灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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じゅ、十人も減った……しかも1分遅れてしまった。
とりあえず、二話目投稿です。
楽しんでいただけると嬉しいです。


竜の聖女の最後

「ジャンヌさん……!」

 

 大きく目を見開き、しかしすぐに喜色に顔を染める藤丸。その顔に本来の力の一端を取り戻したジャンヌは微笑む。

 

 それを見ていたマシュと、モニター越しに気を揉んでいたロマ二はホッと息を吐き、藤丸がやられなかったことに安堵した。

 

「……そう。そこまでして抗おうというのね」

 

 明らかに霊基が強靭になったジャンヌ・ダルクに、マルタは己にしか聞こえないほどに小さく呟く。

 

 狂気に侵され、無情となったはずの顔に浮かぶのは僅かな笑み。その意味を知るのは彼女のみだろう。

 

「タラスク、戻りなさい」

 

 ああ、それならばとマルタはタラスクを呼び戻す。マシュを圧殺せんとしていた悪竜はすぐに聖女の元へと戻った。

 

 突然の行動に、マシュたちは警戒を強める。それでいい、とマルタは笑い、また杖を掲げる。

 

「ジャンヌ・ダルク。貴方が真に戦う覚悟を決めたというのなら、私も全力で応えましょう……どちらにしろ、もう()()()()

 

 古びた鎧の凶戦士に削り取られた左腕をチラリと見て、マルタは()()()()を使うことを決意する。

 

 ドン!とマルタの全身からおぞましい紫色の魔力が爆発。一気に威圧感が増し、マシュたちは得物を構え直した。

 

「敵サーヴァントの魔力、増大しています!」

「これは……!」

「まさか、宝具か!」

 

 身構える藤丸たちに、マルタは詠唱を始める。目の前にいる抵抗者たちを試すため、最大最強の一撃を放つために。

 

「〝神が五日目に作りたもうたリヴァイアサン。その仔にして、数多の勇者を屠ってみせた凶猛の怪物──ここに〟」

 

 マルタの詠唱という名の宣言が、溢れ出した魔力を変換していく。それはタラスクへと流れていき、力を与えた。

 

 

 

 ゴウッッ!!!

 

 

 

 タラスクの全身が、黄金色に輝く。それはまるで世界を照らし、近づくものを焼き尽くす太陽の如く。

 

 聖女より届けられたその祈りを受け止めた悪竜は、勢いよく()()()()()。高く高く、今その身を覆う光……太陽のように。

 

「さあ!滅びに抗わんとする気高き者達に、試練の一撃を与えましょう──────────!」

 

 叫び、吠え立て、そして……

 

「〝星のように──〟」

 

 祈りの聖女は、手を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「〝愛を知らぬ哀しき竜よ(タラスク)〟」

 

 

 

 

 

 宝具、開放。聖女の意に従い、かつて人々を苦しめ、悪逆と忌み嫌われた悪竜が死の流星となって降り注ぐ。

 

 それはまさしく、天の鉄槌と呼ぶべきような宝具。燃え盛る魔力の炎を纏ったタラスクは藤丸達目掛けて落ちていった。

 

 このまま受ければ地を抉り、木々を吹き飛ばし、更地と化すだろう。すぐに藤丸は行動を開始する。

 

「ドクター!宝具の使用許可を!」

『許可する!』

「マシュ、いける!?」

「はいっ!」

 

 それに対抗ために藤丸が最初に頼るのは、やはりマシュ。少女はマスターの期待に応えるため、前に出る。

 

 そこで、一抹の不安がよぎった。それはかつて騎士王の一撃を受けた時にも感じた、自分ができるのかという恐怖。

 

(いえ、できます!だって今の私には、先輩がついているのだから!)

 

 それをマスターへの信頼で消して、マシュは叫ぶ。英霊ではない自らに許された、一つの大いなる力の解放を。

 

「真名、偽装登録──いけます!」

 

 マシュの体から魔力が立ち昇る。それを力に変え、大楯を大きく振りかぶって口を大きく開き──

 

 

 

「〝‪ 仮想宝具 擬似展開(ロード) ──/人理の礎(カルデアス)〟ッッッ!!!」

 

 

 

 勢いよく、地面に下部を叩きつけた。光の紋章が大楯の中心に浮かび上がり、そこから魔力の大壁が展開する。

 

 どこか清涼とも取れる音を立てて広がった壁は、確かにタラスクを受け止めた。半透明の城壁が、死の流星を防ぐ。

 

 

 

 ゴガガガガガガガガガガガガッッッ!!!

 

 

 

 藤丸たちの予想に反することなく、まるで太陽そのものが落ちてきたかのようにタラスクは全てを破壊した。

 

 余波だけで大地を盛大に抉り飛ばし、木々を黄金の魔力で消滅させ、マシュの肌に軽い火傷を負わせていく。

 

「なんて、力──!?」

「マシュッ!ドクター、どうにかできないのか!?」

『悪いがこっちも手一杯だ!それに、性能的にマシュの宝具ではタラスクは止められない!』

「くそっ……!」

 

 当然、防御は長くは続くことなく。先ほどとはまるで比べ物にならないほどに超速で回転するタラスクに押され始める。

 

「タラスクは我が守護霊、敵対するもの全てを容赦なく轢き殺す!」

 

 マルタが叫び、それに応えるように甲羅の中から雄叫びを上げたタラスクはさらにギアを一段あげた。

 

 加速し、加速し、加速していく。その速度は決して衰えることなく、一秒経つごとにむしろその強さを増していった。

 

 すかさず、火防女が歌を歌いマシュをサポートするが……焼け石に水とはこのことか。あまり効果はない。

 

 いよいよ、マシュの宝具の城壁が崩れ始める。このままではいずれ崩れ、圧殺されることは必須であろう。

 

「──藤丸くん。いえ、マスター。私に宝具の使用許可を」

 

 故にこそ、聖女は新たに自らの主人、サーヴァントととしては真に共に戦うものとなった少年に問いかける。

 

 少年は振り返って目を見開き、押し込まれているマシュを一旦見てから、顔を真面目なものにすると頷いた。

 

「ですが、耐えられますか?私と契約したことで、負担は増しているのでしょう?」

「……まあ、ね」

 

 同時契約の代償は、確かに藤丸を襲っていた。今もジワリ、ジワリと魔力がすり減っていく感覚がある。

 

 冬木の時、灰の宝具の余波で藤丸は倒れかけた。その時のことを考えれば、宝具の同時展開がどれほど危険かは語るまでもない。

 

 ああ、けれど──だからなんだというのだ。たったそれだけのことで窮地を切り抜けられるなら、何度だって土の味を噛み締めてやる。

 

「いけるよ、ジャンヌさん」

「……マスター、その強い意志に敬意を。これからはジャンヌとお呼びください」

「じゃあ、頼むジャンヌ──宝具を使って」

 

 それは、確かな信頼の色がこもった言葉。それを感じ取ったジャンヌは不敵に笑みを浮かべ、頷いた。

 

 ジャンヌは、今もなお必死にタラスクを押さえ込んでいるマシュの隣まで歩いていく。そうすると旗を掲げた。

 

「ジャンヌさん!?」

「マシュさん……いいえ、マシュ。これより先は私も共に」

「……はい!」

 

 これほど頼もしいこともないと、マシュははっきりと肯定の意を返した。ジャンヌも首肯し、側に目を戻す。

 

 タラスクの突風に吹かれて激しくはためく旗に刻まれたのは、愛する祖国の印。今一度、己が信仰を信じよう。

 

「〝主の御業をここに。我が旗よ、我が同胞を守りたまえ──!〟」

 

 掲げた旗に、主の導きを。気高きその信仰に、今一度聖なる加護を。再び、祖国を守るために。

 

 そのジャンヌの思いに呼応し、旗に溢れんばかりの黄金の光が宿った。それはかつて、兵士たちを導きし救国の光。

 

 

 

「〝我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)〟──────!!!」

 

 

 

 そして、解き放たれる。

 

 爆発する光、広がる奇跡の閃光。代行者たるジャンヌにのみ使うことを許された、主の御業の再現なりて。

 

 それは結界型の宝具だ。内側にいるものに祝福を与え、対してその聖域を犯すものには守りと、然るべき罰を。

 

 マシュのロード・カルデアスに加え、ジャンヌの宝具も重ねがけされた防御陣形はまさしく無敵である。

 

 だからこそ、タラスクがいずれ競り負けるのは必須であった。少しずつ、タラスクの黄金の光が弱まっていく。

 

 最初はほんの少し、やがて蜃気楼の如く揺らめき、タラスクの体を覆う黄金の魔力はどんどん衰退していった。

 

「今だ、マシュ──────っ!」

「ぜぁああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

 裂帛の叫び、振り上げられる大楯。あまりに堅牢な結界に勢いを失いかけていたタラスクはあっさりと打ち上げられる。

 

 そして、空中でいよいよ完全に光が消え失せ、無防備な状態になった。彼は今、崩れた体勢を直すことができない。

 

 この一撃こそは、マルタとタラスクの全てをかけたもの。だからこそ、タラスクにはもはや絞るものがなにもなかった。

 

 ならば、守護霊を失った聖女はどうだろう。それは今、まさしく彼女に向かって疾走するジャンヌが証明するだろう。

 

「はぁ──────っ!」

「チィイイッ!」

 

 至近距離まで近づかれ、マルタは〝救い主〟よりもたらされた十字杖を鈍器にすることもできずインファイトを仕掛けようとする。

 

 十字杖を投げ捨てて、右半身を引いて拳を構えようとして──そこで、自分が致命的なことを忘れていたと思い出した。

 

 構えた拳は、右一つ。旗を真っ先に阻害する相反する左の拳はなく……それこそが、彼女の命運を分けた。

 

 

 

 

 

 ドッ!!!

 

 

 

 

 

 ジャンヌの旗が、マルタの体を貫いた。

 

 先端についた槍が、サーヴァントの強靭な肌を裂き、肉を抉り、臓物に穴を開け、そして貫通させる。

 

『聖女マルタの霊核を貫いた──藤丸くんたちの勝ちだ!』

 

 コフッ、とマルタが吐血する。当然、その血は密着しているジャンヌの顔に全て降りかかってしまった。

 

 その近くに、ドスン!と音を立ててタラスクが落下する。マルタがやられたのと連動して、力を失ったのだ。

 

「くふっ……私もヤキが回ったわね……あるいは、もう一本腕があれば……」

「………………」

「ごめんなさいね、ジャンヌ・ダルク。血で汚したわ」

「……………………」

 

 今更、一人の血でなんだというのだ。自分はもはや、数え切れないほどの人間の血を流させたというのなら。

 

 ジャンヌは無言の表情の下で、そう自分に言う。それをなんとなく察したマルタは、ポンポンと彼女の肩を叩いた。

 

「いいのよ、それで。悩んで悩んで、悩み続ければいい。それが人間でしょ」

「…………私は」

「だから、そうね……それでも抗おうとする貴女に、一つ教えてあげる」

 

 耳元に口を寄せ、マルタはジャンヌにとある情報をこっそりと伝えた。それを聞き、目を見開くジャンヌ。

 

 驚愕の表情で見上げれば、マルタはこれまでにないほどに穏やかな表情だった。ジャンヌも、藤丸たちもそれに見惚れる。

 

「我らがマスター……もう一人のジャンヌ・ダルクが連れるのは、究極の竜種。なら、それしかないわ」

「聖女マルタ。貴女は、最初から──」

「いいのよ、これで……ったく、聖女に虐殺、させるんじゃないってえの」

 

 ようやく肩の荷が下りたような顔のマルタの全身から、光が立ち上り始める。すでに彼女は、終わっていた。

 

 その体が霊子に変換されていく中、マルタは最後に近くで寝そべるタラスクを見た。そしてまた、優しく微笑む。

 

 

 

「ごめんね、タラスク。次はもう少し、マシなやつに、召喚されたいものだわ──」

 

 

 

 その言葉を最後に、マルタは消滅したのだった。

 

「……………」

 

 彼女を貫いた自分の旗を見つめるジャンヌ。

 

 その心の中にあるのは後悔か、達成感か、あるいは……

 

「ジャンヌーー!」

「ジャンヌさーん!」

 

 旗にこびりついた血までもが霊子となって消えていくのを見ていると、藤丸たちが走り寄ってくる。

 

 ジャンヌはなんとか気を取り直し、顔を上げて彼らを見た。そして大きく頷く。

 

「敵サーヴァント、確かに倒しました」

「うん、ありがとう。さすがはジャンヌだ!」

「お疲れ様でした。見事な一撃でしたね」

「すごかったです、ジャンヌさん!さすがはフランスを救った聖女です!」

「い、いえ、これはマスターと貴女たちの奮闘があったからで……」

 

 謙遜するジャンヌに藤丸たちは顔を見合わせ、ぷっと吹き出した。これはこれで、彼女らしい。

 

 それからしばらく互いの健闘を称え合い、高揚した気持ちも落ち着いたところでジャンヌが神妙な顔で語り出す。

 

「実は、消滅する直前に彼女からある情報を得ました」

「情報、ですか?」

「ええ。それによると……リヨンという街に〝竜殺し(ドラゴンスレイヤー)〟がいるようなのです」

 

 息を飲む藤丸たち。ドラゴンスレイヤーといえば、伝承に少し興味があれば一度は聞いたことのある称号だ。

 

 幻想種の頂点、中でも真の竜種と呼ばれる怪物を倒したものに送られる称号。英雄の代表的な肩書の一つだ。

 

『なるほど、ドラゴンスレイヤーか……確かにあんな竜を従えているんだ、その反動で呼び出されていてもおかしくはない』

「ええ……彼女は、そのドラゴンスレイヤーを匿っていたそうです。もう一人の私に対抗できるかもしれない、と」

「聖女マルタが……」

 

 確かに藤丸たちだけでは無理でも、ドラゴンスレイヤーがいればあの竜をどうにかできるかもしれない。

 

 改めて、マルタという英霊の類まれなる精神力に戦慄する藤丸たち。狂気を跳ね返すほどのその心は、正に聖女に相応しい。

 

 しかしその反面、そんなマルタですら戦わざるを得ないほどの狂気ということだ。黒いジャンヌの力がどれほどかよくわかる。

 

「これからどうしますか、マスター?」

「……リヨンに向かおう。できればその人を仲間にして、戦力を増やしたい」

「賛成です、当初の目的とも合致しています」

「マシュ様に同じく……そうしていれば、いずれ灰の方とも合流できるでしょう」

『ん、どうやら王女様たちも戦闘が終わったようだ。合流して詳しい段取り決めといこう』

 

 四人+ロマンは頷き、マリーたちのいる方へと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 マルタよりもたらされた、ドラゴンスレイヤーといつ一筋の希望を胸に秘めて。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「ほれ、持ってきたよ。食えるかい?」

「すまない、迷惑をかける……」

「いいってもんさ、困ったときは助け合いだよ。他に何かいるかい?」

「いや、平気だ……すまない、貴方には貴方のやることがあるだろうに」

「クヒヒッ、別にちょっとした寄り道さ、なんてことない。それに……」

「……それに?」

 

 

 

 

 

「きっと、あの英雄様なら……困ってる奴がいたら見捨てないだろうしね。ワシを助けてくれた、あの時のように」




次回、竜殺しを探しに。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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