灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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対サンソン戦、レディ!
楽しんでいただけると嬉しいです。
あ、こっから色々詰めなきゃいけないんで文字数が倍増しますが、どうかご勘弁ください。


硝子の王妃に祝福を

 ジャンヌたちと会話を交わしてから、三十分後。

 

「さて、どれほど来るのかしら」

 

 マリーは一人、モンリュソンの町の正面門で迫りくるワイバーンとサーヴァントを待ち構えていた。

 

 周りには誰もいない。見張り台に兵すら一人もおらず、避難しようとしている市民の誘導を行っているのだ。

 

 それでいい、とマリーは微笑む。彼らは彼らのやるべきことを。そして私は、私のやるべきことを為しましょう。

 

 その思いは、いつかの革命の最後に似ている。新しき時代の光に目が眩んだ民衆を、断頭台から見下ろした時に。

 

「ああ、でも今日は一人も見てくださる方がいないのね。それは少し悲しいわ」

 

 サーヴァントとしての自分の一世一代の大パレード、見届ける者の一人もいたのなら、それはそれで嬉しいのに。

 

 けれど、誰も立ち止まりは、戻りはしない。それが彼女の選んだ道だ。最後まで一人で散る覚悟こそが……

 

「あら、お客様が来ましたわね」

 

 いよいよはっきりと視認できるほどに近くに来たワイバーンたちに、マリーは硝子の椅子から立ち上がった。

 

 パリン、と後ろで椅子が砕ける音を聞きながら、ワイバーンの大群が引き起こす砂煙に目をやるマリー。

 

 その向こうから、足音がする。宮廷でありとあらゆる陰謀と策略を見聞きした彼女の耳が、それをはっきりと捉えた。

 

 ゆっくり、ゆっくりと近づいてくるのは地を踏み締める音、そして重たい金属のような何かを引きずる音の二重奏。

 

 いよいよ、土煙に影が映り込む。間を置くことなく、影は土煙を突き破って姿を表して──

 

「──まあ。なんて偶然なんでしょう。まさか、貴方が来るなんて」

 

 その人物に、マリーは驚いた。宝石のような目を見開き、予想外の人物の襲来に息を呑む。

 

「ああ、僕も嬉しいよ。このようにまた君と相見えることができようとは。心が震える思いだ、白雪の如き()()()()()()()

 

 そんなマリーに全身血で濡れそぼったその男は白い髪を揺らし、いっそ美しいほどに凄惨な笑みを浮かべて答える。

 

 装飾の施された黒いコートは返り血で染まり、手に持つ両刃の処刑剣からは真紅の鮮血が滴り落ちる。

 

 ああ、一目で分かってしまう。彼が──()()()()()()()()()()()()が、殺人者になったことを。

 

「その格好、もう何人も殺してしまったのね。シャルル=アンリ・サンソン、気怠い職人さん」

「失礼を……だが許してくれ、これは全て貴女のためなのだ」

「あら、随分と血生臭いプロポーズだわ」

 

 あくまで冗談じみた返しをするマリーにサンソンは笑い、その手に握った処刑剣を振り上げる。

 

「人の命とは尊いものだ。だからこそ僕たち処刑人は最大の敬意を払い、罪の清算以上の苦しみ(ばつ)を感じさせないように首を落とす」

「ええ、知っています。貴女は残酷で冷徹な非人間だったけど、いつだって処刑する人々の安らぎを願っていたわ」

「ご理解いただき、光栄の至り……だからこそ僕は、その先を求めた」

 

 痛みを与えぬ終わり、それを実行できることこそが〝良い処刑人〟の大前提。ならば、その先には一体何があるのか。

 

 だからシャルル=アンリ・サンソンは考えた。処刑人の家に生まれ、処刑のことを教えその職を全うした処刑者は模索した。

 

「その結果辿り着いたのは──快楽だよ。その瞬間、()()()()()()()()()()()()

「まあ……冷たい処刑台とは無縁そうなものだけれど」

「確かにそう思うのも仕方がない……でも、僕はそれを心がけ斬首をしてきた。そして生涯最高の一振りが、君に向けた斬首(くちづけ)だった!」

 

 狂気の滲んだ笑みを浮かべたサンソンは、演説をするために振り上げる腕のように掲げていた処刑剣を下ろした。

 

 来る、とマリーは悟る。決してサンソンから目を離さずに、小さく歌の魔術を口ずさんで硝子の盾を呼び出した。

 

「ああマリー、だから僕はどうしてもあなたにもう一度会って聞いてみたかったんだ」

「…………っ!」

「僕の断頭は〝どう〟だった? 」

 

 それは、あまりにおぞましい質問だった。口に出すのも憚られるような、死者ゆえの質問。

 

「君!!最後に「絶頂」を迎えてくれたかい!?」

 

 サンソンが叫び、ぐんと体を前傾姿勢にした。次の瞬間、マリー目掛けて一直線に突進してくる。

 

 盾を体の前面に構えた瞬間、激震。極厚の処刑剣が硝子の盾をいとも容易く粉砕し、マリーは咄嗟に後ろに飛ぶ。

 

 しかし、間に合わず脇腹を処刑剣の湾曲した刃先がかすめる。たったそれだけでドレスは破け、柔肌を食い破って鮮血が飛び散った。

 

「あっ!」

「あまり動かないでくれ。苦しませたくはないから、ねっ!」

「くっ!」

 

 地を蹴って処刑剣を振り上げるサンソンに、マリーは痛みを堪えながら歌唱魔術を展開。サンソンに直撃させる。

 

 しかし、ある程度のダメージは与えたものの大部分が剣で弾かれ、後方のワイバーンに飛び火して二、三十匹ほど弾き落とした。

 

 それから、一方的な処刑(たたかい)が始まった。近づき、首を落とさんとするサンソンからマリーは逃げるように応戦する。

 

「待ってくれ!そうしないと首を落とせないじゃあないか!」

「昔のあなたならともかく、お断りするわ!」

 

 執拗に首を狙い攻撃してくるサンソンに、マリーは魔術による衝撃波や硝子の盾などでなるべく距離を取る。

 

 マリーは元々、全く戦闘向きのサーヴァントではない。彼女は確かに強い女性だったが、それは心においての視点だ。

 

 サーヴァントになったことで、辛うじて歌声を攻撃に昇華できるようになった、ただそれだけの話なのだ。

 

 よって、何十、何百と人の首を切り落とし、その術を極めたサンソンに接近されたが最後、確実に〝終わる〟。

 

 故に、ここで一人しんがりをすることを申し出た時点で、マリーが敗北する確率は濃厚だった。

 

 だが……

 

「ふっ!」

「ぐっ!?」

 

 6度、サンソンは処刑剣を振り下ろす。しかしまるでタイミングが分かっていたように踏み出した足に魔術がぶつけられる。

 

 一瞬止まる足。その隙にマリーはまた、その刃が届かない場所まで逃げ去る。サンソンは悔しげに歯噛みした。

 

 しかし次こそはと処刑剣の柄を握り締め、狂化によって強靭になった膂力で肉薄すると下から剣を首に振るう。

 

「はぁっ!」

「なっ!?」

 

 けれど、またかわされた。

 

 斜めにされた硝子の盾が刃をそらし、首を狙ったはずの剣は伸ばした細腕をかすめるにとどまる。

 

 それから、サンソンの剣は空振り続けた。いくら速く振るっても、力を込めて振り下ろそうと、マリーを斬れない。

 

「何故届かない!?」

「残念だけど、今の貴方に斬られてあげるわけにはいかないのっ!」

 

 十七度目の一閃。それは硝子の盾に挟み込むように止められ、更にサンソンの足元で硝子の薔薇が咲いたかと思うと砕け散った。

 

 その衝撃でよろめくサンソンに、何度目かの歌唱魔術が襲い掛かった。辛うじて剣で防ぎ、サンソンは飛び退く。

 

「くっ、はぁ、はぁ……!」

「何故だ、何故だ何故だ何故だ!?」

 

 何故、この剣は届かない。現にああして体の至る所に傷をつけて追い詰めているのに、(そこ)にだけは擦りもしない。

 

「あの時から何人も殺した!生きていた頃より何倍も強くなった!貴女をもう一度殺せるだけの力があるはずなのに!」

 

 それは本当だ。彼は幾人も殺し、その魂を食らうことで生前よりも何倍、何十倍という能力を手に入れた。

 

 しかし、実際はマリー・アントワネットの首はまだ胴の上にある。それは許されざることのはずなのに。

 

 激しく困惑するサンソン。それが狂化で歪められた〝マリー・アントワネットの首を斬る〟という願望と混ざり、濁っていく。

 

「僕が、僕だけが貴女の首を切れるはずなんだ!なのに、どうして……!」

「……哀しいわね、シャルル=アンリ・サンソン。そんなだから貴方は私を殺せないの」

 

 そんなサンソンを見て、マリーは手を下ろして語りかけた。サンソンは屈辱に顔を歪めていた顔をあげる。

 

 酷いその顔にマリーは悲しげに微笑み、話し始める。サンソンの攻撃により伝えることを封じられた言葉を。

 

「確かに、今のあなたはとても強いわ。私では敵わない」

 

 サーヴァントの性能という点ならば、マリー・アントワネットはシャルル=アンリ・サンソンに遠く及ばない。

 

 それはマリー自身が誰よりも自覚していた。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ええ、私では勝てないでしょう。()()()()()()()()()

「君は、なにを……?」

 

 わからない。サンソンはマリーが何を言っているのかわからなかった。

 

 あるいは……あえて、知ろうとしなかったのか。

 

「貴方はもう処刑人じゃない……ただの殺人者よ」

「なっ!?」

「だって人を殺すのと、処刑するのは違うでしょう?あなたは素晴らしい処刑人だった。罪人を決して蔑まず、彼らが苦しまぬようギロチンだって発明した」

 

 それなのに、とマリーは悲しげに目を伏せて。

 

「でも、今のあなたは違う。この間違ったフランスで多くの人を殺して、殺す技術を磨いてきた」

「そうだ、だからこそ僕は……!」

「けれど、その方法を巧くしていくごとに──処刑人としてのあなたの刃は、本当に錆び付いてしまったわ」

「な、ァッッ!!!??」

 

 衝撃だった。生前、彼女の首を切れと民衆に言われた時でさえも及ばないほどのショックが、サンソンを襲う。

 

 ゆっくりと顔を下げ、血濡れの処刑剣を握る自分の手を見下ろす。この腕は、とっくに錆び付いたというのか?

 

 

 

 

 

「違うッ!!!」

 

 

 

 

 

 そんなこと聞き入れるものかと、サンソンは叫び立ち上がる。その怒りが、はたまた悲しみに反応して宝具が展開した。

 

「違う違う違うッ!!そんなはずはない!!!!!」

 

 彼の背後に巨大な黒い門が現れる。不気味な音を立てて開いた両開きの扉の奥から、黒光する断頭台が現れた。

 

 

 

「〝死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)〟ッ!!!」

 

 

 

 宝具名を叫び、サンソンが本格的に起動した。すると、断頭台に縛りつけようとマリーめがけて無数の腕が迫る。

 

「もうっ、聞き分けのない人ね!」

 

 彼女は腕を振り上げて盾を構え直し、その手から逃れ始めた。

 

 宝具名を叫び、サンソンはその真名を解放した。すると、断頭台に縛りつけようとマリーめがけて無数の腕が迫る。

 

(あの手に捕まったら最後、引きずろされてギロチンを落とされる……!)

 

 〝死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)〟。それは生涯を処刑に捧げたシャルル=アンリ・サンソンを象徴する宝具。

 

 そして、〝王妃の首を切り落とした男〟として歴史に名を残しているという意味において、マリー限定の特攻宝具だった。

 

(ああ……二度目だっていうのに怖いわ。とても怖い…………!)

 

 誰よりその瞬間の恐ろしさを知る霊核の奥に刻まれた恐怖が、マリーの全身を蝕む。

 

 忘れようはずもない、自分の首に当てられた冷たい感触。迫る手、その全てが断頭の刃に思えてくる。

 

 だから硝子の馬を使って、空高くまで逃げた。それでも手は追ってきて、マリーはグッと歯噛みする。

 

「…………!!」

 

 その時だった。町の後門、もうかなり後が少ない避難者の列。その1人に抱えられた、子供と目が合ったのは。

 

 じっと自分を見つめる無垢な瞳に、マリーはとっさに笑って手を振るう。

 

「──!」

 

 すると、子供も無邪気に笑って振り返してくれた。その顔に、マリーはぐっと表情を引き締める。

 

(まだ、あの時と違って私は必要とされている……!)

 

 

 ギャォオオオオオオ!

 

 

「邪魔よ!」

 

 サンソンと戦いながら数を減らし、もはやほとんど残っていないワイバーンを蹴散らしながらマリーは降下する。

 

 全員の避難が完了するまでは、逃げようにも逃げられない。マリーは地に降りて、戦う覚悟をした。

 

 幸いというべきか、宝具の主であるサンソンが錯乱しているためかそこまで手の軌道は正確ではない。

 

 ならば、そこに付け入る隙がある。マリーは手の軌道を慎重に見極めて、そのわずかな隙間を探した。

 

 逃げて、探して、当たりそうになった手を盾で相殺して、また逃げて、探して……

 

「見つけた……っ!」

 

 そして、見出した。

 

 ならば後はサンソンめがけてそこを通るだけ、マリーは自らの身に秘められたその宝具を瞬時に解放する。

 

「〝さんざめく花のように、陽のように。咲き誇るのよ、踊り続けるの!〟」

 

 魔力が満ち、大地に硝子の花園が咲き誇る。空高くを目指して広がった薔薇は、絶妙に黒い手の侵攻を阻んだ。

 

 開かれた道を、マリーは硝子の馬に乗って駆ける。サンソンに、あの自分に執着した可哀想な処刑人のもとへと。

 

 

 

 

 

「〝百合の王冠に栄光あれ(ギロチンブレイカー)〟!」

 

 

 

 

 

 マリーの魔力の大部分を行使した特攻は、果たして背後から迫りくる黒い手を振り切りサンソンに到達する。

 

 そして、瞠目して無防備に突っ立っていたサンソンのその左腕を、頭突きで根本から抉り取って走り抜けた。 

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 三メートル、五メートル。そこでようやく馬は止まって、荒い息を吐きながらマリーは振り返る。

 

 サンソンは、大きく左半身をのけぞらせた体制のまま停止していた。その向こう側で、硝子の花園と巨大なギロチンが消えてゆく。

 

 

 

 

 

 マリー・アントワネットは、シャルル=アンリ・サンソンに勝ったのだ。

 

 

 

 

 

 ほっと胸を撫で下ろしたマリーは馬から降りて、跪いたサンソンに近づいていく。

 

「……サンソン」

「……ら……と……ったんだ」

 

 何かをサンソンが呟いた。あまりに小さなそれに、マリーは首を傾げて耳を傾ける。

 

「ずっと……君に会えると信じてた……だから腕を磨き続けた……だって、そうすれば……」

 

 そうすれば、僕はとサンソンは一拍置いて。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……っ!」

「もっと巧く首を刎ねて、もっともっと最高の瞬間を与えられたのなら。それならって……」

「……もう、本当に馬鹿な人ね」

 

 うわ事のように呟くサンソンに、マリーは呆れたように笑いながら歩み寄る。

 

 そしてそっと、背中から抱きしめた。優しい手つきに、俯いたサンソンの目が見開かれる。

 

「哀れで、でも可愛い人」

「マリー……」

「私は、あなたを恨んでいない。初めから私に許される必要なんてないのよ、サンソン」

「──ッ!!!」

 

 また、目を見開いた。

 

 今度はその瞳に、涙が溜まっていく。それは屈辱からでも、悲しみからでもない……安堵の涙。

 

 ずっと、生きていた時から後悔していた。もう一度会えたのなら、せめて自分にできる方法で謝りたかった。

 

 それが今、無駄だと知って。狂った心に、安寧が訪れた。たとえ泡沫の夢だとしても、それでも自分は許されたのだ。

 

「──ありがとう、マリー」

 

 涙を見せないよう、空を見上げてサンソンは言う。それにマリーも返そうとして──

 

 

 

 

 

「──〝令呪をもって命ずる。バーサーク・アサシンよ、我が城に戻れ〟」

 

 

 

 

 

 その前に、背後から聞こえた冷たい声により掻き消えた。

 

 忽然とサンソンの体が消え、マリーは呆けた。しかしそれも一瞬のこと、背後にいる気配の主に話しかける。

 

「あら、随分と遅い到着でしたのね〝竜の魔女〟」

「ええまあ」

 

 マリーの問いに黒い鎧の少女──黒いジャンヌ・ダルクは面倒そうに返し、ルーラーの力で街の中を探った。

 

「……もう1人の私は逃げましたか。なんて無様な」

「いいえ、違うわ。彼女は()()を持っていったのよ」

「──ハッ、馬鹿馬鹿しい。たかがサーヴァント一匹、どうだというのです」

 

 たとえ弱小なサーヴァントが一人増えたところで、彼女の背後に控える邪竜……()()()()()()さえいればどうとでもなる。

 

 そんな嘲笑とともに言うが、振り返るマリーは微笑むばかり。ジャンヌの苛立ちは増し、ならばと別の角度から攻めた。

 

「馬鹿馬鹿しいついでに、貴方が残っていることもくだらないわ。仲間を守り民を守るなんて、よくもそんなくだらない使命に酔いしれられるものです」

「あら、中々悪くないですのよ?」

「よくもまあ、そんなことを言えたものですね。他ならぬ守ろうとした民たちに殺された貴方が!ギロチンにかけられ、嘲笑ともに首を刎ねられた女が!」

「そうね、そうかもしれないわ」

 

 叫ぶジャンヌ・ダルクに、マリーはもう一人のジャンヌと話したときのことを思い出した。

 

 ああ、確かに理解できる。彼女はその憎しみも怒りも十分にわかるとも。だが、だからこそ──

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………は?」

「確かに私は処刑された。嘲笑も、蔑みもあった。でも、だからといって殺し返す理由にはなりません」

 

 人に乞われて上に立つものが王族だというのならば、また乞う人がいないものは王族にすらなりえない。

 

 ならば、乞われて王妃になった自分にとって、あの最後は当然の帰結だったのだ。そう、マリーは納得している。

 

「求められて王妃になって、そして必要とされなくなったから私自身が望まなくても退場する。それが国に使える人間の運命。私の処刑は意味あるものだったと信じている」

 

 先ほど、自分に向けて微笑んでくれたあの子供のように。この首が落ちたことでつながる未来があるのなら、喜んで受け入れよう。

 

「いつだってフランス万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)!星は輝きを与えて、それでよしとすればいい」

「貴様…………!」

「そして今ので確信したわ、()()()()

 

 振り上げていた手を下ろして、マリーは真っ直ぐに黒いジャンヌの金眼を見つめて。

 

()()()()()()()()()()?」

「黙れェッ!」

 

 あの男にも問われた質問、そして自分がジルに対して問いかけてしまう程に揺らいだ言葉。それを言われて激昂する。

 

 主人の怒りに反応して、ファヴニールがその顎門を開いた。町に狙いを定め、紫色の獄炎を吐かんとする。

 

 

 

 

 

()()()()()()、〝愛すべき輝きは永遠に(クリスタル・パレス)〟────!!」

 

 

 

 

 

 しかし、せっかく守ったものを破壊されるのをみすみす見逃すマリーではない。会話を交わしながら展開していた宝具を今、解き放つ。

 

 すると、轟音を立てて地面から花園などとは比べものならない硝子の城壁が姿を現した。それは街を覆い、半透明の結界を張る。

 

「二つ目の宝具……結界型の宝具ですって!?」

「あなたにこの街は壊させません。ねえ竜の魔女さん、私のパレード(花道)に付き合って?」

「貴様!マスターの魔力供給もなしで短時間に宝具を連続使用して、どうなるかわかった上で………………!」

 

 力強く微笑むマリー。そこまでして人を守らんとする気高き王妃に、黒いジャンヌの怒りは最高潮に達した。

 

 もはや、街を滅ぼすなどどうでもよい。今はただ、この憎たらしい王妃を消し済みにしなくては気が済まない────!

 

「死ね、滑稽なる硝子の王妃──────!」

 

 

 

 

 

 ゴァアアアアアアアアッッッ!!!!!

 

 

 

 

 

 そして、圧倒的な〝死〟が解き放たれる。

 

 マリーは決して、その炎から目を離さない。逸らさない。かつて断頭台から見た、群衆たちのように。

 

 その身からは既に、光の粒子が立ち上っていた。それでも最後まで微笑みながら、人々を守る硝子の城を張り続ける。

 

「……さよならジャンヌ。あなたに出会えてよかった。フランスを救った聖女の、いいえ、()()の手助けができるなら、私は喜んで輝き、散りましょう」

 

 その胸に、誇りをもって。もう一人の自分に似た()()に抗う少女と、その隣を行く少年たちに勝利の光を。

 

 私は硝子。人々の心を移し取り、それをまた人々に返して伝えるもの。ほら、あなたはこんなに笑ってるよって。

 

「だから、星のように、花のように、泡沫の夢のように」

 

 だって、それが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、マリー・アントワネットの生き方だから──────────!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで笑顔のままで、王妃は硝子の城とともに炎に飲み込まれた。

 

 斯くして邪竜の炎は全てを飲み込み、硝子の城は粉々に砕け散った。後には何もない。

 

 街は滅び、炎が消えた後に残された命は、魔女と邪竜の命。たったそれ二つのみ。

 

 だが、見るがいい。瓦礫の山があるが、そこには一滴の血も、涙も流れてはいない。そして、失われた命も()()()()()

 

 その代わりに……

 

 

 

「……まさか」

 

 

 

 目を見開くジャンヌの目の前、数分前までマリーが立っていた場所には──()()()()()()()()()()()()だけが残っていた。




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