どうも、作者です。現在下層に行くか、飛竜の谷からショトカして病み村行くか迷い中。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「なんだって!?」
『それだけじゃない、さらに四つの反応……五騎ものサーヴァントが接近している!かなりまずいことになったよ!』
驚くマスターに、通信魔術越しの彼は珍しく焦った様子でそうまくし立てる。
五騎のサーヴァントと聞き、マシュ殿やジャンヌ殿の表情も硬くなっていた。戦力差はほぼ倍だからな。
……どうやら、感傷に浸っていられるのはここまでのようだ。聖鈴と指輪をソウルにしまって双槍を取り出す。
「落ち着きたまえ。焦っていては取り返しのつかないことになる」
「バーサーカー……うん、そうだよな」
顔面蒼白となっていたマスターは、私……というよりも、第三者の声によって少しだけ落ち着きを取り戻した。
「とにかく、時間がない。まずは人々を避難させよう」
「賢明だ。火防女、〝家路〟と結界を同調させて彼らを砦に送る。手伝ってくれ」
「はい、灰の方」
彼に逐一サーヴァントの位置を把握してもらい、マシュ殿たちに警戒を頼んで助けた人々を避難させる。
幸い、転送はすぐに終わった。現代の魔術の知識と、元聖女としての奇跡の素養を持つ火防女のおかげだ。
『っ、きた!』
そして結界を解除したその瞬間──彼の言葉とともに、強い気配をソウルで感じ取った。
平原に、大きな影がさす。見上げれば、そこにいたのは巨大な生き物。まるで闇そのものの如く太陽を覆い隠している。
ほどなくして、それが竜であると理解した。全身に漆黒の鱗を纏うそれは、豪風とともにうっくりと降り立つ。
グルルルルル……
「この、威圧感は……!」
「さっきのワイバーンとは決定的に違います!」
「……これは、桁違いだな」
黄金の眼でこちらを射抜くそいつは、まさしく〝竜〟であった。ワイバーンのような紛い物とは根本的に違う。
かつて古竜の頂で相見えた飛竜に匹敵する巨躯、そして古竜の末裔とは比べるべくもない力強いソウル。
おそらく召喚されたものだろうが、とてもこの世にいてはいいものではあるまい。
『絶大な魔力量、そいつは本物のドラゴンだ!気をつけろ!』
「……それだけではないようだ」
え?という彼に、竜の背中を見上げる。そこにいるものに、面頬のスリット越しに鋭く目を細めた。
「──なんて、こと。まさか、こんな事が起こるなんて」
そいつは、私たち……否、驚愕の表情を浮かべるジャンヌ殿を見て、いかにも驚いたという顔をする。
竜の背から飛び降りてくると、その表情のまま一歩、二歩と歩み寄ってきた。その度に竜と同じ漆黒の具足が音を立てる。
そして微動だにしないジャンヌ殿の数メートル前で立ち止まった。するとどうだ、とても奇妙な光景となった。
「ねえ、お願い。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの。本気でおかしくなりそうなの」
「あな、たは」
何故なら──その少女は、もう一人のジャンヌ・ダルク。死人のごとき肌の色も、その魂すら反転したような存在なのだから。
「だって──そのくらいしてトばさないと、滑稽すぎて笑い死んでしまいそうなんだもの!」
「──────」
無言で驚くジャンヌ殿と、心底おかしいように哄笑する黒いジャンヌは瓜二つ。しかしてその在り方は正反対。
ジャンヌ殿は儚いながらも、純白のソウルを。対する黒いジャンヌは……闇術の火の如く、激しく燃え盛る黒いソウル。
ああ、けれどそれは──どこかこの胸に宿る、ドス黒い裏切りと憎しみの血で染まったソウルに似ていた。
「ほら、見てよジル!あの哀れな羽虫のような小娘を!同情が湧かなすぎて涙が溢れてしまいそう……」
まるで踊る演技人のように、胸に手を当てて嘲笑という名のその嘆きを訴える黒いジャンヌ。
たっぷりと侮蔑のこもった言葉に、ジャンヌ殿は顔を歪める。されどそれに笑みを深めて、黒いジャンヌは声を張り上げた。
「ああ、本当──くだらない。こんな小娘にすがるしかなかった
「……ッ!」
「それに何?その貧相な
クスクスと笑う黒いジャンヌ。順繰りにマスター、マシュ殿、火防女と、軽蔑と嘲りが宿った目で見下してくる。
「悪いが、私のマスターをあまり悪く言わないでもらえるか」
「バーサーカー……」
私は、マスターたちを守るように一歩前に出た。自分の言葉を否定されたのに苛立ったか、黒いジャンヌはこちらを見る。
そうして──目を見開いた。それまでの芝居がかったわざとらしい反応ではなく、本気の驚愕をした様子で。
それはほんの一瞬、すぐに不機嫌そうに目元を歪め、口角を下げて私を射抜くように睨み据える。
「あんた、何?」
「見ての通り彼のサーヴァントであり、貴公の敵だ」
「ハッ、あんたが英霊ですって?もし本気で言ってるなら不気味すぎて気持ちが悪いわね」
……彼女はルーラーの力を持っているのだったか。それにはサーヴァントの情報を把握するものもあると聞く。
ならばきっと、私の霊基とやらが見えているのだろう。この世にいるものとしてはあまりにも歪な本質が。
「不気味、とは。なかなか辛辣な言葉だな」
「ええ、不気味。〝座〟に縛られた英雄の影法師でもなければ、生きても死んでもいない。存在として矛盾してるわよ、アンタ」
「それでも私はここにいる。たとえ今の世界に招かれざる、消えるべき遺物だとしても……な」
「………………」
火防女の目線を感じる。しまった、彼女にとって今の発言は、少し無粋だったか。
けれど何も言わないで肯定も否定もしないのは、彼女の優しさなのだろう。今はその沈黙が、一番楽だった。
「まあいいです。それでなんでしたっけ? ああ、あなたが哀れだという話でしたね。ねえ、
「貴女は……貴女は、何者ですか!?なぜこのようなことを!?」
叫ぶジャンヌ殿。悲痛……いや、もはや絶叫といって差し支えない声で、目の前のもう一人の自分に問いかける。
激しく揺れ動く儚いソウルは、必死に自分とあの渦を巻く黒いソウルの持ち主を否定していた。理解ができない、と。
それは当然だろう。だって彼女とこの少女は、
「呆れた、そんなことも理解できないなんて。属性が反転するとここまで鈍いものかしら?」
黒ジャンヌは、そんなジャンヌ殿を見てため息をつく。腰に手を当て、やれやれと首を振った。
「どういう意味ですか……!?」
「そのままの意味に決まっているでしょう?私の目的など決まっています──このフランスを一掃する」
息を飲む音が三つ。先んじて知っていたとはいえ、当人が凄絶な笑みを称えて言えばそれだけで違う。
「私、サーヴァントですもの。それなら政治とか地道とか、そんな遠回しにやるよりも、直接こうして叩き潰したほうがよっぽど効率的です」
「バカなことを……!」
「
「……え?」
ジャンヌ殿の口から、呟きが漏れた。
それを待っていたと言わんばかりに、黒いジャンヌは大仰に片手を振り上げ語りだす。
「なぜ、こんな国を救おうと思ったのです? なぜ、こんな愚者たちを救おうと思ったのです? 裏切り、唾を吐いた人間たちと知りながら!」
「っ、それは──」
「私は、もう騙されない。もう裏切りを許さない。そもそも、
ジャンヌ殿の反論を手をかざして遮り、強く、強く怨念がこもった瞳で宣言する。
それはまるで、告白のように。ある意味私たち不死人のごとく、その黒いソウルを燃えたぎらせて。
「聞こえない、ということは、愛想を尽かしたということ。ならば他の誰でもない私が、主の嘆きを代行する。そのためにことごとくを蹂躙し、滅ぼし尽くす!」
「なっ……」
「全ての悪しき種を刈り取る。人類種が存続している限り、私の憎悪は収まらない。この国を、フランスを沈黙する死者の国に作り変える。それが死をもって成長した私の、新しい救済方法です」
楽しそうに語り尽くす声に滲むのは、溢れかえって、なお全てを焼き尽くすほどの憎しみと、怨嗟。
そうか、これこそがこの少女のソウルの根源か。これではもはやルーラーではあるまい、さしずめ
……ああ、
たとえ向けるものが違えども、私がほかの誰より、
「…………本当に、貴女は私なのですか……?」
「まあ、貴女にはわからないでしょうね。いつまでも聖人気取り、憎しみも喜びもないって顔をして死んだ聖処女様には!」
「っ…………」
苦しげな顔をして押し黙ってしまったジャンヌ殿を嗤って、黒いジャンヌはふと気づいたようにこちらを向く。
「ねえ、貴方なら私の気持ちがわかるでしょう?」
「……え?」
三人が、私を見る。その視線には何も答えず、私は黒いジャンヌを見続けた。
「…………さて、どうかな」
「いいえ、ルーラーである私にはわかります。貴方のその狂いきらない歪んだ霊基の奥に隠されている、本当の
「──悪いが」
ゴゥ!!!
濃密な殺意が、魔力の風となって私の体から吹き荒れる。何かを言いかけた黒いジャンヌは口をつぐんだ。
「それ以上は、慎んでもらいたい」
言わせないよ復讐者、裏切られたものよ。貴公を解るからこそ、貴公にだけは決して暴かせるものか。
幾多を裏切り、幾多を取りこぼして色を無くした灰色の心を、この無垢な少年たちの前でだけは悟らせぬ、明かさせぬ。
「フン。忌々しいこと」
「奇遇だな、私も貴公をそう思う」
黒いジャンヌが放つ殺気と私のそれが真正面からぶつかり、相殺する。彼女は二度フン、と鼻を鳴らして目線を外した。
「そろそろ言葉を交わすのも飽きました。貴方たちには、ここで消えてもらいましょう」
黒いジャンヌは龍の描かれた旗を出現させ、それを掲げる。
その瞬間、黒竜の背から四つの影が舞い降りた。それらは全て、むせ返るような血の匂いを放つ。
「「「「……………………」」」」
「紹介しましょう、私の
血濡れの槍を携える高貴なる風貌の男に、仮面と異形の赤いドレスを纏う女。凛々しい気品を持つ剣士と、十字の杖を携えた女。
計四騎、皆感じる力は一級品。私のみならずマシュ殿が大盾を構え、未だソウルが揺らぎながらもジャンヌ殿も旗を握り締める。
「さあ貴方たち、存分に暴れなさい。これまでの雑魚掃除と違い、楽しめるわよ」
「では私は、その男を頂こう」
「ならば私は、そちらの少女たちを」
男が槍の切っ先を私に定め、赤いドレスの女がおぞましい杖をマシュ殿たちに向けた。
まさしく一触即発。マスターが数歩後ろに下がり、火防女が支援の準備を進める中、男と殺意を交わす。
「貴様の槍と我が槍、どちらが先に折れるかな」
「どうだろうな。試してみなければ、わかるものもわかるまい」
「クハハ──よかろう。存分に殺し合おうではないか!」
笑う男は槍を引きしぼり、地を這うようにこちらに迫り──
ギィイイインッ!
血槍と双槍が、激突した。
次回、戦闘。
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