灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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ギリギリ書き上がったァ!

今回は無名の王の話です。

楽しんでいただけると嬉しいです。


藤丸と無名の王のレシピ作成

 

 それはいつも通り、トレーニングを終えて飯を食っていた時のことだった。

 

『……新しいメニューを……増やしたい……』

「……え、っと」

「フォウ?」

 

 時刻は昼頃。少し遅めだったためにカルデア職員の姿はなく、ちらほらとサーヴァントがいるのみ。

 

 そんな中、いつも通り二メートル越えの巨体にコック服を着た無名の王がじっと俺を見下ろしていた。

 

 突然の申し出に、俺は机の上に乗っているフォウと顔を見合わせると、無名の王を見上げた。

 

「ごめん、もう一回言ってくれる?」

『……食堂の……新しいメニューを模索している…………手伝ってくれ……』

「今のメニューでも十分美味しいけど……」

 

 ほら、と食べかけの血赤の苔玉ミートボール(※日替わり、苔玉の種類によって味が変わる)を見せる。

 

 けれど無名の王はミイラのように干からびた顔を横に振って、持ってきていた脚立に腰を下ろした。

 

『今の……俺の作る料理は……元々あったレシピをアレンジしているに…………過ぎない……既に……厨房のレシピは…………枯渇した…………』

「へえ、そうなんだ」

 

 てっきり全部無名の王の思いつきで作られてると思ってた。考えてみれば南極にもハンバーグとかミートボールくらいあるよな。

 

 じゃあエミヤに教わったら?と聞いたら、既に目で見て盗めるものは盗み尽くしてしまったらしい。

 

 なんでも直接教え合うのは料理人としてのプライドがなんか色々絡んでいるらしい。ライバル意識ってことなのか?

 

「うーん、困ったなあ。エミヤに比べたら、特にこれといって料理に詳しいわけじゃないし……」

『なんでも……いいぞ…………』

 

 うむむと首をひねる。

 

 無名の王とは別に契約している訳ではない……というか、カルデアからの魔力供給すら受けてない。

 

 ソウルという特別な力を持ち、さらに火の時代の神様だからか、無名の王はただそれだけで存在できるらしい。

 

 でも、いつも美味しい料理にはお世話になってることには変わりない。

 

 見た目こそ奇抜なものの、栄養がたっぷりの無名の王の飯は食べると次の日のトレーニングに励めるのだ。

 

 食事はモチベーション維持の要素の一つだっていうし、少しでも力になりたいな。

 

『これに……案を…………書いてくれ』

「わかった、ちょっとやってみるよ」

 

 無名の王が差し出してきたメモ帳とペンを使い、とりあえず思いつく限りの料理を書き出してみる。

 

 スパゲッティ、唐揚げ、おにぎり、アスパラのベーコン巻き、ピザ、etc etc……主に日本ではどこでも食べれるものになった。

 

 パッと頭に浮かんだものを羅列して、ページを破って無名の王に手渡す。

 

『…………ふむ…………ほとんどは……作ったことがあるな…………』

「やっぱりそうだよね……」

 

 ……ん? 

 

「今ほとんどって言った?」

『ああ……』

 

 無名の王の指が、メモの料理の名前の一つを指し示す。

 

『この…………さしみ、とは……なんだ』

「刺身っていうのは、魚を生のまま捌いた料理だけど……知らない?」

 

 顔を横に振る無名の王。どうやら刺身は食堂のメニューにはなかったらしい。

 

 頭の中には『刺身……つまり身を刺してスライスする…………?』なんて独り言のような声が響いてくる。

 

 しばらく一人で唸っていた無名の王だけど、やがて合点がいったのか、刺身の下にあるものを指差す。

 

『では…………このすし、は…………』

「シャリっていうお酢を使って作ったお米に、魚の刺身を乗せてつくる料理だよ」

『ふむ…………』

 

 声を唸らせる無名の王は、ポリポリと頭をかきながら俺の顔とメモを交互に見る。

 

「ハッ……!」

 

 そこでようやく、俺はあることに気がついた。

 

 こ、これは……日本に初めて観光にやってきた外国人が、日本料理の調理方法を疑問視する現象!

 

 世界では魚を生で食べる、というのはわりと珍しいみたいだし、お寿司なんかはよく外国人にウケるという。

 

 ましてや無名の王は1万年以上前の火の時代の神様、そのギャップは凄まじいものだろう。

 

 エミヤが握り寿司とか作れそうだけど……無名の王が知らないってことは多分作ったことないんだろうなぁ。

 

 よし、ここは俺が……!

 

「無名の王、よかったら作り方を教えようか?」

『む…………わかるのか……』

「爺ちゃんにちょっと仕込まれてね」

『では……お手並み拝見と……いこうか…………』

 

 こっちに来い、と言って立ち上がった無名の王がキッチンの方に行く。

 

 気がついたらすっかり食事中なのを忘れていたのを思い出し、ミートボールを米と一緒にかっこむとついていった。

 

『入れ……』

「お邪魔します」

 

 ちょっとドキドキするな。今までずっと注文するだけだったカウンターの向こう側に行くなんて。

 

 ちょっとした興奮に胸を高鳴らせながら入ると……外から見ていたよりも、調理場は広々としたスペースを有していた。

 

 エミヤはいない。多分、自室にいるんだろう……部屋がありすぎてどこだか覚えてないけど。

 

「へえ、結構奥は広いんだね」

『ああ…………なにせ……俺とあの男が…………同時に調理できるほどだからな…………』

「あはは、無名の王は体が大きいから大変だなと思ってたけど」

『……案外…………快適だ…………』

 

 ほら、と差し出された石鹸を使って手を洗い、ついでに持ってきた使用済みの食器をシンクに入れておく。

 

 そうすると無名の王に促されて奥に入り、冷蔵庫の中から適当な魚と包丁を見繕っていざ調理を開始する。

 

「まずはこうやって、包丁で鱗を削ぐんだ」

『ふむ……』

 

 俺が魚を捌く様子を、じっと体をかがめて後ろから見つめてくる無名の王。

 

 包丁を使ってるから横は見れないけど、絶対に作り方をモノにするという気迫を感じた。

 

 期待されてることに照れ臭さと嬉しさを感じつつ、気だけは緩めずに調理を進めた。

 

「で、全部削いだら頭を落として、体に包丁を入れて内臓を取る」

『ここまでは……フライと同じか…………』

「まあね。で、次は……」

 

 説明をしながら、自分の記憶を掘り起こしていく。

 

 包丁を使う際の力加減、角度、速さ、切り込み口、魚の方にも気を配りながらすべてを慎重に進めていく。

 

『丁寧な……ものだな…………』

「前は毎日のようにやってたからね。爺ちゃんが生きてた頃は週末だけ遊びに行ってたんだけど、ここに来るまではその家に住んでたんだ」

 

 結構広い家だったので掃除とかは大変だったけど、爺ちゃんとの思い出がある場所だし苦じゃなかった。

 

 何より、実家より学校にも近かったのだ。いつの間にか実家には週末に帰る、という真逆の生活になっていた。

 

「だから案外、料理するのは慣れてるんだ」

『お前は…………現代の人間にしては年若い部類だ…………なのに……偉いものだ……』

「手の凝った料理は週末しかやらなかったけどね。学校の後だと、どうもやる気が出なくってさ」

 

 料理を作るのは嫌いじゃないが、それよりも面倒臭さが勝ってしまい、簡単に作れるものを作って済ませてた。

 

 あー、そういや友達を家に呼んだときは好評だったっけ。お前女子力高えなって言われた。微妙に嬉しくない。

 

「はい、できた。これが刺身だよ」

 

 手を動かすこと数十分、皿の上にはツマと一緒に簡単に盛り付けたアジの刺身があった。

 

『これが…………刺身か………………』

 

 先ほどと同じ席、つまり脚立に座った無名の王がフォークを取る。

 

 箸じゃないことに少し違和感を感じつつ、無名の王がスカーフをどかして刺身を食べるのを見た。

 

「フォウ!」

「あ、ごめんごめん。ほら、フォウも」

「ンフォ、ンフォ……」

 

 しばしの沈黙。無言で……元から喋ってはいないけど……口を動かしていた無名の王は、食べ終わったのかフォークを置いた。

 

「どう?」

『悪く……ない……』

「ウマイフォーウ!」

「よかったぁ〜」

 

 ホッとして胸を撫で下ろす。

 

「てっきり俺の料理なんて不味い、って言われるかと思ったよ」

『……いや…………お前の料理は調理からして……丁寧だ…………味にもそれが出ている……』

「そう?」

 

 刺身に出るのかは疑問だが、とりあえず無名の王的には及第点らしい。

 

 フォウも気に入ったのか、もう一枚モグモグしている。今更だけどこいつ、刺身食べさせて大丈夫なのか?

 

『……何故…………料理をしようと…………思った……』

「えっと、子供の時だから細かくは覚えてないんだけど……」

 

 あれは、小さい頃のことだ。

 

 物心がついてすぐの頃、婆ちゃんが早死にしてしまい、見た目はいつも通りだけど落ち込んでた爺ちゃん。

 

 そんな爺ちゃんに何かできないかと思って色々考えてたら、婆ちゃんが残してたレシピを見つけた。

 

 それを爺ちゃんのところに持って行き、小さい俺じゃあ一人では料理できないので手伝ってもらったのだ。

 

 爺ちゃんの数少ない笑った顔を見た瞬間だった。あの時、頭を撫でてくれたことをよく覚えている。

 

「で、爺ちゃんが笑ったのがすごく嬉しくてさ。上手く作れるようになれば、もっと笑ってくれると思ったんだ」

『……大切な……人だったのだな…………』

「うん、俺の一番尊敬する人だから」

 

 無名の王と、少しの間談笑を楽しむ。

 

 昔友人にも言われたことだが、俺は爺ちゃんの話になると結構饒舌になるらしい。

 

 寡黙な無名の王とも、いつもより話しやすかった。対話というよりは聞いてもらってるだけなんだけどね。

 

「先輩、無名の王さん、それにフォウさんも。一体何をしてらっしゃるのですか?」

「あら、マスター。それに無名の王さんも」

「あ、マシュ。マルタさんも」

 

 いつの間にかマシュとマルタさんがそばに居た。話に熱中して、近くにいたのに気付かなかったな。

 

 戦闘シミュレーションをやった後のか、二人ともジャージ姿(ダ・ヴィンチちゃん製)だった。

 

「体育の授業を思い出すなぁ」

「え? あ、この格好ですね。先輩がいた学校ではジャージを着用していたのですか?」

「そうなんだよ」

 

 マシュと一緒にバスケ……テニス……うん、いいな。すごく楽しそうだ。

 

 というかあれだ、なんか頑張ってるとこを応援してもらいた……なんかやめよう、変だ俺。

 

「それで、先輩たちは何を?」

「今、無名の王に刺身を教えてさ」

「お刺身、ですか?先輩の国の料理だと聞きましたが……」

「これはマスターが作ったのですか?」

「まあね。あ、二人とも食べる?」

 

 追加のフォークを持ってきて残りの刺身を進めると、二人とも食べてくれた。

 

「あらあら、ますたぁのお手製でございますか?」

「へえ、生の魚の切り身か。面白いことをするね」

「こらアマデウス、あまりジロジロ見るものではなくってよ?」

 

 それから少しすると、二人を皮切りにサーヴァントたちが食堂にやってきて、一気に騒がしくなった。

 

 やがて、自明の理とでもいうように皆が食べたいと言ってくれたので、追加の刺身を作ることになる。

 

「結構嬉しいもんだなぁ」

「きゃっ……」

 

 厨房に向かって歩いていたその時、誰かと肩がぶつかった。

 

「あ、すみません……って、あれ?」

 

 振り返るけれど、そこには誰もいない。

 

 気のせいかと思いつつも、俺はキッチンの中に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「び、びっくりしたわ……火の時代の魔術を覚えられたからって、あまりはしゃいではダメね」

 

 

 

 

 

 




おや、一体これは……(棒読み)

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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