すみません、祖母の家で家事の手伝いしたり重い荷物整理やってたら昨日は精魂尽き果てました。
というわけでお詫びとして、今日は二話投稿します。午前と午後、十時に投稿します。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「さあ、行きなさいタラスク!目の前の敵を粉砕せよ!」
グオォォオオオオオオオオ!
己が主人の命に従い、悪竜タラスクは咆哮して後ろの両足に力を込める。その怪力にバキ、という音とともに地面が陥没した。
後ろの二足で立っていた姿勢から前傾姿勢へと移行、その巨躯から凄まじいまでの殺気が溢れ出る。
「敵サーヴァントの宝具と思しきドラゴン、突進の姿勢をとっています!」
「マシュ、受け止められる!?」
「やってみます!」
藤丸のオーダーに従い、その前に立つマシュ。そしてその大楯の下部を地面にめり込ませ、腰を落として構えた。
タラスクが飛び出したのは、そのコンマ数秒後。その巨体に似合わぬ、弾丸のようなスピードで突撃を敢行する。
ゴッガァアアアァアンンンッ!!!
瞬間、これまでにないほどの凄まじい轟音を立てて、タラスクの頭部がマシュの構える大楯に激突した。
ただの突進、されど突進。真の竜種たるタラスクのそれは凄まじい衝撃を生み、更には置き去りにしていた疾風を叩きつける。
「なんて、強い────!!!」
あまりの威力に、マシュはガクリと折れそうになった全身各部の関節に力を込め直した。少しでも気を緩めれば、轢き殺される。
背後には、守るべきマスターがいる。ならばと特異点Fでのことを思い返し、マシュは必死にタラスクの突進を耐え凌いだ。
その姿に、逞しき6本の足で押し込んでいたタラスクは
グルォアアアア!
ならば、さらなる試練を。この矮小な小娘が我が主人のお眼鏡にかなうようなものであるかを、確かめよう。
故に、タラスクは
ああ、それを待っていた。そうタラスクは笑い、その場で
まるで亀のように甲羅にこもったタラスクから、次に繰り出されたのは──まるでチェーンソーのような回転攻撃だった。
「「なっ!?」」
「まさかっ!」
グルァアアアァァアアアア!!!
藤丸たちが驚愕に顔を染める。そんなことは気にも留めず、魔力と翼で更に加速したタラスクは今一度大楯に向かっていった。
マシュがなんとか反応できたのは、幸運と言って良いだろう。なんとか体制を整えて、タラスクの回転攻撃を受け止めるが──
「なっ、つ、強い!?さっきよりもはるかに威力が──!!?」
遠心力、魔力、そして単純な竜種の規格外な膂力。それが全て合わさった攻撃は、単なる突進の10倍の威力を生み出した。
マシュからすればたまったものではない。先ほどでも全力の8割を出して耐えたというのに、それの10倍などあまりに予想外である。
「くっ、このまま、ではっ、崩れ……!?」
「マシュ!まずい、このままじゃ!」
少しずつ、マシュの体制が崩れていく。元は非力な少女に、真の竜種の猛攻を耐えるのは困難だろう。
あわや、そのまま叩き潰されて自分たちもろともミンチになるかと藤丸が息を呑んだ、その瞬間。
「──〝
歌が、響いた。
美しく、どこまでも透き通るようなその声に藤丸とジャンヌは後ろを振り返る。そこにいるのは、火防女だ。
両手を組み、それを胸に当てる彼女が歌うのは一つの魔術。火の時代を生きた彼女だけが歌える、ソウルに働きかける歌。
一人の騎士のため紡がれたその歌は、マシュの全身に仄かなオレンジ色の光を纏わせ、さらなる力を与えた。
「これは、力がどこからか湧き出て……!」
「〝
更に一節。膂力の強化に加え、魔力の回りが良くなった。マシュは目を見開きつつも、これならと活路を見出す。
キッとタラスクを睨み上げ、マシュは今もなおタラスクに削られる、傾いていた大楯を押し返していった。
グルゥウッ!?
「はぁあああああああああああああっ!!!」
そして、そのまま押し返してしまった。弾き返されたタラスクは宙を舞い、しかし空中で引っ込めていたものを出すと着地する。
それからさほど時間を開けず、先ほどと相反するように仰け反ったタラスクは口から炎を吐き出した。
それすらも、火防女の支援を受けて一時的に絶大なパワーアップをしたマシュは見事に受け止める。
「よし、これならいけるぞ!」
拳を握り、歓喜する藤丸。タラスクが出てきた最初は絶望的かと思ったが、これならば勝機が見えてきた。
そんな彼の横で顔を曇らせるのはジャンヌ。まるで何かを思い詰めるように、旗を握る手の力を強める。
「チッ、後方支援とは面倒ね。なら……」
それまで観戦に徹していたマルタが、十字杖を掲げた。その動作に嫌な予感を感じ、ジャンヌは後ろを振り返った。
すると、歌う火防女の周囲に空間の〝歪み〟が発生していた。渦を巻くそれは、まるで火防女を捻じ切らんとしているようだ。
「まずい──!」
「無駄よ!私の〝祈り〟は防げない!」
叫びとともに、マルタは〝祈り〟を発動する。それは火防女の体を木っ端微塵に……
「──〝
することは、なかった。
火防女の体から灰色の波動が解き放たれ、マルタの〝祈り〟を消しとばしたのだ。手を伸ばしていたジャンヌも、藤丸も瞠目する。
それはマルタとて同じである。よもや自分の〝祈り〟を一介の人間の魔術師が弾くとは思わなかった。
「ソウルとは一種の因果の力。ならば、私がそれをどうにもできぬ道理はありません」
「……ふぅん。貴方も一端の戦力ってわけ、ますます面白いじゃない!」
グォオオォオオオオオオ!
それは楽しそうに笑うマルタに呼応するが如く、タラスクは握った前足を振り下ろした。大楯で受けるマシュ。
暴れるタラスクをマシュが相手取り、火防女が支援して、時折マシュが危機に陥れば藤丸が指令を飛ばす。
実に見事な連携が出来上がっていた。よもやこれが、数週間前までは一般人だった少年とその仲間たちとは思うまい。
(……私は、このままでいいのでしょうか)
その様子を見て、ジャンヌは心の中で自分に問いかけた。
いや……戦闘が始まるよりずっと前、最初にラ・シャリテで戦っていた時から常に自問自答していた。
(皆、全力で奮闘している。藤丸くんも、マシュさんも、火防女さんも。それなのに私は……)
満足に力を振るえず、どこまでも迷ってばかりだ。それどころか、未だに自分が何者であるのかすらわかっていない。
そんな曖昧な自分が、彼らとともにここにいる資格があるのだろうか。むしろいれば負担になってしまうのではないか。
そんなことばかりがジャンヌの頭の中を支配する。やがて、ジャンヌはタラスクと戦うマシュから目を外して俯いてしまった。
(やはり、私では何もすることが──)
「ジャンヌさん。今のうちに、やっておきたいことがある」
「……え?」
そんな時だった。予想だにしないその言葉に、ジャンヌは顔を上げて藤丸の方を見る。
彼はマシュから目を外さないで、意識だけこちらに向けられているのがわかる。その凛々しい横顔に息を呑むジャンヌ。
しかしそれもほんの一瞬、我に返ると未だ詳しく聞いていない藤丸の提案に「はい」と返事をした。
「それで、やりたいこととは?」
「俺と、契約を結んでほしいんだ」
「…………え?」
それは、これまでジャンヌが聞いた藤丸立香の言葉の中で最も突飛なものだった。それほどまでに予想外なのだ。
「ジャンヌさんは今誰とも契約してなくて、聖杯からの恩恵も受けてない。だから全力も出せない、そうだよね?」
「は、はい。そうですが……」
「なら、できるはずだ」
藤丸の声は確信に満ちていた。そうすることでジャンヌの力を取り戻してあげられると、そう信じている。
何故ならば、それが〝普通の人間〟である藤丸がこのグランドオーダーにおいて、マスターとしてできる唯一のことなのだから。
「……たとえそうだとしても、私では」
「見て」
それでも自分への自信が持てないジャンヌが否定しようとすると、藤丸がマシュの方を指差した。
「今、マシュはなんとかあのドラゴンと渡り合えてる。でも、決定打がない」
「あっ、確かに……」
火防女の支援もあり、タラスクをどうにか相手しているマシュ。しかし、これという一撃は入れられていない。
「だからもう一人必要なんだ、決め手になる人が。だからそれを、ジャンヌさんに頼みたい」
「っ…………」
その言葉をジャンヌは受け止めて、さらに困惑した。
何故、これほどまでに藤丸は自分を信じてくれるのだろう。こんな、何もすることができない自分を。
「なんで、って思ってるよね」
「それは……はい」
「俺さ、前に目の前である人を失くしたんだ」
藤丸の脳裏に浮かぶのは、泣き叫びながらカルデアスの業火の中に消えていったオルガマリーの姿。
今でも時折、あの時のことを夢に見る。その度に後悔して、何かできたのではないかと自分を責める。
「もしかしたら手を伸ばせたんじゃないかって、何かできたんじゃないかって……」
「藤丸くん……」
「だから決めたんだ。目の前にあるものは、なんだろうと掴み取る。もう二度と、後悔しないように」
だからこそ、と藤丸は初めてジャンヌの方を向いて。そして、笑った。
「俺は、ジャンヌさんを信じたい」
「……っ!」
「だから頼む。俺に力を貸してくれ」
そう言って見つめてくる藤丸の目に、ジャンヌはどこかかつての自分と同じものを見た気がした。
あの頃……ただこれが正しいと、その果てに何かを為せると信じて、どこまでも突き進み続けた無垢な少女に。
「……わかりました。契約を結びましょう」
ジャンヌは、首を縦に振った。かつての自分のように突き進む少年を、自分のように後悔させないために。
なによりも──自分の助けを求める者がいるのなら、誰だろうと手を伸ばす。それがジャンヌ・ダルクの在り方なのだから。
藤丸も最初からその答えを待っていたように頷くと、令呪の刻まれた右手の袖をまくる。そこで通信音が鳴った。
『よせ藤丸くん!そんなことをしたらどれほどの負担が君にかかると思ってる!?』
「……わかってます、危険なことくらい」
本来、マスターが契約できるのは一騎のサーヴァントのみ。それ以上の数と契約をするのは異例中の異例だ。
それは通常の聖杯戦争の場合、戦力的な偏りを生む意味もあるが、それ以上に魔力供給が追い付かないからだ。
例えばセイバーオルタやクー・フーリンたちなどは、カルデアからの魔力供給下にあるため問題はない。
また、灰は不死人であるためか命の〝熱〟であるエスト瓶や、篝火に当たれば魔力の損耗は自分で回復できる。
しかし、ここはその莫大な恩恵がない特異点。そのような場所で、二騎以上のサーヴァントと契約すれば……
「それでも、ここで死んだら終わりだ。そうでしょう?」
『っ、ああもう、一度そうと決めたら頑固だなぁ!存在証明は絶対に確立を継続させるから、好きにやってくれ!』
怒りつつもサポートをしてくれるロマ二に「ありがとうございます」とお礼を言って、藤丸は腕を掲げる。
そこに魔力回路が浮かび、ジャンヌは自分に向けてそのパスが向けられようとしていることを感じた。
「〝──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に〟」
そして、詠唱が始まる。それは朝を知らせる宣誓よりも強く響き渡り、戦場に新たな風を呼び込む。
同時契約の危険性とともにドクターロマンに教わってなんとか覚えた詠唱を、間違えないよう細心の注意を払って紡ぐ藤丸。
いち早く気づいたタラスクが止めようとするが、それをマシュが阻む。そこにすかさず火防女が支援をした。
「あれは宝具……いや、契約の詠唱!?」
同じように気づいたマルタは、また十字杖を掲げて〝祈り〟を行使した。今度は藤丸の周囲に歪みが現れる。
火防女と違い、藤丸は歪みに対する対抗手段を持っていない。故にこそ、引き続き契約の詠唱を唱え続けた。
「〝聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば──〟」
「させるかっての!」
「先輩、逃げてください!」
マルタが〝祈り〟を行使し、それに振り返ったマシュが叫んだ、その瞬間。
「〝我に従え! ならばこの命運、汝が〝
詠唱が、終わった。
〝祈り〟が、純白の一振りによって粉砕される。因果を操り、対象を粉砕する魔力は一瞬で無に帰した。
「なっ!?私の〝祈り〟を、旗をたった一度振った程度で!?」
驚くマルタ。まさか一度ならず二度までも〝祈り〟を防がれるとは、想定外にも程があるというもの。
それを為したのは──尻餅をついた藤丸の前に立つ、一人のサーヴァント。彼女はローブを脱ぎ去り、大きな旗をなびかせる。
「──サーヴァント、ジャンヌ・ダルク。〝ルーラー〟の名を懸けて誓いを受けましょう。貴方を我が主として認めます、藤丸立香!」
ここに、救国の聖女と呼ばれた少女が真にサーヴァントとして覚醒した。
次回、決着。
巻きでいくとかほざいてたら脳内プロット見直して無理⭐︎になったので25話まで伸ばします。どうかご理解いただけますよう。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。