以前に言った通り、この章からコンパクトに行きますので、早速前振りなしに戦争突入です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ガリア。
かつて皇帝ネロの下、ローマ大帝国の一部として統治されていた地。
しかし、突如として現れた皇帝連合、そして皇帝連合へと与したローマ兵たちによってその大半を奪われた。
それから幾度となくしてガリアでは争いが起こり、ネロ率いるローマ軍はかの地を取り戻すために奮闘した。
圧倒的兵力差、そして彼らを率いる〝皇帝〟の一人の前に、最初はなす術もなく敗北を喫する。
だが、何処からか現れた二人の将軍、そして未だ正体の掴めない〝導き手〟と呼ばれる軍師の登場により戦況は変わる。
未だ大半が占領されているものの、徐々にローマ軍は勢いを増し──そして再び戦争が始まった、今。
「申し上げます、皇帝陛下。敵軍の攻勢が前回よりも増している──と、前線からの早馬がありました」
「……ふむ。して、その理由は?」
「新たに前線に加わった、皇帝ネロ率いる小部隊が驚異的な突破力をもってして進撃をしているとのことです」
「ほう」
その兵の知らせに、指揮官たる〝彼〟は声をあげた。
敵の首魁が現れたことに対する驚きか、それともこちらが劣勢であるということへの感心か。
あるいはその両方ということもあり得るだろう。ただ兵の目には〝彼〟が焦っているようには見えなかった。
「恐らくは、
「そうか」
「は。して、いかがいたしましょう」
「構わん。放っておけ」
「は……?」
再び、兵は目の前の男が発した言葉の真意を計りかねた。
だがそんな彼の内心を知る由もなく、男はやれやれとでも言いたげにため息を吐いた。
「
「と、仰いますと……」
「神々の気まぐれも、ここまでくると笑い話にもならんな。何が──セイバーのクラスだか」
贅肉の乗った頬に薄ら笑いを浮かべ、男は自らの運命を嘲るように言う。
「この私に、わざわざ剣を執れなどとはな」
「ま、まさか……それは、皇帝陛下
「阿呆め。奴らが私の前に来るのだ、こちらは動かん。お前たちもそれなりに相手をして退くがよい。兵の無駄だ」
「し、しかし!我らは真に正当なる連合ローマ帝国の兵士です!」
至極冷静に命令を下す男に、兵士は激昂するように声を荒げる。
「ガリア支配は神々の意図なれば!おめおめと引き下がるなど!」
「死に急ぐ必要がどこにある。アレらに人は敵わん。適度に戦い、退け。私は貴様らの死など望んでおらん」
「ですが……」
「それとも──皇帝の命令が聞けぬか?」
ギロリ、と翡翠の瞳を兵士に向け、威圧感を発する男。
おおよそ人とは思えぬプレッシャーに、絶対的なものとその思慮を見た兵士は口をつぐんだ。
「それで良い。そら、行け」
「はっ!」
兵士が走り、離れていくのを見送り、男は腰掛けた椅子に背を預ける。
戦場の中においては豪奢なそれは、憂うような表情を浮かべる男の立場を表していた。
「最も、私がどう言おうと貴様らはその命を捨てることになるのだろな。自らが信ずるローマのために」
思うは自らを、そして連合を信じ、そちらに与した兵士たち。
兵士とてローマ市民だ。かつて皇帝であった彼もまた、その死を嘆く気持ちがある。
「まったく、〝あの御方〟の酔狂も大概だな……完璧な統治、完璧な統率。それは
そして次に自らが従う相手を思い出し、戦場を見据えた。
「さて。あと如何程でここへたどり着く?今代の皇帝と、英霊たちよ」
その威厳を示すかのような赤いマント、全身についた贅肉を更に上から覆う黄金の鎧。頭に乗るは月桂樹の冠。
その脂肪さえなければ絶世の美貌を表しそうな男──〝皇帝〟が一人は、面白そうにくつくつと笑った。
「進め!我らに敗北はない!」
そんな彼が見つめる戦場で──藤丸たちは死に物狂いで戦っていた。
新たに参列したネロの指揮の下、圧倒的兵力を前にしてガリア解放軍はこれまで以上に奮闘している。
「バーサーカー!3時の方向に新しい部隊!」
「了解した!」
「マシュは前衛を抑えて!オルタはその隙に突き崩してくれ!」
「了解しましたマスター!」
「ハッ、蹴散らしてあげるわ!」
その所以はやはり、ネロが連れてきた藤丸たちにある。
何処の異国とも知れぬ古鎧の騎士と、年端もいかない少女、見たこともない国旗を手に敵を蹂躙する女。
それらを従える、遥かに年下の少年。それが自分達の軽く5倍は敵兵を倒し、快進撃を見せている。
誇りあるローマ帝国の戦士として、更には敬愛する皇帝の前で、彼らに負けていられるはずもない。
「我らが皇帝陛下に勝利をぉぉおおお!」
「客将ばかりに後れを取るな!ローマの意地を見せつけろぉおおお!」
「押し返せええええ!」
幸い、彼らが連れてきた異邦の魔術師の歌によって体の調子も良い。
そこに、これまでにないほど高ぶった士気が上乗せされたならば、もう負けはしない。
『すごい熱気だ!君達と一緒にいるネロ皇帝の小部隊だけでなく、他の兵士たちまで優勢になりつつある!』
「ドクター、次は!?」
『ああ、ごめんごめん!つい熱中してしまった!そこから右に敵の部隊を迂回しなさい!敵陣への近道になる!』
「ありがとうございます!」
ロマンの感想に返答をする余裕もなく、この場の戦況を俯瞰できる彼に情報を貰った藤丸は次の思考に移る。
ここにおいても、彼のやることは変わらない。
見て、聞いて、感じて、そして考える。
その全てを同時に行うことは、戦争の素人には過酷なことだ。
その上、魔力のパスを通じたサーヴァントたちの状況確認と並行してほぼ常に前進しているために、体力の消耗も激しい。
オルレアン以降、諸々と更に鍛えておいて良かったと、今更ながらに思った。
「くっ、なかなか抜けられない!」
「うむ!敵ながら天晴れだ!よもや余の部隊をここまで押さえ込むとはな!」
しかし、敵とてただ数が多いばかりではない。
破竹の勢いで連合軍を蹴散らし、あと少しで敵陣へと攻め込むところまでやってきた藤丸たち。
しかし、ここに至って攻めあぐねている。最後の意地とでも言うように、敵陣への侵攻を阻まれていた。
「ハァッ!」
「ハハハハハ!圧政者の手先たちよ!我が肉体、我が力の前に滅ぶがいい!」
足が止まりかけていたその時、敵軍の兵士を吹き飛ばして、二頭の馬が引く戦車と、筋肉の塊が現れた。
藤丸たちの前に停止した戦車の上に乗っていたのは、赤髪の女傑。そして兵士たちに向かって暴れまわっているのは、灰色の大男。
「ブーディカさん!スパルタクスさんも!」
「ネロ公!藤丸くんたちも!ここは私たちに任せて、一点突破で本陣までいきなさい!」
「しかし、貴公たちは……」
「私たちは心配しないで!大将を取ればこっちのものなんだから!」
ぴしゃりといいつけるように、顔を曇らせるネロに突き出された槍を盾で弾きながらブーディカは叫ぶ。
かつて敵として相対した時と全く変わらぬ、この国を守るために助力してくれた好敵手にネロはグッと口元を引き締める。
「皆の者!これより本陣へ強襲をかける!余に続くのだ!」
『藤丸くん、サーヴァントたちを!』
「はい!」
ドクターの言葉に言わんとするところを察し、藤丸はパスを使って英霊たちに呼びかける。
「みんな、戻ってきてくれ!」
〝了解した〟
「わかりました!」
召集の言葉に、灰がソウルを通じて、比較的近い場所にいたマシュが肉声で返す。
ほどなくして、大楯で敵兵を蹴散らしながらマシュが現れた。同様に、灰が包囲網を突っ切り戻ってくる。
「マスター、今帰還した」
「ご無事ですか?」
「うん。それよりもオルタは──」
戦場を見わたそうとした、その時。
轟音をあげてそこまで離れていない場所が爆発した。咄嗟にそちらを見ると、空へ燃え上がるのは漆黒の炎。
その中心で、旗を掲げる魔女の姿があった。雑兵などいくらいようとも関係ないと言わんばかりに嗤っている。
思わず見惚れる藤丸に、目線を合わせた彼女は先ほど彼がそうしたようにパスを介して話しかけた。
〝さっさと行きなさい。あの筋肉ダルマと女王サマに力を貸してあげるわ〟
「……わかった。気をつけて」
〝ハッ、誰にものを言ってるのかしら〟
皮肉で返してきたオルタに苦笑し、藤丸はマシュたちに振り返ると前進を伝えた。
一瞬疑問に思ったものの、二人の使い魔はマスターの言葉に従い、ネロ率いる部隊とともに本陣へ進んだ。
「後少しだ!決して足を止めるな!」
ネロの激励に応、と兵士たちは応え、藤丸たちも同じほどの気勢を伴って戦い続ける。
「せぁあッ!」
マシュの大盾が敵の攻撃をいなし、弾き、相手が無防備になれば、容赦無く峰打ち(?)を入れた。
「フンッ!」
灰が大斧を振り下ろして雷を落とし、あるいは精神力を絞ることで威力を抑えた呪術で敵を一掃した。
そうすることで、結果的にネロ達の活路を開いた。指揮官としても優れたローマ皇帝は、その穴を見逃さない。
「今だ!行け!」
素早い判断に兵士たちは従い、サーヴァント達が開けた穴に飛び込むように足を進める。
雄叫びと怒号が支配する戦場を抜け──そしてついに、彼らの目の前に敵の本陣が姿を現した。
此度の戦争が始まった時に比べれば、舞台は随分と人が欠けている。だが半数以上が健在のまま到達したのだ。
「やっと着い──」
『いや、待て!止まるんだ!』
藤丸の腕輪から響いた声に、咄嗟に全員が立ち止まる。
なぜ止めたのかと言葉に出す前に、藤丸は自らの目に映ったものによってその理由を理解した。
連合軍のガリア侵攻軍。その本陣は小高い丘の上に設置され、今や藤丸達の目と鼻の先にある。
だが。その行く手を阻むものがいた。
「おい、何だあれは……?」
「獣……いや、違うぞ!」
「あ、あの化け物は一体!?」
口々に、それらを見たローマ兵達が驚愕と恐れの入り混じった言葉をこぼす。
本陣を取り囲むように、丘の上に何体も寝そべっているもの。
それは
「ドクター、あれは……」
『わからない。魔力反応があるから、通常の生物でないことは確かだろうけど……』
「……罪の異形。かつて煌びやかだった都を罪過の炎で燻らせた者達、その成れの果てだ」
マシュの疑問に、灰が静かな声で答える。
罪の異形、と彼が呼んだものが詳しくどういったものかはわからないが、火の時代のものである事はわかった。
「して、騎士よ。奴らは貴公らが苦戦するほど強き相手か?」
「いや。ただ馬鹿力と堅牢さは目を見張るものがある」
かつての火の時代、イルシールの地下牢よりさらに地下深くに埋もれた都を思い返す灰。
(……あの異形がいる、という事は。つまりこの特異点には、もしや
ほんの一瞬、思考に耽った灰はすぐさま武器をスパイクメイスへと持ち返る。
あの異形たちに対して有効なそれを手に、自分を見るマスターたちやネロらの前へと立った。
「奴らの相手は私がする。その間に、本陣へと駆け抜けろ」
「……わかった」
「お願いします、バーサーカーさん。皇帝陛下、行きましょう」
「うむ。勇猛なる騎士よ、決して死ぬでないぞ!」
「なに、そこは私の
軽く冗談を返した不死人は、一人異形たちへ向けて走り出す。
八メートル、五メートル、三メートル……そして二メートルまで距離を縮めた、その時。
「ヴォォォオオオ……!」
鈍重な獣たちは、ようやく目を覚ました。
次々と彼らの指のような器官が開かれ、掌に隠された悍ましい瞳が灰を捉える。
「さあ、こちらに来い……!」
「「「「ヴァアアアア!」」」」
異形たちは、地響きを立てながら藤丸たちから離れていく灰を追いかけて行ったのだった。
「今のうちに!」
「うむ!皆のもの、あの騎士の勇気を無駄にするな!進めぇ!」
流麗な、かつ力強い声音で放たれた号令に応え、彼らは本陣へと進む。
流石に無防備なわけもなく、兵士たちは本陣を守る部隊とぶつかり合った。
「皇帝陛下!我らが押さえているうちに彼らとお行きください!」
「すまぬ!さあ、藤丸、マシュ!」
「はいっ!」
「わかりました!」
ブーディカら、灰、そして部下たちの助けを借り、藤丸たち三人は本陣へと踏み込んだ。
「──ようやく来たか。待ちわびたぞ、まったく」
そして彼らを、〝皇帝〟の一人が出迎えた。
「ふうむ。この戦い、助太刀をすべきか、あるいは──む? あれは……」
これ、タマネギの人どこで出そうかな。もう次に出しちゃっていいかな。
カエサル戦、ショートカットしていいと思います?
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。