灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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お久しぶりです!

待っていた方は長らくお待たせいたしました、忘れてた方は今更カムバック!

声を失った少年を最終話まで書き切りましたので、また月金投稿に戻していきます。

楽しんでいただけると嬉しいです。


オルレアンの戦乱 2

 戦場は、少しばかり藤丸たちより前に戻る。

 

 

 

「ふっ!」

「Arrrrrrr!!!!!」

 

 黒き聖剣と、血管のようなヒビが走った鉄剣がぶつかり合う。

 

 本来であれば、堕したとて星の聖剣に敵うはずもない、単なる鋳造品。

 

 しかして、黒い騎士のスキルによって侵食された鉄剣は、狂気を纏いなお衰えぬ剣技で見事に聖剣と互角に打ち合う。

 

 黒と黒の、卓越した剣技の激突。それは余剰した魔力で近づく屍鬼と亜竜を消し飛ばし、一つの領域を作っていた。

 

「Agrrrrrrrrrrrrr!!!」

「チィッ!」

 

 突如、剣戟の中に差し込まれた拳。

 

 それを斜めに構えた聖剣で受け流し、オルタはお返しと言わんばかりにそのまま柄頭を突き込む。

 

 常人であれば頭を消し飛ばす一撃、しかし黒騎士は易々と首をひねって避けると、拳を引いて後退する。

 

「arrrrrrthurrrrrrrrr……!!!」

「ほう、それほどの狂気に侵されてなお、私を私と見るか。大したものだ、サー・ランスロット」

 

 獣の如き眼光を光らせる黒騎士に、地面に聖剣を突き刺しオルタは嗤う。

 

 円卓の騎士が一騎、湖の騎士ランスロット。それがこの黒騎士……バーサーカーのサーヴァントの真名であった。

 

 伝説上では、王妃ギネヴィアとの道ならぬ仲に落ち、栄光なるアーサー王の伝説に崩壊を招いた男。

 

 その伝説より狂気の逸話を獲得し、バーサーカーとして竜の魔女の下で現界したランスロットと、非常に徹した騎士王の側面。

 

 そんな二騎が向かい合うこの戦場は、まさに運命付けられたと言っていいほど、皮肉にも似合っていた。

 

「本来の私と、今の貴様。別の聖杯戦争でも出会っているようだが……さて、この場においてはいつまで保つか」

 

 もとより四騎ものサーヴァントと、カルデアからの直接的な魔力供給なしに契約している藤丸。

 

 故に、藤丸の拙い魔力量で、臨時召喚されたオルタの現界できる時はさほど長くはない。

 

 であれば、求むは必勝。藤丸のサーヴァントとして、目の前にいる円卓の騎士を切り捨てるのみ。

 

「無駄話もここまでだ。いくぞ、サー・ランスロット」

「arrrrrrrrrrrr!!!!!」

 

 咆哮、そして再激突。

 

 先ほどよりも互いの振るう剣は重く、速く、そして強い。これまでの凌ぎ合いは小手調べのようなものだった。

 

 それを証明するように、剛風が吹き荒れ、二騎の体から吹き出した余剰魔力が地を抉り取っていく。

 

 焦土と化した土地はさらに荒れ狂い、地獄と何が違っていようか。

 

 もしこの場に語り部がいたのならば、「まさに騎士王と円卓の騎士天晴!」と褒め称えながら死んでいっただろう。

 

 それはある意味伝説の再演であり、またそれは……終わりがあることの証左でもある。

 

「む……!」

 

 オルタの体から、余剰魔力ではない粒子状の魔力が漏れ始めた。

 

 もうすぐ特異点から強制退去させられる。それはさほど遠い時ではない。

 

 仕方があるまい。オルタも、藤丸がサーヴァントたちと戦闘中なのは魔力の回路(パス)を通じて感じていた。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 それを勝機と感じたバーサーカーは、一際強く鉄剣を握りしめた腕を振るい、オルタを押し込む。

 

 聖剣の腹で一撃を受けたオルタは、地面に脚甲のかかとの跡を残しながら後退し、バーサーカーを睨んだ。

 

 しかし、そこにもう狂った騎士はおらず。

 

 ならばと魔力の痕跡を辿って空を見上げ──オルタは目を見開いた。

 

 宙に陳列するは、無数の武具。

 

 かつて焦土の下に埋まった者らの所有物だったろうそれらは全て、赤くひび割れている。

 

 それこそは、最強の騎士と称されたランスロットの支配した武具たる証。

 

 狂気に犯されてなお、生前において無窮と呼べるほど研ぎ澄まされた戦闘力を持った男の宝具。

 

 

 

 

 

 

 

 それすなわち──〝騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)〟。

 

 

 

 

 

 

 

「Arrrrrrrrrrthurrrrrr!!!!!!!」

 

 咆哮をあげながら、無数の武具を分身が現れるほどの速度で握り、全方位から圧殺せんとするバーサーカー。

 

 並の英霊であれば、アーチャーでもなければその手数に傷を負うことは必然だろう圧倒的な包囲攻撃。

 

 

 

 

 

「──卑王鉄槌(ヴォーディガーン)

 

 

 

 

 

 それを、オルタはたった一振りで全て無にした。

 

 オルタが地面が陥没するほどの踏み込みとともに一回転し、絶大な魔力を纏った聖剣が振り回されて武具が消し飛ぶ。

 

 同時に、その余波でバーサーカーの残像が消え失せ……たった一人、砕けた剣を手放したバーサーカーが残った。

 

「Arrrrrrrrrrrrrrrr!!!?????」

「安らかに眠れ、サー・ランスロット」

 

 鎮魂と共に、冷徹なる一振りが振り下ろされる。

 

 宝具に迫る魔力を込めたその一閃に、バーサーカーはなす術なく両断され……ガシャリ、と音を立てて地に落ちた。

 

「A……a、あぁ………………」

 

 バーサーカーが、弱々しい呻き声と共に手を伸ばす。

 

 既に鎧は砕け散り、傷口からは夥しい量の血が黒い地面の上に広がっている。

 

 破壊された兜の中から、赤く染まった瞳が覗き……その目は、遠い空を見上げていた。

 

「王、よ…………お許し、くだ、さ……い…………わ、たし、は…………」

「……我らは英霊、人理に刻まれた過去の英雄の影法師。なればこそ、私は貴様を許しもしなければ、憎みもしない」

 

 聖剣を地面に突き刺し、オルタは静かに告げる。

 

 その答えに、バーサーカーは目を見開き……ふっと、兜の中で何かが満ちたように笑って目を閉じた。

 

 手が地面に落ち、流れ落ちた血が粒子へと変わっていく。

 

 程なくして、バーサーカーは全身を魔力に還元し、退去していった。

 

「……さて、私もそろそろか」

 

 オルタもまた、限界がやってきてカルデアへ送還されるのを穏やかな顔で受け入れた。

 

 それまで微量だった魔力が、全身から立ち上っていき……ふと、そこでオルタは眉を潜める。

 

「何か来るな」

 

 空を見上げれば、そこには変わらぬ黒雲。

 

 その彼方先、竜の魔女が座するだろう城からとてつもない魔力を持った何かがやってくるのを感じた。

 

 それだけではない、もっと……もっと()()()ものが、城よりこの戦場へ這い出ようとしていた。

 

 しかし、それに相対するマスターに力を貸してやれるほど、オルタに魔力は残ってはいない。

 

「無様に負けるなよ、マスター」

 

 

 

 

 

 最後にそう呟き、オルタは完全にオルレアンから姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 戦場は移り、オルレアンより少し離れた廃墟。

 

 

 

 

 

「ガ、ァアアアアア!!!!!」

「くっ、冗談じゃない!」

 

 アマデウスは現在、一騎のサーヴァントと強制的な交戦状態に陥っていた。

 

 その相手は──シャルル=アンリ・サンソン。アマデウスとは切っても切れぬ縁を持つ、処刑人。

 

 しかし、冷徹と信念の元に処刑を行った彼の面影はもはやなく、黒い何かを纏ったサンソンはひたすらに暴れている。

 

「あいつ、もう霊基がめちゃくちゃだな……大方使い捨ての兵器にでもされたのか……?」

 

 瓦礫の陰に隠れたアマデウスの推測は正しかった。

 

 元帥ジル・ド・レェは大きなダメージを負ったサンソンを見て、その魔術で死ぬまで戦う傀儡とした。

 

 狂気に狂気を重ねたその力は、単なる音楽家であるアマデウスにはいささか荷が勝ちすぎている。

 

 すでにいくつか無視できない傷を受け、サーヴァントでなければ発狂しているだろう。

 

「マ、ァリィ……マリ、ィ……っ!」

「なんだよあいつ、どうせ振られただろうに未練がましい……」

 

 そこまでつぶやいて、アマデウスは自嘲気味に笑った。

 

(それは、僕自身も同じなんだけどさ)

 

 最後の別れ際に、アマデウスにマリーが残した約束。

 

 それは生前、病床に伏して死を迎えたアマデウスがマリーに果たせなかった約束、そのものだった。

 

 であれば、二度目の約束は別れに他ならない。その定義においては、アマデウスもまたサンソンと同類だ。

 

 ああ、だからこそ……

 

「……見てらんないんだよなぁ。まったく、恨むぜマリー」

 

 嘲笑するように己を笑い、アマデウスは脳裏によぎった彼女の笑顔に悪態をつく。

 

 それから、もう放っておいても消滅するだろうサンソンを見て……ハァ、と諦めたようにため息を吐いた。

 

 

 

 

 

ドォオオオオオン!!!!!

 

 

 

 

 

「うおっ!?」

 

 その時だった。戦場の方角から、すさまじい轟音が聞こえてきたのは。

 

 遠く離れたこの場所からでも、アマデウスは凄まじい魔力の源を感じ取る。恐らくは轟音の発生源だろう。

 

「……ついに現れたのか」

 

 考えられるとすれば、かの邪竜ファヴニールが出陣したのだろう。あの、竜の魔女とともに。

 

 きっと、マスターたちは立ち向かうことだろう。あの少年は、未だ世界を知らぬ少女は、最後まで抗うに違いない。

 

 ならば、自分は……

 

「さて、僕も少しばかり頑張ろうか」

 

 手にヴァイオリンを魔力で構築し、弓で弦を一閃。

 

 偉大なる音楽家の名にふさわしいその旋律は、音楽魔術となって背を向けていたサンソンに直撃した。

 

「ギィッ……!」

「どうだ、音楽も極めればそれなりだろう?」

「ヴ、ァアアアア……!」

 

 瓦礫から姿を現したアマデウスに、サンソンは低く唸る。

 

 憎しみや怨嗟の満ち満ちたその瞳にアマデウスは笑い……出し惜しんでいた魔力を使って霊基を向上させた。

 

 その体に、絢爛なる衣装が現界していく。それはまるで、彼の作曲に登場した死神の如き装い。

 

「さあ、行くよ処刑人」

 

 仮面を被り、指揮棒を携え、アマデウスはサンソンと対峙する。

 

「死神の歌を聴いてゆけ。僕の演奏料は高いぞ!」

「ア マ デ ウ ス ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 闇に包まれていた口をこじ開け、叫んだサンソンが突撃する。

 

 すぐさまアマデウスが指揮棒を振るえば、天使のような彫像が出現し、意のままに旋律を奏で始めた。

 

 宙に楽譜が浮かび、そこから音という名の刃が放たれることもあれば、それ自体が拘束具ともなる。

 

「オ、ァアアアアアアアア!!!」

「くっ、この馬鹿力め!」

 

 しかし、サンソンはそのことごとくを凌駕する突破力で押し進み、アマデウスを斬りころさんと迫る。

 

(チッ、しくじった!出てきたはいいが、もう少し距離を置くべきだったか!)

 

 真正面からの白兵戦に臨んだことを早々に後悔しながら、それでもアマデウスは腕を振るう。

 

 彼にできるのはそれだけであり、ならばそれに応えるサーヴァントとしての能力もまた全力で発揮される。

 

 それまでよりもさらに機敏にサンソンの動きを阻害し始める音楽魔術だが……しかし、やはり思い通りにはいかない。

 

「ヴォオオオオオオオオオ!!!!」

 

 獣のような雄叫びとともに、体を縛る楽譜をまとめて切り裂くサンソン。

 

 あまりの力に、アマデウスは仮面の下で目を見開いた後にチッと忌々しげに舌打ちした。

 

(やっぱり一度退くしかない……!こんな勝手に動いて壊れるオルゴールみたいなやつ相手にしていられるか!)

 

 撤退するか否か、思考をしたその一瞬。

 

 サーヴァント同士の戦いにおいて一瞬は無限と等しく──そして、アマデウスにその隙をカバーするだけの戦闘力はない。

 

 だからこそ、次に意識を戻した時すでに撫で斬りにされていたことに気がつくまで、数秒かかった。

 

「がっ……!?」

「アアアァアア!!!」

 

 血を吐くアマデウスを、サンソンが渾身の力を込めた足で蹴り飛ばす。

 

 これまでとは比べ物にならないダメージを負ったアマデウスは、受け身も取れずに地面に転がった。

 

「ガハッ……ああクソッ、ここまでか」

 

 地面にうずくまり、アマデウスは吐き捨てるようにこぼす。

 

 額には脂汗が大量に浮かび、目元は険しく、傷口から流れ出る血が止まる気配はない。

 

 致命的な一撃。あと一回でも攻撃を加えられれば、アマデウスはその時点で霊核が砕けて終わるだろう。

 

()()()

 

 アマデウスに、その一回をどうにかするほどの余力は、もう残っていないのだ。

 

 本人が何度も豪語していた通り、アマデウスは音楽家であって、戦う者ではないのだから。

 

「ギ、ィ、ィイイイ……!!」

 

 歪な足取りで歩み寄ってきたサンソンが、アマデウスの目の前で右腕と一体化した処刑剣を振りかざす。

 

 ギチギチと音が響くその様は、どれほどの力を込めているのかが一目で見て取れた。

 

 それを見上げ、アマデウスの脳裏にふと昨晩のことがよぎる。

 

 マシュへ語ったこと。自らの人生のこと……その中でも大きな、大きな後悔。

 

 結局、二度もマリーの死に際に立ち会えなかった。  

 

 その後悔を抱いても進むと教えたあの少女の、サーヴァントとしての立派な先輩にはなれなかった。

 

「……ハハ、教師役。サリエリのようにはうまくいかないなぁ」

「アマァデェウスゥゥゥウウウ!!!」

 

 サンソンの剣が、振り下ろされる。

 

 それを前に、アマデウスは観念したように目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいや。貴公は充分に戦ったとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、どこかで聞いたことのある声がした。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「フンッ!」

「あッ────」

 

 ジークフリートの一閃が、バーサークセイバーの胸元を切り裂く。

 

 鮮血が勢いよく噴き出した。この人理焼却という任務に身を置いてから何度も見た光景だ。

 

「王妃よ……我が過ちを、許し給え──」

 

 最後の言葉を残し、一筋の涙とともにバーサークセイバーが消滅する。

 

「敵性サーヴァントの全消滅を確認、戦闘に勝利しました!」

「ゼェ、ゼェ……!」

 

 マシュの報告の声も遠く、俺はその場で膝をつく。

 

「先輩!?」

「ますたぁ!?」

「落ち着いてくだい。ジャンヌ様、ジークフリート様は周囲の警戒を」

「はい」

「承った」

 

 なんだ、これ。ひどく体の中が熱い。

 

 元から度重なるサーヴァントとの契約でひどく重かった体が、まるで煮えたぎるように熱くて仕方ない。

 

 頭も血管が破れそうなくらい沸騰していて、なぜ自分がここにいるのかもわからなくなってきた。

 

「ルーソフィアさん、先輩は一体!?」

「……度重なる宝具の展開と魔力供給に、魔力回路がオーバーヒートを起こしているようです。すぐに治療いたします」

 

 間近にいるのにどこか遠くで言っているようなルーソフィアさんの声に、ついさっきまでの戦いを思い返す。

 

 バーサークアーチャーを倒すために、マシュとジークフリートの宝具を一回。

 

 途中邪魔をしてくるワイバーンたちを退けるために、ジャンヌと清姫に魔力を譲渡して能力を強化。

 

 その中でなんとか回していた魔力が切れ、今にも倒れそうな体がちょっとずつ楽になっていく。

 

「……これで少しは楽になったかと。藤丸様、聞こえますか?」

「…………ゲホッ、うん、なんとか」

「先輩! よかった……」

 

 うまくできていなかった呼吸が戻り、ほっとするマシュに笑いかける。

 

 それさえも、うまくできているのかわからなかった。まだ敵が近くにいないか、そればかりが気になる。

 

「早く、進もう。時間がない」

「でも、少し休憩したほうがいいのでは……」

「立ち止まっている暇は、ないんだ」

 

 マシュの手をそっと押しのけて、彼方にそびえ立つ城を睨む。

 

 あと少しだ。あと少しでたどり着ける。

 

「っ!何かくるぞ!」

 

 その時だった、ジークフリートが切羽詰まった表情で叫んだのは。

 

 これまでにないほど余裕のなさそうなジークフリートに、彼が見上げる空を見て──驚愕に目を見開いた。

 

 あの、大きな影は。ラ・シャリテで一目見た時から頭の中に焼き付いて離れない、壮大とまで思える姿は──

 

『マシュ、ジャンヌ・ダルク、宝具展開!奴の──ファヴニールの攻撃に備えろ!』

「了解しました!」

「はい!」

 

 呆然とする俺の前に、マシュとジャンヌが立つ。

 

 二人の体から魔力が立ち上って、すっからかんに近い魔力が搾り取られるようにすり減った。

 

 そんな俺たちを嘲笑うように、ガパリと空の上でそいつは口を開ける。

 

「〝宝具、疑似展開〟!!!」

「〝主の御業ををここに。我が旗よ、我が同胞を守りたまえ──!〟」

 

 マシュが地面に打ち付けた盾が、ジャンヌの掲げた旗が、バーサークライダーの宝具を受け止めた結界を築く。

 

 俺も正気に戻って、せめてもとマシュの盾になるべく体を隠すような位置に移動した。

 

 その瞬間、いよいよ、ファヴニールの口にたまっていた黒い炎が吐き出された。

 

「〝 人理の礎(ロード・カルデアス)〟!!!」

「〝 我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)〟──────!」

 

 

 

 

 

ゴァアアアアアアアア!!!!!

 

 

 

 

 

 黒炎が、滝のように降り注ぐ。

 

「ぐ、ぅぅぅうううううううっ!!!」

「はぁあぁああああああああ!!!」

 

 俺だけならば一瞬で骨まで溶けてしまうだろうその炎を、二人の宝具はちゃんと受け止めてくれた。

 

 ゴリゴリと魔力が削れていき、いよいよ宝具の展開も解除されてしまうかというところで、やっと炎が止まる。

 

 結界が消えて、思わず安堵の息を吐いた。しかしすぐに気を持ち直して周りを見渡す。

 

 俺たちの周囲を除いて、あたり一面焼け野原になっていた。元から焦土だったのに、これじゃあ二度と植物は生えない。

 

「チッ、本当にしぶとい。本当に憎たらしいわ」

「……竜の魔女」

 

 低いところまで降りてきたファヴニールの背には、黒いジャンヌが乗っている。

 

 何十メートルもあり、威圧感のあるファヴニールの上で黒いジャンヌはハッとバカにしたみたいに笑った。

 

「こんにちは、私の残り滓。随分と無様に立ち回って、よくここまで来たものです」

「……ええ、確かに無様でしょうが。それでも多くの人に助けられ、ここまでやってきました」

 

 ジャンヌの言葉に、これまでオルレアンで出会った人たちや、サーヴァントのことを思い浮かべる。

 

「ようやく、もう一度あなたの前に立てた。そのことに私は、満足しています」

「ええ、私もです──何故ならば我が過ちであり、この国の過ちであるお前を、私の手で今度こそ捻り潰せるのだから!」

 

 悪どく、全身に寒気を覚えるくらいの笑いで言う黒いジャンヌ。

 

 マシュと清姫は眉をひそめ、ジークフリートはファヴニールを睨み……けど、ジャンヌだけは穏やかに笑っていた。

 

「やはり、そうなのですね……」

 

 ジャンヌ……?

 

「……何を言っているの?」

「今の言葉を聞いて、ようやくわかりました。いいえ、決心がついたというべきでしょうか」

「へぇ?一体どんなくだらないものなのかしら」

 

 聞いてくる黒いジャンヌに、旗を地面に突き刺すジャンヌ。

 

 そして、片手を自分の胸に。

 

 もう片方の手を、黒いジャンヌに向けて。

 

 

 

「私は私で、貴女は貴女だ」

 

 

 

 そう、言い切った。

 

「っ、何を訳の分からないことを……!」

「ずっと迷っていたのです。貴女が私なのか、私は貴女なのか……ですが、もう迷わない。ジャンヌ・ダルク。いいえ、〝竜の魔女〟」

 

 もう一度旗を手に取ったジャンヌは、強い瞳で、揺るがぬ言葉で、黒いジャンヌへと告げる。

 

「私は貴女を、怒りでも、憎しみでも、拒絶でもなく……憐憫をもって打ち倒しましょう」

「ッ──────! できるものならやってみるがいい!お前達ごとき雑魚、我が邪竜が一息で──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゾッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、冷たさを感じた。

 

 なんの脈絡もなく、突然として、肌を焼くような痛みが消え失せた。

 

 その代わりに、心臓まで凍りつきそうなほど冷たい空気が立ち込める。

 

 黒いジャンヌが振り返り、ジャンヌが弾かれたように掲げていた旗を構え直し、マシュとジークフリートも戦闘態勢へ。

 

 俺を含めた全員が見るのは、はるか後方……黒いジャンヌとファヴニールの背後を包み込むような霧。

 

 黒いような、紫のようなその向こうに、恐ろしい()()がいる。

 

 

 

 

 

 ガチャリ……ガチャリ……

 

 

 

 

 

 そんな俺に応えるみたいに、霧の向こうから音が聞こえた。

 

 まるで金属を引きずっているような音は、少しずつ近づいてきて……やがて、霧の中に影が現れる。

 

 やがて、霧から現れたのは……とても大きな騎士だった。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 四つん這いになり、片手にハンマーのようなものを持ったその騎士は、思い切り咆哮する。

 

 肌をビリビリと叩く冷気、ファヴニールと同じほどに圧倒的な存在感。

 

 俺など一息に踏み潰されてしまいそうな怪物が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 こいつは、何者だ────!?

 




読んでいただき、ありがとうございます。

金曜からは10時更新です。

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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