灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、作者です。
少し、小説をこれからも書いていくかを悩んでおりまして、大事な友人からの言葉でなんとか心折れずに持ち直しました。
毎回あたたかくコメントをくださる皆様のために、これからも頑張ります。
未熟な腕前に稚拙な文章ですが、どうぞお付き合いください。
楽しんでいただけると嬉しいです。


少女達の夜

 

「──話はわかりました。フランスはおろか、世界の危機だったのですね」

 

 

 

 話を聞き終えたマリーさんは、神妙な顔で言った。モーツァルトさんたちも、ふむと思案顔をしている。

 

 た、大変でした。はしゃぎ回るマリーさんを落ち着かせて、事情を説明するまでかなりの時間をかけてしまいました。

 

「形は違えど、これも聖杯戦争というわけですか……」

「マスターが不在で召喚なんて危険な音しかしなかったが、これは予想以上だな」

「それについては同意します。まさかあそこまで戦力が整っていたなんて……」

 

 黒いジャンヌ・ダルクに加えて、彼女の操る4騎のサーヴァント。合計5騎ものサーヴァントと敵対している。

 

 未熟なデミ・サーヴァントである私にも、彼らが一騎当千の英霊であることが肌でわかりました。

 

「戦力差は絶望的、か……しかし、僕らも合わせると合計12騎なんて、いくらなんでもサーヴァントが多すぎないか?」

「7騎の法則は崩壊していると見ていいでしょう。しかし、過去の記録には15騎のサーヴァントが争ったものもあります。不可能、という話ではありません」

 

 ルーソフィアさんが説明をしてくれる。

 

 確かにそういう記録もありますが、まさか最初の特異点でそれに近い数のサーヴァントが集まるなんて。

 

 それでも異常であることに変わりはありません。見たところ、サーヴァントたちは完全に黒いジャンヌに従っているようですし。

 

「でも戦うしかない、よね」

「それはそうですが……」

「だって、そうしなきゃ被害は増えるし、特異点は直せない。そうだろ?」

「…………先輩」

 

 先輩の目には、決して諦めないという不退の意思が現れていた。絶対に勝つのだという気持ちが伝わってくる。

 

 ……少し、心配です。グランドオーダー発令以降、先輩はこのように特異点に関することになると少し頑固になります。

 

 でも、言うことは間違っていません。このフランスを本来の歴史に戻すためには、彼らを打倒しなくてはいけない。

 

「戦うと言えば、一人で残った彼。どうやら君のサーヴァントのようだが、平気なのかい?」

 

 モーツァルトさんが先輩に問いかける。確かに、あのサーヴァントたちに一人というのは無謀にも見えるだろう。

 

 でも、私たちはそうは思っていません。だから先輩はモーツァルトさんを見て、迷いのない目で答えます。

 

「バーサーカーなら、きっとなんとかできる。だって、一番最初に俺を助けてくれたサーヴァントだから」

「ふむ。あの戦力を相手に戦えるということか。これはいいことを聞いたね」

「まあ、あの鎧の方はそんなに強いのね。それなら心強いですわ!」

 

 先輩は、バーサーカーさんに絶対の信頼を置いています。いえ、カルデアにいる皆のことを、と言っていいでしょうか。

 

 自分が普通の人間だとわかっているからこそ、サーヴァントや、カルデアの皆さんを全力で信頼し、命を預けている。

 

 私は人間の心というものがどういうものか具体的にはわかりませんが、躊躇なくすぐに出来ることではないです。

 

「私も賛成です。きっと彼なら……」

 

 

 

 

 

「いえ。きっと灰の方は、命を落とすでしょう」

 

 

 

 

 

 でも、それを否定したのはルーソフィアさんでした。

 

「な……なんで?」

「灰の方は一度命を落とすことを覚悟で、私たちを行かせたのです」

「で、でも、冬木で無名の王もなんとか倒したし、今回だって切り抜けて……」

「確かに灰の方は強いです。私にとってはどのような英雄様よりも」

 

 けれど、とルーソフィアさんは頭冠に覆われた瞳で、先輩を見て。

 

「灰の方は、力尽きるまで戦います。そうすれば、私たちが逃げる時間を稼げるのですから」

「そんな……」

「やれやれ、良い戦力があると思ったらもうあてにならないとは。これでは状況が逆戻りだ」

「あ、いえ、そういうことはないと思います」

 

 頭にはてなマークを浮かべるモーツァルトさんたち。確かに、いま命を落とすと言ったのにそういえば疑問に思うでしょう。

 

 先輩に目配せして、話して良いか確認する。ちょうど先輩もこちらを見ていて、こくりと頷いた。

 

 ルーソフィアさんやジャンヌさんにも確認を取り、バーサーカーさんのことを話すことに決めます。

 

「? なんだ、何かあるのか?」

「実は……」

 

 懐疑的な様子の皆さんに、バーサーカーさんのことを説明する。

 

 不死人、死と生を繰り返す呪われた魂……おおよそ今の時代の私たちには真似することのできない、不死性。

 

 最初は半信半疑だったものの、聞いていくうちにマリーさんたちは目を見開き、驚愕に表情を染めていった。

 

「というわけなので、バーサーカーさんは後ほど合流できると推測します」

「死ぬことを前提にするみたいで、気は進まないけど……」

「はっはっはっ!これは傑作だ!よもや過去の英雄の影法師であるサーヴァントの中に、死から蘇るものがいるなんてね!」

「何よそれ、反則じゃないの」

「たとえ一度倒れても、何度でも立ち上がる!ますます心強いわ!」

 

 笑うモーツァルトさん、呆れるエリザベートさん……敵のカーミラと別認識するためそう呼称します……目を輝かせるマリーさん。

 

 けれど、その中で清姫さんだけは冷静な様子で考え込み、しばらくしてパチンと口元を隠していた扇子を閉じた。

 

「ですが、相応の代償があるのではなくて?」

「……はい。彼は復活するたびに、記憶や感情を失うと聞きます」

 

 重々しく、ジャンヌさんが告げる。それまで明るい雰囲気だったものが、一気に暗くなった。

 

「それは……あまり良くはないな。感情がなければ、音楽を楽しむこともできないじゃないか」

「一度に全てを失うわけではありません。気がつかないほどにほんの少しずつ、徐々に失うのです」

 

 それでも何かを失うことには変わりなく、もしかしたら私たちのことも忘れてしまうかもしれない。

 

 まだ少しの間しか、一緒の時間を過ごしていませんが……それは少し悲しいと、心のどこかで思います。

 

「どっちにしろ、バーサーカーを何度も死なせるわけにはいかない。また同じことにならないように、何か対策を考えないと」

「先輩……」

 

 強く拳を握りしめる先輩に、バーサーカーさんに任せて逃げてしまったことを後悔しているのがわかる。

 

 そんな先輩に神妙な顔でモーツァルトさんたちは頷いて、これからのことについて話を始めた。

 

「まず、話を戻そう。現在の戦力差だ」

「はい。もう一人のジャンヌさんにヴラド三世、そしてカーミラ。後の二人は……」

「一人は、多分わかりますわ」

 

 マリーさんが声を上げる。どうやら、どちらかのサーヴァントの正体を知っているみたいです。

 

「顔を見たのは一瞬でしたが、あのセイバーと思しきサーヴァント……あれはシュヴァリエ・デオンでしょう」

『シュヴァリエ・デオン……ルイ15世が設立した情報機関、《スクレ・ドゥ・ロワ》の工作員(スパイ)だね』

 

 ホログラムが浮かんで、ドクターが会話に入ってくる。

 

『同時に軍所属の竜騎兵であり、最高特権を持つ特命全権大使でもある』

「アントワネット様は、男装を続けるシュヴァリエ・デオンにドレスを送ったとされています」

「だってあんなに綺麗なお顔をしているのよ?ドレスの一つでも着ないと勿体無いわ」

「確かに、カーミラとの戦闘に入ったため見るタイミングは最初に現れた時しかありませんでしたが、美しい人でした」

『なんとか味方につけれないかな……』

 

 マリーさんの知り合いと言うのならば、それもありえるかもしれない。説得をすれば、あるいは……

 

 そう思ったものの、「いいえ、それは無理でしょう」とジャンヌさんが首を横に振りました。

 

「ルーラーの能力である真名看破は失われていますが、あの場にいたサーヴァント全員が『狂化』をかけられているのを見破れました」

『属性、伝説に関係なく狂化を付与できる……きっと聖杯の力だろうね』

「そう、それだ」

 

 そこでモーツァルトさんが口を挟んだ。

 

「それ、とは聖杯のことですか?」

「ああ……曲がりなりにも、これは聖杯戦争だ。なのに始まる前に、すでに聖杯の所有者が決まっている。おかしいと思わないか?」

「彼の言う通りです。それは致命的なバグであり、聖杯を手に入るために戦うという前提が崩れているのです」

 

 ジャンヌさんとモーツァルトさんの説明によると、こうだ。

 

 聖杯戦争開始前に勝者が存在している、この結果と起点が逆転した状態は矛盾を生んでおり、普通ではない。

 

 それに対して、聖杯自身が対抗策としてバグに対するアンチテーゼプログラムのようなものを起動した。

 

 それがマリーさんたち、マスターのいないサーヴァント。黒いジャンヌのサーヴァントに対する、せめてもの抵抗だと。

 

「それが、サーヴァントがありえない数がいる原因だと踏んでいる」

「なるほど……」

「……と、このような図になります。わかりましたか?」

「な、なんとか」

 

 横では、ルーソフィアさんが手持ちサイズのホワイトボードに絵を描いて先輩に説明をしてくれています。

 

 こうやって、まだ専門的な話になると理解しきれない様子の先輩に解説をするのも見慣れてきました。

 

「それに、これほど強大な相手なのです。きっと反動もかなりのものかと思います」

「そうか、つまり──」

「はい。このフランスに、私たち以外にも他のサーヴァントが召喚されているかもしれません」

「可能性はありますね」

 

 現にマリーさんやモーツァルトさんたちが召喚されているんです、他にもいないとは限りません。

 

 それはつまり、協力してもらえる仲間が増えるかもしれないということ。今、何よりも欲しいものです。

 

「まあ、それが必ずしも救いとは限らない。あるいは脅威になるかもしれないね」

「もう!アマデウスはまたそういうことを言う!」

「常に最悪の事態を想定する、ということだよマリー。君はいつも楽観が過ぎるからね」

「同感です。ではこれから……」

 

 そうして、今後は黒いジャンヌの追っ手に警戒しつつ、新たなサーヴァントを探すことに決定しました。

 

 

 

「じゃあ、最初は私とこいつが見張りね。さっさと行くわよ」

「あら、誰に命令しているのでしょうこの赤トカゲは」

「なにおう!?」

 

 

 

 相変わらずきゃいきゃいと言い合いをしつつも、エリザベートさんと清姫さんが周辺の警戒に行きました。

 

 モーツァルトさんも少し一人になりたいと離れたところに行き、私たちとマリーさんだけが残ります。

 

「う……」

「先輩、一度眠ってはいかがでしょうか。かなり疲れているように見えます」

 

 話の途中からうつらうつらとしていた先輩は、胡乱げな顔で「でも……」とつぶやく。

 

「今はお休みになってください。そうしなければ、この先致命的な何かが起こる可能性もあります」

「ルー、ソフィアさん……」

 

 その言葉が決め手になったのか、先輩の首がカクッと落ちた。余程疲れていたのか、すぐに眠ってしまいました。

 

 寝息を立てる先輩にブランケットを盾の収納スペースから取り出してかけて、手頃な枝を集めると薪を作る。

 

「んー、あったかいわ。生前はこんなことしたことなかったから、新鮮ね!」

「マリーさんは王妃ですからね。野宿は初体験だと思います」

 

 寒々しい森の中、鼻歌交じりに体を揺らすマリーさん。何事にも楽しそうな方です。

 

「そうだ、せっかくだから女子会トークをしましょう?」

「じょ、女子会トークですか?」

「ええ!せっかくですもの、あなた達のことを知りたいわ!」

 

 な、なるほど。親睦を深めるためのコミュニケーションですか。今後一緒に戦っていくなら必要だと判断します。

 

「ねえ、貴女もどうかしら?」

「……………………」

 

 問いかけるマリーさん。けれど、ルーソフィアさんは無言で薪を見つめています。

 

 仮面越しに火を見つめる様子は、バーサーカーさんが呼ぶ火防女という、もう一つの名前がとてもしっくりくる。

 

「あの……大丈夫、ですか?その、バーサーカーさんのこと……」

「ご心配いただき、ありがとうございます。ですがそれには及びません」

 

 一度こちらに振り向いて微笑み、また火を見つめるルーソフィアさん。その声音は、とても落ち着いていた。

 

 受け答えはいつも通りに聞こえました。焦りも感じられません。本当に何も思っていないのでしょうか。

 

「ねえ、貴女。貴女と鎧の方は、もしかして恋人なのかしら!」

「ええ」

「素敵!仮面を被った騎士と女の恋なんて!私、心が踊るわ!」

 

 まるで踊るように声を上げるマリーさんに苦笑していると、ルーソフィアさんが薪に手を伸ばす。

 

 そして、何かを包むような仕草をしてから手を引いた。すると、薪の火が広げた手の中で揺らめいていました。

 

「……この火は、いずれ消えてゆきます。それが定めであり、変化し、終わりが訪れるものこそが、時間の流れの中に生きるもの」

 

 広げた手を傾かせて、火が落ちていく。それは宙を舞い、薪に触れる前に消えてしまった。

 

「その下で積もるものは灰。何かを糧に火が燃えるのならば、灰はその温もりの残滓なのです」

「……つまり、バーサーカーさんは絶対に消えない、どこにもいかないということでしょうか?」

 

 どうでしょう、と呟いて、また火を薪の中から掬う。今度はそのまま、じっと眺めています。

 

 なんだか、自然と口をつぐんでしまう。楽しそうにしていたマリーさんも、静かに見つめていました。

 

「私のかつての役目は、祭祀場の火を……灰の方が帰ってくるための導を守ること」

 

 火防女とは祭祀場にて篝火を見守り、また火のない灰の旅の助けをすること。そうルーソフィアさんは言います。

 

「それは今、あなた達です」

「私たちが……?」

 

 バーサーカーさんにとっての導が、私たち。だとすれば、私たちがいる場所が帰るところ、と言えるのでしょうか。

 

 その言葉の意味は完全に理解はできないけれど、なぜか心が温かくなります。まるで……そう、胸に火が灯ったみたいです。

 

「灰の方はおっしゃっていました。『間違いだらけの生の果て、その終わりがあなた達の時間に繋がっていると思えば、そう悪くない』、と」

「私たちに繋がっている、ですか」

「きっと、嬉しかったのです。これほどに温かく、そして豊かな色を持つものがあるということが」

 

 だから、とルーソフィアさんは手の中の火を私たちに差し出してきます。

 

 マリーさんと二人で、手を伸ばす。そうして火に少しだけ触れようとして……寸前で消えてしまいました。

 

 あ、と声を上げて、ルーソフィアさんの手の中を見る。そこには微かな、しかし確かに灰が残っていた。

 

「だから、灰の方は帰って来るでしょう。あなた達という導べがある限り、火の元に残る灰のように必ず」

 

 ああ、それに、と。

 

 

 

 

 

「『あの』時、約束しましたから。〝ただいま〟を」

 

 

 

 

 

 ルーソフィアさんの言葉は森の中に、そして、私たちの心の中にどこまでも響きました。




これから定時投稿していきます。三日置きのペースは変わりません。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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