り、唾を吐いた人間たちと知りながら!」

「っ、それは──」

「私は、もう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、()()()()()()()()()

 

 ジャンヌ殿の反論を手をかざして遮り、強く、強く怨念がこもった瞳で宣言する。

 

 それはまるで、告白のように。ある意味私たち不死人のごとく、その黒いソウルを燃えたぎらせて。

 

「聞こえない、ということは、愛想を尽かしたということ。ならば他の誰でもない私が、主の嘆きを代行する。そのためにことごとくを蹂躙し、滅ぼし尽くす!」

「なっ……」

「全ての悪しき種を刈り取る。人類種が存続している限り、私の憎悪は収まらない。この国を、フランスを沈黙する死者の国に作り変える。それが死をもって成長した私の、新しい救済方法です」

 

 楽しそうに語り尽くす声に滲むのは、溢れかえって、なお全てを焼き尽くすほどの憎しみと、怨嗟。

 

 そうか、これこそがこの少女のソウルの根源か。これではもはやルーラーではあるまい、さしずめ復讐者(アヴェンジャー)か。

 

 

 

 

 

 ……ああ、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 たとえ向けるものが違えども、私がほかの誰より、憎しみ(それ)を知っているとも。容易く止められるものでないことも。

 

「…………本当に、貴女は私なのですか……?」

「まあ、貴女にはわからないでしょうね。いつまでも聖人気取り、憎しみも喜びもないって顔をして死んだ聖処女様には!」

「っ…………」

 

 苦しげな顔をして押し黙ってしまったジャンヌ殿を嗤って、黒いジャンヌはふと気づいたようにこちらを向く。

 

「ねえ、貴方なら私の気持ちがわかるでしょう?」

「……え?」

 

 三人が、私を見る。その視線には何も答えず、私は黒いジャンヌを見続けた。

 

「…………さて、どうかな」

「いいえ、ルーラーである私にはわかります。貴方のその狂いきらない歪んだ霊基の奥に隠されている、本当のクラス(感情)は──」

「──悪いが」

 

 

 

 

 ゴゥ!!!

 

 

 

 濃密な殺意が、魔力の風となって私の体から吹き荒れる。何かを言いかけた黒いジャンヌは口をつぐんだ。

 

「それ以上は、慎んでもらいたい」

 

 言わせないよ復讐者、裏切られたものよ。貴公を解るからこそ、貴公にだけは決して暴かせるものか。

 

 幾多を裏切り、幾多を取りこぼして色を無くした灰色の心を、この無垢な少年たちの前でだけは悟らせぬ、明かさせぬ。

 

「フン。忌々しいこと」

「奇遇だな、私も貴公をそう思う」

 

 黒いジャンヌが放つ殺気と私のそれが真正面からぶつかり、相殺する。彼女は二度フン、と鼻を鳴らして目線を外した。

 

「そろそろ言葉を交わすのも飽きました。貴方たちには、ここで消えてもらいましょう」

 

 黒いジャンヌは龍の描かれた旗を出現させ、それを掲げる。

 

 その瞬間、黒竜の背から四つの影が舞い降りた。それらは全て、むせ返るような血の匂いを放つ。

 

「「「「……………………」」」」

「紹介しましょう、私の従僕(サーヴァント)を」

 

 血濡れの槍を携える高貴なる風貌の男に、仮面と異形の赤いドレスを纏う女。凛々しい気品を持つ剣士と、十字の杖を携えた女。

 

 計四騎、皆感じる力は一級品。私のみならずマシュ殿が大盾を構え、未だソウルが揺らぎながらもジャンヌ殿も旗を握り締める。

 

「さあ貴方たち、存分に暴れなさい。これまでの雑魚掃除と違い、楽しめるわよ」

「では私は、その男を頂こう」

「ならば私は、そちらの少女たちを」

 

 男が槍の切っ先を私に定め、赤いドレスの女がおぞましい杖をマシュ殿たちに向けた。

 

 まさしく一触即発。マスターが数歩後ろに下がり、火防女が支援の準備を進める中、男と殺意を交わす。

 

「貴様の槍と我が槍、どちらが先に折れるかな」

「どうだろうな。試してみなければ、わかるものもわかるまい」

「クハハ──よかろう。存分に殺し合おうではないか!」

 

 笑う男は槍を引きしぼり、地を這うようにこちらに迫り──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィイイインッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血槍と双槍が、激突した。




次回、戦闘。
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