楽しんでいただけると嬉しいです。
藤丸 SIDE
「ひ、ひどい目にあった……」
「凄まじい場所でしたね……」
「うむ……流石の余もあれは疲れたぞ」
「……アレも人を謀る類の神だったか」
「私も、少しばかり疲れました……」
『おおう、精神的バイタルの著しい低下……実際に見ていなくても、どれだけの激戦だったかよく分かるよ』
〝形のある島〟島内の洞窟から出てきた俺たちは、一斉にその場で崩れ落ちた。
あの女神様、褒美があるとか言いながらとんでもないところに誘導してくれた。
この洞窟の中にそれがあると言われ、来てみたら出てきたのは大量の魔獣とゲームで見たことのあるキメラっぽい化け物。
後少しだけ油断してたら危ないところだった。バーサーカーが時々、神様に対して冷めた思考なのもわかる気がする。
「とりあえず、浜辺まで帰還しましょう……」
「そうだね……船も心配だし」
「むう。あの女神、余の船と余の兵に何もしてはおらんだろうな?」
少し……いや結構な疲労感に苛まれつつも、休憩を切り上げて体を動かす。
帰りの道は、みんなほとんど無言だった。
あの元気溌剌なネロ陛下でさえも静かで、余程疲れたんだろうとわかる。
時々襲いかかってきた魔獣に関しては、もう相手するのも面倒という風に速攻でぶった斬って進む。
マシュやバーサーカーもそんな調子で、森を抜けて浜辺に出た頃には、すっかり太陽が東に傾いていた。
「や、やっとついた……」
「先輩、お疲れ様でした」
「どうやら船はなんともないようですね」
「ああ。さっさとあの女神を見つけ出そう」
「余は寛容だが、今回ばかりは少し怒っている……」
覇気のない愚痴のようなものが漏れながらも、船に近づいていく。
すると、船のすぐ側で、浜辺に打ち上げられた流木に腰掛けている女神ステンノの姿を見つけた。
「あら、お帰りなさい。とっておきのご褒美は楽しんでいただけたかしら?」
「余は、余はもう疲れた……へろへろだ……」
「閉鎖空間での連続戦闘は、さすがに堪えるものがあります」
くたくたに疲れた俺たちを見て、女神ステンノはくすくすと面白そうに笑う。
まるで俺たちが苦難にあった事そのものが楽しいと言わんばかりの顔だ。こ、これが神様なのか……
「だらしないわねー。あのくらいどうって事ないでしょ?」
「あははははは!」
あんまりな態度の女神ステンノに更に疲労感を増していると、聞き覚えのある声と笑い声が聞こえた。
驚いて顔を上げると、いつの間にか女神ステンノの隣に──アイドル系サーヴァントがいる。
しかもその隣には、メイド服を着た犬だか猫だが狐だかわからない女性も。
「先輩、敵性個体が二体です。変なことをしでかす前に蹴散らしましょう」
「敵か? まだ敵がいるのだな? よし、わが剣の錆にしてくれようぞ」
「ちょ、またこの反応なの!?」
「二人ともストップストップ!」
ゆらぁ……と某精神パワーみたいにオーラを纏う二人をなんとか宥め、現れた二人を見る。
「エリザベート、でいいのかな?」
「何よ、もう私のこと忘れたってわけ?」
どうやら記憶はオルレアンの時から継続しているみたいだ。
サーヴァントは召喚される度に別人らしいが、どうしたことか今のエリザベートは俺たちの知ってる彼女らしい。
「それにしても、随分と苦戦したみたいねー。ま、子イヌたちなら仕方ないでしょうけど」
「……突然出てきて、なんだ貴様? 無粋かつ無礼なやつめ」
「あんたこそ何よ、相変わらず偉そう……って、魔力感じない? え、何あんた、生きてるの?」
「何をわけのわからんことを言っている。どう見ても余は健在であろう」
「「?」」
えっと、なんのことを話しているんだろうか。
エリザベートはネロ陛下をジロジロと頭の天辺からつま先まで見渡して、へえーと言っている。
なんだか、久しぶりに会った友達を珍しかってるような……二人が生きてた時代は全く別のはずだけど。
「むう、なぜかこやつの目線が親しみを含んでおる気がする」
「なるほど、わかったわ。つまり生ネロってわけね!」
「な、生……?」
「ええい人を肉か何かのようにいいおって! いい加減寛大な余でも限度というものがあるぞ!?」
「あははははは!」
意味不明のことを言うエリザベート、困惑する俺たちに、怒るネロ陛下に笑う謎の女性。
うん、カオスだこれ。
『フランスの時より酷いな……全く意味がわからない』
「まあ、少し複雑なのよ。彼女たちは現界する時に一緒に引っ張ってきたの、あの洞窟を完成させるために」
「そんなことってできるんですか?」
『連鎖召喚はできないわけじゃないが……さすがは神霊サーヴァントといったところだね』
「それで、ちょっとテストプレイをしてもらったのよ」
「まあ、あんまり面白みはなかったけどね。とりあえず、地下洞窟ライブっていう新ジャンルは開拓できそうよ」
そんなライブに誰が来るというのか。
思わずツッコミかけたけど、言っても仕方ないので飲み込んだ。
「どうやらエリザベートとは知り合いのようだけど、こちらは?」
「あはははは!」
「いえ、面識はありません。サーヴァントであることはわかりますが……」
「何か、別のソウルから分離したものであることはわかるがな」
別のソウル……つまりオルタみたいな別側面だろうか。
そういえばオルタ、陸路で帰る部隊の方と一緒に行ったけど、ちゃんとやってるかなぁ。
嫌な予感がするって船に乗らなかったのはいいとして、兵士の人ぶっ飛ばしてたりしないだろうか。
「うむ、では自己紹介とあいなろう! 我はタマモナインの一つ、〝タマモキャット〟! 語尾はワン、趣味は喫茶店経営。好きなものはニンジン。うむ、我ながらブレブレなのだな。あ、ワン」
「こやつ喋ったぞ!?」
「取ってつけたようにワン……!」
なんだかまたおかしなサーヴァントに遭遇したな……
それからしばらくタマモキャットさんとやらのハイテンションに振り回されながらも、敵じゃないことはわかった。
なんだか洞窟の最後の方にあった宝箱の中に潜んでたとか言ってたけど、もう疲れてるのでスルーした。
『いやあ。愉快ではあるけど、この島は結局骨折り損のくたびれ儲けだったね』
「本当ですよ……」
『まあまあ、そう気を落とさずに。とりあえず今回のところは首都にでも戻って──』
そこでドクターは不自然に言葉を切った。
「ドクター?」
「いったいどうしたのですか?」
『っと、すまない。いきなりで悪いが、サーヴァント反応だ!』
「ん?」
「ワン?」
「あら、何かしら」
「ドクター?」
サーヴァントのみんなが一斉に反応した。
そりゃあ確かに、ここには沢山サーヴァントがいるけども。
『すまない、言い方が悪かったね!
「「ッ!?」」
「マスター、あちらから来るぞ」
隣にいるバーサーカーを見ると、既に盾と斧を装備して海の方を見ていた。
前に出たマシュとネロ陛下の後ろに反射的な動きでルーソフィアさんと一緒に後退し、戦闘態勢をとる。
程なくして、ジッと夕日が反射してきらめく海面を見つめていると、そこに不自然な波が立った。
ザバ、と音を立て、海面から一人の人間が姿を現す。
これまでずっと海の中にいたのだろうか、到底普通の人間には不可能な芸当に驚きを隠せない。
その人物は全身から海水を滴らせながら、強い足取りで砂浜に上がって来ると、こちらを見た。
「あれは……!」
「皇帝カリギュラ……! 特異点に来て最初に交戦したサーヴァントです!」
まさかの海から登場したのは、連合のサーヴァントの一人。つまり過去のローマ皇帝の一人だった。
以前見たときもかなり狂化の度合いが高かったけど……今はもっと、狂気が目から滲み出ている。
「余の、振る舞いは、運命、である……! 捧げよ、その命! 捧げよ、その体!」
「……そのソウル、何かを入れ込まれたな? 随分と絡め取られている」
「伯父上!」
「え、誰? ネロの伯父さん?」
「まあ、これは酷い。サーヴァントとはそういうものでしょうけど、悪趣味ね」
やっぱり、元からそうではあったが明らかにまともじゃない。
ソウルの見えるバーサーカーの言葉からして、多分連合の魔術師とかに何かをされたんだろう。
その赤く光る目は……俺たちの中の他でもなく、ネロ陛下だけを見つめていた。
「美しい、な……美しい。故に、奪いたい。貪りたい、引き裂きたい。その女神のごとき清らかさ美しさ全て……!」
「伯父上、あなたは……」
「愛して、いるぞ。我が愛しき妹の子──ネロオォォォォオオ!!! 」
「っ……!」
なんて気迫だ。比喩じゃなく、言葉で空気がビリビリと揺れた。
もしかしたら、あのカエサルより……いや、そのオーラだけなら確実にこっちの方が上だ。
「ネロ陛下……!」
「……わかっている。あれはもはや伯父上ではない、ただの野獣だ」
一歩、カリギュラに向けてネロ陛下が踏み出す。
その背中は一見小さく見えるようで、その何倍も大きく、そして雄々しく見えた。
「伯父上は死んだのだ。無念の死であろうと、死者がこの世界に迷い出たというのなら、屠るのが皇帝としての余の務めであろう」
「フゥゥゥウウ……!」
「そのために……力を貸してくれるな? 藤丸と、そしてその仲間たちよ」
振り返ったネロ陛下の顔には、いつもの勝ち気な笑みが浮かんでいた。
こちらをも奮い立たせるような表情に、怖気付いていた足から震えが消え、心が落ち着いていく。
マシュとバーサーカーに頷くと、彼女達も同じ気持ちだったのか、決然とした表情でネロ陛下の隣に並んだ。
「ではゆくぞ! 皇帝連合が首魁の一人、僭称皇帝カリギュラよ!」
「ネロォオオオオ!!」
そうして、俺たちと連合のサーヴァントの一人の、新たな戦いが始まった。
戦っていた時間は、そう長くはなかったと思う。
あるいは、あまりに濃密でそう勘違いしているのか。
ただ、俺の指示やマシュの防御、バーサーカーの援護が必要だったのは、あくまでネロ陛下の手助けのみだった。
「はぁああああああっ!!!」
「オォオオオオォオオオオオッ!!!」
何故なら、あまりにネロ陛下とカリギュラが互いに白熱していて、気圧されてしまったから。
その背中はこれ以上は必要ないと、自分自身が決着をつけなければならないと、そう語っているようで。
もしかしたらそれは、カエサルとの戦いで相手が本物の皇帝だと知ったからこその覚悟だったのかもしれない。
だから俺は、マシュたちに必要以上の指示はしなかった。
「ネロォオオオオオオオオオ!!!」
「伯父上ぇえええええ!!!」
やがて、夕陽が水平線の向こうに沈む頃。
絶叫のような裂帛の叫び声を上げたネロ陛下と、カリギュラの影が交差した。
「っ…………」
「……勝負あった」
痛いほどの静寂を破り、砂浜に膝をついたのは──カリギュラ。
黄金の鎧を切り裂き、その体には大きな裂傷が刻まれている。
対するネロ陛下は、拳が掠ったのか、頬に僅かな傷があるのみだった。
「ネ、ロ……」
「っ、敵サーヴァント、まだ……!」
「……いや、マシュ。もう終わったよ」
盾を構えようとしたマシュを手で制し、二人の様子を見守る。
バーサーカーも、エリザベート達も、剣を下ろしたネロ陛下がカリギュラに振り返るのを、ただ見ていた。
「我が、愛しき姪、よ……おまえ、は……うつくし、い……」
「……生前の貴方も、そのように仰ってくださった」
「月の、女神、よりも……聖杯の輝き、よりも……うつく、しい、のだ……ああ、だから、余は──」
言い切らぬままに、カリギュラは光の粒子になって消えていった。
砂浜には、何も残っていない。飛び散った血さえもが、魔力の残滓となって消えてしまったから。
「伯父上……」
「……ネロ陛下」
思わずと言った様子で、マシュが呟く。
それが聞こえたのか、カリギュラのいた場所を見つめていたネロ陛下はこちらへと振り返った。
「……敵将カリギュラ、今ここに討ち取ったり。僭称の〝皇帝〟をまた一人屠ったのだ!」
「……はい、そうですね」
「でも、ネロ陛下は……」
「心配せずともよい、マシュ。余は平気だ……何故なら余は、ローマ皇帝だからな」
そう笑う陛下の顔は、やはりどこか辛そうだ。
けれど、ここで何か変なことを言ってしまっても仕方がない。俺たちは口をつぐんだ。
「しかし、よく助けてくれた。お前達には助けられっぱなしであるな」
「いえ、そんな……」
「俺たちはただ、できることをしただけです」
「それが私たちの使命であるからな」
「ふふ、連合帝国征伐の暁に、と約束した褒美は凄まじいものとなりそうだな。ああ、もちろん怪物の類ではないぞ」
「それ、私に言ってるのかしら?」
終始座って見ていた女神ステンノが呆れたように言う。
「まったく、ただの人間が女神に向かって憎まれ口とは勇気があるわね。あるいは本当の勇者なのかしら」
「いいや、違うぞ。余は兵士でもなければ英雄でもない。余は──ローマ皇帝だ」
「……そ。なら貴女のことはそう呼んであげるわ、ローマ皇帝。楽しませてくれたついでに、今度こそ本物の女神の褒美をあげましょう」
今度は一体なんだ、と身構える俺たちに、女神ステンノはクスクスと笑う。
それだけで他には何も言わないので、一応これ以上何かあるわけではないらしい。
「ふふ、可愛らしいこと……さて。それでは貴方達に授けましょう──貴方達が敵対する連合帝国の首都、その正確な場所をね」
そうして女神ステンノがもたらしたのは、驚くべき情報だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。