今回は藤丸メイン。そしてぐだマシュ。
前回休んだので、特別にいつもより一時間早く投稿します。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「ふう……今日も疲れた」
シャワールームから出て開口一番、ついそんなことを言ってしまう。
こうも毎日勉強とトレーニング、あとサーヴァントたちとの交流をしていると少し堪える。
でも、結構戦闘シミュレーションも慣れてきたな……指示のミスも減ったし、少しは成長できてるといいけど。
「さて、食堂に行って飯を……」
上着を着ようとしたその時、テーブルの上に置いた通信機がピピッと音を立てる。
「いきなりなんだろ?」
手首につけてタップすると、少しの間を置いてどこかに繋がる。
『やあ藤丸君、聞こえるかい?』
「あ、ダ・ヴィンチちゃん」
通信を使うなんて珍しいな。いつもは大体ミーティングとかの時にしか合わないから、新鮮味を感じる。
『結構。実は藤丸くんに少し確かめてほしいことがあってね』
「確かめてほしいこと?」
『ちょっとそこのクローゼットを開けてくれたまえ』
クローゼット?と部屋の備え付けのそれに目をやる。
一体なんだろうと思いつつ、上が裸のインナー一枚だとどちらにしろ寒いのでクローゼットを開ける。
中にかけられているのは、俺の私服といつも着てるカルデア制服(Mサイズ)の予備にズボン、あとはレイシフト用のスーツ。
着の身着のまま連れてこられたので、入ってるのはその時の服一式と、他は全部カルデアの……
「あれ? こんな服あったっけ?」
クローゼットの中には2着ほど、俺の知らない服が入っていた。
『どうやら無事に見つけられたようだね。それを出してみたまえ』
「はぁ……」
言われるがままに、クローゼットからそれらの服を取り出してベッドの上に並べてみる。
一つは赤いセーターと魔法使いっぽいローブがセットになった、私立学校の冬服っぽいセット。
もう一つは少し趣向が違い、上から下まで全て紫色を基調としたセット。どっちもどこかの制服っぽい。
「これ、いつの間に俺の部屋に?」
『君がいつも着ているカルデアの制服。あれが魔術礼装だというのはすでに承知のことだが、それらも同じ魔術礼装だ』
「へえ! こんな形もあるんですね」
あの服のおかげで魔術師のひよっこの俺でも魔力を上手く扱えているので、魔術礼装には何かと好印象を抱いてる。
なので、突然クローゼットの中にあったこれらの服に抱いていた懐疑的な気持ちが興味へと変わった。
『実はついさっき調整が終わったのだが、この状況だ。私も何かと忙しくて直接渡せなくてね、小休憩の時間にこうして通信越しに話したというわけさ』
「ありがとうございます。それで、これをどうすれば?」
『一度袖を通してくれたまえ。今後君がグランドオーダーを遂行する中でお世話になるものだ、微調整が必要ならば一旦回収しなくてはいけないからね』
「わかりました」
言われた通りに一度履いたズボンを脱いで、まずは赤いセーターが目立つ魔術礼装から着てみる。
新しい服に袖を通す時というのは、なんとも言えない気持ちになる。ワクワクするような、少し不安なような。
「っと、ネクタイもあるのか。俺学ランだったからなぁ」
『おや、藤丸君の学校は公立だったのかい?』
「まあ、普通に。なのであんまり慣れてないんですよね……」
最後にネクタイを締めたのは、確か爺ちゃんの葬式の時……嫌なこと思い出した。
我ながら慣れない手つきでなんとかネクタイを結ぶと、セーターとローブを着込む。結構軽いな。
「着ました」
『着心地はどうだい?どこかきつかったり、変に感じるところは?』
「んーと、今のところないですね」
サイズ的にも少しゆとりがあって、多少手足を動かしてみても全く問題ない。
魔術の施された服だっていうんだから元から壊れにくくはなってるだろうけど、これなら動き回れそうだ。
そうして自分の体を見下ろしていると、突然出入り口の扉がスライドする音がしたので振り返る。
「あれ? 誰もいない?」
「フォウ!」
「って、フォウか。相変わらず自由に歩き回ってるやつだなぁ」
時々起きた時枕元で丸まってるから、びっくりすることもある。
「フォウ、この格好どう思う?割と似合ってない?」
「フォーウ?」
「って、言ってもわかんないか」
首を傾げたフォウは、そのままトテトテとこちらに近づいてくると、ベッドの上に飛び乗って丸まった。
マイペースな謎生物に苦笑いを浮かべつつ、もう一度羽織ったローブに意識を向けてみる。
「これも魔術礼装なんですよね?何か違うんですか?」
『基本的な性能はそう変わらないが、ちょいと機能が違う。それは魔術協会の一般的な制服でね』
「魔術協会って、所長が所属してた?」
『ああ。そしてその礼装は、主にサーヴァントに魔力を供給することに向いている』
そう説明されて、試しに魔力を通してみると、確かに制服よりも回りがいい気がする。
今ここにサーヴァントが一人もいないので確かめようがないけど、次のシミュレーションで使ってみようかな。
一通りの確認事項が済んだので、魔術協会の制服を脱いで、今度はもう一つの魔術礼装を着てみることにした。
「うーん、こっちはなんだか、図書館の司書さんっぽい?」
『そちらの具合はどうだい?』
「うん、こっちも違和感はないです。これは何か特徴があるんですか?」
『こちらの礼装はサポート向きだね。サーヴァントの持つ
「うげ、難しそう」
『はは。何事も練習だ、若者よ』
的確なタイミングで使えなきゃ、この礼装は使い方に難儀しそうだ。
「これもどこかの制服だったりするんですか?」
『ああ、アトラス院というところのものさ』
「色々あるんですね」
先ほどと同じようにぐるぐると手や足を動かしていると、ふとベストのポケットに違和感を感じる。
硬い感触の異物を取り出してみると、それは眼鏡だった。なんでこんなものが入ってるんだろ?
「ダ・ヴィンチちゃん、なんかポケットの中に眼鏡が……」
『ん、ああ。どうせだからかけてみたまえ』
「はぁ」
少し手の中でいろんな角度に傾けてみるけど、別に変なところはない。ただの眼鏡だ。
とりあえず危険なところはなさそうなのでかけてみると、伊達眼鏡だった。普通の視力なので問題ないが。
『どうだい?』
「どう、って言われても、眼鏡なんてかけたことないのでなんとも言えないですね。強いて言うなら、走ったらずり落ちそう?」
学校の体育の授業では、ピョンピョン跳ねてるクラスメイトの眼鏡を見て不便そうだなと思ってたくらいだ。
でもなんか、眼鏡をしてるだけで何故か賢くなったような気がするので、つけてるだけなら悪くない。
それにこうすると、マシュとお揃い──
「〜〜っ!」
「フォウッ!?」
何故か唐突に恥ずかしくなり、眼鏡をベッドに投げつける。
びっくりして飛び起きたフォウが非難がましい目で見てくるが、俺はそれどころじゃなかった。
いや、確かにマシュの眼鏡いいなぁとか思ってるけど!うどん食べてた時とか曇ったのにびっくりしたの可愛かったけど!
「うぐぉおおお……」
『おやおや、何やら思春期特有の体験をしているようだ。お姉さんは退散するとしよう』
これまで一度も体験したことのない謎の気恥ずかしさに頭を抱え、奇妙な踊りをする。
『先輩、マシュ・キリエライトです。今よろしいでしょうか?』
「ん”っ!?」
変な声出た! よりによってこのタイミングでなんで部屋に!?
慌てて部屋の中を見渡し、床に脱ぎ散らかしたカルデア制服を見つけて慌てて足でベッドの下に隠す。
むぎゅっ
「……むぎゅっ?」
なんか今変な感触が……
恐る恐る足を戻し、しゃがんでベッドの下を覗き込むと……暗がりの中で爛々と輝く瞳が二つ。
「うふふ、ますたぁ。足で胸を……だなんて、大胆ですわ」
「……………………」
ゆっくりと、しゃがんだ時と同じ速さで冷静に姿勢を戻し、ベッドの上に転がってた眼鏡をかける。
そうすると目を閉じて、今見たものを思い返す。大事そうに抱きかかえられた俺の制服、はぁはぁしてる清姫……
「うん、幻覚だな」
俺は何も見なかったことにした。
「大丈夫、俺はクールだ。動揺なんてしない」
「フォウ?」
『あの、先輩? もしかしていらっしゃらないんでしょうか?』
あ、そういえば外にマシュがいるんだった。
「ごめんごめん、入ってきていいよマシュ」
『はい。マシュ・キリエライト、失礼します』
フォウが入ってきたのがわかるように、ロックをかけてない自動ドアは勝手にスライドする。
「先輩、よろしければご一緒に──」
いつものパーカー姿のマシュは、部屋の中にいる俺を見つけると何かを言おうと口を開いて、はたと動きを止めた。
「先輩、それは魔術礼装ですか?」
「うん、ダ・ヴィンチちゃんがクローゼットにいつの間にか入れてたみたいで。ちょっと試着してたんだ」
「とてもお似合いですね。先輩は一般男性の基準と比べてスタイルがいいので、その魔術礼装も着こなしていると思います」
「そう?自分ではあんまり気にしたことないけど」
前に男友達の間で腹筋選手権をやった時は、お前本当に帰宅部?って聞かれたことあったな。
その時はそんなに筋肉あるか?と首を傾げたけど、なんだかマシュにそう言われると頬が緩んでくる。
「その眼鏡もお似合いですよ」
「はは、マシュもいつもつけてるじゃないか」
「はい、これでお揃いですね!」
「ん”っ」
また変な声が出た。さっき考えようとしてやめたのに!
「せ、先輩?突然口元を押さえてどうかしましたか?」
「いや、なんでもないよマシュ……ほんとなんでもないから、十秒待って」
「は、はい?」
よし、深呼吸だ藤丸立香。息を吸って吐く、そのことに集中するんだ。
「すぅ……はぁ。よし、もう大丈夫だ」
「もしかして、体調が悪かったのでしょうか?でしたら」
「いやいや、今日も絶好調だよ。それで、今日は何の用かな?」
「あ、そうでした。ちょうど夕食時なので、一緒に食堂に行きませんかとお誘いしに来たのです」
「ああ、そういうことならいいよ。ちょっと待ってね、すぐ服を片付けるから」
ベッドの上に転がってたもう一つの魔術礼装をクローゼットに片付け……制服は諦めた……マシュと部屋を出る。
「おや、マスターにマシュ。これから夕食ですか?」
「ジャンヌさん」
「こんにちはジャンヌ」
「ええ、こんにちはお二人とも」
鎧姿ではなく、ラフな格好をしているジャンヌは、柔らかい表情で微笑む。
オルレアンではほとんど見ることのできなかった顔に内心笑いつつ、どうせなら一緒にどう?と誘った。
ジャンヌは快諾してくれて、三人で食堂に向かった。
「あら、マスターにマシュ、それにジャンヌじゃない。
「こんにちは、マリーさん」
「こんにちは」
着いて早速、偶々入り口近くの席にいたマリーさんに挨拶をされた。
「あらっ、あらあら?」
挨拶を返すと、マリーさんはパッと目を見開いて、身を乗り出すと俺の顔をまじまじと覗き込む。
思わず上半身をのけぞらせると、マリーさんはとてもキラキラとした目で俺のことを見た。
「あの、何か……?」
「ああ!ごめんなさい、私ったら何も言わずに……マシュとお揃いのものをつけていたから、可愛らしくってつい声を上げてしまったの!」
「ん"っ」
本日三回目の変な声だった。
「あ、そういえば眼鏡をしていますね。服装も違いますし、いめちぇん?というやつですか?」
「いや、それほどのものでは……」
「先ほども申し上げましたが、私はお似合いだと思います!」
「マシュ?」
ぐっと拳を握ってふんすと鼻を鳴らすマシュが可愛い……じゃなくて!
マリーさんとマシュの声に釣られたのか、他にも何人かいたサーヴァントたちも寄ってくる。
そうして思い思いに俺の格好を見て感想を言い始めた。大勢の英霊に注目され、縮こまる俺。
「へえ、それアトラス院のじゃない。元一般人にしてはそこそこ様になってるわね」
え?
「今、誰かアトラス院って……」
「先輩?どうかしましたか?」
「いや……」
ちょっと周りを見てみるけど、サーヴァントたち以外は誰もいない。
気のせい、かな……?
迂闊だなぁ…誰とは言わないけど。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。