灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、操作ミスで会話の途中に下の穴に飛び込み、フラムトのイベントが折れた作者です。悲しみ。
ところで皆さん、イベントはどうですか?自分はシトナイ狙ってお小遣いの相当部分注ぎ込みましたが爆死しました。
今回は邪ンヌの話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。


竜の魔女は動き出す

 

 

 

 オルレアン。

 

 

 

 かつてフランスの首都として、いと貴き身分の者たちが暮らし、栄えた街。中心には王らの住まう王城がそびえている。

 

 そこは今、まさしく地獄と化していた。空には無数のワイバーンが飛び交い、市街にはミイラのような人間……亡者が跋扈している。

 

 もし、この街に無用心に足を踏み入れようものなら亡者達に袋叩きにされ、()()()を吸われた後に竜の餌になるだろう。

 

 そんな魔境の中心、かつて煌びやかであった城もまた、見る影もなく。紫色のつたで覆われ、魔城となっている。

 

 

 

「──ライダーが消えましたか」

 

 

 

 その一角、かつて聖堂だった場所。

 

 数週間前狂いしサーヴァント達が召喚されたそこには今、ボロボロの王座に座るジャンヌ・ダルクがいた。

 

 ただ一人、邪竜を描いた旗とともに座する中、マルタとの〝繋がり〟が切れたことを感じて嘆息する。

 

「よもやあれほどの理性が残っているとは、聖女とはかくも厄介なものですね」

 

 マスターであることと、ルーラーの能力。それにより、ジャンヌにはサーヴァントの意思がなんとなく把握できる。

 

 それを通して藤丸達との戦闘の末消えたマルタの意志の形を知り、嘆息した。全く厄介なことである。

 

「ですが、ええ。あの忌々しい男がいなくとも、彼らが滅ぼすに値する敵であることはわかりました」

 

 脳裏に浮かぶのは、最後まで己が召喚した究極の竜種──ファヴニールの炎から目を逸さなかったサーヴァント。

 

 泣き叫ぶことも、苦悶に顔を歪めもせず。死をものともしないその姿は、ある種ジャンヌにとって苛立ちの種だった。

 

 彼女の望みはどこまでも惨たらしく、凄惨に、そして残虐に殺すこと。そうすることで絶望を嗤うのだ。

 

「ああ、あの瞳を今思い出しても腹が立つ……!」

 

 だというのに、あの男はその点全く()()()()()()()。淡々と自分が死ぬ事実を受け止めたのだから。

 

 かけらも思っていないのだ、自分の命に価値があると。並のサーヴァント以上に、生にも死にも達観し切っている。

 

 自分が死ぬことでマスター達を逃がす、そのためならどこまでも命を捨てられる。ある意味良いサーヴァントだろうか。

 

「自らをも駒とする、というところですか」

 

 サーヴァントとは本来、道具であるというものもいる。あるいは召喚されたサーヴァント自身がそう言う事も。

 

 サーヴァントとはあくまで過去の遺物、ならば文明や発展の軌跡のように、その後の人間が使()()ことに何の問題があろうか。

 

 実際、そうしたマスターは過去の聖杯戦争においても存在したし、ジャンヌ自身も所詮はその程度と認識している。

 

 あのおかしな霊基のサーヴァントは、それの究極系かもしれない。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、何よりも気に入らないとジャンヌが思っているのは──

 

 

 

(何故、奴はあの()()を隠していた?この身に宿るものかそれ以上の渇望を、どうして抑え込めた?)

 

 

 

 ジャンヌは灰と対峙しているとき、常に感じていた。地獄の底よりなお深い、深い、その暗い魂のうめきを。

 

 憎しみとは、ある種の渇望だ。それを欲してやまなく、またどれだけ燻ろうとも、決して消えることだけはありえない。

 

 それは原初の憎しみが強ければ強いほどより燃え盛り、やがて己の身ごと憎むものをもろとも焼き焦がす。

 

 あの男の底にあったのは、まさにそれだ。並の人間ならば到底抑えようがない、何もかもを塗り潰す漆黒の心。

 

 バーサーカーなどと笑わせる。あれを狂気程度で片付けていいものか。いいや、それを正気で覆い隠していることこそが狂気の所業か。

 

「……まあ、今更考えても仕方がありませんね。どうせ奴はもう、死んだのですから」

 

 言葉とは裏腹に、ジャンヌの目には怒りが宿っていた。既にこの手で塵も残さず消しとばしたはずなのに、まだ収まらぬ。

 

 まあ、ある意味で言えばそれは当たり前なのだが……ルーラーといえど灰の不死性までは見抜けなかった彼女は知りようもない。

 

 

 

 

 

 オォオオオオ…………

 

 

 

 

 

 その思いに反応したか。聖堂の奥から、背筋が凍りつくような冷気が立ち込める。それはジャンヌの髪を揺らした。

 

 鬱陶しいその冷たさに、ジャンヌは舌打ちを溢すとちらりと玉座の後ろを見た。すると奥に、何やら黒い靄がある。

 

 闇そのもののように冷たく脈動するそこには、〝番犬〟が潜んでいる。さしずめその体を隠す犬小屋というところか。

 

 冷たい闇の中の番犬に、ジャンヌはハッと馬鹿にしたように笑った。どうやら腹を空かせ、この魂にまで目につけたようだ。

 

「まったく、狂ったものばかりで笑う暇もないわ……今は我慢なさい。じきに、心ゆくまで魂を食らえるのだから」

 

 そう、自分を利用し、嘘の祝福で褒め称え、その果てに使い捨てたおぞましいこのフランスの人間達の魂を。

 

 言葉を理解したのか……あるいは、はるか高き聖堂の天井から溢れた、()()()()()()が靄に当たったからか。

 

 番犬はまた眠りにつく。靄は消えてゆき、それに吸い込まれるようにまた冷たさも何処かへと霧散した。

 

 まあ、かと言って寒くなくなるわけではない。ジャンヌの憎悪で燃え盛る心は、常に矛盾してどこか寒々しい。

 

「……あら?」

 

 そのように考えていると、ふとまた一つ()()()()

 

 それは、とある街に放ったサーヴァントの反応だ。確かに最近、妙に弱々しくなっていたが……自然消滅だろうか。

 

 そう考えたのも束の間、目の前に魔法陣が現れる。それはジャンヌが今この世界で唯一信頼する男が使うもの。

 

「ジャンヌ、ただいま戻りましてございます」

 

 数秒して、魔法陣から男が現れた。ジャンヌを狂おしいほどに信奉していた、ジルと呼ばれるあの男だ。

 

「あら、おかえりジル。それで、新しいサーヴァントの調子はどうだったかしら?」

 

 ジャンヌは灰によってヴラドを倒された上にマルタ、それに次ぐバーサーク・アーチャーのダメージを鑑みて新たに戦力を補充していた。

 

 召喚された新たな二人の狂気の従僕のうち一人……それもこのフランスに深く関わりのある方をジルに頼んでいたのだが。

 

「ええ、上々です。実は……」

「一人、サーヴァントの首を刎ねました」

 

 言葉を引き継ぎ、ジルの背後から一人の男が音もなく現れた。

 

 魔法陣で共に現れたその男は、白い刺繍の施された黒のロングコートを纏った青年。端正な顔にはうっすらと笑みが浮かぶ。

 

 かつてのフランスでの礼服に身を包んだ青年は、優雅にジャンヌに一礼する。ふん、と鼻を鳴らすジャンヌ。

 

「へえ。貴方が私のサーヴァントを?随分と舐めた真似してくれるじゃない」

「彼……〝オペラ座の怪人(ファントム・ジ・オペラ)〟は放っておいてもいずれ消滅すると判断したので」

「すでに致命傷だった、というわけですか……それで首を落としたと?」

「ええ──だって、苦しみなく人を終わらせることが、僕の役目なのだから」

 

 何の躊躇もなく、それが事実であると。青年は竜の魔女を前にして、爽やかな笑顔でそう言い切った。

 

 事実そうだ。この青年の真名を知るものがここにいるならば、彼こそがそうであるにふさわしいと証明しただろう。

 

 しばらく、ジャンヌは冷酷な瞳で青年を見下ろす。やがていつものように皮肉げに笑い飛ばすと、足を組み替えた。

 

「いいでしょう、流石の腕といっておきます」

「お褒めに預かり光栄です……それで、次は誰を?」

「そうですね……」

 

 指を顎に当て、思案するジャンヌ。どうやら性能は問題ないようだ、ならば次は本格的に投入することにしよう。

 

 すると、幸いにも今ぶつければ良さそうな者たちがいるではないか。バーサーク・ライダーとの戦いで、多少は消耗しただろう彼らが。

 

 丁度いい頃合いだ、あの間抜けなもう一人の自分の顔でも見て嘲笑ってやろう。そう考え、ジャンヌは命令を──

 

 

 

『貴公にだけは折れぬよ。ジャンヌ殿ではない、貴公にだけはな』

 

 

 

 ──下そうとして。またあの男の、どこか挑発するような赤い瞳を思い出した。

 

 よって、途中で言葉を止める。当然不思議そうに首をかしげるサーヴァント……特にジルに、ジャンヌは別の質問をした。

 

「ジル。貴方はどう思います?」

「はて。どう、と申されますと」

「愚鈍ね、あの男の言葉よ……貴方はどちらが〝ジャンヌ(本物)〟だと思う?あの女と、私」

 

 その質問に、ジルはもともと溢れんばかりの目をギョロリと見開き、怒りとも嘆きとも取れぬが全身を震わせた。

 

 ああ、自分の聖女が迷っておられる。ならばこの胸に秘める思いを解き放とうではないかと両手を振り上げる。

 

「もちろん、貴女ですとも!」

「へえ……理由は?」

「よろしいかジャンヌ、貴女は火刑に処された!あまつさえ誰も彼もに裏切られた!その嘆きが本物ではないとどうして言えるだろうかッ!」

 

 時の王シャルル7世は解放のための賠償金を惜しみ、結果見殺しに近い形でジャンヌ・ダルクを見捨てた。

 

 他のものもそうだ。やれ聖女だ救い主だとはやしたてながら、勇敢にも王に物申すものすら表れもしなかった。

 

 ああ、これが悪意でなくてなんだというのだ。そんな理不尽は許さないと、ジルは吠え立てる。

 

「この到底理解しがたい結末を導いたのは誰か!?神だ!全ては神からの嘲りに他ならないッ!それ故に貴女は、我らは神を否定しこの国を滅ぼす!そうでしょう?」

「……そう、そうねジル。私にはもはや、何も残ってはいない。共に戦う兵士も、守らんとした民たちも」

 

 率いていた兵士たちはもはやなく、救いを渇望していた民もなく。王は裏切り、司教はあろうことか神の名の下にこの身を断罪した。

 

 もはや清々しいまでに、何もないではないか──全てを焼き尽くすまで、いいやそうしてもなお消えぬ、この憎悪以外は。

 

「全て間違えていたというのなら──私という存在も、それを許容したこの国もまた、間違いであるのでしょう。だからこそ、全てをなかったことに……そう、全てを無に還す」

「…………ジャンヌ、そう思い悩みなさるな。これは単なる天罰、正当なる復讐。貴女が救ったのだ、滅ぼす権利も貴女にある。それだけでしょう?」

「……そうかもね。貴女の言葉はいつも極端だけど、ええ。今は頼もしいわ」

 

 既に迷いはなくなった。頭の中で笑うあの男の顔を叩き壊し、玉座から立ち上がると黒い旗を掲げる。

 

 すると、崩壊した聖堂の壁の大穴から、巨大な黒竜が降り立った。その黄金の眼で、呼び出した主人を見つめる。

 

「さあ、いきましょうバーサーク・アサシン。そしてバーサーカー」

 

 青年と、実はずっと聖堂の隅にいた濃い紫の全身鎧を纏うサーヴァントを呼ぶジャンヌは、ああと言葉を止める。

 

「呼び辛いから、もう真名で構わないでしょう……処刑人〝シャルル=アンリ・サンソン〟。湖の騎士〝ランスロット

「────────urrrrrrrrrrrrr」

「仰せのままに、マスター」

 

 ジャンヌの後に、死刑執行人(ムッシュ・ド・パリ)と呼ばれしサンソン家四代目当主と、狂気に落ちし円卓の騎士が付き従う。

 

(いってらっしゃいませジャンヌ──貴女の正しき復讐を、成就するために)

 

 その後ろ姿を、ジルは深々とお辞儀をして見送った。彼が生前、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今再び、竜の魔女が動き出した。

 




次回、あのキャラが登場。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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