アビーちゃんとVR当たったけど、式部さん来てくれなかったんや……
今回は繋ぎ的な話かな。
楽しんでいただけると嬉しいです。
〝形のある島〟で皇帝カリギュラを倒した俺たちは、現ローマ帝国首都に凱旋した。
道中は決して安全とは言えなかった。
連合の召喚した新たなサーヴァント、スパルタの王レオニダスと交戦したのだ。
なんでも防衛において有名な英雄であった彼は非常に手強く、俺たちの行手を阻んだ。
それでもなんとか、いつものように皆の力を合わせてレオニダス王に打ち勝ち、やっとの思いで帰還。
それから他に召喚されていたこちら側のサーヴァント、中国の英雄〝荊軻〟さんや〝呂布〟さんとも出会った。
共にローマ帝国を取り戻す仲間として親睦を深めるのもそこそこに、俺たちはすぐにまた動くことになる。
女神ステンノからもたらされた情報を元に、連合首都への侵攻を開始したのだ。
荊軻さんたちが倒した三人の《皇帝》のサーヴァント、そして俺たちが倒したカエサルとカリギュラ。
強力な指揮官でもある彼らを打倒したためか、連合首都へ向かう道中に立ちはだかった連合軍はあまり苦戦しなかった。
そうして快進撃を続ける中、今日も俺たちは戦場にいた。
「決着はついた! 剣を捨てよ! ここで降伏するのならば命までは取りはしない!」
ネロ陛下の声が戦場に轟く。
散々暴れまわったオルタやバーサーカー達に疲弊しきっていた連合軍は、すぐに次々と剣を取り落とす。
間髪入れず、こちらの軍勢から勝鬨が上がった。それに俺もほっと息を吐き、肩から力を抜く。
「お疲れ様でした、先輩」
「マシュこそ、怪我はない?」
「はい、問題ありません」
すぐそばにいたマシュの安否を確認して、バーサーカー達と合流する。
降伏した敵の兵士たちを捕縛して、それを首都へ移動させる隊と別れると、俺たちは拠点へと戻った。
ここ数日で若干慣れてきた歓声に迎えられて、陛下の演説が終わると俺たちにあてがわれたテントに行く。
そうして入って早々、俺は思わずベッド(ちょっと豪華)に倒れ込んだ。
「んぁー、今日も大変だった……」
「少し休憩することを勧める。元は戦士でもないマスターに、この連日の戦闘は堪えるだろう」
「ありがとう、バーサーカー」
入り口の方から声が聞こえてくるバーサーカーの心遣いに感謝する。
「あれ、そういえばルーソフィアさんとオルタは?」
「ルーソフィアさんはユリアさんと情報共有をしに。オルタさんは兵士に絡まれるのが嫌だからと、何処かへ行ってしまいました」
「まあ、あれだけ戦功を挙げたのだ。その扱いも仕方あるまい」
「ああ、それは確かに嫌な顔しそうだね」
割と沸点が低いので、あまりしつこく絡まれるとその場で爆発(物理)する危険すらある。
流石にそれはヤバいけど、折角なら労う言葉一つでも言いたかったのに。
「ん?」
会話をする際に、顔を横に向けて視線を巡らせる。
すると、テントの中に設置された机に向かっているマシュが見えた。
激闘の後だというのに何やら手元の手帳みたいなものに何かを書いており、なんとなーくベッドから起き上がる。
いやほら、いくらマシュがデミ・サーヴァントとはいえ、女の子が元気なのにこっちが寝るのも……ね。
「マシュ、何書いてるの? 日記?」
「はい。この特異点での出来事を戦記物のように記録しておいてくれとドクターが」
「何故戦記物限定……?」
あのゆるふわドクター、今度は一体何を考えているのだろうか。
首をかしげる俺に見計らうように、というかあちらで聞いていたのだろう、ピピッと通信機が起動する。
『せっかくローマ総督の一人になったんだからね、是非ともこれは書き記しておかなければ損じゃないか! どうせなら新・ガリア戦記みたいたタイトルで本にして……』
「いや、それ機密漏洩なんじゃ……」
俺がカルデアに来た時も目隠し耳栓付きで飛行機に詰め込まれてたし、そこらへんはしっかりしてるだろう。
『うん、そうだね。じゃあ真面目な理由を言うと……これは保険だよ』
「保険?」
『もし世界を救ったとして、だ。元に戻る〝外〟と違って、僕たちカルデアの損害はなくなりはしない』
「あ……」
そうか。
全てが焼却されたこの世界で、俺たちだけが唯一時間を刻んでいる。
それはつまり、レフが仕掛けた爆発事故の被害者……所長のように死んでしまった人たちは元に戻らない。
『だから詳細に記録を取っておこうと思ってね。無論こちらでも観測しているが』
「そういうことなんですね……まあ、俺も日記書いてますし」
『うんうん、ちゃんと続けてるようで何よりだよ。カルデアにいる時はなるべく毎日書いてね』
「はい」
少なくとも、ローマを取り戻してこの時代を修正できれば書くことには困らなさそうだ。
時折内容に思い悩むように虚空を見つめる(可愛い)マシュを眺めていると、ふとこちらに視線が向く。
「そういえば先輩、私は一つ気になることがあります」
「マシュ、気になることって?」
「ネロ陛下と……ブーディカさんのことです」
途端、テントの中の空気が少し引き締まった。
「ここしばらく……形のある島から帰還した時からでしょうか。ネロ陛下のブーディカさんへの態度が少し、おかしいというか」
「確かにマシュの言う通りだね……なんか、ぎこちない」
よそ者の俺たちから見ても、ネロ陛下はブーディカさんにどこか遠慮がちだった。
ブーディカさんの方もそれをどことなく察しているのか、時折俺たちの前で「困ったもんだね」と笑っている。
多分、皇帝カリギュラとの戦いにその理由がある。
カエサルは歴代のローマ帝国の君主の一人、という立ち位置だけど、カリギュラはネロ陛下の伯父だという。
死んだはずの肉親をもう一度、今度は自分の手で殺すというのはどれだけ辛いのだろう。
それでも止まらない、と強く宣言した陛下だったが、英霊という〝死者〟に対する認識がより深まったようで。
「とはいえ、これは私たちが介入できる問題ではない。当人が折り合いをつけなければどうしようもないことだ」
「……不躾ですが、バーサーカーさんはそのような経験がおありですか?」
「そうだな……ある、と言えばあるのだろう」
バーサーカーはそれ以上を話さなかった。きっと彼にとって辛い思い出なのだろう。
かつて親しい人だったのに……何故そんなことになってしまうのだろう。
あるいはこれが、このグランドオーダーという戦いに付き纏う宿命、のようなものなのか。
「さりとて、彼女らとて強き意思あるもの。言葉を持つ以上は、いつか分かり合える時も来よう」
「俺たちにも何かできないかな……」
「とりあえず、私たちが空気をよくできるように接してみるのはどうでしょうか?」
「それが良さそうだね」
ブーディカさんの部隊は、今はスパルタクスさんや呂布さんと一緒に近くをうろついてる連合軍の撃に向かっている。
帰ってきたときのために今後の方針を話し合っていると、急に「むっ」とバーサーカーが言った。
「どうかした?」
「……ユリアが呼んでいる。作戦会議用のテントに来て欲しいそうだ」
「ルーソフィアさんが行ったのでは?」
「どうやら我々にも聞かせておきたいようだ」
これまで様々な作戦立案で快進撃を実現させてきたユリアさんが、いったい何の用だろう。
不思議に思いながらも、重い腰を上げて二人と一緒にすぐ近くにある会議室ならぬ会議テントに行く。
「来たぞ。何があった」
「ようこそ、我が王とそのマスター達よ」
テントの中に入ると、いつもと変わらず大きな机の前に立っているユリアさんが振り向く。
英霊に近いものとは聞いているけれど、この特異点に来てから一度も休むのを見たことがない。
悠然とした佇まいでいるユリアさんのすぐ隣にはルーソフィアさん……そして椅子の一つにタマネギ鎧の人が座っている。
「貴公もいるのか、ジークバルト殿」
「ああ。これは私にも関係がある話だからな」
ジークバルトさんにも……?
「さて。こうして呼び立てたのは他でもない。この戦争に関する重要な情報を得たからだ」
「「っ!」」
「ほう。してそれは?」
「つい先ほど、連合首都の様子を探っていた斥候部隊の兵士が帰還した。それもたった一人だ」
「どうやら他の斥候の方々が時間を稼いでいるうちに敗走してきたらしく、傷が酷く、私が治療しなければあと少しで事切れている状態でした」
「まあ、そう易々と侵入は適うまい。それで?」
問いかけるバーサーカーに、ユリアさんは地図の一点を指し示す。
それは女神ステンノからもたらされた情報により知ることができた首都の位置で、俺たちはその近くまで迫っている。
それなのになぜわざわざ指し示すのか、と思っていると、ユリアさんはそこに一つの駒を置いた。
「斥候兵は言った──
「それってもしかして……」
自然と、視線がバーサーカーの方へと行く。
以前のカエサルとの戦いの時、彼はバーサーカーに言っていた。
〝心しておくがいい、かの巨人の力を〟……と。
「かろうじてソウルから読み取った記憶を確かめた結果、私はこれをかつて我が王が狩った《薪の王》の一人だと確信した」
「罪の都の王……か」
「祭り上げられた我が古き友、巨人ヨーム。私と同じく、蘇ったのだろう」
重苦しく、ジークバルトさんが告げる。
バーサーカーから何度か《薪の王》の話は聞いている。彼らがどれだけ強くて恐ろしい相手なのか、を。
そんな相手の一人が今、俺たちの前に現れようとしているのだ。
「敵の部隊に罪の都の化け物がいた時から薄々思ってはいたが……よもやここまで来て、立ち塞がろうとはな」
「我が古き友には、それだけの力がある。こと国を守ることならば、彼奴はどこまでも力を発揮する」
「勝利できる確率は低いのでしょうか……?」
「力で、ということならば無理だろう。我が王がそうであるように、《薪の王》達もまた英霊となってさらに力を増している。いくら兵がいたところで無駄死にするだろう」
「じゃあどうしたら……」
「だから私がいるのだよ、少年」
そう言ったジークバルトさんの声は、いつもの陽気な声とは似ても似つかなかった。
もう一度彼を見ると、大きな兜の奥にある瞳と目が合った……ような気がする。
「我が古き友の相手は私がしよう。その間に貴公らは首都に攻め入る。その相談をするためにここに呼んだのだ」
「ジークバルト殿。貴公、よもやあの時のように」
「なあに、それが私と古き友との約束だ……たとえ、何度死に、蘇ろうとも」
重く、そして固く決意を決めた言葉がテントの中に木霊する。
バーサーカーはそれ以上何も言わずに、ただ一言だけ「わかった」とだけ言った。
ジークバルトさん本人も腕を組んでそれきり黙ってしまう。ルーソフィアさんも、ユリアさんもだ。
それはまるで、オルレアンで最後の戦いに挑む前のジャンヌのような──死を覚悟した姿である。
「失礼します!」
思わず何かを言おうとしたその時、兵士の人がテントに駆け込んできた。
「軍師ユリア殿! 火急の要件ゆえ、取次もせず入ったことをお許しください!」
「構わない。何があった?」
「はっ! ブーディカ将軍率いる部隊が拠点への帰還中、挟み込まれるように奇襲攻撃を受け、スパルタクス将軍と呂布将軍は敵兵の一部を追い別離! そしてさらに左右から挟撃してきた部隊により、ブーディカ将軍が捕虜となりました!」
「な……」
「なんだって!?」
ただでさえ重苦しい空気の中、やってきたのはそんな最悪の報告だった──。
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