今回は独自解釈、主人公のオリジナル設定が含まれます。
楽しんでいただけると嬉しいです。
──いわく。神々が生まれ出ずるより以前の古い時代。
まだ世界は分かたれず、霧に覆われ、灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった。
だが、いつかはじめての火がおこり。火と共に差異がもたらされた。
熱と冷たさと、生と死と、そして光と闇と。
そして、闇より生まれた幾匹かが火に惹かれ、王のソウルを見出した。
最初の死者、ニト。
イザリスの魔女と、混沌の娘たち。
太陽の光の王グウィンと、彼の騎士たち。
そして、誰も知らぬ小人……
それらは王の力を得、古竜に戦いを挑んだ。
グウィンの雷が、岩のウロコを貫き、
魔女の炎は嵐となり、
死の瘴気がニトによって解き放たれた。
そして、ウロコのない白竜シースの裏切りにより、遂に古竜は敗れた。
火の時代の、はじまりだ。
だが、いずれ火は陰り、最後には消える。
世界は闇に満たされ、夜に包まれて……人々に呪われたダークリングが現れるだろう。
その度に、誰かが火を継いだ。己の身を
彼らは《 薪の王 》と呼ばれ、その強大な力ゆえに名を残した。
そうして古き火継ぎが繰り返されること数百年……ある一人の不死が現れた。
その者逃亡騎士の鎧を纏い、魔術と数多の武具を司る名もなき灰。
彼はかつての薪の王たちを屠り、玉座に連れ戻し。
最後に王らの残り火を受け、はじまりの火を継いだ者。
それから、火が絶えることはなく。
ダークリングが人の中に現れることもなかったという──
●◯●
「──故に彼はこう呼ばれた。《 最後の薪の王 》と」
まるで演説でもしているかのごとく流麗な声で、物語は締めくくられた。
近くの手頃な岩に座っていた俺とマシュは、パチパチと拍手を送る。ふふん、と所長は胸を張った。
バーサーカーは、そんな所長とは正反対に自分の話を聞くのが恥ずかしいのか、ポリポリと兜をかいている。
すごく壮大な話だった。おそらく俺を含めて男なら誰もが憧れ、頭の中に繰り広げるような、そんな伝説。
「これが『はじまりの物語』。神代よりさらに昔、すでに一切が滅んだとされるかつての古い神と人が生きた時代を象徴する神話よ。ちなみに〝火のない灰〟というのは、彼の最も知られた通称のようなものね」
目を輝かせる俺にさらに気をよくしたのか、所長はウィンクして人差し指を立てた。上から目線じゃなきゃ可愛いな、この人。
「すごい、それじゃあバーサーカーは大英雄なんだ!」
「そんなに大げさなものでもないさ。私はただ、この身を火にくべただけのこと」
褒めるも、バーサーカーはあくまで謙遜した。そんなところまでストイックな騎士っぽい。
「でも、そのおかげで今の俺たちの時代があるんでしょ?それならバーサーカーは、紛れもなく英雄じゃないか」
「まあ、マスターがそう思うならそれでもいい。あいにくと、この身には余る称号だがね」
どうやらバーサーカーは、この扱いに不満があるみたいだ。
俺なら英雄って呼ばれたら、不釣り合いと思いつつちょっとは嬉しくなっちゃうと思うけどなぁ。
いや、こういう性格だからこそ英雄なのかな?うん、きっとそうだ。
「卑下する必要はありません。繰り返しますが、あなたこそ人理の基礎を作ったのです」
「……むず痒いな、私などたいした男ではないのに…………なぜ、君は私のことなど尊敬するのだい?」
「それは、あなたが最も根源に近い存在だからです」
「根源?」
思わず首をかしげる。一般人の俺には魔術師の言う根源がなんなのかわからない。
そんな俺にため息をついて、「仕方ないわね」となんとも面倒臭そうに言いながら所長は説明してくれる。
なんだかんだ言って面倒見いいなと思ったら、ギロッと睨まれた。変なこと考えるのはよそう。
「魔術師とはこの世の真理に至らんとする者のことであり、そのために一生を捧げるわ。その道のりは一人で終わらず、何世代にも渡って研究は続けられる」
真理とはすなわち起源、つまり根源。この世の全てを知る叡智を求めて、魔術師は魔術を行使し研鑽を続ける。
そんな魔術師にとって、世界に差異を作った『はじまりの火』はまさしく根源そのものであるらしい。
それを継いだ『薪』たちもまた然り。その最後の王であり、唯一存在が記録として明確に残っているバーサーカーは至高の存在だとか。
「『はじまりの火』を継ぎ、根源の力に触れた者。時計塔のロードの一人として、これを崇拝しない理由はありません」
「えーと……つまりスーパーヒーローに憧れるみたいな?」
「先輩、例えがチープです」
仕方ないじゃん、色々聞きすぎてよくわからないんだもの。
「……なるほど、そういう理由か」
俺の隣で黙って聞いていたバーサーカーが呟く。
「だが白髪の貴公。あれは貴公ら現代の魔術師が思っているほど良いものではないよ。あの火は、ただの呪いだ。最後には人間性を燃やし尽くし全てを忘れ、単なる薪となって消えるなど滑稽でしかない。あれを継いだところで、いいことは一つとしてないさ」
深く、強く断言する。それがある種のオーラになって、背筋にゾワッと悪寒が走った。
話の途中で聞いたところによると、ダークリングは人を不死にする。
それだけ聞いたら良いものに聞こえるが、それは死ぬたびに記憶を、感情を失って最後には亡者になる呪いの証だという。
陰ればダークリングを人々に刻むはじまりの火は、バーサーカーにとっては単なる呪いを撒き散らすものでしかないのだろうか?
「ですが、あなたはこうして話をしている。それがあなたがまだ人である証明なのでは?」
「いいや、私も多くを忘れたさ。両親の顔すら覚えていない。覚えている最初の光景は……………………」
「……?」
「……とにかく、私は憧れるような存在ではない。それだけは断言する」
自分は、決して英雄などではない。
そういう思いが、全身から強く伝わってくる。そんなに火を継ぐというのは苦しいことなのかな?
「……それでも、あなたが今の人理が始まる最大の要因であることに変わりはありません。魔術師以前に一人の人間として、私はあなたに深く感謝します」
「……強情だな、貴公は」
「あなたこそ、英雄の名に恥じぬ程には」
ふっと所長が笑う。バーサーカーも心なしかわずかに微笑んでいる気がした。
「マシュ、マシュ。俺この空気に入れないよ」
「大丈夫です先輩、私もです」
「何言ってんのよ、彼を召喚したアンタこそ知っとくべきでしょうが。外野みたいなセリフ吐いてんじゃないわよ」
耳ざとく聞かれて怒られた。だが正論なのでごめんなさい、と頭を下げておく。
「でも、全部滅んじゃったのにどうやって伝わったんですか?」
素朴な疑問を口にする。
確か所長はさっき、一切が滅んだ時代と言っていた。
何も残っていないのなら、一体どうやってこの時代までその火の時代のことが伝えられたんだ?
「ああ、それね。実はたった一つだけ、火の時代の遺物が残っているのよ」
「ええっ!?」
「……何?」
再び目を輝やかせる俺。
無理もない、俺も男だ。超古代の遺物とかオーパーツとか、超気になる。
「『火の暦書』。そう呼ばれる教本というか手記というか、ある教団の教主が残した一冊の本が発見されました。今から何百年も前のことです」
「そこから私たちは、火の時代を知ったのよ。以来、火の時代と彼のことについて研究が進められてきた」
「それって一体どんな?」
「暦書にはね、さっきも話してあげた伝承およびその発祥の地名、彼の外見の挿絵や使っていた武具・魔術の一部、教団の掟……そして書いた者の名前、行ったことは書いてあるけど、それ以外のことはほとんど記載されていないの」
なるほど、じゃあつまり……
「私たちが研究するのは、『はじまりの火』とは具体的になんなのか。どこにあるのか。そして……」
そこで所長は、バーサーカーに目を向けて。
「彼が、どうやって『火継ぎ』を終わらせたのか」
「…………」
「私は主にそれについて研究しているわ。あとは当時の魔術体系とか宗教とか、その他諸々ね」
所長の目には、今すぐにでもバーサーカーからそのことについて聞きたいという色が出ていた。
それにまたクラスメイトのことを思い出す。ネットサーフィンしててたまたま見つけた情報をボソッと言ったら超食いついてきた。
「……ふむ、そうだな。ここから全員無事に脱出して、時が来れば話そう。それでいいかな、白髪の貴公?」
「ええ、それで構いません。しっかり言質をとりましたからね」
「所長がこれまで見たことないほどに積極的です……」
「やっぱり好きなことだと、誰でも夢中になっちゃうよね」
俺は特にこれといってこれが好き!みたいなのはないけど。あ、でも美味しいもの食べるのは好きだな。
……あ、そういえば。
今思い出したけど、俺がずっと見てる夢とか、大鐘を見たときに垣間見たビジョン。あれは何か関係あるのだろうか。
夢の中の騎士はバーサーカーと瓜二つだし、内容も合致する。でも、なんで俺がそんな夢を…………
「ところで一つ、尋ねてもいいか?」
「はい、なんなりと」
「貴公はその手記を書いた者の名も残っていると言った。それを教えてはもらえないだろうか」
「ああ、気になるわよね。もちろんお教えします。『火の暦書』にあった著者の名前は…………
「…………………………そうか」
それだけ答えると、バーサーカーは黙ってしまった。所長とマシュと三人で顔を見合わせ、首をかしげる。
しばらくすると、沈黙していたバーサーカーは腕組みを解いて「もう大丈夫だ」と言った。何か気になることでもあったのかな?
『……あのー』
「うわっ!」
いきなりドクターのホログラムが出てきて飛び上がる。びっくりしたぁ!
『話も一区切りついたところで、僕も会話に参加していいかい?』
「ドクター、もしかしてずっと聞いてた?」
『まあね。オルガマリーが上機嫌で話してたから水もさすのも悪かいなと思って、静かにしてたんだけど』
「ロマニ!?なんであなたが仕切ってるのよ!あなた医療部門のトップでしょう!レフは、レフはどこ!レフを出しなさい!」
所長が金切り声をあげた。ああ、またヒステリックに戻った。
『……オルガマリー、よく聞いてくれ。現在確認されているカルデアスタッフの生存者は、僕を含めて20名に満たない。その中に、レフはいない』
「…………え?」
『つまり僕より上の権限を持つ者がいないから、ここにいるんだ。我ながら全く適任じゃないけどね』
絶望。
ドクターの報告を聞いた所長の顔を一言で表すなら、おそらくそれが最も適している。
さっき逃げていた時もレフ教授のことを呼んでたし、よっぽど頼りにしてるらしい。もしかしてそういう関係とか?
所長が呆然としている間に、ドクターは色々と話していく。空間固定ができて通信が安定したこと、補給物資が届けられること。
今カルデアは八割の機能を失っていて、スタッフが慌てて走り回っていること、外部との通信が出来次第立て直しを図ること。
それと……俺以外のマスター全員が、あの爆発で瀕死であること。今は凍結処理をして難を逃れたらしい。
ちなみになんで俺と所長がレイシフトしたのは、コフィン?という装置に入ってなかったためだ。
『ともかく、バックアップの準備は一応整った。安心してくれていい』
「了解しました……あの、所長。平気ですか?」
「…………ええ、なんとか。それでロマニ、あなたの判断は正しいわ。私でも同じ判断をするでしょう」
『お褒めに預かり光栄だよ。それじゃあ、引き続き街の探索を続行、特異点の原因解明をしてくれるかい?』
「……色々と最悪の状況だけど、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィア家の誇り。この特異点、必ず解明してみせましょう」
おおっ、すごいオーラだ。こういうのがカリスマ性があるっていうんだな。さすが、カルデアの所長なだけある。
『健闘を祈るよ。マシュ、バーサーカー。所長と藤丸君のことを頼んだ』
「はい、必ず守ります」
「承知した。そちらも頑張りたまえ」
心強い微笑みで頷いて、ドクターは通信を切った。先ほどまでの四人の状態に戻る。
「聞いたわね?あなたたちをこの特異点の調査メンバーと認め、探索を行います。気を引き締めてかかりなさい。でなければ、カルデアは教会に食い尽くされて終わりよ」
「はい!」
「了解しました」
「全力を尽くさせてもらうよ」
所長の命令とともに、俺たちは町の探索へと繰り出したのだった。
これ、無印のほうもいちおうタグにのせとくべきですかね。
感じたこと、思ったことを書いていただけると幸いです。