灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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オルガマリー・アニムスフィア

「じゃあ、サーヴァントっていうのは過去の英雄のことなの?」

「ああ、そういうことさ」

 

 

 ピシュッ!

 

 

 俺の疑問に答えながら、バーサーカーが矢を放つ。空気を切って飛翔した木矢は、こちらに接近していた髑髏仮面の眉間を貫いた。

 

「はぁあっ!」

 

 

 ドガンッ!!!

 

 

 崩れ落ちる髑髏仮面、その取り巻きだった骸骨たちを猛スピードで接近したマシュが大楯で吹き飛ばす。

 

 まるで紙くずのように宙を舞う骸骨たち。地面に叩きつけられた瞬間粉々に砕け、物言わぬ残骸と化した。

 

 現在俺たちは、ドクターの言った生体反応に向かっていた。その道すがら、サーヴァントのことについて聞いている。

 

「先輩、ご無事ですか?」

「うん。バーサーカーが守ってくれたから」

「そう言ってくれて光栄だよ、マスター」

 

 静かな声で答えながら、バーサーカーは新たな矢を弓……さっき聞いたら〝竜騎兵の弓〟というらしい……につがえる。

 

 兜で顔は見えないけど、バーサーカーは周囲に常に気を配っていつでも戦えるようにしていた。全く隙はない。

 

 その熟練された佇まいは、まさしく〝英雄〟といったところだ。

 

 

 

 この世界には、もう一つの側面が存在する。

 

 

 

 それは、カルデアスやシバの説明を受けた時に聞いた、魔術。そしてそれを行使する〝魔術師〟たちの世界だ。

 

 魔術師たちは世界に普遍的に存在する〝魔力〟を使い、様々な神秘や現象を再現するらしい。魔法使いとはまた違うみたいだ。

 

 そんな彼らの使う魔術の中でも最上位に位置する魔術の一つ……〝英霊召喚〟。

 

「サーヴァントとはすなわち英霊、英霊召喚とは伝説・神話に語られる英雄や歴史に名を残した偉人を、召喚して使い魔とする……だっけ?」

「はい、その認識で合っています。召喚の際は、その英霊にちなんだもの……あるいは本人が持っていたものなどを触媒にしたりします」

 

 今しがた聞いたことを反芻していると、マシュがさらに細かく説明してくれる。お礼を言うと、いえ、これくらいはと微笑んだ。

 

 その顔にちょっと見惚れつつ、バーサーカーの方を見る。ちなみに呼び方や口調は本人がかしこまらないでくれと言ったのでこうした。

 

「まあ、私も召喚の際自動的に刻まれた知識を言っただけだ。大楯の貴公のほうがより詳しいのではないかな」

「刻まれた知識……ということは、バーサーカーさんは今回が初めての召喚なのですか?」

「ああ、そうだとも」

 

 答えるのと同時に、バーサーカーは一瞬で弓を虚空に消してあの大槌を取り出し、俺の後ろに振るう。

 

 するとバキョ、という音とともに、足元に壊れた骸骨が転がった。危ない、また背後を取られてしまった。

 

「ありがとう、バーサーカー」

「このくらい当然だよ」

 

 また弓をどこからか取り出して、バーサーカーはしんがりを務める。頼もしいかぎりだ。

 

「それで、英雄っていうとアーサー王とかも?」

「そうですね、可能性はあります。ただ、英霊は知名度によって格が高くなるので、よほど幸運でなければ召喚は難しいと思います」

「ふぅん、そうなんだ」

 

 じゃあアーサー王を召喚するのは難しいってことだな。でも伝説の英雄に会える可能性があるのは、ちょっとワクワクする。

 

「……そう考えると、先輩はすごく幸運なのではないでしょうか」

 

 アキレウスとかもいるのかな、もしかしたら織田信長とかもと思っていると、急にマシュがそんなことを言った。

 

「どうして?」

「先輩は知らないうちにとはいえ、バーサーカーさんを召喚しましたよね?あれほどの強さを持つ英霊は、そうそういません」

「あー」

 

 小声で言われたマシュの言葉に納得する。たしかにバーサーカーは、めちゃくちゃ強い。

 

 これまでの道中、さっきのを合わせて四体ほど髑髏仮面に遭遇したんだけど、バーサーカーはことごとく瞬殺した。

 

 ある時は雷の大槍で、ある時はゴツゴツとした老木のような大斧で、ある時は燃え上がる槍で。

 

 多彩な武器や魔術を駆使して戦う姿は圧巻の一言で、サーヴァントが規格外の性能を誇るという話もよくわかった。

 

 いきなり現れて、いきなり一緒にいることになったけど、彼ほど心強い存在はいない。

 

「あれ、改めて考えると、なんで俺召喚できたんだ……?」

「そうですね。魔術師としては素人の先輩がどうして……」

「それはおそらく、その指輪が関係しているのではないかな?」

「きゃっ!」

「うわっ!」

 

 突然会話に入ってきたバーサーカーに、マシュと二人で飛び上がる。

 

 振り返ると、そこには少しおかしそうに肩を揺らすバーサーカー。まったく、ただでさえ心臓に悪い状況なのに。

 

「失敬。もうこの辺りの敵は掃討できた、先に進んでも良さそうだ」

「あ、お疲れ様ですバーサーカーさん」

「お疲れバーサーカー……それで、指輪って?」

「貴公が手首につけているそれだよ」

 

 バーサーカーの言葉に、自分の腕を見る。そこには相変わらず古ぼけている、狼のレリーフの刻まれた指輪。

 

「それは、かつて私の持ち物だった。それが〝(えにし)〟となって貴公と繋いだのだろう」

「そうだったの?それなら……」

「ああ、返す必要はない」

 

 外そうとした俺を、バーサーカーは手で制する。

 

「その指輪はもう私が……二度とつけることはないものだ」

 

 その声音にはどこか……懐かしさと、とてもとても深い後悔が混ざり合っているような気がした。

 

 少し不思議に思いながらも、それならとかけていた手を解く。それでいい、とバーサーカーは踵を返した。

 

「そろそろ、最初の地点から一キロになります。Dr.ロマンの指定した反応は、この辺りのはずですが……」

「キャァーーーーーーーー!」

 

 噂をすれば、とでもいうように甲高い悲鳴が聞こえてくる。

 

 俺たち三人は顔を見合わせ、頷きあうと悲鳴のした方向に走り出した。早く、この悲鳴の主を助けなくては。

 

「なに、一体なんなのこいつら!?もうイヤ、誰か助けて、レフーーー!」

 

 案外、すぐに声の主は見つかった。

 

 骸骨の群れから逃げ回っているその女性はーー

 

「あの人、俺にビンタした……!」

「オルガマリー所長……!?」

 

 驚いて軽く叫んでしまった俺たちの声に、所長と呼ばれた白髪の女性はこちらに振り返る。

 

 俺たちの姿を捉えると、さらに激しく困惑した表情を浮かべ、かと思えばすぐに後ろにいる骸骨たちに恐怖して前に視線を戻した。

 

「白髪の貴公、前にジャンプしろ!」

 

 どうしよう、そう思っていると隣のバーサーカーがオルガマリー所長に向けて声を張り上げた。

 

 すぐにその声に反応を見せたオルガマリー所長はまたこっちを見て、バーサーカーを見ると先ほど以上に唖然とした顔をする。

 

 しかしそんな場合ではないとわかっているのだろう、バーサーカーの言う通り前に向けて跳んだ瞬間ーー

 

「〝降り注ぐ結晶〟」

 

 骸骨たちの上から、どこからか大量の青白い結晶が降り注いだ。

 

 

 

 ドドドドドドドドドドドッッッ!!!!!

 

 

 

 まるで雨のごとく激しいそれは、骸骨たちを頭上から押しつぶし、砕け散らせ、たった数秒で地面の瓦礫の一部に変えていく。

 

 結晶が途切れた頃には、もう一匹も骸骨は残っていなかった。これ幸いと、俺とマシュは倒れている所長に走り寄る。

 

「所長、平気ですか!?」

「ひっ!」

 

 両手で頭を抱えてうずくまっていた所長は、バッと顔を上げて俺たちを見上げる。

 

 しかし敵でないとわかったのか、ほっと安堵の息を吐いて尻餅をついた。

 

「し、死ぬかと思った……」

「お怪我はありませんか、所長」

「あなた……マシュ?それに、居眠りしてた一般人……」

「フォウ!」

 

 俺たちの顔を交互に見て、驚愕とも疑問ともつかない顔をする所長。そんな所長にフォウが忘れるな、とでもいいたげに鳴く。

 

「一体どういうこと……?」

「ああ、この格好に驚かれているのですね。実はーー」

「サーヴァントと人間の融合、デミ・サーヴァントでしょ。そんなの見ればわかるわよ」

 

 一瞬前の情けない姿はどこにいったのだろう。管制室で見た時のような、冷静な表情になった所長が立ち上がる。

 

「私が聞きたいのは、なんで今になって成功したのかってことよ!」

「それは……」

「それにそこのアンタ!私の説明会に遅刻してきた一般人!」

「はいっ!?」

 

 いきなりビシィッ!と指をさされて、思わず背筋を正す。

 

 オルガマリー所長の顔は、まさしく憤怒の形相だった。後ろに般若のス◯ンドが見えんばかりだ。

 

 お、俺この人に何かしたっけ……ってそうだよ、説明会に遅れたんだよ。

 

「なんでマスターになっているの!サーヴァントと契約できるのは一流の魔術師だけ!アンタなんかがマスターになれるはずがないじゃない!一体どんな非道な手を使ってーー」

「まず怒鳴りつけるのではなく、助けてくれた礼を言うべきではないかな?白髪の貴公」

 

 耳がキンキンするほどの金切り声を受け止めていると、周囲の警戒をしていたバーサーカーがこちらにきた。

 

 片手には見事な作りの杖、ゲームの教主とかが持ってそうな感じだ。あれでさっきの結晶を放ったのか。

 

「すごいね、あんな魔術も使えるなんて」

「はい、現代には残っていない魔術体系です。バーサーカーさんはかなり古い時代の方なのでしょうか?」

「まあ、古いといえば古いだろう。私こそごく僅かしか与えられなかったとはいえ、この時代の進歩には驚いた」

「…………………………き」

 

 三人で話していると、ふと所長がなにかを呟いた。

 

「所長?」

「き………………」

「「き?」」

きゃあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!

『!!?』

 

 所長、発狂。

 

 あまりの音量に耳を塞ぐ。それはサーヴァントになって強くなったマシュでも同様のようで、ちょっと盾の陰に隠れている。

 

「嘘っ、ほんっ、ほんとに!?これ現実!?私の幻覚じゃないわよね!?」

「……いきなりどうしたのかね?私に何かおかしいところでも?」

「きゃーーーー!『最後の薪の王』の生の声!」

 

 キャーキャー言いながら飛び跳ねる所長。それまでのイメージはまるっきり崩れ去り、まるで子供のようだ。

 

 その姿に、クラスメイトを思い出す。前に特典がもらえるとかで、人数合わせで連れていかれたイベントのときこんな感じだった。

 

 所長はしばらく跳ねたりバーサーカーの周りをグルグル回って全身を見つめたりし、ようやく落ち着くと俺に振り返る。

 

「アンタ、名前は?」

「え?」

「聞こえなかったの?名前を聞いてやってんの。ほら、早く言いなさい」

「あ、はい。藤丸立香です」

「そ。ならフジマル、よくやったわ。彼を召喚するなんて、ほんっっとーに少しだけ見直してやってもいいわ。感謝なさい」

 

 えーなにこの超上から目線。

 

「あの、バーサーカーさん。一つ質問よろしいでしょうか」

「何かね大楯の貴公」

 

 ルンルンと後ろに擬音が見えるくらい上機嫌になった所長に混乱してると、マシュがバーサーカーに問いかけた。

 

 

 

 

 

「貴方は……あの〝火の無い灰〟なのですか?」

 

 

 

 

 

「〝火の無い灰〟?」

 

 なにそれ。何かの比喩表現だろうか?

 

 バーサーカーを見ると、動きが止まっていた。顔はわからないけど、とても驚いているように見える。

 

 そのまましばらく静止していたバーサーカーは、やがて深く息を吐いた。

 

「……いかにも。我が真名は〝火の無い灰〟だ。まさか、現代に私の名前が残っているとはな」

「当然です!」

「うおっ!?」

「貴方がいなければ、我々人類の繁栄はなかった。貴方が『火継ぎ』を終わらせたからこそ、古い神の時代が終わり人の時代がやってきたのですから。魔術師の中で、貴方の名前を知らないものはいないわ!」

「そ、そうか」

 

 バーサーカーの手を握り、キラッキラの目でまくし立てる所長。常に冷静沈着なバーサーカーが少し引いていた。

 

 さながらヒーローに会った子供のような所長を見つつ、すすーっとマシュの隣に移動する。そうすると話しかけた。

 

「ねえマシュ、〝火の無い灰〟って?それに『火継ぎ』とか言ってたけど……」

「そうでした、一般人の先輩は知らないですよね。実は魔術師の世界には、ある一つの伝承があるんです」

「伝承?」

 

 鸚鵡返しに聞いた俺に、頷いたマシュは説明してくれようと……

 

「『はじまりの物語』ね!?」

「おわぁっ!」

「所長!?」

 

 にゅっと俺とマシュの間から所長の頭が生えてきた。めっちゃびっくりした。

 

「かの最初の伝説を知りたいと言うのね?ふふん、いいでしょう。それならこの私が直々に説明してあげるわ」

「……なあマシュ、所長はなんでこんなに得意げなの?」

「実は、所長はその伝承の熱心な研究者でもありまして……」

「なるほど」

 

 つまり、好きなことだと途端に饒舌になる感じか。

 

 とりあえずおざなりな反応をして怒られる……ましてやまたビンタが飛んできては叶わないので、俺はおとなしく話を聞くことにした。

 

 

 

「じゃあ始めるわよ。古い時代、まだ世界が分かたれていなかった頃ーー」

 

 

 

 そして俺は、壮大な伝説を知ることとなった。

 




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