ここまで開くと読んでくれる人が減るのがとても怖いですが、それでもちゃんとやっていきます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
それはまだ、朝日が昇る直前のことだった。
「……様……きて……さい」
「ん……」
「藤……様……きてください」
「ん……母さん……?」
「藤丸様、起きてください」
「……っ!」
深い眠りに落ちていた俺は、ここ数週間で聞き慣れてきたその声に一瞬で目覚めて飛び起きる。
「はいっ!サバイバルの心得その42!異音がしたらすぐに起きる!」
半ば寝ぼけながら、爺ちゃんに習った教訓を叫ぶ。しかしすぐにここに爺ちゃんなんていないことを思い出した。
慌てて周りを見渡すと、場所は森の中。静謐な雰囲気が支配する薄い暗闇で、薪の燃えかすの匂いが鼻をついた。
「おはようございます、藤丸様」
「あ、ルーソフィアさん」
横を見ると、そこにいたのはルーソフィアさんだった。どうやら彼女が起こしてくれたらしい。
「おはようございます、藤丸様。よく眠っておられましたね。血色も良好です」
「おはようございます。はい、おかげさまで」
泥のように眠っていたためか、かなり頭がスッキリしている。寝る前はいろんなことでごちゃごちゃしてたのに。
見張りをしてくれたマシュたちには感謝しないと……それに、この時間を作ってくれたバーサーカーにも。
「ん、これって……」
そこでようやく、自分の体に毛布がかけられていることに気がつく。確か、マシュが持ってきてたやつだ。
「すぅ……すぅ…………」
「ンー……マーリンシスベシフォーウ……」
そのマシュはというと、すぐそばでフォウを抱いて眠っていた。てかなんだマーリンシスベシフォーウって。
規則的に寝息を立てる顔に険しさはなく、まるで普通の女の子みたい。その身に纏う鎧とは真反対だ。
「藤丸様」
「っ!」
じーっと見つめていて、隣からの声でハッと我に返っていそいそと毛布を畳む。危ない、なんか変な気分になりかけてた。
綺麗に畳んでから、もう一回周りを見てみる。寝ているマシュ以外、俺たちの他に誰もいない。
「他の皆はどうしたんですか?」
「モーツァルト様とマリー様はあちらの、ジャンヌ様はこちらの見張りへ。エリザベート様たちは少し離れた場所でお休みです」
「そっか……なんだか悪いことしちゃったな」
こんな状況なのに、俺だけ寝こけちゃって。いくらサーヴァントっていっても、任せきりもよくないだろう。
確かに俺は彼らに比べたら、断然に弱い。でも夜警くらいはできる。主に爺ちゃんとの野山キャンプの経験で。
ププー
「ん、ドクターから通信だ」
腕輪をタッチして、いつものようにホログラムを呼び出す。ちなみにこれ、俺の魔力を少しずつ吸って動いてるらしい。
『繋がった! 藤丸くん、無事かい!?』
「うわっ」
通信が繋がって早々、ドクターは乗り出すようにして叫んでくる。ホログラムなのに圧を感じてびっくりする。
そんな俺を見て、ドクターはホッとした。どうしたんだろう、さっきも何かを焦ってるみたいな様子だったし。
「おはようドクター、どうかしました?」
『今君達の近くに、敵性反応がある!サーヴァント反応もだ!』
「──っ!?」
「……近くに異質なソウルを感じたので藤丸様を起こしましたが、やはりですか」
その言葉に、それまで緩んでいた気が一瞬にして引き締まった。同時に背筋に冷たいものが伝っていく。
それが冷や汗だと理解しながら、ひとまずマシュを急いで起こしてからドクターに詳しい話を聞いた。
ドクターによると、どうやら状況はよくないようだ。
『いいかい、敵の反応は大きく分けて三つ。一つは清姫さんたちの方、もう一つはマリー王女たちの方。この二つは主にワイバーンだ。そして、君たちに近づいているのが──」
「サーヴァント、か……」
よりによって、一番最悪な相手が来たようだ。いや、要のマスターである俺がいるんだから当たり前なのか?
どっちにしろ……状況が悪いことに変わりはない。聞けば一騎だけらしいけど、昨日のを見ると十分すぎる。
怖い。死んでしまうのではないかと、俺なんかに勝てるはずがないと、そんな思いで全身が恐怖で震えた。
「大丈夫です、先輩。ジャンヌさんたちがいますし、バーサーカーさんには及びませんが、私も精一杯頑張ります」
「マシュ……」
「微力ながら、私もお力添えを。それがあなたたちという導を守る私の役目でもありますので」
「し、導?」
ルーソフィアさんの言葉についてはよくわかんないけど、とりあえず二人が励ましてくれていることはわかった。
……うん、そうだ。俺は一人じゃない。こうして頼れる仲間たちがいる。それなら、マスターの俺が怯えててどうする。
たとえ俺自身が弱くても、彼女たちとなら──
「──行こう。そして、勝とう」
「はい!」
「ええ」
戦う決意を固めて、二人を伴い仮の野営地を後にする。ドクターの指示に従い、こちらに向かってくる敵に向かっていった。
「皆さん」
「ジャンヌさん!」
その道中で、ジャンヌさんに会う。どうやら見張りの帰りだったようで、ホッとした顔で俺たちを見た。
そして、あちらもサーヴァントをすでに認識しているんだろう。神妙な顔で頷いてきた。俺たちもまた、それに頷き返す。
新たにジャンヌさんを加え、再び足を進める。やがて、少しひらけた場所に出た。
「──こんばんは。それともおはようと言ったほうがいいかしら」
そこにいたのは、紛れもなく。昨日、黒いジャンヌが連れていたサーヴァントの一人だった。
血濡れたように赤黒い、端がボロボロの聖職者のような服の女の人。赤く染まった瞳には狂気が宿っている。
けど……
「……敵対サーヴァント、酷くダメージを負っているようです」
「みたい、だね」
そのサーヴァントは、とても万全とは言い難い状態だった。ある意味満身創痍といってもいいかもしれない。
なぜなら──左腕が、丸ごとなかったんだから。まるで何者に斬られたように、綺麗になくなっている。
「ああ、これ?あなたのサーヴァントにやられたのよ」
「バーサーカーが……?」
「すごく面倒だったわよ、あいつ。いくらバーサーカーつっても武器持ちすぎだし、ていうか魔術とか奇跡みたいな力まで使えるとかなんなわけ?おかげでこっちは大損害よ」
「でも、貴女が生きているということは……!」
「ええ……死んだわ」
「……ッ!!」
やっぱり、負けたんだ。
わかっていた。あんな数のサーヴァントが相手では、いくらバーサーカーだって無事ではすまないことは。
でも、ルーソフィアさんにああ言われても心のどこかで期待していた。もしかしたら、帰ってくるのではないかと。
そんな俺の淡い期待は、予想通りに裏切られた。容赦無く、間違いなく、バーサーカーは、死んだ。
不死身で生き返るとわかっていても、それでも……っ!
「藤丸様」
隣から、囁くような声が聞こえた。そちらをみると、サーヴァントを見ているルーソフィアさんがいる。
その指は、そっと俺の手を指し示す。見ると、無意識に握りしめていたのかジワリと血がにじんでいた。
「おかげでバーサーク・ランサーはやられるし、追跡にも時間がかかった」
「……貴女は一体、何者なんですか」
……いつまでも悲しんでいる場合じゃない、か。今はとにかく、このサーヴァントをどうにかすることを考えないと。
「そうね、何者なのかしら。聖女たらんとしていたのにこんなになって、狂った聖女の使いっ走りをやらされてるなんて」
少しずつ白んできた空を見上げて、そのサーヴァントはジャンヌさんの質問に答えた。その目は、どこか悲しそうで。
それを見て、もしかしたら話しあえるかもしれない、なんてつい思ってしまう。だって、戦わないほうがいいじゃないか。
でもそれは無理だろう。昨晩聞いたジャンヌさんの言葉……強制的な狂化のことが頭によぎり、言葉を飲み込む。
「そういう貴女こそ、どうなのかしら」
「私……?」
「貴女は今、この国を救おうと二度足掻いている。けれどきっと、人々は貴女を救国の聖女とはもう二度と呼ばないでしょう」
「……それは」
確かに、ありえない話では決してない。
ああして最初の砦でジャンヌさんが休めたのは、ユリアさんがいたから。もしそうじゃなかったら……
ラ・シャリテで話を聞いた時、この国の人たちの黒いジャンヌへの恐怖と憎悪を垣間見た。それはきっと、ジャンヌさんにも……
「ねえ、いい機会だから聞かせて?貴女は今、
「…………」
「かつて助けた人々に牙を剥かれるかもしれなくて、絶望した?それとも……彼女のように、憎むのかしら」
サーヴァントの質問に、俺たちは自然とジャンヌさんの方を見る。彼女は今、どう思っているのだろう。
俯いたジャンヌさんの表情はうかがえない。誰かに言われて、本当に絶望してしまっているのかもしれない。
……あるいは、あの黒いジャンヌにのように。ありえないとわかっていても、そんな思考が頭の隅をかすめてしまう。
「……私は」
やがて、答えが出たのかジャンヌさんは言葉を発した。ゴクリと固唾を飲んで、耳をすませる。
「私は、恐れも憎みもしません」
そして、ジャンヌさんの答えはそれだった。上げた顔には、いつものように毅然とした雰囲気がある。
「普通なら、そう思うのでしょう。悔しくて絶望に落ちてしまうのでしょう。自分が何者かもわかりきっていない、不完全な
「だったら……」
「でも、ええ。不完全ついでなのか、こうも思うのです」
ジャンヌさんは、これまでにないほど確信に満ちた顔と声で。
「
だって、自分を憎むことで抗えるのなら、きっとそれは自分が何者であるかよりも大切なことだから。
なんの迷いもなく、強がりでもなく。ジャンヌさんは最初から当たり前のように、微笑みながらそういった。
「……そっか」
「……先輩?」
これが、この姿こそがジャンヌ・ダルクっていう人なんだ。
たとえ記憶が曖昧だって、力が完全じゃなくたって。自分よりも人を思うことができる、その意思。
きっと、それこそがジャンヌ・ダルクが英霊である何よりの証なんだ。この人だから、フランスは救えたんだ。
「……ふぅん。私は好きよ、その答え。そういえば、あいつも言ってたかしら」
「あいつ……バーサーカーさんが?」
「ええ。全員に囲まれてる中、最後に私たちのマスターにこう言ったのよ」
〝ああ、いくらでも抗うがいいさ復讐者。貴公がどれだけ罵ろうと、折ろうとしても、貴公にだけはきっと彼女は砕けぬよ〟
何故ならば、それこそが人間の真実なのだから。どれだけ闇に誘われようと、希望あるものが人足り得る。
あの黒竜に殺される最後の瞬間にバーサーカーはそう言ったと、そのサーヴァントは言った。
「あいつ、どんな化け物じみた精神してるのかしら。同じバーサーカーとは到底思えないわ」
「バーサーカー……」
ああ、何故だろう。どんな状況でも不敵な笑みでそういうバーサーカーが、容易に想像できてしまう。
ずっとわかっていたけれど──きっと彼は、どこまでも人間を信じているんだ。人理を作った、最古の人として。
「ならば、その彼の信に答えましょう。私たちは、どれだけでも争ってみせる!」
「そうです!例え敵がどれだけ強大でも、私たちは屈しません!」
「……そう。そうなのね」
(このくじけぬ貴き意志。神よ、そのために私は──)
決意とともに前に出たマシュとジャンヌに少し目を見開き、サーヴァントは少しの間だけ俯いた。
それからすぐに顔を上げて、その時にはもう目に少しだけあった優しさはなかった。代わりに震えるほどの殺気が感じられる。
「ならば戦いましょう、ジャンヌ・ダルクとその仲間たち。この出会いを、意味あるものとするために」
そういって、サーヴァントは杖を掲げた。
するとどこからともなく、地響きがし始める。とっさに俺たちは背中を向け合い、周囲を警戒した。
「我が
どんどん揺れが強くなっていく中、声高にサーヴァント──否、聖女マルタと名乗ったその人は声を張り上げる。
『聖女マルタだって!?』
そこでこちらをモニターしていたドクターが、突然通信を繋げてきた。
「ドクター!?こんな時になんですか!」
『まずいぞ藤丸くん、彼女は祈りだけで竜を説伏させた聖女だ!つまり──』
グォオオオオォオオオオオ!
ドクターが先を言おうとした、その瞬間。マルタさんのすぐ側の地面を突き破り、巨大な影が姿を現した。
それは、一見亀のような生物だった。極太の筋肉質な4本足に太く雄々しい尻尾と翼、そして獅子のような面構え。
おおよそファンタジーでもなかなかお目にかからないような、絶大な存在感と巨躯のそれは見るからに──
『最上位クラスの、
「狂気に侵されし我がクラス、バーサーク・ライダー!さあ、殺し合いを始めましょう!」
そして、竜の聖女と呼ばれる英雄との戦いが始まった。
うーむ、久しぶりだから雰囲気を掴みかねる。
あ、あんまり長いとダレるのでわりと巻きでいきます。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
さーて、星狩りも頑張るぞう