灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

38 / 98
いやー、お恥ずかしながら戻ってきました。あとすみません、更新一時間遅れました。
ここまで開くと読んでくれる人が減るのがとても怖いですが、それでもちゃんとやっていきます。
楽しんでいただけると嬉しいです。


竜の聖女、現る。

 

 それはまだ、朝日が昇る直前のことだった。

 

 

 

「……様……きて……さい」

「ん……」

「藤……様……きてください」

「ん……母さん……?」

「藤丸様、起きてください」

「……っ!」

 

 深い眠りに落ちていた俺は、ここ数週間で聞き慣れてきたその声に一瞬で目覚めて飛び起きる。

 

「はいっ!サバイバルの心得その42!異音がしたらすぐに起きる!」

 

 半ば寝ぼけながら、爺ちゃんに習った教訓を叫ぶ。しかしすぐにここに爺ちゃんなんていないことを思い出した。

 

 慌てて周りを見渡すと、場所は森の中。静謐な雰囲気が支配する薄い暗闇で、薪の燃えかすの匂いが鼻をついた。

 

「おはようございます、藤丸様」

「あ、ルーソフィアさん」

 

 横を見ると、そこにいたのはルーソフィアさんだった。どうやら彼女が起こしてくれたらしい。

 

「おはようございます、藤丸様。よく眠っておられましたね。血色も良好です」

「おはようございます。はい、おかげさまで」

 

 泥のように眠っていたためか、かなり頭がスッキリしている。寝る前はいろんなことでごちゃごちゃしてたのに。

 

 見張りをしてくれたマシュたちには感謝しないと……それに、この時間を作ってくれたバーサーカーにも。

 

「ん、これって……」

 

 そこでようやく、自分の体に毛布がかけられていることに気がつく。確か、マシュが持ってきてたやつだ。

 

「すぅ……すぅ…………」

「ンー……マーリンシスベシフォーウ……」

 

 そのマシュはというと、すぐそばでフォウを抱いて眠っていた。てかなんだマーリンシスベシフォーウって。

 

 規則的に寝息を立てる顔に険しさはなく、まるで普通の女の子みたい。その身に纏う鎧とは真反対だ。

 

「藤丸様」

「っ!」

 

 じーっと見つめていて、隣からの声でハッと我に返っていそいそと毛布を畳む。危ない、なんか変な気分になりかけてた。

 

 綺麗に畳んでから、もう一回周りを見てみる。寝ているマシュ以外、俺たちの他に誰もいない。

 

「他の皆はどうしたんですか?」

「モーツァルト様とマリー様はあちらの、ジャンヌ様はこちらの見張りへ。エリザベート様たちは少し離れた場所でお休みです」

「そっか……なんだか悪いことしちゃったな」

 

 こんな状況なのに、俺だけ寝こけちゃって。いくらサーヴァントっていっても、任せきりもよくないだろう。

 

 確かに俺は彼らに比べたら、断然に弱い。でも夜警くらいはできる。主に爺ちゃんとの野山キャンプの経験で。

 

 

 

 ププー

 

 

 

「ん、ドクターから通信だ」

 

 腕輪をタッチして、いつものようにホログラムを呼び出す。ちなみにこれ、俺の魔力を少しずつ吸って動いてるらしい。

 

『繋がった! 藤丸くん、無事かい!?』

「うわっ」

 

 通信が繋がって早々、ドクターは乗り出すようにして叫んでくる。ホログラムなのに圧を感じてびっくりする。

 

 そんな俺を見て、ドクターはホッとした。どうしたんだろう、さっきも何かを焦ってるみたいな様子だったし。

 

「おはようドクター、どうかしました?」

『今君達の近くに、敵性反応がある!サーヴァント反応もだ!』

「──っ!?」

「……近くに異質なソウルを感じたので藤丸様を起こしましたが、やはりですか」

 

 その言葉に、それまで緩んでいた気が一瞬にして引き締まった。同時に背筋に冷たいものが伝っていく。

 

 それが冷や汗だと理解しながら、ひとまずマシュを急いで起こしてからドクターに詳しい話を聞いた。

 

 ドクターによると、どうやら状況はよくないようだ。

 

『いいかい、敵の反応は大きく分けて三つ。一つは清姫さんたちの方、もう一つはマリー王女たちの方。この二つは主にワイバーンだ。そして、君たちに近づいているのが──」

「サーヴァント、か……」

 

 よりによって、一番最悪な相手が来たようだ。いや、要のマスターである俺がいるんだから当たり前なのか?

 

 どっちにしろ……状況が悪いことに変わりはない。聞けば一騎だけらしいけど、昨日のを見ると十分すぎる。

 

 怖い。死んでしまうのではないかと、俺なんかに勝てるはずがないと、そんな思いで全身が恐怖で震えた。

 

「大丈夫です、先輩。ジャンヌさんたちがいますし、バーサーカーさんには及びませんが、私も精一杯頑張ります」

「マシュ……」

「微力ながら、私もお力添えを。それがあなたたちという導を守る私の役目でもありますので」

「し、導?」

 

 ルーソフィアさんの言葉についてはよくわかんないけど、とりあえず二人が励ましてくれていることはわかった。

 

 ……うん、そうだ。俺は一人じゃない。こうして頼れる仲間たちがいる。それなら、マスターの俺が怯えててどうする。

 

 たとえ俺自身が弱くても、彼女たちとなら──

 

「──行こう。そして、勝とう」

「はい!」

「ええ」

 

 戦う決意を固めて、二人を伴い仮の野営地を後にする。ドクターの指示に従い、こちらに向かってくる敵に向かっていった。

 

「皆さん」

「ジャンヌさん!」

 

 その道中で、ジャンヌさんに会う。どうやら見張りの帰りだったようで、ホッとした顔で俺たちを見た。

 

 そして、あちらもサーヴァントをすでに認識しているんだろう。神妙な顔で頷いてきた。俺たちもまた、それに頷き返す。

 

 新たにジャンヌさんを加え、再び足を進める。やがて、少しひらけた場所に出た。

 

 

 

「──こんばんは。それともおはようと言ったほうがいいかしら」

 

 

 

 そこにいたのは、紛れもなく。昨日、黒いジャンヌが連れていたサーヴァントの一人だった。

 

 血濡れたように赤黒い、端がボロボロの聖職者のような服の女の人。赤く染まった瞳には狂気が宿っている。

 

 けど……

 

「……敵対サーヴァント、酷くダメージを負っているようです」

「みたい、だね」

 

 そのサーヴァントは、とても万全とは言い難い状態だった。ある意味満身創痍といってもいいかもしれない。

 

 なぜなら──左腕が、丸ごとなかったんだから。まるで何者に斬られたように、綺麗になくなっている。

 

「ああ、これ?あなたのサーヴァントにやられたのよ」

「バーサーカーが……?」

「すごく面倒だったわよ、あいつ。いくらバーサーカーつっても武器持ちすぎだし、ていうか魔術とか奇跡みたいな力まで使えるとかなんなわけ?おかげでこっちは大損害よ」

「でも、貴女が生きているということは……!」

「ええ……死んだわ」

「……ッ!!」

 

 やっぱり、負けたんだ。

 

 わかっていた。あんな数のサーヴァントが相手では、いくらバーサーカーだって無事ではすまないことは。

 

 でも、ルーソフィアさんにああ言われても心のどこかで期待していた。もしかしたら、帰ってくるのではないかと。

 

 そんな俺の淡い期待は、予想通りに裏切られた。容赦無く、間違いなく、バーサーカーは、死んだ。

 

 不死身で生き返るとわかっていても、それでも……っ!

 

「藤丸様」

 

 隣から、囁くような声が聞こえた。そちらをみると、サーヴァントを見ているルーソフィアさんがいる。

 

 その指は、そっと俺の手を指し示す。見ると、無意識に握りしめていたのかジワリと血がにじんでいた。

 

「おかげでバーサーク・ランサーはやられるし、追跡にも時間がかかった」

「……貴女は一体、何者なんですか」

 

 ……いつまでも悲しんでいる場合じゃない、か。今はとにかく、このサーヴァントをどうにかすることを考えないと。

 

「そうね、何者なのかしら。聖女たらんとしていたのにこんなになって、狂った聖女の使いっ走りをやらされてるなんて」

 

 少しずつ白んできた空を見上げて、そのサーヴァントはジャンヌさんの質問に答えた。その目は、どこか悲しそうで。

 

 それを見て、もしかしたら話しあえるかもしれない、なんてつい思ってしまう。だって、戦わないほうがいいじゃないか。

 

 でもそれは無理だろう。昨晩聞いたジャンヌさんの言葉……強制的な狂化のことが頭によぎり、言葉を飲み込む。

 

「そういう貴女こそ、どうなのかしら」

「私……?」

「貴女は今、この国を救おうと二度足掻いている。けれどきっと、人々は貴女を救国の聖女とはもう二度と呼ばないでしょう」

「……それは」

 

 確かに、ありえない話では決してない。

 

 ああして最初の砦でジャンヌさんが休めたのは、ユリアさんがいたから。もしそうじゃなかったら……

 

 ラ・シャリテで話を聞いた時、この国の人たちの黒いジャンヌへの恐怖と憎悪を垣間見た。それはきっと、ジャンヌさんにも……

 

「ねえ、いい機会だから聞かせて?貴女は今、()()思っているの?」

「…………」

「かつて助けた人々に牙を剥かれるかもしれなくて、絶望した?それとも……彼女のように、憎むのかしら」

 

 サーヴァントの質問に、俺たちは自然とジャンヌさんの方を見る。彼女は今、どう思っているのだろう。

 

 俯いたジャンヌさんの表情はうかがえない。誰かに言われて、本当に絶望してしまっているのかもしれない。

 

 ……あるいは、あの黒いジャンヌにのように。ありえないとわかっていても、そんな思考が頭の隅をかすめてしまう。

 

「……私は」

 

 やがて、答えが出たのかジャンヌさんは言葉を発した。ゴクリと固唾を飲んで、耳をすませる。

 

 

 

「私は、恐れも憎みもしません」

 

 

 

 そして、ジャンヌさんの答えはそれだった。上げた顔には、いつものように毅然とした雰囲気がある。

 

「普通なら、そう思うのでしょう。悔しくて絶望に落ちてしまうのでしょう。自分が何者かもわかりきっていない、不完全な霊基(そんざい)であるのなら、なおさら」

「だったら……」

「でも、ええ。不完全ついでなのか、こうも思うのです」

 

 ジャンヌさんは、これまでにないほど確信に満ちた顔と声で。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だって、自分を憎むことで抗えるのなら、きっとそれは自分が何者であるかよりも大切なことだから。

 

 なんの迷いもなく、強がりでもなく。ジャンヌさんは最初から当たり前のように、微笑みながらそういった。

 

「……そっか」

「……先輩?」

 

 これが、この姿こそがジャンヌ・ダルクっていう人なんだ。

 

 たとえ記憶が曖昧だって、力が完全じゃなくたって。自分よりも人を思うことができる、その意思。

 

 きっと、それこそがジャンヌ・ダルクが英霊である何よりの証なんだ。この人だから、フランスは救えたんだ。

 

「……ふぅん。私は好きよ、その答え。そういえば、あいつも言ってたかしら」

「あいつ……バーサーカーさんが?」

「ええ。全員に囲まれてる中、最後に私たちのマスターにこう言ったのよ」

 

 〝ああ、いくらでも抗うがいいさ復讐者。貴公がどれだけ罵ろうと、折ろうとしても、貴公にだけはきっと彼女は砕けぬよ〟

 

 何故ならば、それこそが人間の真実なのだから。どれだけ闇に誘われようと、希望あるものが人足り得る。

 

 あの黒竜に殺される最後の瞬間にバーサーカーはそう言ったと、そのサーヴァントは言った。

 

「あいつ、どんな化け物じみた精神してるのかしら。同じバーサーカーとは到底思えないわ」

「バーサーカー……」

 

 ああ、何故だろう。どんな状況でも不敵な笑みでそういうバーサーカーが、容易に想像できてしまう。

 

 ずっとわかっていたけれど──きっと彼は、どこまでも人間を信じているんだ。人理を作った、最古の人として。

 

「ならば、その彼の信に答えましょう。私たちは、どれだけでも争ってみせる!」

「そうです!例え敵がどれだけ強大でも、私たちは屈しません!」

「……そう。そうなのね」

 

(このくじけぬ貴き意志。神よ、そのために私は──)

 

 決意とともに前に出たマシュとジャンヌに少し目を見開き、サーヴァントは少しの間だけ俯いた。

 

 それからすぐに顔を上げて、その時にはもう目に少しだけあった優しさはなかった。代わりに震えるほどの殺気が感じられる。

 

「ならば戦いましょう、ジャンヌ・ダルクとその仲間たち。この出会いを、意味あるものとするために」

 

 そういって、サーヴァントは杖を掲げた。

 

 するとどこからともなく、地響きがし始める。とっさに俺たちは背中を向け合い、周囲を警戒した。

 

 

 

「我が真名()はマルタ、聖女マルタ!」

 

 

 

 どんどん揺れが強くなっていく中、声高にサーヴァント──否、聖女マルタと名乗ったその人は声を張り上げる。

 

『聖女マルタだって!?』

 

 そこでこちらをモニターしていたドクターが、突然通信を繋げてきた。

 

「ドクター!?こんな時になんですか!」

『まずいぞ藤丸くん、彼女は祈りだけで竜を説伏させた聖女だ!つまり──』

 

 

 

 

 

グォオオオオォオオオオオ!

 

 

 

 

 

 ドクターが先を言おうとした、その瞬間。マルタさんのすぐ側の地面を突き破り、巨大な影が姿を現した。

 

 それは、一見亀のような生物だった。極太の筋肉質な4本足に太く雄々しい尻尾と翼、そして獅子のような面構え。

 

 おおよそファンタジーでもなかなかお目にかからないような、絶大な存在感と巨躯のそれは見るからに──

 

『最上位クラスの、()()()()()()()()だ……!』

 

 

 

 

 

「狂気に侵されし我がクラス、バーサーク・ライダー!さあ、殺し合いを始めましょう!」

 

 

 

 

 

 そして、竜の聖女と呼ばれる英雄との戦いが始まった。




うーむ、久しぶりだから雰囲気を掴みかねる。
あ、あんまり長いとダレるのでわりと巻きでいきます。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
さーて、星狩りも頑張るぞう
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。