灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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どうも、そろそろ星狩りのほうで心が折れそうな作者です。

とりあえず藤丸と火防女の絡みから。

楽しんでいただけると嬉しいです。


幕間
火防女の世界


 

 

 俺の名前は藤丸立香。

 

 って書くと、自分しか読まないから変な感じに聞こえるけど……今日から日記をつけることにした。

 

 定期検診に行った時にドクターが提案してくれたのだ。

 

 この過酷な状況、日々ストレスが溜まる。だから毎日何かに書き出すと気分が少し楽になるらしい。

 

 楽しいこと、面白いこと、奇妙なこと、なんてことないつまらないことでもいい。ただ、いきているという自覚が大事なんだって。

 

 それで今日が1日目だけど……まずは、第一特異点から帰ってきてからすぐ後のことを書こうと思う。

 

 オルレアンから帰ってきて、ドクターたちとの会議を終わらせたあと、俺は丸一日泥のように眠った。

 

 初めての聖杯探索に自分で思っていたよりも疲れてたみたいで、夢も見なかった。

 

 必死な顔のマシュに起こされて、やっと目が覚めた。何か異常事態じゃないかと心配したらしい。

 

 ホッとした顔はちょっと可愛かった。いやいや、何書いてるんだ俺……

 

 そんなわけで、なんとか無事に生還した俺たちだが……

 

「……と、このように。魔術回路の本数は生まれつき決まっており、それによって一度に扱える魔力の量も決まっております」

「な、なるほど」

 

 ホログラムで表示された資料を前に解説するルーソフィアさんに、真剣に耳を傾け話を聞く。

 

 かれこれ40分、会議に使われる部屋を用いた魔術講座。休息はとても短く、今日も今日とて勉強だ。

 

 手元のノートにはびっしりと文字が並び、すでに見開き一ページは全て黒で埋まっている。

 

 こうしていると学校で授業を受けてた時を思い出すなぁ。

 

 爺ちゃんに文字の書き方教わったおかげか、達筆だって教師に言われたっけ。

 

 なんなら筆でスラスラと文字を書けるようにしごk……特訓を受けたから、クラスメイトによく頼られた。

 

「では、今日はこの辺りで。お疲れ様でした」

「ありがとうございました……うぁ〜疲れた〜」

 

 そうこうしているうちに、ピピピとタイマーが鳴って50分の講座が終了する。

 

 途端に机に上半身を投げ出して、ピンと伸ばしていた背筋から力を抜くと一気にだらけた。

 

「お疲れ様でした。本日の講座はこれで以上になります」

「はは、あとトレーニングもあるんですけどね」

 

 はっきり言って、俺は魔術師としてはヘボもいいところである。

 

 魔術回路の質も量もざらにいるレベル、ここに来るまで全くの無縁だった魔術についての知識は皆無。

 

 せいぜいまともに使えるのは、必死に覚えた身体強化の魔術とガンドが精一杯だ。

 

 これにしたって普段から体を鍛えておく習慣があったからできたことで、本来ならもっと時間がかかってたらしい。

 

 だからこそ、俺は少しでも多くを学ばないといけない。マスターとして、英霊のみんなに相応しいように。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 目の前に置かれた紅茶にお礼を言う。

 

 カップを手に取り、一口すすると……すごく美味しい。気分がホッとするような味だ。

 

「これ、すごく美味しいです」

「ありがとうございます。トレーニングの時間になるまでここでお休みになると良いでしょう」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 幸いトレーニングルームはこの部屋から近いので、すぐに行ける。

 

 安心しながら紅茶をんでいると、更にお菓子とお代わりの入ったポッドまで置かれた。

 

 それにまたお礼を言いつつ、ふとルーソフィアさんを見る。

 

 

 

 

 

『いってくる』

『いってらっしゃいませ。貴方に、炎の導きがあらんことを』

 

 

 

 

 

 今ここにいる穏やかな女性と、あの時戦場で一緒に戦った〝火防女〟が同一人物であることに今更ながら驚く。

 

 もっとも、本人からしたら今の姿は子孫の体を借りているだけで、あっちの方が本当の姿らしいけど。

 

「何か?」

「あ、いや。ちょっと特異点のことを思い出しまして」

「ああ、なるほど……一般人に等しい状態で、極めて困難なあの任務を達成したことに敬意を評します」

「そんな、俺なんてみんながいなきゃ何もできなかったし……そういえば、ちょっと気になったんですけど」

「私に答えられることなら、何なりと」

 

 胸に手を置き、たおやかに微笑むルーソフィアさん。

 

 俺は意を決して、ずっと気になっていたそのことを問いかけた。

 

「あの冠?って……前、見えてるんですか?」

 

 そう聞くと、ルーソフィアさんはきょとんとした顔になった。

 

 そりゃいきなりこんなこと聞かれたら困るよね……いやでも、初めてあの姿を見た時からずっと疑問だった。

 

 あれ、明らかに両眼を隠してたよな。目の穴があるようにも見えなかったし、どうやって動いてたんだろ。

 

 ちなみにマシュは「ソウルパワーではないでしょうか?」とか大真面目な顔で言ってた。可愛かった。

 

「……ふふ。奇特なことをお聞きになさるのですね」

 

 あっ、クスクス笑ってる。やっぱり変なことだったのかな。

 

「す、すみません。なんかおかしなこと聞いちゃって」

「いえ、かまいません。むしろ少し新鮮な気分となりました」

「バーサーカーとかは聞かなかったの?」

「そうか、の一言でございました。あの時代はそういうものです」

 

 そう、なのかな?そういえばグレイラットさんとかもとんがり帽子みたいな頭巾かぶってるしなぁ……

 

 今は玉座とカルデアスがある部屋の隅っこにいるけど、時々バーサーカーが雑談してるんだよな。

 

「さて、そうですね……確かにあの頭冠(とうかん)を付けているとき、私に視界はありません」

「でも、全然普通に動いてましたよね?」

「私には元より、瞳はなかったのです。故にこそ闇でこの光を覆うあの冠は、私には枷とはなり得ません」

「えっ……」

 

 それってつまり、盲目だったってこと?

 

 そういえば前に、目の見えない人はそれ以外の感覚が鋭くなるって聞いたことがある。それで世界を捉えているとも。

 

 とすれば、今そっとルーソフィアさんが手をかざしているあの瞳は、本来は見えないものだということなのか?

 

「しかし、それで良いのです。火防女は闇を知るもの。人のソウル、その本質を知ってこそ我らは火の番人たり得る」

「じゃあ、やっぱりソウルとかで人を判断してたりするんですか?」

「ご明察です。一見皆同じように見えますが、本来ソウルとはその人間のうちに宿る意思そのもの。故に特別強いソウルは、はっきりと分かるものです」

 

 どこからともなく、ルーソフィアさんの手の中に物が現れる。

 

 それは今話していた、銀色の冠。素人の俺でもすんごい値段がしそうな銀と宝石で作られたそれを、彼女は撫でる。

 

「私の世界は、闇に包まれていました。それは恐怖を抱かせるものではありません。人の本質は闇、光たる神々在ってその対極に在るもの。むしろ、心地の良いものでした」

「今はどうなんですか?」

「勿論、充分に暖かい世界でございます。要するに藤丸様、物事の捉え方さえ変わらなければ世界は変わらないのです」

「物事の、捉え方……」

 

 世界の見方、か。

 

 そういえばマシュがモーツァルトさんに、この世界をどう見るかは自分の価値観で決めるって教えてもらったって言ってたっけ。

 

 俺にとっての世界。

 

 それは当たり前の日常で、でも今はなくて。その世界がもう一度欲しいから戦ってる。

 

 だって俺は、その世界で生きてきたのだから。

 

「私にとって世界は、闇の中であれ光が空にあれ、そこに輝くソウルがあってこそ。ああ、ですから……」

 

 ふと、ルーソフィアさんが言葉を止める。

 

 彼女の話したことを頭の中で吟味していた俺は、ふとそちらを見て……何かを懐かしむような顔に目を奪われた。

 

「あの時私は、心の底から灰の方のソウルに惹かれたのです」

「バーサーカーの?」

「私は祭祀場にいました。そこは玉座の据えられた儀式の場、いつか火を継ぐ方のための場所。そこに、灰の方はやってきた」

 

 そのソウルは誰よりも……ともすれば、唯一祭祀場に残っていた薪の王のルドレスさんほど強いものだったという。

 

 ソウルで世界を見ていた彼女にとって、弱々しくも薪の王に匹敵する気高さを備えたソウルは十分に魅入られるものだった。

 

「灰の方が旅をし、王たちの探求を続ける中で私は待ち続けました。来る日も来る日も、いつかこの世界が変革することを予期しながら」

「昔は一緒に旅をしてたわけではないんですね」

「今でこそ微力ながらお力添えできますが、本来私はただソウルをあの方の力に変えるだけの存在ですので……今思えば、もどかしい日々でした」

 

 バーサーカーは、ずっと一人で旅をしていたのだという。

 

 ロスリックという、世界が寄り集まった場所で多くの敵と戦い、不死人と出会い、別れ、そして薪の王を集めた。

 

 ルーソフィアさんは、それを待っているだけ。いつか帰ってくるその時を待ちながら、篝火を見守っていた。

 

「いつしか己の役目以上に、私自身が望んでいたのです。闇の中で何より強く輝くあの方のソウルの、そばにあることを」

「だから今も、こうやって……?」

 

 そう聞くと、ルーソフィアさんは初めて少し恥ずかしげに笑った。

 

「いつも、喜びを覚えました。灰の方が祭祀場に帰ってきて、私の手を取り帰還を告げてくださることに。ですから追いかけてきてしまったのです」

「ほえー……すごい愛情ですね」

 

 なんだか、クラスの女子が恋バナで盛り上がっていた心理を初めて理解した気がする。

 

 こう、聞いてるだけで胸がじんわりとしてくるっていうか。男子の恋バナは……うん、ただの公開処刑だから。

 

「あるいは執着、とも言うのかもしれません。その輝きを見ることを望み、あまつさえそのお心を求めた私は従者としては失格なのでしょう」

「でもバーサーカー、いつもルーソフィアさんと話してる時幸せそうですよ?」

 

 ピタリ、とルーソフィアさんの動きが止まる。

 

 あれ、何かおかしなことを言ったかな?と首を傾げた瞬間──ルーソフィアさんは、赤い顔で俺を見た。

 

 綺麗な目を見開き、頬は紅潮し、口元には驚き半分困惑半分みたいにアワアワとしている。えっ何これ!?

 

「今なんと……?」

「えっ、だから、ルーソフィアさんと会話してる時はバーサーカーの様子が違うって……」

 

 俺やマシュと話すときは落ち着いていて、いかにも英雄!って佇まいなんだけど、その時は少し違う。

 

 こう、花がちらほら飛んでいるような感じなんだよな。一緒にいるだけで声がちょっと明るいし、口数多いし。

 

「……そう、ですか。そうなのですね」

「あの、ルーソフィアさん……?」

「……こほん。藤丸様、そろそろトレーニングの時間ではございませんか?」

「えっ嘘!?マジであと五分だ!?」

 

 腕輪の時計を見ると、すでにギリギリの時間になっている。話に聞き入って全然気がつかなかった!

 

「あの、紅茶ありがとうございます!それじゃあ俺もう行きますんで!」

「ええ、はい。お気をつけて、怪我のないように」

「はい!また明日よろしくお願いします!」

「ああ、藤丸様」

 

 部屋を出て行こうとすると、呼び止められて振り返る。

 

 すると、すっかりいつもの落ち着いた様子に戻ったルーソフィアさんが微笑みながら言ってきた。

 

「今度、またお話に付き合ってくださいますか?」

「え?そりゃまあいいですけど……」

「ありがとうございます。それと不躾ですが、その時は……灰の方のことも、お聞かせください」

「えっと、わかりました。それじゃあ」

「行ってらっしゃいませ」

 

 ルーソフィアさんに見送られて、部屋を出て小走りにトレーニングルームに向かう。

 

 早く行かないと、マルタさんにどやされる。あの人普段はおしとやかだけど怒ると怖いんだよな。

 

 でも、今日の話し合いで一つ、ルーソフィアさんについて詳しくなったように思った。

 

 つまり、バーサーカーがルーソフィアさんに弱いみたいに。

 

 

 

 

 

 多分、ルーソフィアさんもバーサーカーさんのことになると弱いんだな、と。

 

 

 

 

 




なんかただの惚気になった()

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