うーん、前回でガクリと色々落ちましたね。各特異点で一人だけ英霊を呼ぶのは初期構想からありましたが、余分な要素に見えたか?
とにかく、今回からガリア。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ジャンヌ・ダルク・オルタを召喚し、首都に帰った俺たちを出迎えたのは戦地への遠征だった。
向かう先はガリア。皇帝陛下と、首都の防衛の為に残す兵士以外の全ても引き連れての行軍になった。
彼女がこの時代の重要な人物である以上、皇帝陛下に何かあったらまずいことになる。
だから、気を引き締めて遠征に望んだわけだが……
「アッハハハハ!どうした!かのローマ帝国の精鋭がこの程度か!」
十字架をかたどったような黒い剣が、天に向かって掲げられる。
そして落ちるのは神の祝福ではなく。ただどこまでも黒い炎に包まれた杭のような槍が降り注いだ。
それは偶然遭遇した連合帝国の兵士たちを、いとも容易く倒していく。槍に貫かれ、そして炎が爆ぜるのだ。
「そんなものですか!もっと楽しませなさい!」
嬉々とした笑顔で敵を蹂躙するオルタは……それは楽しそうだった。
「うむ、あれがお主らの連れてきた新たな戦力か。確かに凄まじい力であるな」
「正式に先輩と契約していますので、制御はできているはずです……一応」
「俺もそう思いたいよ……」
暴れ回っているオルタを見ながら、マシュと二人で遠い目をする。
あれでもかなり大人しくなったんだよな……召喚したての時とか、シミュレーションで敵を仲間ごと焼き払おうとしてたし。
通常の聖杯戦争においては、一人のマスターにつき英霊は一人。それだけで十分の戦力だからだ。
つまり、沢山の英霊が集まるカルデアはそれだけ危険な場所でもあるということ。
だからこそ、俺の任務には英霊とのコミュニケーションも含まれてるんだけど……オルタは本当に大変だった。
「ルーソフィアさんがいなかったら、俺全身火傷だらけなってるんじゃないかな」
「医療スタッフとしては仕事冥利につきますが、あまり無茶をなさらぬよう」
「うっ、わかりました……」
「敵であった時はかくも厄介なものかと思っていたが、味方となると実に頼もしいな」
ルーソフィアさんの隣にいたバーサーカーのつぶやきをたまたま聞いて、そういえばと思い出す。
オルレアンでバーサーカーはオルタや、他のサーヴァントを一人で相手にして一度死んだのだ。
今目の前で薙ぎ払われている兵士たちと同じ経験をしたのだろう、考えるだけで恐ろしい死に方を。
「あら、もう品切れですか。全く歯ごたえのない連中です」
そうこうしているうちに、オルタが全ての兵士を倒してしまった。
左右から挟み込むような形で挟撃してきた、百人を超える兵士達。それを、たった一人で蹴散らしたのだ。
全く出番のなかった……というかオルタに邪魔だと一喝された……兵士が、生き残った人たちを捕らえる。
俺は、その様子を眺めているオルタに近づいた。
「お疲れ様。流石だね、オルタ」
「当然でしょう? 私は竜の魔女、破滅の象徴たる女。あの程度の雑兵にてこずることなどありえないわ」
俺の言葉に鼻で笑うように返し、得意げな顔をするオルタ。
「うん、わかってる。オルタなら平気だって信じてたよ」
「……そ。ならいいです。さあ、あの連中を引き連れてさっさと進むわよ。まだまだ戦いが待っているのでしょう?」
また暴れるのが楽しみだと、そう言うようにオルタはいつものように一番活き活きとした顔で笑った。
頼もしさと、ほんの少しの恐ろしさを感じながら、俺は彼女の言う通りに先に進むことを皇帝陛下に勧めた。
「はっはっはっ!相変わらず、その手勢の数でよくやるものよ!」
再び行軍を始めて、皇帝陛下の第一声はそれだった。
「おまけに今度は、マシュやそこの古き騎士は一歩も動かず、声のみの魔術師の情報と面妖な力を持つ女一人のみと来た。貴公たちはいつも私を驚かせてくれるな」
「あら、そう言うのならこれからも敵は全て私が倒してさしあげようかしら?その時は見た目はご立派なこの兵士たちが置物になるわよ?」
「うむ、本当にできそうであるな!いっそのこと、全員まとめて客将でなく正式に迎え入れたい気分だ!」
皮肉げに言うオルタにすらも、皇帝陛下は大きな声で笑って言葉を返した。
ジャンヌは舌打ちして、そっぽを向くと黙ってしまう。自分のペースに乗せられなかったからか?
「どうやら皮肉は通じんらしいな」
「うっさいわよ似非バーサーカー。ていうかあんたと話すと苛立つから話しかけてくるな」
「……これは失礼した」
……こっちはこっちで剣呑だなぁ。
オルレアンでのことが原因なのか、バーサーカーは気にしてないっぽいけど、オルタが彼を毛嫌いしている。
それにしても、似非バーサーカーか……うん、確かにこれまで見てきた敵を見ると、狂気ってなんだっけみたいな所はある。
「先輩が何やら納得している様子です」
「フォーウ」
「む、そこの二人は仲が良くないのか……しかし、お陰でここまで無事に来られた。もし余のものになった暁には、連合帝国を倒した後にブリタニアの地をやろう」
「か、考えておきます」
皇帝陛下に答えを濁しながら進み、ガリアの地に入ったのはすぐのことだった。
幸いにも、野営地に到着するまでこれ以上連合帝国の兵に遭遇する事もなく、俺の心は少し軽かった。
野宿は慣れているというか、日常レベルに浸透しているが、それでもちゃんとした寝床があると思えば気が楽になる。
「皇帝ネロ・クラウディウスである!これより謹聴を許す!」
野営地に到着してすぐ、皇帝陛下の命令で全ての兵士が集められた。
ここまで一緒にやってきた部隊よりも、更に大勢の軍隊。それが規則正しく並ぶ様は圧巻だった。
「ガリア遠征軍に参加した兵士の皆よ!余と余の民、そして我らがローマのためにご苦労!これよりは余も遠征軍の力となる。一騎当千の将もここにある!」
皇帝陛下が手を横に広げ、俺たちに無数の視線が向けられる。
まるでこちらを見定めるようなそれに、ゴクリと自分が生唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえる。
無意識に背筋を正していると、突然背中に衝撃が走った。イッテェ!?
「オ、オルタ?」
「何を怖気付いているのですマスター。貴方にはこの私が付いているでしょう」
「はい。私やバーサーカーさんもいます。胸を張ってください、先輩」
「……うん、そうだね。ありがとう二人とも」
そうだ、俺はマシュたち三人のマスターなんだ。彼女たちのためにもっと堂々としていないと。
「この戦い、もはや負ける道理はなし!──余と、愛すべきそなたたちのローマに勝利を!」
ワッ、と一斉に歓声が上がる。
鼓膜が破けてしまったのではないか、そう錯覚するほどに、皇帝陛下の一言で絶大な熱気がこの場に満ちたのだ。
「すごい歓声ですね。これが皇帝ネロ全盛期のカリスマですか」
『ああ。こんな人物は、晩年は……』
「ドクター。それ以上はお控えを」
『うん、わかってるよルーソフィアさん。過去を生きる人間に未来を知らせない。それが鉄則だ』
演説が終わり、兵士たちはそれぞれの持ち場に戻っていく。
そんな中で、こちらに近づいてくるふたりの人物に気がついた。
『む、その反応。藤丸くん、そこに……』
「はい、わかってます」
なんとなく、程度の感覚だけど。ドクターの指摘に俺もあの二人が何者なのかを察した。
全く敵意はないが、それでも一応マシュたちに目配せをして警戒している中で、彼女たちやってきた。
「思ったよりも早いお越しだったね、ネロ・クラウディウス陛下」
「うむ。息災であるか」
「まあね。で、そっちのご一行が噂の客将かな? 話は聞いてるよ」
「初めまして。藤丸っていいます。こっちはマシュ、バーサーカー、ルーソフィアさん、それにオルタです」
一応、代表として俺がマシュと一緒に歩み出る。
二人組のうち、話しかけてきた女性はへえと感心したような声を漏らした。
「確かに、見かけによらず強そうだ。とにかく、遠路はるばるこんにちは。私は〝ブーディカ〟。もう気付いてると思うけど、サーヴァントだよ」
「ブーディカ……」
「ブリタニアの女王。東ブリタニア、ノーフォーク地方を治めたイケニ族の女王。ローマ帝国とは敵対関係にあったと記憶しています」
「おや、そちらの女性は物知りなんだね。そう、私は元女王。今は縁あって、このガリア遠征軍の将軍を勤めてるんだ」
ローマ帝国と敵対してたのか……それなのにこっち側にいるってことは、何か事情があるんだろう。
とりあえず、ブーディカさんのことは把握したので、今度は隣にいるもう一人の方を
「それで、こっちが……」
「──戦場に招かれた闘士が、また新たに三人。喜ぶがいい、此処は無数の圧政者に満ちた戦いの園だ」
野太い声で、その岩のような……というか筋肉そのものみたいな見た目に反さず威圧感のある言葉。
全身を、なんというのだろう。拘束具って言ったらいいのかな? そんな格好をした彼も、サーヴァントの気配を持っていた。
「あまねく圧政者、そして強者が集う、強大な悪逆が迫っている。今こそ反逆の時だ!さあ共に戦おう、比類無き圧政に抗う者よ!」
そう声を張り上げて、歯を見せ笑うそのサーヴァントに、俺たちは。
「「「「「………………」」」」」
……え、っと。
「あの、なんて……?」
「すみません先輩、私に少し意味を理解する時間をください」
「何言ってんのかしらこの筋肉ダルマ。ほら似非バーサーカー、あんた一応同類でしょ。通訳しなさいよ」
「ふむ……なるほど。そういうことか」
「個性的でございますね」
「え?あんたら本当に解ってんの?」
何を言ってるのかちょっとよくわからない。悪逆とか圧政とか、恐ろしい単語だけは理解できた。
「うわあ。珍しいこともあるんだなぁ」
「えっと、ブーディカさん。一体どういう……」
「ああ、ちょっと彼コミュニケーションが取り辛いところがあってね。まあ喜んでるってことだけ解ればいいよ」
「は、はぁ……」
とりあえず、歓迎はされているみたいだ。
「反逆の勇士よ、汝は我が前に名を示した。我が名は〝スパルタクス〟!共に自由の青空の下、悪逆の帝国に反旗を翻し叫ぼう!」
「えっと、よろしくお願いします」
『なるほどね。つまり彼らははぐれサーヴァントということか。そして自由意志で、時代を守護する側に立っている。これは心強いぞ』
あ、そういうことか。
つまりこの二人はオルレアンで出会ったマリーさんや、モーツァルトさんと同じ、この地に呼ばれた英霊。
確か、この異常事態に対するカウンター召喚だったか。一人でも英霊が多いのなら、とても頼もしい。
「おや、君が姿の見えない魔術師殿か」
『おっと、これは失礼。先ほどは名乗り損ねた、僕はロマンだ。よろしく頼むよ』
「はいはい、ロマンね。結構優秀な情報提供者なんだって?揃いも揃ってお気に入りになりそうな面子だ。ねえ皇帝陛下?」
「……」
「ネロ陛下?」
なんか苦しそうな顔をしている。どうしたんだ……?
「ん、何か言ったか?」
「もしかして、また頭痛?」
「そのようだ。少し疲れたようだな。ブーディカ、客将たちを頼む」
「わかったよ。ついでにガリアの戦況について教えておくから」
「では、頼んだぞ。余は少し床につく。藤丸たちも、聞くべきことを聞いた後にしっかりと休むがよい」
「わかりました」
「ネロ皇帝陛下、お大事に」
皇帝陛下は、野営地の奥へと去っていった。そちらに一番大きいテントがあるのだという。
「さ、私たちも行こっか。あっちのテントだよ」
ブーディカさんに案内されて、作戦会議用のテントに向かう。
多くの人が中に集まるためか、周りのテントと比べてそのテントは結構な大きさだった。
そして、入り口の布をくぐって中に入ると──
「おや。ようやくお越しになったか、我が王とその主よ」
そこには、烏兜の教主がいた。
ここでも出たよロンドール。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。