最後の数行を追加したので、先に読まないと、今回の最初のやりとりの意味が少し不明瞭になります。よろしくお願いします。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「びっくりしたね……」
「はい。まさか、彼女……ロンドールのユリアさんが、この時代にもいるなんて思いもしませんでした」
「フォーウ」
マシュと二人、野営地の端っこにある丘でそう話し合う。
ブーディカさん達と一緒にガリアでの戦況を教えてくれたのは、オルレアンでも会った火の時代の人だった。
「確か、正しい歴史から一定の人数が減ると召喚されるんだっけ」
「オルレアンではそのようにおっしゃっていました。彼女は、人間を導く者だと」
「何にせよ、あの人がいるならもっと心強いね」
「そうですね」
素人の俺でも、オルレアンの兵士たちはかなり統率されていたことはわかる。それこそワイバーンに対抗できるほどに。
あの人がいるならば、これから先の戦いにも少しだけ安心できる気がした。
「やっ、君たち。さっきぶりだね」
「反逆者達よ、そこにいたか」
「あ、ブーディカさん。それに……スパルタクスさんも」
後ろを振り向くと、ついさっきまで一緒にいたサーヴァントの二人がいた。
「あれ? 古い鎧の彼に仮面をつけた女性、それとあのツンケンしてそうな子は?」
「バーサーカーさんは、周辺の確認をしてくると言って森の方へ。斥候がいないかを確認しているそうです」
「オルタはどこかに行っちゃいました」
群れるのは断りよ、なんていつもみたいに言い捨てて、さっさと霊体化して何処かに行ってしまった。
もしかしたら案外近くにいたりするかもしれない。何気に近くにいたりすることがたまにあるから。
「ルーソフィアさんはおそらく、野営地の何処かにいるかと」
「そっか……あ、そうだ! どうせなら君達のことを聞かせてよ」
パッと笑って、マシュの隣に座るブーディカさん。スパルタクスさんはそのまま突っ立ている。
座らないのかな?と見上げたらニカッと真っ白な歯が見える笑顔を浮かべ、俺の横にのっそりと腰を下ろす。
俺たちだけだった夕焼けの丘が、一気に倍に増えた。隣にいるスパルタクスさんの圧がすごい。
「ンフォーウ」
「あはは、なにこの生き物。よく分からないけど可愛いな、このこの〜」
「私たちのこと、ですか?」
「うん。これから一緒に戦うんだ、相手の人となりを知ってなきゃ頼りにもできない。だからここは、親睦を深めると思ってさ」
『その意見には僕も賛成だよ』
「あ、ドクター」
腕を持ち上げて腕輪を操作すると、声だけでなくドクターの映像がホログラムで浮かび上がる。
「おや、あなたがずっと声だけを届けていた魔術師殿?へえ、頼りないけどいい人そうじゃない」
『しょ、初対面の女性にまで……僕ってそんなにふわっとしてるように見えるのかなぁ?』
「「うん(はい)」」
『二人とも酷いっ!?』
いやだって、この前もお饅頭食べて緩んだ顔してたし。ふわふわした雰囲気だし。
エミヤのお手製だから仕方がないけどね。一度食べたらもう、下手な料理は食べられない中毒性がある……
『とほほ……ま、まあとにかく、彼女達と親睦を深めるというのは重要だと僕は思うよ』
「そういうこと。魔術師殿もそう言ってるしさ、お姉さんに聞かせてごらん?」
うっ、こてんと顔を傾ける仕草が可愛い。何というか、見ていてほんわかとするというか……
「先輩?どうかしましたか?」
「ハッ!?い、いや何でもないよ?」
「そうですか?突然仰け反ったので、一体どうしたのかと……」
「ほんと、何でもないから。それよりほら、ブーディカさんと話そう」
「は、はい……?」
いけない、ブーディカさんの露出度の高い服装とのギャップで思わずドキドキしてしまった。
マシュは妙に慌てている俺の様子に首を傾げていたものの、あまり気にすることもなく話し始めた。
「──というわけで。この時代の重要人物であるネロ皇帝陛下を守るため、ひいては人理を修復するために、私たちはこの時代にやってきたのです」
「なるほどねえ、そんな遠い異郷から……そっかあ、そんなこともあるのかあ」
俺たちの話を聞いたブーディカさんは、納得したようにうんうんと頷く。
「事情はわかった。しばらく一緒に戦うことになると思うけど、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お二方がいて頼もしいです……あの、こちらも一つ質問をよろしいでしょうか」
「ん、何?」
ブーディカさんが不思議そうな顔をすると、マシュは躊躇いがちな口調で問いかけた。
「なぜ、貴女はネロ皇帝陛下の下に……?」
「……ああ。まあ、そこは気になるよね。どうして女王ブーディカがローマの将軍に、って」
「はい。記憶が正しければ、貴女は……」
そこから先を、マシュは言わなかった。
だが、先ほど初めて顔を合わせた時のルーソフィアさんの解説が脳裏をよぎり、なんとなく内容を察する。
具体的にどうだったのかまでは聞かなかったが、敵対していたローマにどうして協力しているんだろう?
「最初は本当に驚いたよ。ローマに全てを蹂躙されたこの私が、よりによって死んだ直後のこの時代に召喚されるとは、ってね」
「その……報復、などは考えなかったのですか?」
「勿論考えたさ。国も、娘たちも、ローマには何もかもを奪われた。ネロ公に復讐をする機会が与えられたとさえ思った」
もしもここにルーソフィアさんがいれば、その経緯を詳しく語り、より彼女のことを知ることができたのだろう。
でも、そんなものは必要ない。
だってそれを語るブーディカさんの表情は……笑っているのに恐ろしかったから。
「でもね。連合帝国に食い荒らされてる今のこの国を見たら……気がついたら体が動いちゃってね」
「そしてネロ皇帝陛下に協力した、と?」
「あいつのためじゃなくて、ここに生きる人々のためにね……あるいは生前、復讐のために虐殺したロンディニウムの連中への負い目かもしれない」
「自分でもわからないのですか?」
「うん、正直ね。でもきっと、これが私の本質。何かを守るために戦うのが一番向いてるって、そう思うの」
今度の笑顔は、冷たくなかった。
間にマシュを挟んで見た笑い方は、まるで自分の生き方に呆れるような、でも満足したような顔だ。
……似てる、と思った。マリーさんやモーツァルトさんもこんな風に自分の生き方を語っていた。
後悔がない、ってわけじゃないと思う。そんなものよりも、色々な者を受け入れた上で笑っているように思えた。
「だからさ、君達も私がどんな存在なのか……ってことは、ネロ公にはあまり言わないでくれるかな」
「もう死んでるって分かったら、余計に悩むからですか?」
「そういうこと。あいつ、前以上に危なっかしいというか。余計な気遣いをさせて負担を増やしたら、戦況がどう動くかもわからないしね」
「……理解しました。貴女は正しく、誇り高き英霊なのですね」
「ん?私が?」
「はい。人々が憧れる英雄の姿、悪逆を制し、人々を救う象徴……そのように感じました」
「にゃはは、そう見えたのならたまたまだよ。まあ、悪い気はしないけどね」
照れ臭そうに笑うブーディカさん。微笑むマシュにつられて、俺も口元が緩むのが分かった。
「結局、こうしているのは偶然だ。ただあっちの方が気にくわないから力を貸した。それだけのことなの。そこにいるスパルタクスだってそうだよ?」
「スパルタクスさんも?」
「うん。多分あいつには、連合の兵士一人一人が全部圧政者に見えてるんじゃない?」
「な、なるほど……?」
「それは頼もしいですね……?」
「フォフォウ?」
「おお!圧政者よ!すでに闘技場の壁は崩れ去った!今やこの大地全てが我がコロッセオである!」
「うわびっくりした!?」
耳元で大声出されたから鼓膜が破けたかと思った!
体育座りしてるスパルタクスを見ると、グリンとその目がこちらを向き、ニカッ!と笑う。
「反逆者よ!まだ見ぬ圧政者たちを、共に我らが肉体と不屈の精神の前に、その悪逆なる力を屈服させようぞ!」
「ほら、一緒に戦おうって言ってるよ。味方じゃないけど、今は敵でもないから安心しろって言いたいのかな?」
「(わかりません)」
「(全然わからない)」
マシュと内心が一致したような気がした。
「でも、これで改めて安心できました。このように自然に現界した英霊であっても、自らの意思で時代の修正の側に立つ人もいるのですね」
「やだなあ、大袈裟だってば」
「はははは、見るがいい。この肉体、この傷こそが反逆の証。圧政者たちも今にわかることだろう」
「あ、照れてるんですね」
「先輩!?わかるようになったんですか!?」
いや、会話の流れ的になんとなくそうかなって……
「ハッ。それくらいはっきりと敵でないと言ったほうが潔いですね。殺された相手に協力するなんて、私は正気を疑いますが」
「あれ?オルタ?」
後ろを見ると、いつの間にかそこにオルタが立っていた。
胸の前で腕を組み、嘲笑うような笑い方で俺たちを見下している。いかにも通りがかりましたって感じだ。
「やっぱりずっといたんだ?」
「ハァ? ずっといたですって? 自意識過剰も甚だしい。偶々聞いただけよ、偶々」
「いやでも、さっき殺されたのに手伝うなんてありえないって」
「………………マスター、そういえば今日はまだ火あぶりになってなかったわね?」
「いや一度も火あぶりにはなりなくないよ!?」
「うるさい!とりあえず一回燃えときなさい!」
「ちょっ!」
マジで燃えてる槍が出てるんですけど!ちょっとオルタさん、手を振り下ろすのをやめ──!
「黒焦げになっときなさい!」
「マスター!」
俺に向かって飛んできた槍は、かろうじて動いたマシュがかざした盾によって受け止められた。
「うわっ!」
「きゃっ!?」
が、その表面で炎が爆発して、斜面で不安定な姿勢だったマシュと一緒にすっ転んだ。
「あいたた……ありがとマシュ」
「いえ……それよりもオルタさん、やりすぎでは?」
「フン。余計なことを言うからよ」
そっぽを向いたまま、オルタはその場で消えた。霊体化してしまったのだろう。
マシュと顔を見合わせて苦笑いする。どうやら、まだまだ和解するのは先になりそうだ。
「大丈夫?」
「あ、はい。いつものことなので」
「もう慣れました」
「あれが普通って、相当じゃじゃ馬だね」
「さあ、我が手を取るがいい。同胞、反逆者よ」
二人に手を貸してもらって立ち上がると、ふとブーディカさんがマシュを見つめていることに気付く。
こう、じーっという擬音が聞こえてきそうなほど見つめている。穴が開くほどマシュを見つめている。
「ふんふん、盾の英霊か……それも混ざってる……」
「あ、あの……?」
「あ、ごめんね。さっ、そろそろ良い時間だ。ご飯を食べよう。私がブリタニアの料理をご馳走してあげる」
「ブリタニアの料理、ですか?」
「私、興味があります」
「それはよろしい。さ、腹が減ってはなんとやらだからね!腕によりをかけて作るよ!」
力拳を作るように腕を掲げるブーディカさんに笑いながら、俺たちは野営地へと戻っていった。
さて、サクサクいくぞ。次回から戦闘だ。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。