灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、テスト勉強でダクソできない作者です。早く進めたい。
楽しんでいただけると嬉しいです。


彼女の名前は

 

 ずっと夢に見ていた相手が、現実として目の前にいる。そんな経験が人生に何度あるだろうか?

 

 

 

 少なくとも、俺にはこれが生まれて初めてなのは間違いないだろう。

 

「どうした貴公?平気か?」

「あ、えっと……」

 

 呆然と見上げていると、騎士が心配そうな声をかけてくる。

 

 その際の、これまでの彼の人生を思い起こさせるような深みのある低い声に、少し背中がぞくりとした。

 

 それをどうとったか、騎士は少し考えた後何かを思いついたように頷いて、どこからともなく鈴を取り出す。

 

 

 チリン。

 

 

 騎士が俺の前に跪き鈴を鳴らすと、白い魔法陣が現れて俺の傷を癒していく。脇腹の痛みがスゥと消えていった。

 

「これでどうだ? 一応、中回復の奇跡を使ったが……」

「あ、はい、大丈夫です」

 

 腕を上げてみる。痛くないし、内臓に骨が刺さっている感触もない。

 

 だった一瞬であんな傷が治るなんて、一体どういう原理なんだ?奇跡って言ってたし、それにマスターって……

 

「フォフォウ!」

「フォウ」

 

 首を傾げていると、フォウが物置に入ってきた。胸に飛び込んできたのを、両手で受け止める。

 

 みたところ、どこにも怪我を負った様子はない。よかった、フォウは攻撃の標的にされなかったみたいだ。

 

「それなら良い。さて」

 

 青い液体の入った瓶を煽った……どうやってか兜を脱がずに……騎士は、鈴をまたどこかにしまうと立ち上がる。

 

 その視線の向かう先は、物置の外。つられてそちらをみると、少し前までいた庭に土煙が舞っていた。

 

 土煙の中から、強烈な殺気を感じる。よく目を凝らせば、俺を蹴った髑髏仮面がこちらを見ていた。

 

「ふむ、かなり強めに蹴ったのだがな……」

「そんな、まだ生きて……うっ!」

 

 不意に、左手の甲が熱くなる。

 

 思わずもう一方の手で押さえ、熱が消えてから見ると、何やら赤い刻印のようなものが浮かんでいた。なんだ、これ?

 

「それは令呪。我らを縛り、時に我らを助けるもの。とはいえ、本来のものとは少し違うようだが」

「令呪……」

 

 もう一度刻印を見る。暗がりの中でほのかに光るその印は、とても強いものに思えた。

 

「説明したいところだが……まずは髑髏退治といこうか。貴公はここにいたまえ」

「あ、あの!」

 

 斧を手に出て行こうとする騎士に、とっさに話しかける。

 

「なんだね?」

 

 ゆっくりと振り返る騎士。兜の奥に隠された瞳が、じっとこちらを見つめる。

 

 舌が喉に張り付くような錯覚を覚えながらも、とりあえず何かを言おうと必死に言葉を絞り出す。

 

「頑張って、ください」

 

 結局、出てきたのはそんな簡素な言葉だった。

 

 驚いたのか騎士は少し体を揺らし、その後にふっと小さな笑みを兜の中からこぼす。

 

「ああ、契約はここに完了した。私の戦い、とくと見ていたまえ。我が初めてのマスターよ」

 

 言い終えるのと同時に、一陣の風とともに騎士の姿が視界から消えた。慌てて立ち上がり、姿を探す。

 

 案外すぐに騎士は見つかった。なぜなら一瞬で髑髏仮面に肉薄して、あの雷の斧を振り上げていたのだから。

 

「フッ!」

「っ……!」

 

 風切り音とともに振り下ろされた斧を避けて、髑髏仮面はアクロバティックな動きで後退する。

 

 着地と同時に、髑髏仮面は手元からいくつもの煌めきを射出した。身を翻した騎士は、そのことごとくを斧で叩き落とす。

 

 カラン、と音を立て地面に落ちたのは、半分に断たれたナイフだった。目にも留まらぬ絶技に目を見開く。

 

「かつて竜の首をも断ったと言われるこの斧、生半可ではない」

「…………」

「今度はこちらからいくぞ!」

「っ!」

 

 騎士が斧を上空に放り投げる。自然とそちらに俺と髑髏仮面の視線が吸い寄せられると、ガチャリと音がした。

 

 すぐさま視線を騎士に戻せば、彼は指の間に挟んだナイフを髑髏仮面に向けて投げる。その数、全部で6本。

 

「……!」

 

 髑髏仮面は機敏に反応して、その場で飛び上がると体の合間を縫うようにナイフが通り抜けていく。

 

「〝火炎噴流〟」

「っ!?」

 

 騎士の冷徹な声が響いた。

 

 騎士が、髑髏仮面に左手を向ける。次の瞬間、凄まじい炎の奔流が赤く輝いた左手から放たれた。

 

 髑髏仮面は炎に飲み込まれ、その熱気に思わず手で顔をかばう。肩から「フォーウ!?」というフォウの鳴き声が聞こえた。

 

 数秒して、熱気が消える。腕をどかしてみれば、パチパチと庭が黒焦げていた。髑髏仮面の姿は……ない。

 

「シィッ!」

「! う、後ろ──」

「──想定内だとも」

 

 

 ドンッ!

 

 

 背後から現れた髑髏仮面に声を上げるが、騎士は体から謎の衝撃波を発して体勢を崩した。

 

 無防備な状態になった髑髏仮面に、騎士は斧──ではなく、いつの間にか握っていた冷気を纏う大槌を振り下ろす。

 

 直後、轟音。地面ごと髑髏仮面は盛大にに叩き潰された。その際の激しい振動でよろめいて、壁に手をつく。

 

 騎士が大槌を持ち上げる。その下には潰れた髑髏仮面がおり、遠目から見ても死んでいるのは明らかだ。

 

「見事な気配の消し方だった。不安定な召喚でなければ、本気の貴公とも相見えただろうに」

 

 片手をあげ、落ちてきた斧を受け止めた騎士は、静かな声でそう呟いた。

 

「すごい……」

 

 たった数分の攻防だった。一撃で俺を瀕死に追いやった髑髏仮面が、あっさりやられてしまった。

 

 騎士を見惚けていると、髑髏仮面が金色の粒子になって消える。えっ、と後ろを見れば、大きな髑髏仮面もいつの間にか消えていた。

 

「ソウルはごく僅か……か。不死人ではなく、完全な霊体であることが原因かな」

「あの!ありがとうございます!」

 

 声をかけながら、物置から出て走り寄る。騎士はこちらを向いて──何かに気づいたような仕草をした。

 

「貴公、伏せろ!」

「え?」

 

 騎士の言葉に、後ろを見る。

 

 そして──自分の首めがけてナイフを振り下ろさんとしている()()()の髑髏仮面に、体の芯が凍りついた。

 

 瞠目する間に、髑髏仮面は無情にもナイフを振り切って俺の頭を跳ね飛ばす──

 

 

 

 

 

 ドッガァアアアン!!!

 

 

 

 

 

 ──ことは、なかった。

 

 視界から髑髏仮面が消える。それはまるで先ほどの繰り返しのようで、俺はまたそれを見ているだけだった。

 

 大きな影がよぎるのとともに吹き飛んだ髑髏仮面は、屋敷の屋根まで飛んでいって凄まじい音を立てて激突する。

 

 

 

 

 

「──先輩、ご無事ですか?」

 

 

 

 

 

 立ち止まって濛々と煙をあげる瓦屋根を見ていると、美麗な声が耳朶を震わせた。

 

 まさか。そう思って背後にいる誰かを振り返って──俺はこれまでで一番大きく目を見開いた。

 

「君、は……」

「今なら、印象的な自己紹介ができると思います」

 

 そう言ってその人物は、ふっとあの時のように微笑みを浮かべて。

 

 

 

マシュ・キリエライト──あなたのサーヴァントです。よろしくお願いします、先輩」

 

 

 

 見上げるような大楯と、紫と黒の戦闘服に身を包んだ彼女は、そう名乗った。

 

「……マシュ・キリエライトさん」

 

 彼女自身の口から聞いた名前を、噛みしめるように反芻する。

 

 マシュ・キリエライト、マシュ・キリエライト……よし、覚えたぞ。なぜかはわからないけど、絶対忘れないようにしよう。

 

「さん付けは不要です。私はあなたのサーヴァントなのですから」

「そ、そう?」

 

 じゃあキリエライト?うーん、なんだかしっくりこない。

 

 とすると、残る答えは一つ。

 

「それじゃあ……マシュ?」

「はい!それで良いです、先輩!」

「うっ」

 

 にこりと笑うマシュさん改めマシュ。その笑顔に全身の血が沸騰するような錯覚を覚える。

 

 なんだなんだ、今すっごい心臓が高鳴ったぞ!?こんなの、小さい頃父さんに無理やりお化け屋敷に引きずられてった時以来だ。

 

「それでは先輩、すぐに敵性生物(エネミー)を撃退して」

「その必要はないよ、大楯の貴公」

 

 割り込んできた声に、揃ってそちらを振り返る。

 

 騎士はまたいつの間にか武器を変えていて、流麗なデザインの長弓を携えていた。彼はほら、と俺たちを促す。

 

 再び視線を移せば──そこには頭を矢で射抜かれ、今まさに粒子になって消えていく髑髏仮面が地に臥せっていた。

 

「君たちが話している間に倒させてもらった。戦場で油断はいけないぞ」

「あっ、す、すみません」

「いや、別に良い。無事なら問題はないからね、我がマスター」

 

 穏やかな声音で俺の失態を許して、騎士は歩み寄ってくる。するとマシュが盾を構えて前に立ちふさがった。

 

「止まってください。貴方はサーヴァントの方ですか?聞いたところによると、先輩と契約しているようですが」

「これは失礼、大楯の貴公。私は縁あってこの場で彼に呼ばれたものだ。敵ではないよ」

 

 両手を広げて、ほらと証明する騎士。マシュはなおも疑わしげな顔をする。

 

「マシュ、その人は平気だよ。死にかけてた俺を助けてくれたんだ」

「……本当ですか?」

「うん。あの髑髏仮面を二体もやっつけたし」

 

 俺の言葉にマシュはしばし思案し、やがてゆっくりと構えを解いた。心の中でほっと安堵の息を吐く。

 

「すみませんでした。先輩を助けていただいた方に失礼な態度を……」

「その警戒は当然だ。私でもそうするから、謝る必要はない。それで……君は、サーヴァントなのかい?」

 

 問いかける騎士に、マシュは押し黙る。

 

 俺も気になっていた。管制室で見た時とは違って、マシュはファンタジーに出てくるような格好をしている。

 

 明らかに華奢な細腕に似合わない大楯。こんなものを扱えるのは──多分、()()とかだ。

 

「その、説明をすると色々と複雑でして」

「そうか、ならいい」

「え?」

「あまり聞かれたくないのだろう?ならば聞かないのが心遣いというものだ」

 

 肩をすくめる騎士。男心をくすぐる鎧姿以上に、この人がすごくかっこよく見えてきた。

 

「……はい。ありがとうございます、バーサーカーさん」

「いやいい。ところで、どちらか現状について知っているものは──」

 

 

 ププー

 

 

 騎士が言いかけたところで、間抜けな音が響く。

 

 全員同時に俺の腕を見ると、腕輪が点滅していた。タッチすると、ドクターのホログラムが出てくる。

 

『藤丸君、平気かい!?ちょっとこっちのトラブルで通信が途絶えて──ってええええええええええ!?

 

 ドクター、絶叫。マシュが顔をしかめ……多分騎士も……、一番近くにいた俺はキーンという耳鳴りに悶える。

 

『マシュ、その格好はどういうことだい!?そんなハレンチな格好!僕は君をそんな子に育てた覚えはないぞ!』

「Dr.ロマン、一度落ち着いてください。先輩が悶絶しています」

『あっ、ごめんね藤丸君!』

「うおお、耳が……」

 

 十秒くらいして耳鳴りは治った。いや、耳元で叫ばれてるのと同じ感じだったよ。

 

『それで……一体どうしてそんな格好を?』

「それは話すと長くなるので、私のバイタルをチェックしてください」

『わかった……お、おお!?これはすごい!身体能力、魔力回路ともに飛躍的な向上!まるで……』

「はい、サーヴァントのようです」

『じゃあ、ようやく成功したのかい?人間と英霊の融合──デミ・サーヴァント化に』

「そのようです。先の爆発によってマスターを失った英霊の方が、力を譲り渡す代わりにこの特異点の原因を究明・排除してほしいと」

『なるほど、そういう経緯だったんだね。何はともあれ、一命をとりとめたようでよかったよ』

「はい、これで先輩を守れます」

 

 俺を置いてけぼりで、どんどん会話を進めていくマシュとドクター。まただ、何を話しているのか全っ然理解できない。

 

『それで、そこにあるもう一つの霊基反応は──』

 

 ドクターのホログラムは騎士の方を向いて……唖然とした。

 

『──そんな、まさか。ありえない、君がどうして』

「……貴公のそのソウルは、もしや」

 

 信じられない、という顔のドクターに騎士は何かに気づいたのか、小さく呟く。首をかしげる俺とマシュ。

 

『……いや、そうか。そういうことか。だから君が()()()()()()()()()

「おそらく、貴公の思う通りであろう。そういう貴公こそ……」

 

 何か言いかける騎士。しかしそこで言葉を止めてかぶりを振った。

 

「いや、今は言うまい。このことは後で話そう」

『そうだね、その方がいい。()()()()()()()

「……?あの、何の話をしてるんですか?」

「いやなに、特に意味もない会話さ。それより、いつまでもここにいていのか?」

 

 騎士の質問にはっとする。そうだ、早くここから出ないと。

 

『一キロ圏内に、もう一人誰かの反応があるね。そちらに向かってくれ』

「了解した。大楯の貴公もそれで良いか?」

「はい、問題ありません」

 

 ドクターに了承を返した二人が、こちらを見る。どうやら最終判断は俺に任せるらしい。

 

 ええと、もう何がなんだかわからない状況だけど……ここから出るために、何かしらの行動はしなきゃいけないし。

 

 それにその反応が、俺やマシュみたいにレイシフトで飛ばされてきた人だったら助けなきゃ、だよな。

 

「えっと……二人とも、行こうか?」

「良いだろう、マスター」

「了解です!」

 

 頷く二人に、俺もまたなんとか笑顔を浮かべてよろしくね、と言った。

 

 

 

 

 

 こうして俺は、騎士とマシュを加えてこの特異点Fを探索することとなった。




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