灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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ちょっと他の作品と別の事情で心が軋みを上げていますが、なんとか今日の分は書き上がりました。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ガリアでの戦い 5

 

 

 三人称 SIDE

 

 時は少し遡る。

 

「ふうむ、中々強いな貴様ら」

「くぅっ……!」

「こやつ、なんという強さだ……!」

「くっ……!」

 

 悠然とそこに立つ男に、いくらか疲労の見える顔で剣と盾を構えるネロとマシュ。

 

 その後ろで指示を出していた藤丸は、これまでの短時間の戦闘でこのサーヴァントが見せた力に戦慄していた。

 

 贅肉に包まれた体に似合わぬ速さ、的確さ、そして力強さ。

 

 斬りつける剣は重く、そして防ぐ剣は正確。攻撃と防御、それぞれに優れた二人のどちらかがいなければすぐにでも崩れる。

 

 元より英霊とは()()()()()()であると理解はしていたが、見た目以上に厄介な相手だった。

 

『さすがは最優と呼ばれるセイバークラスのサーヴァントか……!』

「いや。そもそも、名称たる私に剣を振るわせる事それ自体がおかしいのだ。人材の使い方が誤っている」

「あれだけの卓越した剣技を持っていて、何を……!」

「くっ、偽の〝皇帝〟のくせにやるではないか……っ!」

 

 自分の剣が届かない不甲斐なさに歯噛みするネロに、しかし男はふむと声を漏らすと呆れたような顔をした。

 

「それは違うぞ、ネロ・クラウディウス。私もまた、正真正銘の皇帝だ。最も、その称号を聞いたのはこうして現界してからなのだがな」

「何を世迷言を……!」

「貴様の剣、実に美しい。貴様自身の勇気もな。故に、我が名を明かそう」

 

 突然そう言い始めた男に、その場にいる全員が訝しげに彼を見た。

 

 そういえば。こちらには名乗らせたが、この男は一度たりとも自らの名を明かさなかった。

 

 つまりそれは、これまで名乗るにも値しないという事で。屈辱と怒りがネロの心をよぎる。

 

「私の名は──()()()()

「────」

 

 だが。そんなものは、男の明らかになった名前に全て吹き飛んだ。

 

「今、何と……?」

「〝ガイウス・ユリウス・カエサル〟、それが私だ、皇帝ネロ・クラウディウスよ」

「それ、は……初代皇帝以前の、支配者の……」

 

 彼女は、その名前を知っていた。

 

 未だ、ローマが帝国にあらず、それ故に皇帝という称号もなかった頃。しかし当然統治者はいた。

 

 そして、男の名乗ったその名前は──皇帝の称号が誕生する以前の、このローマの支配者のものだった。

 

「まさか、遠い過去に死した者が……?」

「既にカリギュラには会っているだろう? つまりそういう事だ」

 

 呆然とするネロに突きつけるように、カエサルは言う。

 

()()だ。私も、奴もな」

「ッ……!」

「おお、酷い顔だ。肩の力を抜け、笑え。お前は美しい、世界の至宝たるその美しさを失ってはいかん」

「ガイウス・ユリウス・カエサル……!」

「本物の、過去の皇帝の英霊……!」

 

 同様に驚く藤丸たちに、硬直していたネロから目線を移したカエサルは語りかける。

 

「そこの盾の少女、お前も美しいな。マスターの方もそこそこの指揮能力だったぞ」

「「……!」」

「その勇ましさを讃え、一つだけ教えてやろう……お前たちの求めるモノ(聖杯)は、我らが城にある」

 

 その情報に、数秒の間三人は呆然としていた。

 

 今、目の前の男は。自分たちがこの時代へやって来た目的の物を所有していると、そう言ったのだ。

 

 予想外にもたらされた情報により困惑する藤丸たちにカエサルは笑い、「だが」と前置きをする。

 

「正確には我らのものではない。宮廷魔術師を務める男が所有しているな」

「な、それって……!」

「……ガイウス・ユリウス・カエサルさん。その人物の名を、教えていただけますか」

「ならん。既に健闘への褒美は与えた。あとは私を倒せた時に聞くがいい。さすれば答えてやらんこともないぞ?」

 

 どうやらこれ以上口を滑らせるつもりはないらしい。

 

 再び剣を構えるカエサルに、三人は勝利して貴重な情報を持ち帰るため、そして更なる情報を手に入れるために身構える。

 

 それを見たカエサルは、彼女らの意気込みを評するように笑った。その瞬間全身から魔力が吹き出す。

 

「良い気迫だ。ならば私も本気を出すとしよう。あの聖杯は、私も個人的な願いのために欲しいのでな」

「この魔力量は……!」

「むう、現世へ帰った死者のカラクリはよくわからんが、あれがまずいことだけはわかるぞ!」

「ドクター!」

『なんてことだ……! 魔力量、出力ともに急上昇! これまでは手加減していたみたいだ!』

 

 ロマンの言葉に呼応するように、カエサルの体に剣が現れた時と同じ魔力の粒子が纏わり付く。

 

 それは石のような色をした鎧へと変わり、カエサルの体を覆った。

 

 どうやら、言葉通りの全力のようだ。

 

「さて、ではここからは一切の手加減はしない。久々にしっかりと体を動かすことにしよう」

「くっ、名を聞かなければその発言、迷いなくその体ごと切って捨てたものを……!」

「敵性サーヴァント来ます! マスター、指示を!」

「ああ!」

「行くぞ!」

 

 構えた藤丸たちに、有り余る余裕を持った笑顔でカエサルは襲い掛かった。

 

 

 

 それから、藤丸たちは必死に戦った。

 

 

 

 カエサルの本気はまさしく圧倒的と言って良いものであり、彼らは大いに苦戦する。

 

 藤丸が指示を飛ばし、マシュが豪剣を防いで、そのタイミングでネロが斬り込み、カエサルを打倒しようとした。

 

 だが、流石は皇帝の称号を持たぬとはいえ、ローマの支配者たる英霊。

 

 二対一という数の差に一歩も怯まず、むしろ藤丸たちを堂々とした姿勢で追い詰めていった。

 

「フハハ、どうした! 勢いが衰えたぞ!」

「くぅ……!」

「これが、初代皇帝以前の支配者の実力……!」

「くっ!」

 

 一切の手抜きなしの戦闘が始まって、10分か、あるいはほんの数分か。

 

 その感覚さえ、藤丸は曖昧になっていた。それほどまでにカエサルは強大であったのだ。

 

「ふうむ、しかしよく持ちこたえる。本当に良いぞ、貴様ら」

「むう、これ以上どう攻めれば……!」

「どうにかして、突破口を……!」

 

 攻めあぐねている二人の後ろで、藤丸は自分の指揮の至らなさに顔を渋らせる。

 

(どうする……どうすればいい!)

 

 せめてあと一人、いれば。そう藤丸は考えた。

 

「だが、あまり長くも相手していられんのでな。そろそろ終わらせよう」

「ッ! 何をする気だ!」

「魔力量、急上昇! マスター!」

『まずいぞ藤丸くん! 宝具だ!』

「わかってます!」

 

 カエサルの握った黄金の剣に、粒子状になった魔力が収束していく。

 

 マシュやロマンのように魔力を観測できない藤丸にも、あのように目に見えていれば理解できる。

 

 いざとなれば、マシュの宝具を展開することも視野に入れなければならない。

 

「ではゆくぞ! 次で最後だ、今代の皇帝、そして異郷からの者達よ!」

「マシュ、宝具展開の用意! 皇帝陛下はマシュの後ろへ!」

「はい!」

「ぬう、致し方ないか!」

 

 この場で最大の守り手であるマシュが、どこから攻撃が来ても良いように身構える。

 

 ネロと藤丸はその盾の後ろに退避した。その内に、カエサルの魔剣はその力を発揮した。

 

「〝私は来た! 私は見た! ならば次は──〟」

 

 だが。

 

 

 

「〝──雷の大槍〟」

 

 

 振り上げられた黄金剣が、その力を解き放つことはなかった。

 

「ッ!」

 

 とっさに頭上から降り注ぐ雷に気がついたカエサルは、宝具の展開に出力していた魔力を強化に回す。

 

 解き放たれていた黄金の光は剣に留まり、それをもって雷を斬り払い……()()()()()()()()()()()も受け止める。

 

 

 

 ガギィンッ!!!

 

 

 

「──貴様。一体何者だ」

「貴公の首を断つもの。ただそれだけだ」

 

 鋭く細められたカエサルの瞳と、彼が頭の上に掲げた剣と拮抗する大斧を持つ騎士──灰の赤眼が交差する。

 

 跳躍、からの空中で回転することで遠心力をつけた大斧は、激しく火花を散らして黄金剣を押す。

 

「ヌンッ!」

 

 が、そこに巨大な手を模した鎧を身につけた左手が柄を握ることで形勢は逆転し、むしろ騎士が押される。

 

 即座に競り負けることを予測した灰は、至近距離でカエサルへとククリナイフを投げつけた。

 

 それを咄嗟に手で払った隙に、灰は飛び退いてマシュの近くへと着地した。

 

「すまない、遅くなった」

「「バーサーカー(さん)!」」

「お主は! 外の化け物たちはどうしたのだ!」

「案ずるな、しっかりと始末してきた」

 

 ネロの問いかけに答えながら、油断なく大斧を構える灰。

 

 その立ち位置から一瞬で灰の立場を察したカエサルは、またも不敵に笑う。

 

「一人増えたか。貴様はあの魔術師が言っていた厄介なサーヴァントだな。これはいよいよ人材編成のやり直しを要求したいところだ」

「魔術師、か……その前に私たちが貴公を倒す」

「それは困るな。ではまとめて屠ろう」

 

 再び黄金剣を構えるカエサル。宝具こそ灰の介入によって不発に終わったものの、まだまだ健在そうだ。

 

「マスター、指示に従おう。あのサーヴァントを倒すぞ」

「……わかった。マシュ、ネロ、頼む」

「了解しました」

「うむ。頼りにしておるぞ、騎士よ!」

 

 新たに灰を加え、戦力を増した藤丸たちはカエサルと三度の戦闘に臨んだ。

 

「マシュは防御と撹乱! 皇帝陛下は攻撃を続けてください! バーサーカーは遊撃を!」

「はい!」

「応っ!」

「了解した」

「さあ、お前たちの意地を見せてみろ!」

 

 マシュがカエサルの豪剣をいなし、ネロが攻める。

 

 そこまでは先ほどと何ら変わらない。

 

「ふっ!」

「ぬう、弓か!」

「よそ見をするかッ!」

「ははは、これは余裕というものだ!」

「やらせません!」

 

 だがそこに灰が加わった途端に、二人の動きに余裕が生まれた。

 

 ネロの攻撃後の隙、マシュの防御する間の穴、藤丸が次の動きを支持するまでの思考時間。

 

 そういったものを的確に判断し、ある時は弓で援護を、ある時は槍や斧でネロと共に攻勢を、またある時はソウルの術で妨害をする。

 

 

 灰は長い間一人で戦ってきた。

 

 

 その中において鍛えられた観察眼は、何も敵ばかりに有効なわけではない。

 

 あるいは……数少ない共に戦った者との再会が、その眼を研ぎ澄ませたか。

 

「ええい鬱陶しい! あの魔術師が言っていたのはこういうことか!」

「私は厄介だぞ。それこそ()()()()な」

 

 何度目か、剣を大盾で弾いた灰にカエサルは渋い顔をする。

 

「〝大発火〟」

「なんだと!?」

 

 すかさず灰は離した左手に〝呪術の火〟を出現させ、そこから至近距離で大爆発を起こす。

 

 そのような術まで使ってくることは想定外だったカエサルは思わず仰け反った。

 

「皇帝陛下!」

「ハァッ!!」

「ガッ!?」

 

 そこへネロが裂帛の叫びと共に、ついに一太刀浴びせた。

 

 パッと鮮血が舞い、カエサルの体が斜めに切り裂かれる。

 

 後ろによろめくカエサルにさらにもう一撃浴びせるネロだが、そちらは身を引かれて浅くなった。

 

「今のは相当の一撃だったはずです!」

『いや、まだ魔力は衰えていない。だが痛手ではあるはずだ』

「ふ、その通りだ……このカエサル、そう簡単には倒れんぞ」

 

 戦意の衰えない目で笑うカエサルに、一時的に下がった灰たちも闘志を漲らせて攻勢を仕掛ける。

 

 

 

 

 そうして、彼らの戦いは長く続いた。

 

 

 




次回でガリアは終わります。

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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