なんか最近こんなことばっか言ってるような気がしますが、終盤に入るので文字数が増えています。
楽しんでいただけると嬉しいです。
──感じる。
あの力を、あの刃を、あの嵐を。
我がただ一人の友に託した剣、巨人殺しの刃。
それが使われた。かつて我が身を引き裂いたあの力を、すぐ近くに感じた。
友が、いる。
この時代に、この世界に、心優しき我が友がいるのだ!
ああ、なんで喜ばしい。あの日、〝約束〟を果たしにきてくれた時と同じほどに。
共に、あの火の継承者もいることだろう。そして彼らは必ず
さあ、友よ──もう一度、私を殺してくれ。
●◯●
藤丸 SIDE
いつもの、夢だ。
闇の中を、傷だらけの誰かが歩いている。
折れた右手は垂れ下がり、潰れた片足を無理やり動かし、もう一方の手では血に濡れたとても長い剣を引く。
ひどく疲れ果てたその後ろ姿は、先の見えない闇を見つめていた。
浮かぶのは、変わらない一つの疑問。
多くを見た。
多くを知った。
多くを裏切った。
多くを斬った。
そして、多くを失った。
数えきれないほど、この手から取りこぼした。
長かった。自分の齢すら忘れるほど旅をした。
……………………だが、私は。
その果てに、何かを手にできたのか?
……答える者は、やはりいない。
彼の隣に寄り添うように進む青い人影も、ただ共にいるだけで。
彼の行く先は、やはり闇に満ちていて……
〝うむむむむむ……お、おお!? すまぬ、考え耽っていた! 〟
また、光が現れた。
それは、青い人影よりも随分と強い、太陽のような光。
片方が捻れた足を止め、また彼は光を見る。
しばらく、光を眩しそうに見つめて。
また、一緒に歩き出した。
疑問は終わらず、後悔は胸で燻り続ける。
やっぱり、変わらない。
でも、少し……少しだけ、安心した。
そう思った途端に、光は人へと形を変える。
その人よりも随分と恰幅の良い、全体的に玉ねぎのような鎧。
まるで太陽のような明るさを持ったその人は……その手の中に、〝風を纏う剣〟を携えて。
ただ、一緒に歩き続けた。
●◯●
「──んぱい。先輩?」
「ん……あ、あれ? マシュ?」
「はい。あなたのサーヴァント、マシュ・キリエライトです。立ったまま、またレムレムしていたようですが……」
ああ……居眠りしちゃってたのか。
一瞬、夢の中の暗闇とマシュの黒い鎧が重なって見える。
すぐにそれを振り払い、俺は笑顔を浮かべた。
「うん。大丈夫」
「そうですか、なら良かったです。あ、ネロ陛下の演説が始まりますよ」
マシュの言葉に、登壇した若き皇帝へと目をやった。
「皆のもの! 勝利は我らにあり!」
今日も変わらず、ネロ陛下は綺麗な声で兵士たちに宣誓する。
俺たちもまた、他の英霊達と一緒に客将の1組としてそれに耳を傾けた。
「先輩、体調は平気ですか?」
「うん、調子いいよ。マシュこそ平気?」
「食事、休息共にしっかりと取りました。本日も体調は良好なマシュ・キリエライトです」
むん、と力拳を作るマシュに、自然と頬が緩むのがわかる。
いつも変わらず微笑んでくれる彼女がいるから、俺も頑張ろうと思えるんだよな。
未だに何故そうなのかはわからないけど、マシュに先輩と呼ばれると背筋を伸ばさなくてはと考えるんだ。
「お二人とも、今日がおそらく最後になるでしょう。くれぐれも怪我にはお気をつけを」
「ハン、下手な怪我を負ったら承知しません」
「そうならぬために、我らがいるのだ」
「ああ、みんな頼りにしてる」
オルレアンの時は心が休まらないという意味で気が抜けなかったが、今は破竹の勢いで勝っているからこその休みなし。
けれど、共に戦いをくぐり抜けていた彼女達がいるなら、俺も最後まで力を振り絞ろうと決意した。
「ふふ、君たちは仲が良いな」
「荊軻さんも、よろしくお願いします」
「ああ。暗殺しか業のない身であるが、最大限助力しよう」
はぐれサーヴァントにして同じ客将の荊軻さんは、頼り甲斐のある笑みを浮かべた。
本当ならここに、スパルタクスさんや呂布さんもいるはずなんだけど……まだ戻ってこないらしい。
バーサーカー特有の振り切れた猪突猛進さ、と言ったのは昨晩のドクターだったっけ。
「…………むう」
「……平気か、ジークバルト殿」
「うむ……」
「……?」
なんか、ジークバルトさんの様子が少しおかしいような。
そういえば昨日、一人であの巨人のようなサーヴァントを倒したのは確か……
「もはや連合の首都は目と鼻の先! もはや恐るるものは何もなし! さあ、勝鬨をあげろ!」
「「「うぉおおおおおおおおおお!!!」」」
ビリビリと空気を震わせる雄叫びが上がり、いよいよ出陣する。
砦はまさに首都の目と鼻の先にあり、10キロも離れてはいない。
そのため、ここ連日の行軍に比べれば、遥かに少ない時間で首都の外壁がうっすらと前方に現れた。
が、それと同時に──万全の体制で首都の前面に陣取った、残る連合軍の全てもが視界に映る。
ざっと目に見えるだけでも、三万人くらいはいる気がした。
オオオオオ…………!!!!
既にあちらもこっちが見えているのだろう、地を揺らして一斉に進軍してきた。
「恐れるな! もはや陥落は直前! 進めぇ!」
「「「オオォォッ!!!」」」
だが、そんな大軍勢でさえもローマ兵達は恐れることなく、陛下の号令のもとに突き進む。
たった数百メートルの距離を瞬く間に踏破し、俺たちを含めたローマ全軍と連合の軍勢がぶつかった。
昨日よりもさらに激しく、そして大規模な戦場が瞬く間に出来上がる。
数でこそ連合の方が多い。
が、こちらには何人も一騎当千のサーヴァント達が揃い踏みしている。
何よりも、絶対にネロ陛下に勝利を捧げよと言わんばかりの、周りにいる兵士の人たちの気迫が数の差を埋めた。
そのためか、体感時間で一時間ほどで瞬く間に勢いはこちらに傾いた。
随分と速い流れの時間を体感しながら、ネロ陛下と一緒に精鋭部隊に守られながら最前線を進む。
いかに凄まじい勢いとはいえ、いつか数の差による有利を取り戻されてしまう。
そのため、今回の決戦は早期決着を望むことになった。
作戦はシンプル。
残存兵力をこちらの軍で押さえ込んでいる間に首都に入り、なるべく早く俺たちで連合の首魁を倒す。
周りにはマシュ、バーサーカー、荊軻さん、そしてジークバルトさん。
殲滅力のあるオルタは一人で戦場の中を駆け巡っており、昨日奪還したブーディカさんも同様だ。
特にオルタが絶好調で暴れているようで、先ほどからひっきりなしに遠くで爆発音が鳴り響く。
ルーソフィアさんも後方支援をしているし、俺も負けてられない。
酷使することに慣れた頭と足を動かし、必死にサーヴァント達についていく。
「右部隊、陽動に成功! 陛下!」
どうやら道が拓けたみたいだ。首都の入り口がはっきりと見える!
「うむ! では皆のもの、首都へ──」
そうして陛下が号令をかけようとした、その時。
突如として、地面をひっくり返すような衝撃と轟音が全身を打ち付けるようにした。
「っ!?」
思わず足を止める。
それは俺だけでなく、敵味方関係なくその場にいる全ての人間も同じようで。
発生源は、首都入口のすぐ側だった。
誰もが動きを止めて、もうもうと立ち込める土煙を凝視する。
よく見ると、その土煙の近くに大量の
「あれは、もしかして……」
「余と連合軍の兵達……か?」
俺たちの疑問は、すぐに解決された。
土煙が晴れるにつれて、それの輪郭も明確になり……それが凄惨な亡骸であると理解する。
まるで凄まじい衝撃で圧死したかのような彼らの死体の、すぐ側に。
「………………」
その元凶と思われるものが、いた。
遠目から見ても、それは8メートルを優に超えるほどの体格をしている。
巨大な手には、砦の壁すらも簡単に切り裂けそうな大鉈が握られ、地面にめり込んでいる。あれを振り下ろしたのだろう。
昨日見た黒いサーヴァントすらも子供に見える体は鎧に包まれ、鎖帷子の帽子にはくすんだ王冠が戴かれて。
その全身は、
「あれ、は……」
『これまでにない強力な魔力反応……! 霊基、霊核共に神霊クラス!? 藤丸くんたち、今そこにとてつもない化け物がいないかい!?』
圧倒される俺たちを前に、ドクターの通信が入る。
「……ええ、ドクター。今、私たちの前には……」
「《薪の王》の一人だ」
俺たちの疑問に答えを返すように、隣でバーサーカーが呟いた。
あれが、薪の王。
火の時代の継承者、かつて石の玉座に座った王の一人。
世界焼却の黒幕の手に落ちた王の一人が、俺たちの前に現れた。
「──ヨーム。やはりいたのだな、わが旧き友」
呟くような、絞り出したようなジークバルトさんの一言が、やけに耳に残った。
「──勇ましきものよ」
そんな俺たちに追い打ちをかけるように、静寂に包まれた戦場に声が響く。
『首都の外壁の上に魔力反応! さらなるサーヴァントだ!』
ドクターの飛ばした軽快に、反射的に言われた場所を見る。
すると、未だに数十メートルの距離がある首都を守る外壁。その上に誰かが立っていた。
「実に、勇ましい。それでこそ当代のローマを統べる者である」
サーヴァントだからか、それとも魔術的な何かが発揮されているのか。
声音は静かなのにはっきりと聞こえるその声は、ぞわりと悪寒を覚えるほどに圧倒的な覇気を持っている。
「巨躯の人物が、砦の上に立っています。そして、その視線がネロ陛下に……」
人間の俺よりも、サーヴァントのマシュやバーサーカーなどははっきりとその姿が見えているのだろう。
思わずといった様子でつぶやいたマシュの言葉に、次のサーヴァントの言葉はこんなものだった。
「──そうか、お前がネロか。なんと愛らしく、何と美しく、何と絢爛たることか。その細腕でローマを支えて見せたことも多いに頷けよう」
「っ、私の言葉がこの距離で……」
「あちらもサーヴァント。声帯だけでなく耳も良いようだな」
あちらもこちらも、互いのことが見えている。
相手がサーヴァントの場合は、どんな行動をしても油断ならないんだ。
「さあ、おいで。過去、現在、未来。そのローマ全てが、お前を愛しているとも」
「な……」
「ネロ陛下? 顔色が優れないようですが……」
ネロ陛下の顔は、蒼白といっていいほどに青白くなっていた。
彼女は自分を見ているらしいサーヴァントを見上げ、唇を……いや、全身を戦慄かせている。
まるで、怯えるように。
「あれ、は……まさか、そんな……」
「ネロ陛下の様子がおかしいです。何か魔術的な攻撃を……」
「いいや、違う。ただ単純に彼女は──恐れている。ソウルの底からな」
「魂の底から、ですか? バーサーカーさん」
「ああ。そして私も驚いている」
バーサーカーが、砦の上にいる人物を一瞥する。
「あれは……あの英霊は、紛れもない《王》だ」
「王……そうだ」
「陛下……?」
「一目でわかってしまったのだ……あれは、あのお方こそが……ローマだ」
その言葉に少なからず衝撃を受けた。
彼女にとって、ローマは何よりも愛しており、誇っていて、これまで誰にも譲らないと宣言してきたもの。
その彼女が。ローマ皇帝であることを矜持とした彼女が──あのサーヴァントを、ローマそのものだと。
そう認めたのだ。
「そうだ。お前にはわかるはずだ。
「な……!」
「さあ、
それは、ただの言葉じゃない。
一言一言にプレッシャーを伴う、まさに王の言葉。
冬木で初めてセイバーオルタの前に立った時も感じた──圧倒的な威厳を持っていた。
「私が──ローマだ」
「あ、ああ……そんな……お前は、いや、あなたは……!」
陛下は、あのサーヴァントに心当たりがあるようだった。
自然と視線を彼女にもう一度向けると、彼女は……心の底から畏怖を含んだ目で、続きを言い放った。
「あなただけは、ありえぬと……そうであってほしいと、余は思っていたのだ……そう信じていたかったのだ」
だが、と言葉を切って。
「連合の頂点に君臨するのは……我が前に立ちはだかるのは、相応しくないとも思っていたのだ──
『神祖ロムルス……セプテム・モンテスにローマ帝国を打ち立てた建国の英雄か!』
つまり、最初のローマ皇帝……!
大物の登場に戦慄していると、どこからか雄叫びが聞こえてきた。
「何だ!?」
「マスター、首都の中から新たな軍隊が! ネロ陛下を狙っています!」
「くそっ、このタイミングで!?」
「いいや、今だからこそだろう」
バーサーカーが杖を掲げ、ソウルの魔術を解き放つ。
「〝ソウルの奔流〟」
豪奢な杖から飛び出したのは、一言で言えば極太のビーム。
それは新しく出てきた部隊の前方部分を蹴散らし、それを合図にしたかのように再び戦場が動き出した。
怒号と闘志あふれる雄叫びが戻ってくる中で、あの《薪の王》も地響きを立てながら大鉈を持ち上げる。
まずい。そう思った瞬間、視界の端を白い塊が駆け抜けていった。
「うおおおおおおおおおっ!!!」
「ジークバルトさん!?」
飛び出していったのは、他にはいない特徴的な鎧を纏った人物。
「ヨームッ! 我が旧き友よ! 再び約束を果たしにきたぞ!」
叫びながら、ジークバルトさんは群がる兵士たちを蹴散らして一直線に《薪の王》に向かっていく。
止める間もない快進撃に思わず固まっていると、全身を震わせるような「声」がした。
「──待っていたぞ、カタリナのジークバルト」
喋った。
あの巨人が、火の時代から召喚された《薪の王》が、文字通り魂にまで響く地鳴りのような声で。
それは、歓喜に満ちていて。
何かを待ち焦がれ、ついにその時が来たような──そんな感情が、溢れんばかりに込められていた。
「我ら、《薪の王》に栄光あれ!」
「オオオオォォォオオオオオッ!!!」
「ジークバルトさっ……!」
がむしゃらに突き進むジークバルトさんの背中に手を伸ばした、その瞬間。
彼の手の中にあった長大な剣が消え、代わりに持ち手の先端が奇妙な形の、一回り小さな大剣が現れる。
もうすでに遠く離れた背中──だが、はっきりと俺の目に見えたのだ。
その剣が、風を纏っているのが。
「フンッ!!!」
ジークバルトさんが、それを振り下ろす。
すると、あの《薪の王》の大鉈にも負けない大きさの、目に見える風の刃が行く手を阻む兵士を蹴散らした。
その勢いのままに刃は直進し、《薪の王》が構えた大鉈にぶつかって凄まじい音を立てる。
「づっ……! 耳が……!」
「マスター! 大丈夫ですか!?」
「うん。それより、先に進まないと……!」
ネロ陛下は、半ば放心したような状態でいる。あのサーヴァントはもう外壁の上にいないのにだ。
このまま同じ場所にいつまでもいるのはまずい。とにかく作戦通り、首都に入り込まなくては……!
「藤丸将軍、ご報告します!」
一度開いた道をふさぎ始めた兵士たちに歯噛みしていると、馬に乗った兵士が戦場を突っ切って現れた。
「何ですか!?」
「スパルタクス将軍、並びに呂布将軍! ただいま帰還されたとの報告が入りました!」
「何だって!?」
思わず声を荒げた途端、オルタとは違う轟音が戦場のどこからか、二つほど響いた。
それに影響されたように、連合軍の動きが変わる。その結果、首都へ進む道が少し手薄になった。
「マスター!」
「ああ、わかってる! ネロ陛下! 前に進みましょう!」
「あ……う、うむ」
普段なら絶対やらないが、激しく肩を揺さぶるとようやく正気に戻った。
緩慢ながらも動き始めたネロ陛下たちについていこうとすると、バーサーカーが立ち止まっていることに気がつく。
「バーサーカー? どうしたの?」
「……マスター。この戦場に残ることを、許してはくれないか」
一瞬、思考が止まった。
バーサーカーはカルデア陣営の最高戦力。だからこそ首都侵入の組に振り分けられたのだ。
そのことを、ここ数ヶ月で染み付いた指揮的な思考が言うが……バーサーカーの雰囲気が、異様だ。
そして、こんな時の彼がどうしたいのか。
付き合いの短い俺でも、何となくわかっていた。
「……ジークバルトさんを、助けに行くんだね?」
「ああ……実に身勝手な振る舞いだとは承知しているが」
「うん、いいよ」
俺は、自分でも思いの外あっさりとそう言った。
バーサーカーも驚いたような気がする。わかってる、戦況を考えれば明らかな判断ミスだろう。
でも、それでも。
「大事な、友達なんでしょ?」
「……ああ」
「なら、行ってくれ。あとは俺とマシュたちで何とかするから」
強がりに近い言葉を使い、彼に笑いかける。
きっと今頃、通信の向こうでドクターとダ・ヴィンチちゃんあたりにやれやれと言われているだろう。
でも、この特異点にきて。
ジークバルトさんと再会して話しているバーサーカーは、本当に嬉しそうで、楽しそうで。
だったら、彼のマスターとして。
こうしないといけない気がしたんだ。
「……本当に」
「ん?」
「本当に、君が私のマスターでよかった」
「あはは……まだまだ不甲斐ないけどね」
「このような場でなければ、再び忠誠を誓うが……すまない、行かせてもらう」
「うん。頑張って」
「ああ」
くるりと踵を返し、バーサーカーは兵士の壁を飛び越えるとジークバルトさんのあとを追った。
それを見送って、ふとずっと隣にいたマシュをみる。
すると、彼女は微笑んでいた。
「えっと。やっぱりまずかったかな?」
「いいえ、マスターらしい判断でした」
「ああ。君は人が良いな」
「荊軻さんまで……とにかく、バーサーカーの分まで俺たちが頑張ろう!」
すぐ近くで、何かを憂うような表情でいるネロ陛下のためにも。
マシュや荊軻さんと頷き合い、俺たちは首都に向けてもう一度進み出した。
次回、ヨーム戦。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。