灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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すみません、教習所の諸々で勉強に追われ、金曜日は手をつけられませんでした。

楽しんでいただけると嬉しいです。


ブーディカを取り戻せ 前編

 

 情報によると、ブーディカさんは連合首都近くの砦に連れていかれたそうだ。

 

 しかも最近、そこには新しい将軍が率いる軍が籠城の構えを取っているのだとか。明らかにサーヴァントだろう。

 

 ネロ陛下はすぐに部隊を編成し、俺たちもほんの少しの休憩を取った後に彼女の救出へと向かった。

 

「皇帝陛下、もう間も無く砦に到着します」

「うむ」

 

 行軍を始めてから約半日、俺たちはついに件の砦の目と鼻の先まで接近している。

 

 兵士の一人に告げられた陛下の顔は若干強張っていて、俺も自然と気持ちが引き締められた。

 

「それにしても、懸念があります。ユリアさんやドクターの見解によると、罠の可能性が高いということですが……」

「うん。あからさますぎる、って言ってたね」

 

 キャンプを出発する前、俺たちも交えた作戦会議の場での話だった。

 

 突然の奇襲、討伐されたのではなく捕らえられたブーディカさん。そして首都の目前に構えられた砦。

 

 サーヴァントを抑えられるのはサーヴァントだけ、つまり相手にも同じだけの力を持つ敵将がいる。

 

 それなのにわざわざ生け捕りにして砦にこもるというのは、明らかに怪しすぎるというのがドクター達の意見だった。

 

 しかも、軍で一番の突破力を持つスパルタクスさんと呂布さんを、あえて別の場所に引き離した。

 

 このことから、相手には飛び抜けて優れた軍師がいる、と結論づけられた。

 

「少なくとも、軍を指揮するものが一人。そして軍略を考えるものが一人。合わせて二人のサーヴァント、あるいはそれに近い知恵を持つものがいるのだろう」

「藤丸様、お気をつけを。あちらもあなたが我々の要であることは承知しています」

「ありがとうございます。作戦通りに、慎重にやります」

 

 そう、何もそんなわかりやすい罠に、そのまま直接飛び込むわけじゃない。

 

 オルレアンの時と違って、今度は最初から軍隊がいる。作戦もある。

 

 あとは俺の()()だけだ。

 

「先輩は私がお守りします」

「頼りにしてるよマシュ」

「はい!」

「うむ、二人とも気勢は十分のようだな。さて、見えたぞ」

 

 陛下に声をかけられ、マシュと見合わせていた顔を正面へと戻す。

 

 すると、立派な砦が眼前に聳えていた。連合首都を守る要としてふさわしい様相だ。

 

「ここにブーディカがいるはずだ……聞け! 我が名はネロ・クラウディウス! 第五代ローマ皇帝である!」

 

 砦に向かって、陛下が声を張り上げた。

 

「ブーディカ、生きているのだろう!? 返事をせよ! 余は知っているぞ! 貴様が易々と死ぬことなどありえないと!」

「ネロ陛下……」

 

 悲痛そうな横顔のネロ陛下の言葉は、どうかそうであってくれと言うようで。

 

 きっと、敵として戦ったことがあるネロ陛下だからこそ、誰よりブーディカさんのことを案じているのだ。

 

 陛下にはいつも自分で言うように寛大だ。今は味方である彼女のことを、心の底から……

 

「──おや。随分と信頼しているね」

「「「っ!」」」

 

 すると、砦の外壁にある塔、その一つからよく通る声が響いた。

 

 反射的にそちらを見ると、そこには俺より少し年上か、同じくらいの赤毛の男が立っていた。

 

 その傍にはなぜか、黒スーツに赤いネクタイをした長髪の男が立っている。メガネとタバコもしていた。

 

「な、なんだあれ……? この時代にしては、かなりミスマッチな組み合わせのような……」

『おそらくは現代に近い時代の英霊なのだろうね。気を付けろ、彼らもまたサーヴァントだ』

「マシュ・キリエライト、警戒態勢に入ります」

 

 静かな声でマシュが俺のそばにより、バーサーカーも手の中に竜断の斧を取り出して握りしめる。

 

 二人に警戒してもらいながら、俺はこちらを見下ろす二人組を見上げた。

 

「しかしまあ、彼女は無事だよ。ただ君をここへ連れてくるための囮だからね。少し眠ってもらってはいるが、傷つけてはいない」

「そういう要望だからな。君の指示の実現には苦労したよ、あのバーサーカー二体を遠ざけてサーヴァントを生け捕りにしろ、とは」

「あはは、でも君はやってのけた。やっぱり先生はすごいよ」

「何、私はただ体を貸しているだけのしがない魔術師にすぎん」

 

 体を貸している……? 

 

「……そうか、それを聞いて安心した。よもやそちらからのこのこと出てくるとはな。この砦の将と見た、我が前で名を明かすことを許そう」

「おや、それはご丁寧に……うーん、それじゃあなんと名乗ろうか。色々とあるんだよね」

 

 砦の上でうんうんと唸るサーヴァントに、こっそりと通信機を近づけてドクターに聞く。

 

「そんなことってあるんですか?」

『昔の英霊ほどよくあることさ。日本の昔の武将だって幼名とかがあるだろう?』

「な、なるほど」

 

 生まれてこの方、あだ名以外の呼び名がない俺からすれば新鮮な感覚だ。

 

 そういえば世界史の授業でも、覚えるのめんどくせーとか思いながらノート取ってたなぁ。

 

「──うん、決めた。ではこう名乗ろう」

 

 たわいもない思い出を懐古しているうちに、サーヴァントはより一層強く声を張り上げる。

 

「僕はアレキサンダー。〝アレキサンダー3世〟だ」

「紀元前三百年台、アルゲアス朝マケドニア王国の王。ヘラクレスとアキレウスを祖先に持つ、征服王と呼ばれる英雄。あれはおそらく、その青年期の姿でしょう」

「また王様の英霊……」

「で、彼が……」

「ロード・エルメロイ二世だ。サーヴァントとしての名は別にあるのだが、まあ軍師の名前を覚える必要もあるまい」

 

 〝征服王〟なる英霊の青年期の姿をとったサーヴァントと、ロード・エルメロイ二世と名乗る英霊。

 

 オルレアンの後から結構勉強したつもりだが、ロード・エルメロイ二世というのはピンと来ない。

 

 いや、そういえば魔術の勉強の時、時計等のロードの一人にそんな名前があったような……

 

「さて。ではこうして対峙している訳だが、どうする? ローマ皇帝さん」

「無論、貴様らを叩き斬ってブーディカを救い出し、連合首都を潰す。なんだ、今更敵対しないとでも言うつもりか?」

「うん」

 

 あっさりと、アレキサンダー3世は陛下の言葉に頷いた。

 

 流石に予想外すぎてぽかんとしていると、アレキサンダー3世は困ったように笑って頭をかく。

 

「な、何と? 誠に敵ではないと申すのか?」

「実を言うと、僕はマスターと相性が合わないみたいでね。君たちを倒せと言う命令を受けてはいるが、ここにいるのは僕自身の意思なんだ」

「私は彼に引っ張られて召喚された()()()だ。元々彼の味方であって連合とやらのサーヴァントではない」

 

 相手のマスター……おそらくはレフと思われる連合の魔術師。

 

 今あそこで、それこそ年相応の青年のように笑っている英霊とは確かに人種が違う気がした。

 

「ただ、僕はどうしても君と話がしたくてね。同じ王として、征服を是とした者として。だからこそ、ここにいる」

「──戯れ言を。何を話すことがあるというのだ!」

「うーん、まあそういう反応だよね……だから、こうする他にはなさそうだ」

 

 突如、ワァッ! という怒号が聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

 振り返ると、いつの間にか俺たちの軍が後ろから、そして砦の左右側面から出てきた部隊に挟み撃ちにされている。

 

 たった一瞬で包囲されたのだ。ああやって出てきたのは、この時間を稼ぐためだったのだろう。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■────ーッ!!」

 

 

 

 

 

 それだけではない。

 

 まるで後方の部隊の影に隠れていたかのごとく、山のような〝黒〟が盛り上がった。

 

 やがてそれが、雄叫びをあげる人型のものであることがわかる。黄金の装飾に三メートルを超える巨躯──サーヴァントだ。

 

「全軍、迎撃せよ!」

 

 しかし、ネロ陛下は一切驚くことはなかった。

 

 凛とした、よく通る美声で兵士たちに号令をかけると、彼らは雄叫びを上げ、剣を抜くと襲いかかってきた連合軍に立ち向かう。

 

 あっという間に戦場が出来上がった中で、俺たちを守る為に盾を構えた兵士たちの円陣の中から彼らを見上げる。

 

「驚いたね。まさかここまで早く対応するとは。折り込み済みだった、というわけかな?」

「こちらにも優秀な軍師がいるのでな……そして、貴様のその余裕もここまでだ」

「何を──」

「ッ! アレキサンダー!」

 

 ロード・エルメロイ二世が叫び、アレキサンダーを塔の上から突き飛ばす。

 

 

 

ドッガァアアアアアン!! 

 

 

 

 次の瞬間、黒い炎が弾け、塔が盛大な崩壊音を立てながら瓦礫と化した。

 

「先生ッ!」

「──ハン。勘のいい男だこと。あと少しで、我が黒炎に爆ぜる所だったのに」

 

 流石はサーヴァントというべきか、危なげなく着地したアレキサンダーに投げかけられる声。

 

 彼が咄嗟に上空を見上げると──そこには漆黒のワイバーンを駆る、黒き旗を携えた魔女がいた。

 

「君は……」

「その表情、実に無様で見応えがあるわね」

 

 ハッと嘲笑った彼女は、魔力で編まれていたワイバーンを霧散させると俺の近くに着地する。

 

「うっ……」

「マスター、平気ですか?」

 

 その途端、どっと疲れが押し寄せてきて、ふらついたところをマシュに支えられた。

 

「なっさけない。私のマスターならもう少ししゃんとしてなさいよ」

「はは、ゴメンねオルタ……」

 

 節約する術をルーソフィアさんから教わっていたとはいえ、ずっと魔力供給し続けるのは骨が折れた。

 

 ワイバーンを構築する魔力と、オルタとワイバーンの気配を隠蔽する魔術を行使するための魔力。

 

 それを何十分も続けていたので、俺のしょぼい魔力はもう3分の1あるかどうかだ。

 

 ともあれ、ユリアさんの立てた作戦通りに意表を突くことはできたみたいだ。

 

「……そうか。はめられたのは僕だった、というわけだね」

 

 そんな俺たちを見て、さらに背後を見たアレキサンダー3世はやはり困ったように笑った。

 

「ヌゥン!」

「■■■■■──ーッ!」

 

 後ろから聞こえるのは、あの巨人のようなサーヴァントとジークバルトさんが戦っている声。

 

 わざわざ振り返らなくても響いてくる激音は、それだけでどれだけの戦いが繰り広げられているのかが明白だ。

 

「言っただろう? 優秀な軍師がいると」

『ついでに僕もね!』

「ドクター、空気を読んでください」

『あ、はい……最近マシュが冷たいなぁ』

「ま、まあまあ……」

「ははっ、これはしてやられたよ。僕も先生もツメが甘かったと言わざるを得ない」

「その後悔ごと、座に持ち帰ると良い」

 

 バーサーカーが踏み出そうとした途端、ネロ陛下が手で制した。

 

 俺たちは怪訝な顔で彼女を見た。ここまでユリアさんの作戦通りだったが、予定にない動きだ。

 

「道を開けよ」

 

 陛下はそのまま兵士たちを退かせると、アレキサンダー3世の前に進んだ。

 

「この余を陥れようとした勇気、そして自ら姿を現し、あまつさえ敵対せぬと豪語した豪胆さに敬意を評し、余との一騎打ちを許す」

「ネロ陛下!?」

「陛下、それは作戦の中にありません!」

「案ずるな、負けはせぬ」

 

 思わず一歩踏み出した俺たちをもう一度制するように、大きな声でネロ陛下が言った。

 

 その強い声音に、無意識に足が止まってしまう。

 

「……いいのかい? 僕としてはありがたいが、せっかく意趣返しできたのに」

「なに、決戦前のちょっとした戯れよ。全力でかかってくるがいい」

「では、お言葉に甘え……てっ!」

 

 言うや否や、剣を抜いたアレキサンダー3世がネロ陛下に襲いかかる。

 

 

 

 

 陛下はその一撃を剣で受け止め、俺たちが見る前で一騎討ちが幕を開けた。




読んでいただき、ありがとうございます。

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