灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、作者です。また一週間が始まってしまった……

今回は多分、待ってくださっていた方には待っていた展開です。

楽しんでいただけると嬉しいです。


オルレアンの戦乱 4

「バーサーカー!」

 

 我ながら喜びに満ちた声で、バーサーカーのことを呼ぶ。

 

 バーサーカーが不死人だと分かっていても、どこか心の中ではもう会えないんじゃないかって思ってた。

 

 でも、確かにここにいる。

 

 バーサーカーは、俺の誰より頼もしいサーヴァントは、帰ってきたんだ。

 

「馬鹿な、ありえない!お前は確かに殺したはず!なぜ生きているのです!?」

 

 黒いジャンヌが狼狽したように叫ぶ。

 

 バーサーカーは黒いジャンヌに大斧を向け、静かな、けれど不思議と響く声で言った。

 

「言ったはずだ、竜の魔女よ。不死人の意地にしばらく付き合ってもらうとな」

「……本当の不死というわけですか。ふざけた英霊もいたものです……!」

「私自身そう思っているよ……ああ、あともう一つ」

 

 そこで言葉を一旦区切って。

 

「生きていたのは、私だけではない」

 

 え?と首を傾げた、次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フランス万歳(ヴィヴ・ラ・フラーンス)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、上空からの声。

 

 バーサーカーが現れた時と同じくらいの驚きと共に、聞き覚えのあるその宣言に空を振り仰いだ。

 

 あの時と違い、燦然と輝く太陽は黒雲に覆われてその光は届かない。

 

 だからこそ〝それ〟はよく見えた。

 

「硝子の、馬車……!」

「先輩、あれはまさか……!」

「……ええ、間違いありません」

 

 俺が声を上げ、マシュが堪えきれないように続き、そんな俺たちを肯定するようにルーソフィアさんが頷く。

 

 清姫が、ジークフリートが、ゲオルギウスが……そしてジャンヌが目を見開き、俺たちの前に降りてきた馬車を見入る。

 

 ガチャリ、と馬車の扉が開き、そして──

 

 

 

「皆さまごきげんよう! お加減はいかが? マリー・アントワネット、最後のパレードに参上いたしましたわ!」

 

 

 

 硝子の王女様が、変わらない明るい笑顔で現れた。

 

『これは驚いた!マリー・アントワネットは消滅していなかったのか!』

「ま、りー……!」

「ただいま、ジャンヌ。また会えたわね?私、とっても嬉しいわ!」

 

 ニコリと笑うマリーさんに、ジャンヌは旗を強く握り、何かをこらえるように口元をキュッと引き締める。

 

 俺でもわかった。ジャンヌはきっと、友達が生きていたことに泣きそうになるのを我慢してるんだ。

 

 声をかけようにも、後ろに黒いジャンヌがいるので立ち尽くしていると、マリーさんがジャンヌに歩み寄る。

 

「ほら、顔をあげて?あなたの毅然とした顔、とても素敵だもの!」

「マリー、なぜ、あなたは……」

「あの古びた鎧の騎士様に助けていただいたのよ。竜の魔女の火に包まれる瞬間、あの方が私を救い出したの!」

「彼が……」

 

 半ば呆然としながらジャンヌが振り向くと、バーサーカーは〝騎士の一礼〟とでもいうように頭を下げる。

 

 そっか、バーサーカーが助けてくれたんだ……やっぱり、俺の初めての大英雄はすごいや。

 

「あいたたた。マリー、もう少し安全運転できなかったのかい?僕死にかけてるんだけど」

「あら、軟弱な子豚ね。そんなんじゃアンコールまでもたないわよ?」

「モーツァルトさん!エリザベートさん!」

 

 硝子の馬車からボロボロのモーツァルトさんと、エリザベートまで降りてきた。久しぶりに全員が集まった。

 

「アマデウスさん、あのサーヴァントは……」

「ああ、あの騎士が来てくれたからね。なんとか首が繋がったから、しっかりと鎮魂歌(レクイエム)で満足させてやったさ」

「そうですか……よかった」

 

 ホッとするマシュ。俺もモーツァルトさんが無事でホッとした。

 

「ジャンヌ、あんたいい顔してるわね」

「え?」

「ずっと迷ってたけど、今は吹っ切れてる。もう一人のアタシ(カーミラ)に言いたいこと言ってやった今のアタシと同じ顔だわ!」

「……ふふ。ええ、そうですね」

 

 エリザベートの激励に、これまで通りに微笑んだジャンヌは旗を地面に突き立て、振り返った。

 

 共に俺たちも体を向け、黒いジャンヌを見ると……これまでで一番すごい形相で俺たちを睨んでいる。

 

「ありえない……!何故、何故上手くいかないの……!どいつもこいつも私の思い通りにいかない……!」

「竜の魔女よ!」

「っ!」

「我が心に一切の曇りなし!我がマスター、我が同胞、そして我が友とともに、貴女を討ちます!」

「ッ、黙れ黙れ黙れぇぇええええ!」

 

 苛立つように叫び、俺たちと自分を阻むように黒い炎が地面から立ち上がる。

 

 それらを清姫の炎とジャンヌの旗の一振りが相殺し、サーヴァントたちが俺たちの側に集った。

 

 ファヴニールとワイバーンの群れと共に見下ろしてくる黒いジャンヌに対して、仲間と一緒に見上げる俺たち。

 

 全く正反対の光景、しかし黒いジャンヌは気圧されたようにファヴニールの上で顔を歪めていた。

 

「ぐっ、ボルド!そのマスターを殺せ!」

「■■■■■■■■■■!!!」

 

 ずっとバーサーカーを睨んでいたボルドがこちらへ殺気を向け、進撃してくる。

 

 さっきよりも速い!マシュ一人じゃあ受け止めきれない!

 

「させぬと、何度も言ったはずだ!」

 

 けれど、俺たちの前に一瞬で現れたバーサーカーがボルドの突撃を、岩のような大盾で真正面から受け止めた。

 

 それだけにとどまらず、ボルドの兜に包まれた頭を盾で逸らすと、下から黄金のハンマーでかち上げた!

 

「■■■■■!?」

 

 悲鳴をあげ、再び横倒しになるボルドの体。

 

 ハンマーを肩に担いだバーサーカーは、こちらを振り返って視線を向けてくる。

 

「マスター、無事か」

「……うん。おかえり、バーサーカー」

「ああ。いつも遅れてすまないな」

「ううん、きっと帰ってくるって信じてた」

「それは嬉しいな」

 

 少し楽しそうに笑ったバーサーカーは、次に俺の隣にいるルーソフィアさんの方を向いた。

 

「火防女」

「……灰の方」

 

 二人の間に漂う、和やかな雰囲気。

 

 戦場の真ん中だと言うのに、決して変わらない二人の関係を感じさせた。

 

「いってくる」

「……いってらっしゃいませ。貴方のソウルに、炎の導きがあらんことを」

「ああ。必ず勝とう」

 

 たったそれだけのやりとり。

 

 彼女なんていたことがないけど、こんなに強い絆を結んだ相手がいることに凄いな、と純粋に思った。

 

 ルーソフィアさんと約束をしたバーサーカーは、もう一度闘志とも呼べる雰囲気を纏ってボルドへ歩き出す。

 

「貴公の相手は私だ、ボルド!」

「■■■■■■■■■■!!!」

 

 怒っているような叫び声をあげて、ボルドが咆哮する。

 

 バーサーカーはそれを物ともせず、俺たちからボルドを引き離すようにあっという間に離れていった。

 

 ボルドは黒いジャンヌの命令はもう覚えていないのか、バーサーカーを追って走り去っていく。

 

「おのれ、使えない番犬め……! だが、まだだ!竜たちよ!我が意に従え!」

 

 黒いジャンヌの命令に従い、先ほどよりもさらに多くのワイバーンが飛来する。

 

 けれど、もう俺の心にはなんの心配もなかった。

 

「もう二度と、退きません!」

「はぁああ!」

「すまないが、竜殺しに関しては自信がある!」

「うふふ、丸焼きにして差し上げますわ」

「感謝しなさい蜥蜴ども!あんたらは最前列で聴かせてあげる!」

「さあ、奏でてくださいなアマデウス!一世一代の大舞台と参りましょう!」

「やれやれ、演奏は続行のようだね!」

「〜♪」

 

 ともに並び立つ……なんて、大それたことは言えないけど。それでも彼らが隣にいる。

 

「進め!ここがフランスを守れるかの瀬戸際だ!恐れることはない!我らには聖女がついている!」

「「「おおぉぉぉぉおおおおおお!!!」」」

 

 それだけじゃない、フランス軍だっている。

 

「彼女を、止めよう!」

「「「「「「応(ええ、はい)!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 まだ、俺たちは戦える!

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「フッ!」

 

 宙を舞う灰の弓から、三本の矢が放たれる。

 

 漆黒のその矢は闇の力を備えており、ボルドの鎧の隙間に的確に狙いが定められていた。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

 自らの唯一の弱点とも呼べる力を秘めたそれを、しかしボルドは大槌の一振りで弾き返す。

 

 灰とてそれは承知のことであり、着地してすぐに右手に大主教の大杖を、左手に呪術の火を装備。

 

「〝追う者たち〟、〝黒火球〟」

 

 放つは闇術、精神力を糧として自らの人間性の中に潜む闇を具現化し、ボルドへと放つ。

 

 人魂の如き五つの黒い光と、暗黒に燃え盛る火の球が片腕を振り切ったボルドの腹部で炸裂した。

 

「■■■!?」

 

 苦悶の声をあげ、半ば獣と化した体と共に肥大化した超重量の鎧を着込んだ体を浮かせるボルド。

 

 その隙を逃さず、素早く懐に潜り込んだ灰は大主教の大杖を両手で握り、〝闇の刃〟を具現化させて振るう。

 

 狙うは両足の腱。不安定な体を支えるそれらを断ち切ることで、ボルドの機動力を奪おうとした。

 

 しかし、硝子の割れるような音ともに刃が欠ける。ボルドの肉体が闇術の技よりも堅牢だったのだ。

 

 む、と呟いた灰はボルドの体から冷気が吹き出るのを察して飛び退いた。

 

「……サーヴァントと化したことで、肉体も強化されたか。実に厄介だな」

「■■■■■■■■■■!!!」

 

 より一層深い恨みを感じさせる唸り声と共に、戦場が凍てついてゆく。

 

 灰の記憶の中では、単に振りまいているだけだった冷気も強化されているのだろう。長く近付くのは危険だ。

 

 それに先ほどからの様子を見ていると、ボルドの感情の昂りに比例して冷気は強くなっているようだ。

 

(……それも仕方があるまい。()()()()()()()()()が目の前にいるのだからな。さしずめクラスは私と同じバーサーカーか)

 

 もしもこの場に現界しているボルドというサーヴァントの霊基にその記憶があるとすれば、灰は仇敵である。

 

 肉体のほとんどが獣となっている以上、解放されたという意識よりも、殺された怒りの方が先行しているのだろう。

 

 放たれる殺気は非常に濃密で、幾度もあの門で戦った時とは比べるべくもない。

 

「しかし加減はしない。私とて、まだ戦う理由があるのでな」

「■■■■■■■■!!!」

 

 何度受けたのかも定かでない叫びを受け止め、再び〝闇の刃〟を纏った大杖を薙刀のように腰だめに構える。

 

 ボルドが突進すれば、灰はその軌道を読み……といっても一直線なのだが……回避して切りつける。

 

 やはり刃は砕ける。しかし、灰は気にする様子もなくもう一度刃を作り、比較的装甲の薄い尻を切りつけた。

 

 どうやら他の箇所よりは柔らいようで、分厚い筋肉に阻まれこそしたもののある程度のダメージを負わせる。

 

「■■■!?」

 

 悲鳴をあげたボルドは反転し、灰を叩き潰すために大槌を振り下ろした。

 

 ひらりと回避した灰はボルドの背に飛び乗り、規格外の膂力で闇の刃を首筋に突き刺す。

 

 またも筋肉に阻まれ、奥までは届かない。しかし元は人間であるために薄く、尻よりもさらに深手を負わせた。

 

 鬱陶しげに激しく体を揺らすボルド。振り落とされてはまずいと灰は自ら飛び降り、距離を取る。

 

「……大体理解した。本気でいかせてもらおう」

 

 そこから、グンと灰のスピードがそれまでの数倍に増した。

 

 危険を感じ取ったボルドはそれまでの単調な正面突破を封じ、代わりに手当たり次第に地面を叩いた。

 

 地面がえぐれ、石と土塊が飛び散る。そうすることで灰の進行を阻もうという、獣なりの作戦だった。

 

 しかし、そんなものでは止まらない。〝フォース〟でそれらを吹き飛ばすと、あっという間に接近した。

 

「!?」

「ふっ!」

 

 駆け抜けるようにボルドの股下をくぐり抜け、その最中に首へ一閃。

 

 感じた鋭い痛みにボルドは憤慨し、その圧倒的重量で押しつぶそうとその場で自ら尻餅をつく。

 

 それも察知していた灰は大杖をアースシーカーへ持ち変え、低姿勢を維持したまま地面にたたきつけて戦技を使った。

 

 地面が激しく揺れ、ボルドのバランスが崩れる。そうすることで着地点が変わり、灰は難を逃れた。

 

「ぬんっ!」

 

 休むことなく、灰はアースシーカーをボルドの左腕。つまりは大槌を握る腕に押し付けてもう一度戦技を使う。

 

 場所が地面でなくてもアースシーカーは遺憾無く力を発揮し、衝撃とともにボルドの手から大槌が離れた。

 

「ッッッ!!!」

「これで……どうだ!」

 

 地面へ落下する大槌を強奪、それを用いてボルドの頭を下からかちあげる。

 

「ッ────!?」

 

 尋常ならざる筋力で振るわれた大槌は、ボルドにダメージを与えるどころかその体を宙に浮かせた。

 

 兜がひしゃげ、その奥に隠されていた瞳を見開くボルド。

 

 ほどなくして、彼の巨体は大地へ落ちた。鎧がそのまま重りとなり、ボルドに追撃を与えてしまう。

 

「■■、■■■■■…………」

「貴公とは何度も相見えた。その早さも、強さも、測ってしまえれば対処はできる」

 

 たとえ何万年を経ようと変わらないロスリックでの長い戦いと、これまでの短期間の攻防で見定めたスペック。

 

 情報さえ揃えば、強敵などいくらでも打倒するのが不死人の真骨頂だ。それはこの場においても変わらない。

 

「■■■■………………」

 

 灰の攻撃によって激しく消耗し、ボルドの意識が明滅する。

 

 まだだ、まだ終わらぬ。この程度では私はまた何も守れないで、獣のまま終わってしまう。

 

 それは許されない。

 

 数千年ぶりの新たな生だ。今度こそ、私は〝彼女〟を……!

 

「■■■■、■■■■■■■■■■!!!」

「まだ立つか。相変わらず頑丈だ」

 

 立ち上がったボルドは、現界するために温存していた魔力を全て振り絞り、冷気に変換して外へ放出する。

 

 そうすると、その冷気を鎧の上から纏った。まるで第二の鎧のような刺々しいそれは、灰の記憶にはないものだ。

 

「……宝具か」

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 肯定するように、ボルドの全身から魔力が膨れ上がった。

 

 それまでとは一線を画す威圧感に、経験において優位を保っていた灰はすぐさま意識を切り替える。

 

 これから繰り出されるのは未知の攻撃。その未知こそが最も恐ろしものだと、灰はよく知っている。

 

「仕方あるまい、来い!」

「■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 最大の雄叫びとともに、ボルドは激しい地鳴りとともに突撃する。

 

 それはボルドの最大にして、唯一の武器。己という武器を最大限に活用した、獣の〝技〟というべきもの。

 

 これなるは、数多の戦士を屠ったその勇姿が宝具へと昇華されたもの。そして、一人の不死に破られし奥義。

 

 

 

 すなわち──〝荒れ狂う冷犬(フルクトゥス・フリグス・カニス)〟。

 

 

 

 それは、動きこそ灰が何度も見たものだった。窮地に追い込まれたボルドの繰り出した三連続の突進攻撃だ。

 

 だが、桁が違う。咄嗟に灰はアースシーカーとボルドの大槌を構え、その宝具へ立ち向かう。

 

 

 

 一度目の突進は、二つの特大武器を用いて外へずらした。

 

 

 

 踵を返して戻ってきた二度目の突進は、ハベルの大盾を一枚犠牲にすることで防いだ。

 

 

 

 そして三度目、最後の一撃。

 

 

 

 それまでの二度よりもずっと強く、速く、重いそれを、灰は呪術で肉体を強化することで躱した。

 

 

 

 

 これで終わりだ。灰は着地した時、一瞬だがそう思い浮かべた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!」

「なっ!?」

 

 だが、それでは終わらなかった。

 

 この騎士には、三度では足りぬ。そんな数では、我が宿敵の魂を貪ることは叶わない。

 

 であれば、()()

 

 自らの限界を超えて、かつて人であった時にそうしたように、壁を超えろ。

 

 たとえ獣に堕したとて──目の前に主人を脅かす相手がいる限り、私は騎士なのだから。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■────!」

 

 

 

 

 

 そんなボルドの、全身全霊をかけた一撃は──




決着はどうなったのか、それは次回へ

次回、邪ンヌとの戦い決着。

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