なるべく纏められたつもり。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「まさかこの余が、一度ならず二度までもこうやって助けられるとはな!四、いや五人か?褒めてつかわす!」
この特異点での初めてのサーヴァントとの戦いが終わり、俺たちは女性と一緒に行動していた。
後ろにはずらりと縄で手と足をつながれた兵士たちが並んでいて、行軍に紛れて俺たちも進んでいる。
「先ほど声をあげた姿なき一名は、もしや魔術師の類か?」
『おっ、魔術をお分かりとは話が早い。実は僕と、そこにいる四人はカルデアという組織の──』
「特に、そこな盾の少女と古き騎士よ!見ていて実に爽快であったぞ!」
『あっ遮られた……』
あえなくドクターが自己紹介を撃沈させられていた。女性の勢いの方が強かったから仕方ない。
「こちらこそ、我々のような得体の知れないものを信じてくれて感謝する」
「何を言う!二度も恩を作った相手を無下にはできぬ!なんなら報酬を約束──あ、いや」
何かを言いかけて、女性は言葉を止めた。
何か言ってはまずいことを言った時のような、バツの悪そうな顔だ。よっぽどいけない話だったんだろうか?
「こういったことは、首都に帰ってからの話であるな。すまぬ、忘れてくれ」
「いえ……それよりも、ここまで来たのですから、自己紹介をさせていただければと思うのですが」
マシュ、ナイス! 俺は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
この特異点に来て早々、先ほどの戦いに介入したので、ろくに情報交換ができていないのだ。
さっきもドクターが言おうとしてスルーされたし、マシュの提案は俺たちにとって助かるものだった。
「む、それもそうか。だがまずは余からだ」
カツン、と立ち止まり、バッとスカートをはためかす女性。
「余こそ、真のローマの守護者。まさしくローマそのもの。必ずや帝国を再建してみせる、そう神々・神祖・自身、そして民に誓った者!」
そうして自信満々の表情で、彼女は名乗りを上げた。
「余こそ、ローマ帝国第五代皇帝、ネロ・クラウディウスである──!」
告げられた彼女の名前に、俺は──やっぱりか、と思った。
もちろん驚かなかったわけじゃない。さっき聞いたばかりの皇帝様だと知って、とてもびっくりした。
だが、さっきの戦いでの堂々とした佇まい、そしてあのサーヴァントのように、人を従えることそれ自体が自然であるという態度。
それを先に見ていたからだろう、何故かそんな気がしていたというのが一番正しいだろう。
でも、それより気になるのは……
「……神々、か」
「皇帝ネロ、このような……」
「「…………」」
「ふっふっふ、驚いているな?そうであろうそうであろう!存分に驚き、そして見惚れるがいい。特別に許す」
どうやらその名前に驚いたと思っているらしいネロ皇帝は、自慢げに胸を張る。
女の子と呼んでもいいくらいの見た目でそれをやると可愛らしいのだが、そんなことよりも。
「ネロ皇帝って……」
『じょ、女性だったのか……歴史とは……深いな』
「初めて邪竜ファヴニールを目にした時と同等の驚きです」
「まあ、そういうこともあるだろう。えてして人の記憶と現実は違うものだ」
「時代の移ろいによるもの、ともいえるでしょう」
「?」
首を傾げていたネロ皇帝だったが、納得がいったのか深く追求はされなかった。
それから数時間ほど黙々と歩いているうちに、正面の道の先に壁らしきものが見えてきた。
近づいていくうちにどんどん大きくなるそれは外壁のようなものだとわかり、それをくぐった先には──
「見るがよい!しかして感動に打ち震えよ!これが余の都、童女さえ讃える華の帝政である!」
活気溢れる、素晴らしい街並みが広がっていた。
「わあ……!」
「活気がありますね、先輩!」
ワイバーンとゾンビで溢れかえっていたオルレアンとは比べ物にならない、人の熱に満ちた光景。
そこかしこで笑顔が見られ、疲弊しきったフランス軍の兵士たちを想像していた俺の予想は見事に裏切られた。
「はじめに
「へいらっしゃ……ああっ、皇帝陛下!どうぞお持ちください!」
「うむ、感謝する。ほれ、お主らも一つどうだ?」
「あ、いただきます」
つい反射的に受け取る。店で売ってるものだし、危ないことを気にしなくてもいいよね?
美味しそうに林檎をかじっている皇帝陛下を見てそう思いつつ、真っ赤なそれを齧る。すると甘みが口の中に広がった。
「ん、美味しいなこれ」
「ほう、良い大口だなお主。余はますます気に入ったぞ!」
何やら皇帝様に気に入られつつも、俺たちは腰を落ち着けて話すために皇帝陛下の館へと移動した。
その道行きの中で、子供や通りにある店の人など、様々な人に皇帝陛下は話しかけられていた。
みんな良い笑顔で、ルーソフィアさんの言っていた通り、この時代のローマ皇帝はまだ愛されていたのだなと、そう感じた。
「さて──では貴公らの目的を教えてもらおうか」
館の一室に通されてすぐ、開口一番に皇帝陛下がそう言った。
会議をするためのものだろうか、長い机の端の方に座った俺たちは顔を見合わせ、確認を取る。
この人が今の所、本当のネロ皇帝陛下だということは間違いなさそうなので、事情を話しても良さそうだ。
「俺たちの目的は──簡単に言うと、皇帝陛下を助けることです」
「む?余を助けるだと?」
『そこからは僕が説明をしよう。世界の中心にして、世界そのもの。世界に君臨せし最大の帝国にして、都の名でもあるローマ。この時代、首都が脅かされるはずがない。ならばそこには必ず──聖杯が関係しているはずだ』
そしてドクターは、こちらの目的を皇帝陛下に説明してくれた。
この時代が特異点となっていること、聖杯の影響で歴史に狂いが生じ、結果崩壊の危機が迫っていること。
そして、人類の歴史にとって重要である、歴史上類を見ないほどの大帝国であるローマの滅亡を防ぎに来た、と。
『──ということです』
「……う、むむ。よくわからぬ。余にもわかる言葉で説明せよ」
「すみません、理屈っぽい人なので……」
「私たちの目的は、究極的には聖杯……とある特別な魔術の品。それは在るだけで周りの事象を狂わせてしまうものであり、このローマを蝕んでいる原因である可能性が高いと予測しています」
「ふむ……」
腕を組み、目を瞑る皇帝陛下。俺たちの話を信じるかどうか、考えているのだろう。
しばらくの間、沈黙が部屋の中を支配する。なんだか居心地が悪くなり、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「……なるほど、聖なる杯が我がローマをな」
「信じていただけるのですか?突拍子も無い話ですが……」
「うむ、不思議と違和感を覚えぬのでな。特に聖杯、だったか……いや、気になるのはきっと杞憂であろう。いつかそんな悪夢を見ただけだ」
「えっと……?」
「ああすまぬ、こちらの話だ……だが、危機というならば大いに心当たりがあるぞ!」
皇帝陛下が部屋の外に向かって声をかけると、兵士の人が大きな紙らしきものを持ってくる。
机の上に置かれたそれは、どうやら地図のようだった。多分ローマ帝国の版図とかだろう。
「我が国は今、危急の時にある」
「というと、先の兵士たちか」
「左様。栄光の大帝国は今やバラバラに引き裂かれ、二つとなってしまった」
近うよれ、とでも言うように手招きをする皇帝陛下に、俺たちは席を立ってそちらに行った。
すると、俺には読めない文字が書き込まれた土地の版図がバッサリと線で二つに分かたれていた。
「片や、余が統治する正当なるローマ帝国。この首都ローマを中心とした領域だ。そしてもう一つが──」
トン、と二つになった領土の片割れに置かれる指。それが示すのは……
「なんの前触れもなく、突如として姿を見せた複数の『皇帝』どもが統べる連合だ」
「皇帝、貴方は叔父上と言っていた。つまり先ほど襲い来たあれも、その一人であると?」
「……皇帝カリギュラ。我が叔父であり、かつて皇帝だった男だ。そしてそのような者たちが集まって出来た〝連合ローマ帝国〟は帝国の半分を奪ってみせた」
確かに、そんな大それたこともサーヴァントならば決して不可能じゃない。兵士も結構いるみたいだし。
「斥候はことごとく消息を絶ち、首都の位置すらわからない始末。そして我が宮廷魔術師も、『皇帝』の一人に歯向かって果てた。実に困ったことだ」
この時代の人間は、決して弱いなんてことはないはずだ。
それなのにこの状況ということは……さっき話に出たカリギュラという皇帝しかり、やはりサーヴァントの力が大きいのだろう。
『おそらく、その皇帝のうちの誰かが聖杯を手にしているんだろうね』
「それがこの特異点の原因となっているのでしょう」
「であれば、連合帝国の強大さにも納得できる。奴らは各地で暴虐の限りを引き起こし、民を苦しめているのだ」
「今回の戦いから推測するに、貴方は兵力のほとんどをその鎮圧に充てているのでは?」
バーサーカーが唐突に、地図を見てそう言う。皇帝陛下は驚いたように彼を見上げた。
「貴公、なぜわかったのだ?」
「貴方は皇帝、この国最大の要であるはず。だというのにあの少なすぎる兵の数から鑑みるに、そこまでの余裕はないと判断したのだが」
「うむ、その通りである。だがそれでもなお、奴らの勢いはとどまるところを知らん。口惜しいが……今の余の脆弱さを思い知らされた気分だ」
「ネロ皇帝陛下……」
「で、あるからこそだ!」
うわびっくりした! いきなり大声を上げられて、ついビクッとしてしまった。
「貴公たちに命じる。いや、頼む!余の客将となってはくれぬか!」
「きゃく……しょう?」
なんだ、きゃくしょうって。古典の授業で聞いたような……客商売……の略では絶対になさそうだし。
意味がわからずにルーソフィアさんを見ると、雇われて戦う傭兵のようなものであると教えてくれた。
「余は戦力が欲しい。そして貴公らは聖杯を手にするために拠点が必要なはず。もし協力してくれるのなら、余とローマが後援しよう」
『願っても無い申し出だ。どちらも得がある』
「先のオルレアンで、支援の有り難みはよくわかったからな」
「皇帝陛下に力を貸し、私たちが連合を打倒すれば聖杯も手に入るでしょう」
「先輩、どうしますか?」
「うん、そうしよう。皇帝陛下、よろしくお願いします」
「おお、そうか!快諾してくれるか!はっはっは!今日は良い日だな!」
朗らかに笑う皇帝陛下の笑い声が、部屋の中に響いた。
ちょっとコンパクトにしすぎたか。
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