灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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後編。

所長が可愛いよ。

楽しんでいただけると嬉しいです。


幽霊の正体? 後編

「え──」

 

 所長が……魔術師じゃ、ない?

 

「それって、どういう」

「不死人の体になって、私はソウルの術を扱えるようになった。あの方や、ルーソフィアに教わって……その代わりに、私の魔術回路は機能しなくなった」

 

 いえ、消えたといったほうがいいかしらと、至極淡々とした口調で言う所長。

 

 あっけらかんとした態度に、俺は驚きを隠せない。

 

 ルーソフィアさんの授業によれば、魔術師にとって優秀な魔術回路は誇りであり、その魔術は文字通り一子相伝の宝だ。

 

 時計塔のロードと呼ばれる、各分野のトップは特にそれが顕著だと。そして所長はアニムスフィア家の……

 

「ソウルとは精神、すなわち魂の術。その力によって魔術は形を成し、奇跡が降り、呪いの術は現れる。わかる? 魂の力一つで、ありとあらゆる神秘が使い放題よ?」

「はあ……」

「つまり、ソウルの強大さ故に私の体には、魔術回路を起動させる基盤が既に残っていないの」

「えっと……つまり、容量不足ってことですか?」

「まあ、一般人のあんたにでもわかる言葉で言えばそういうこと。だから私はもう、魔術世界においてその資格を完全に失った」

「……辛く、ないんですか?」

 

 思わずそう聞くと、所長は少し驚いたように目を見開いた。

 

 その顔は、まるで俺が心配したことが信じられないというようなもので。

 

 

 

 

 

『生まれてからずっと、ただの一度も、まだ誰にも認めてもらえなかったのに──────────っ!』

 

 

 

 

 

 俺はようやく、愚かなほど、最後にこの人が叫んだことを今更ながらに思い出したのだ。

 

 そうだ。この人はきっと、今のままで誰にも気遣うなんてことをしてもらったことがなかったんだ。

 

 それをしてもらうには、俺には到底想像できないほど責任がありすぎる立場の中で踏ん張っていて。

 

 だから、そういう誰もが落ち込んだ時に求める()()()()が、この人には新鮮なんだ。

 

「す、すみません、俺なんかが余計な心配して……」

「なんで謝るのよ。別に何も言ってないじゃない」

 

 無意識に謝罪を口にすると、所長はまたも呆れたみたいに笑って、それになんだか無性に恥ずかしくなる。

 

「そう……そうなのね……たった一言で、こんなにも心が……」

「所長……?」

「んんっ、元とはいえ部下に心配をかけたこと、謝罪します。まあ思うところがないと言えば、嘘になるわ。ご先祖様たちが何代も受け継いできたものを失ったのだもの」

「そう、ですよね……」

 

 魔術師にとって、魔術とは遺産。

 

 その魔術回路も、代々優れた魔術師を選んで守ってきた血筋であるからこそ。

 

 そんな大層な遺産がある家柄じゃない俺には、きっと一生わからない。せいぜいが爺ちゃんの家くらいだ。

 

「けれどね、ある意味清々しい気持ちなの」

「え?」

「我がアニムスフィア家の受け継いだものの消滅、その点だけを見れば私は当主として失格もいいところでしょう……でもその代わりに、ソウルの力の一端を私は手にした」

 

 その言葉にふと、机の上に置かれた観葉植物の鉢の縁に立てかけられた杖を見る。

 

 同じようにそれを見た所長は、杖を手にとって、とても嬉しそうに……そしてどこか慈しむように光を見る。

 

 先ほどから食堂を照らしている光の玉がついたそれが、バーサーカーの使っていたものと同じであるとようやく気がついた。

 

「これは大いなる発展よ。長らくソウルの力をどう扱うのかもわからなかった火の時代の研究、それに進歩……いいえ、革命さえ起こせるわ」

「でもそれを所長が使えたら、なんで使えるんだって話になるんじゃ?」

「あなた意外といいとこ突くわね……ええ、そう。この力は火の時代の終わりとともに失われたもの……」

 

 だからこそ、と一度言葉を切って。

 

「私は存在してはならない」

 

 そんなことを、所長は言った。

 

 まさか、今日だけで人生一番と思えるほどの衝撃を受けるとは思わなかった。そう思えるほどぶっ飛んだセリフだった。

 

「もしこのことが魔術協会に知られようものなら封印指定まっしぐらよ。ようやくあの方の叡智を授かれたっていうのに、冗談じゃないわ」

「ふ、ふう……?」

「ああ、そこはまだ知らないのね。要するに軟禁よ軟禁。希少な能力の保護なんて言ってるけど、一生標本みたいにコレクションされるってこと」

「コレ……ッ!?」

 

 絶句した。それじゃあまるで、昆虫標本みたいじゃあないか。

 

 魔術師の世界の常識は俺たちとかなりズレていると教わったけど、まさかそんなことまでするなんて。

 

 それと同時に、いつも助けられてきたバーサーカーの力がどれだけ魔術世界で価値があるのかを理解した。

 

「これが私がカルデアの所長でいられない理由。ていうか不死人になったなんて知られたが最後、死なないモルモット扱いよ。何されるかわかったもんじゃないわ」

「……俺が思ってたより、ずっと怖い世界なんですね」

「あら、今更わかったの? そうよ、あんたみたいな一般人はずっと隅っこにいればよかったのに、こんな重すぎる荷を引き受けちゃって」

 

 馬鹿にするようなその言い方に、なんとなくしょんぼりとしてしまう。

 

 別に賞賛が欲しかったわけじゃない。栄光なんてもってのほかだ。そもそも所長からすれば俺は部外者なわけだし。

 

 でもやっぱりというべきか、相変わらずというべきか、かなり当たりがきつかった。これぞ所長だ。

 

「俺なりに、全力で頑張ってるんですけどね……」

「そんなのはわかってるわよ。だからあんたの功績は貶してないじゃない」

「え?」

 

 突然の肯定に間抜けな声をあげ、うつむかせていた顔を上げる。

 

「何度も言わせるんじゃないわよ。どこにでもいる凡人にしては、よくやってるって言ってんの」

 

 所長はそっぽを向いて、胸のあたりで両手を組んでいた。

 

 三度は言わないわよと言わんばかりに、フンという言葉が聞こえてきそうな横顔で目だけで俺を見る。

 

 ……俺にオタク文化を教えてくれた飯野。お前がツンデレはいいぞと言っていた意味が今ちょっとだけわかった。

 

「ちょ、何よニヤニヤして。ソウルの矢ぶち当てるわよ」

「死にそうなのでやめてください」

「ったく……そんなわけだから、これからも頑張りなさい。生きてることを知られちゃまずいから、私は手伝えないけど」

「はい、マシュたちと頑張ります」

 

 そこで一旦会話が途切れた。

 

 所長、あ、もう違うのか。ならアニムスフィアさん……オルガマリーさんは馴れ馴れしいよなぁ。

 

「あの、なんて呼んだらいいですかね?」

「は?そんなの好きなように呼びなさいよ。なんで日本人ってそんな引き腰なのかしら?」

「俺に聞かれても……」

 

 そういえば所長、外国人だった。外国人には日本人は奥手に見えるというのは本当のことだったらしい。

 

 あれ? それならなんで話せて……あ、無名の王みたいに日本語を学んだのか?それともこの建物に翻訳機能があるとか?

 

「じゃあ、アニムスフィアさんで」

「他人行儀ね……オルガでいいわよ」

「へ?いいんですか?」

「冬木では一緒に戦ったんだから、特別に許してあげます。光栄に思いなさい」 

 

 またさっきみたいに全然別の場所を守るアニ、間違えた。オルガさん。

 

 というか、結局呼び方を強制されているような……でも2回目だからか、なんとなく本音を察した。

 

 多分、そう呼んでもらいたいんだろう。元は上司だし、怒ると怖いのはわかってるのでここは従おう。

 

「わかりました、オルガさん」

「ちょっと、敬語もやめなさい。もう上司じゃないんだから」

「グイグイきますね!?」

 

 こんなにフランクな人だったか!? それとも一回死んだ経験があるから、何か心境の変化があったのか?

 

「別に……嫌ならいいわよ」

「いや、別に嫌ってわけじゃ……」

 

 ただこう、最初のビンタが強烈すぎて無意識に背筋が伸びるというか……拗ねてぽりぽりクッキーかじってるけど。

 

 あとフォウ、一緒につまんでるけど、お前何でも食べるね? 本当に何の生き物なの?

 

「ロマニとはあんなに親しげに話してるじゃない。私にだけ対応を変えるの?」

「いつ見てたんですか……」

 

 そういや、さっきも何か魔術をどうたらとか言ってたし。姿を消すようなやつがあるのかもしれない。

 

 そこで俺はオルレアンで見たバーサーカーの魔術を思い出した。あれは確か、透明になる……

 

「オルガさん、結構歩き回ってます?」

「うっ……な、何よ、悪いっていうの!?」

「いやいや!ただ、前にここでぶつかったのって……」

「ええそうよ、つまみ食いしに来てたのよ!文句あるの!?」

「まさかの逆ギレ!?」

 

 めっちゃ感情豊かになったなこの人!こんなに子供っぽいところがあるとは思わなかったぞ!

 

 ていうか、もしかしてこの人はしゃいでる?久しぶりに誰かと話したからテンション上がってるのかな?

 

「あの英霊が作るものが美味しいのがいけないのよ……」

「ああ、それはわかります。エミヤの料理、手が込んでるんですよねぇ」

「そう、あの繊細な味付けが……」

 

 和みかけて、ハッとする俺たち。オルガさんがガルルッと威嚇するように睨みつけてくる。

 

 それに気圧されつつも、俺はどうにか頭を回転させて話を穏便な方にシフトチェンジさせる。

 

「えっと、なるべく頑張ってみます。いろんな意味で俺よりすごいオルガさん相手だと難しいでしょうけど……」

「ふん、最初からそう言えばいいのよ……ま、そういうことだから。今後は私を見かけても、人目のあるところでは反応しないこと」

 

 いいわね?と念を押してくるオルガさんに、俺はコクコクと頷く。ソウルの矢を使われたらまずい。

 

 人目のあるところでは、か……あの時最後に言ってたこともあるし、案外寂しがり屋なのかもしれない。

 

 そう思った俺は、立ち上がろうとしているオルガさんに声をかける。

 

「あの、オルガさん。あと一つだけ」

「何よ?」

「あなたが何も成し遂げてないなんてことはありません」

 

 その時の所長の顔を、どう表現すればいいのだろう。

 

 不意を突かれたような、世にも奇妙な言葉を聞いたような、とにかく予想外ど真ん中という顔。

 

 さっきも似たような表情を見たな、などと思いつつ、心の中に浮かんだ言葉を音にしていく。

 

「あなたがいたから、俺は冬木で戦えた。マシュを助けられた。あなたの言葉が、へっぽこ魔術師の俺を勇気付けてくれたんです」

「……藤丸」

「だから、あと一度だけ会えるのなら。一回でいいから言いたかった」

 

 立ち上がり、心の底から誠意を込めて。

 

「ありがとうございました」

「あ──」

 

 俺は、所長に頭を下げた。

 

 あの時、ただ見ていることしかできなくて。本当の絶望を知ったのと同時に、ずっと悔やんでいた。

 

 俺の手は届かない。ただの人間で、何の力もない俺にはこの人はどうやっても助けられなかった。

 

 だから、感謝とほんの少しの後悔と……再会できた喜びを込めて。

 

「だから、これからもよろしくお願いします」

「………………」

「オルガさん?」

「は、恥ずかしいことペラペラ言ってるんじゃないわよっ!」

「あ、ちょっと!」

 

 杖を振った途端、光の球が粒子に変わってオルガさんの体を覆い隠す。

 

 光が消えた時、そこにはもうオルガさんの姿はなかった。きっとあの魔術を使ったのだろう。

 

「あれ……」

 

 机の上にあったクッキーのタッパーがない。さては持っていったな。

 

 抜け目のない行動に苦笑いをしつつ、俺はオルガさんの最後にいた場所を見てポツリとつぶやいた。

 

「元気そうでよかった」

 

 

 

 

 

 

 

 それからすぐ、俺は部屋に戻って眠った。それと腕輪は部屋のトイレの棚に置いてあった。




さて、セプテムのシナリオ確認し直しておこう。

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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