灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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ドチャクソ文字数増えた…

主にヨーム戦、間に藤丸たちを挟んで。

楽しんでいただけると嬉しいです。


約束を

 

 

 三人称 SIDE

 

 

 

「うおぉおおおおおっ!!!」

 

 

 

 雄叫びを上げ、男が走る。

 

 乳白色の鎧に身を包み、その下にある鍛え抜かれた肉体を躍動させて進み続ける。

 

 向かうべきはただ一人──彼が死をも超越してまで誓った約束を果たそうとした、友の下へ。

 

「ヨォオオオオオムッ!!!」

 

 叫び、吠え立て、騎士はひたすらに駆け抜けた。

 

「ジークバルト……!」

 

 そして巨人の王は、それを待ちわびたかのように大鉈を振り上げる。

 

 

 

 

 

 騎士の国カタリナ。

 

 

 

 

 

 かつて、火の時代において名を馳せたその国は、特徴的な伝統の鎧とその気質で有名であった。

 

 国の名を冠するほどに〝騎士〟という存在を重んじ、高尚な騎士道精神を尊んでいた。

 

 

 

 今は無きその歴史、古い古い時代の中において、ジーク家はカタリナの中で最も古い家の一つと数えられる。

 

 その起源は古く、かの大王グウィンの率いる神の治世が残っていた時代からすら存在していたという。

 

 ジークバルトもまたその例に漏れず、国随一の剣の腕、そして素晴らしき(ソウル)の持ち主であった。

 

 

 そんな彼は、ある時一人の巨人と出会う。

 

 その巨人は他の巨人らと同様にかつては身分が低く、ある時を境に王として祭り上げられた者だった。

 

 そもそも罪の都とは、それ以前は別の名前で呼ばれた都であった。

 

 贅に溺れ、財に心酔した都の住人らはその傲慢さにふけり、やがて禁忌を犯したのである。

 

 

 すなわち、《はじまりの火》の創造を。

 

 

 かつて最初の英雄に名を連ねた魔女たちと同じ過ちを犯した彼らを、失敗した実験によって生み出された罪の炎は罰した。

 

 都は焼かれ、住人は生きながらにくすぶり続け、そして一部はデーモン、と古来呼ばれた混沌に変じた。

 

 

 その混乱を収めるために残る愚か者たちに選定されたのが、随一の強さを持つ巨人ヨームである。

 

 元来巨人とは義理堅く、恩を受けた相手を裏切ることは決してない。たとえそれがどれだけ不当な扱いだろうとも。

 

 ヨームとて同じことであり、愚者たちはそこに付け入った。

 

 

 

 ヨームは戦った。

 

 並み居る巨人らの中でも飛び抜けた巨躯をも守る大楯と頑強な大鉈を携えて、罪に沈んだ都に溢れた混沌を滅し続けた。

 

 不当な扱い、策略によって座らされた王座。

 

 ヨームは誰一人として信用しなかった。それまで生かされた恩、ただそれだけのために己の身を賭した。

 

 悲惨な扱いにも関わらず戦う彼を見て、ジークバルトは感嘆した。

 

 

 

 ああ、彼こそが真の騎士である! と。

 

 

 

 そして二人は友になったのだ。

 

 ヨームは、初めて誰かを信じることを知った。

 

 ジークバルトは己が求めた騎士道を見つけ、歓喜した。

 

 

 

 だが、ヨームはその役目を全うできなかった。

 

 猛る罪の火に今度こそ都全てが焼かれ、彼は守るべき愚者たちをも失ったのである。

 

 残ったのは、混沌と、無力な自分と、たった一人の友だけ。

 

 守るものを失ったヨームは大盾を捨て、鬼神の如き強さで混沌を根絶した。

 

 

 

 己の全てを賭けたその英雄的行為は、彼をはじまりの火を継ぐ《薪の王》の玉座へと誘った。

 

 

 

 石の王座に座した彼は──知ってしまった。

 

 この時代に、世界に先がないことを。継いでいくほどに弱るばかりで、もう火は消えかけていることを。

 

 何よりも──自分が、いずれやってくる最古の火継ぎの再現のための、単なる《薪》でしかないことを。

 

 

 

 だからこそ、ただ一人の友に願ったのだ。

 

 

 

 もしも、その時が来たならば。

 

 

 

 その時は、お前にこそ自分を討ち取ってほしい、と。

 

 

 

(やって来たぞ、我が友よ! 誇り高き巨人よ! たとえ何度、そのように蘇ろうとも、私はお前との約束を果たすッ!)

 

 召喚されたジークバルトという英霊は、その逸話を主としてその存在を定義されていた。

 

 人理が呼び覚ました灰を呼び水として、人理焼却の黒幕の手に落ちた《薪の王》ヨームへのカウンターとして召喚され。

 

 最もかの王に縁深き者……()()()()()()()()()()()()()()()として、その霊基を定められたのだ。

 

 

 

 なんという悲運だろうか。

 

 この男は召喚されたその瞬間から、友を殺す運命にあるのだ。

 

 だがジークバルトは嘆きはしない。

 

 それが宿命であるのなら、自分の存在意義であるのなら──かつての約束を誇りとして、戦おう。

 

 その手には、彼の運命とともに刻まれた宝具(逸話)──〝嵐を統べる者(ストームルーラー)が握られている。

 

 またの名を〝巨人殺し〟。嵐の刃たるそれに風を纏い、ジークバルトは振り下ろされる大鉈に剣を振り上げ──

 

 

 

「ハァッ!」

 

 

 

 それに合わせるように、()()()()()()()()が放たれた。

 

 交差する形で飛んだ二つの風刃は、大鉈を弾き返す勢いのままにヨームの胸当てを強打する。

 

 よろめき、膝をついたヨームに、ジークバルトは驚きを顔に浮かべて後ろを振り返った。

 

──姫よ、今一度剣を握ることをお許しください

 

 そこに立つのは、古びた鎧の探究者。

 

 故郷の国を旅立ち、放浪していたジークバルトの、ヨームを数えぬ限りでは最も新き、唯一の友。

 

 王狩りとも謳われた男は──その手にジークバルトと同じ、愚者らに与えられた嵐の剣を携えていた。

 

「貴公……」

「──ジークバルト殿。友愛の義の下に、貴公の約束に力添えさせていただこう」

 

 静かに呟き、灰はジークバルトの隣に立つ。

 

 完全に頭に血が上っていたジークバルトは、すっと自分のソウルが昂りを収めるのを感じた。

 

 

 

 ああ、そうだ──自分は忘れていた。

 

 

 

 ジークバルトには、まだあと一人友がいたではないか。

 

 旧友を追い求め、歪に繋がった世界を旅する中、行く先々で出会い、ともに苦難を乗り越え。

 

 そして、自分の最後を看取ってくれた。かけがえのない友が。

 

「……うむ! 貴公、我が新しき友よ! 今一度、助太刀をしてはくれまいか!」

「もちろんだとも。さあ、共に行こう」

「応!」

 

 いつものように明るい声音で答え、ジークバルトはストームルーラーを構え直す。

 

 

 

 今ここに、二振りの巨人殺しが揃った。

 

 

 

 立ち上がったヨームはそれを睨みつけ、そして全身から闘気を発する。

 

「さあ──来い!」

「「はぁああああっ!」」

 

 裂帛の叫びと共に、二人の騎士が再び《薪の王》へと挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 藤丸 SIDE

 

 

 

「マスター、市民が攻撃してきます!」

「こんな、普通の人まで……っ!」

 

 どうにか首都内に潜入した俺たちだったが、そこには予想もしない軍勢が待ち構えていた。

 

 ネロ陛下のローマを離れ、皇帝連合の皇帝民として移住した数多くの一般人たち。

 

 その全てが、外にいる兵士たちと同じように足止めをしてきたのだ。

 

「まさに死に物狂い、という様相だな……! これで外にいる呂布達が抑えなければ挟み撃ちだぞ!」

「とにかく、危害を加えるわけにはいきません!」

『これは参った! まさか神祖ロムルスの威光がここまでのものだったとは!』

 

 ロムルス、と聞いて。

 

 気になってすぐそばにいるネロ陛下のことを見ると……いつもよりもずっと思いつめた表情でいた。

 

 しかも、元ローマの民が相手であるためか、とても複雑そうな表情で襲いかかってくる相手をあしらっている。

 

 明らかに元気がない。なんとかしたいという思いが湧いてくるが、どうすればいいのかわからなかった。

 

「う、うおおおぉぉっ!」

 

 その時、ネロ陛下の背後から瓶を振り上げる男が現れた。

 

 何かに思い悩んでいる顔のネロ陛下は気づいていない。まずい! 

 

「ガンド!」

「ぐはっ!?」

「っ!?」

 

 銃のように構えた指先から魔力弾を打ち出し、男を吹っ飛ばす。

 

 俺の魔力出力ではそんなに殺傷力はないので、多分骨折くらいで命に別状はないだろう。

 

 ともかく、ほっと安堵しながら陛下に駆け寄る。

 

「陛下、平気ですか!?」

「うむ……」

 

 ……やっぱり、かなり悩んでいるみたいだ。

 

 普段の語り口調から、陛下がローマ帝国の信仰する神々や、祖先のことをとても尊敬していることは知っている。

 

 俺が想像できるのは、一番古くて爺ちゃんだけど……でもきっと、とても辛いんだろう。

 

「……余は」

「え?」

「余は、これまで己の信念を信じて突き進んできた」

 

 周りには暴徒、外では戦争。

 

 とても穏やかとは言えない状況の中で、驚くほど弱々しい声で陛下は語り出した。

 

「たとえ叔父が立ちはだかろうと、歴史に名を刻んだ名君と相対しようと、己の責務を、皇帝としての誇りをかけて戦い続けてきた」

「……はい。ずっと近くで見ていました」

「だが、だが……! 今ここに来て、余はこれまでにないほどの苦悩に直面している!」

 

 心から苦しそうに、陛下が叫ぶ。

 

「あの方の声を聞き、姿を見て、言葉を受けた時。余は思ってしまったのだ──この方に全てを委ねてしまいたい、と!」

「!」

「連合の皇帝の一人として、あの方の下につきたいと、そう思ってしまった! ここまで来てだ!」

 

 ……それは、俺には計り知れない感情のこもった激白で。

 

 堪えていたものが一気に溢れ出たように、綺麗な顔を苦しそうに歪めて、宝石のような目で俺を見上げる。

 

「余は、不甲斐ない皇帝だ。お前たちに力を借り、兵士たちの命を散らし、ローマの全てを守るために戦ってきたのに……」

「いいえ」

 

 そんな弱々しい陛下に、俺は首を横に振った。

 

 訝しげに陛下が見上げてくる。

 

 その目をまっすぐ見返して、俺は言葉を続けた。

 

「陛下は、いつも真っ直ぐで、強かったです。マシュたちの力を借りなきゃ何もできない俺なんかより、ずっと美しい生き方をしていたように思います」

「美しい、生き方……」

「陛下は言いましたよね。ローマの全てを守るために戦ってきたんだって。俺、初めて都に行った時──感動したんです」

 

 あれほど圧巻された記憶を、俺は少なくとも多くは持ち合わせていない。

 

 溢れかえるほどの活気、その1日1日を全力で生きている華やかな都。

 

 こんなにも命に、生を楽しむ意志の活力に満ち溢れた場所があるのだと、心の底から感激した。

 

 そんな彼らも、そしてネロ陛下も──

 

「みんな、笑っていました」

「っ!」

「繁華街の人たちも、働いている人たちも、兵士の人たちだって、みんな笑ってたんです。今自分が生きているこの瞬間を、全力で生きていたんです」

 

 きっと、あの感動を俺は忘れない。

 

 この旅で出会った全てを、俺はきっと死ぬ時まで忘れることなどできない。

 

「陛下は、何のために戦っていたんですか?」

「……そう、か……余は、あの光景を……忘れていたのだな」

 

 ネロ陛下は俯く。

 

 しまった、言い過ぎたか。これ、不敬罪とかになったりしないよね? 

 

 内心ちょっと冷や汗をかきながら、それでも伝えたいことを伝えられたことにどこか満足している。

 

 そんな気持ちでいると──不意に、勢いよく陛下は面を上げた。

 

「うむ、そうだ! 余は話がローマの、ローマの民の笑顔のために戦っていたのだ!」

 

 その声には、もうさっきまでの弱さはない。

 

 突然戻った気迫に少し気圧されていると、陛下はぐるりと周りを見渡す。

 

「見よ、藤丸。この首都の民、誰一人として笑っていない」

 

 言われてみると、確かに誰も彼も必死に俺たちを倒そうとしていて、笑顔なんて一つもない。

 

 ただこの皇帝連合を存続するために──あの神祖ロムルスの為だけに命さえ投げ出してしまいそうな危うさがある。

 

 それは、とてもではないがあの都中で咲き誇っていた笑顔とは比べものにならなかった。

 

「たとえ、敵が神祖であろうと。余はこの光景だけは受け入れられない。たとえ余自身が望もうと、民が笑えぬ治世など絶望しか呼ばぬ!」

 

 強く、俺が圧倒された力を取り戻した声で。

 

 煌めき輝く、エメラルドのような綺麗な瞳に光を宿して。

 

 その俺より小さな体には見合わないほどの覇気を発揮して。

 

「故に余は──かの神祖を打ち倒そう!」

 

 そう、声高く宣言した。

 

「余の皇帝としての誇りにかけて! 話がローマに住まう人々全てと、神々に誓って! 余は最後まで戦い抜く!」

 

 もう俺が心配する必要なんてなさそうだ。

 

 少しホッとしていると、こちらを向いた陛下は自信満々な顔であった。

 

「藤丸、最後まで付き合ってもらおうぞ」

「はい、最後まで一緒に戦います」

「うむ! ──誇り高きローマの戦士たちよ! 今は敵であれども、彼らは守るべき民である! 極力傷つけることなく、このまま城まで突破せよ!」

 

 

 

 オオオオオォォッ!!! 

 

 

 

 待っていましたと言わんばかりに歓声をあげ、ローマ兵たちは暴徒を押し返し始める。

 

 それを見て、俺もマシュたちのところに急いで戻った。

 

「マスター、何だかネロ陛下が元気を取り戻したようなのですが」

「うん、もう平気だ……さあ、あの城に向かおう!」

「はい!」

 

 神祖を倒して……聖杯を回収する! 

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

 三人称 SIDE

 

 

 

「セイッ!!」

「ハァッ!!」

 

 二本のストームルーラーが振り下ろされる。

 

 それはヨームの身の丈に迫る刃を作り出し、大鉈で防ごうとした巨人の体を削り取った。

 

 

 その剣を誰が鍛えたのか、何故ヨームがそれを持っていたのか。

 

 それをジークバルトも灰も知らない。そもそも、灰の武具の大半は他者から奪ったものなのだから当然だが。

 

 だが、あまりに強力無比なこの剣は巨人を相手にした時にしか、その超常の力を発揮しない。

 

 そのことから察するに……良い目的のもと作り出されたわけではあるまい。

 

 

 故にこそ、騎士たちは曰く付きであろうその剣を覚悟を持って振るう。

 

 一人は、旧友のためにそのソウルを燃やして。

 

 一人は、マスターと友のために。

 

 

 両者ともに()()を支払いながら、巨躯の孤王を倒すためにその柄を握りしめた。

 

「オオオォオオッ!!」

「フッ……!」

 

 ジークバルトが迫力のある叫びとともに一閃を繰り出せば、その隙を埋めるように灰がストームルーラーを振るう。

 

 本気の殺意をもってジークバルトらを叩き潰さんとするヨームは、息のあったコンビネーションに何度かの直撃を受けた。

 

 

「ぐ、おぉお……!」

 

 

 苦しげに声を漏らし、膝をつくヨーム。

 

 灰の目には、そのソウルが弱まってきていることが分かった。余力は六割もあるまい。

 

 だが、彼は知っている。

 

 かつて一度戦ったからこそ、この先のヨームが最も厄介であることを。

 

 

 

「オオオォオオオオッッ!!!!!」

 

 

 

 巨人が吠える。

 

 兜代わりの鎖帷子の奥に隠された大口を開けて、地面にヒビを入れるほどの咆哮が撒き散らされる。

 

 とても劣勢であるとは思えない声量とともに、膝をついていたヨームはズン!! と大鉈の先端を地面に叩きつけた。

 

 

 そして、火が灯る。

 

 

 燻っていた体に、ソウルに残った《はじまりの火》の残滓が彼の闘志に答えて燃え盛る。

 

 瞬く間に赤熱した体から大鉈に火が伝い、そこに炎の巨人と形容できる存在が出来上がった。

 

「まだ、まだいけるぞ、ヨーム!」

 

 怯むことなく、ジークバルトがストームルーラーを掲げた。

 

「うぐっ!?」

 

 その瞬間、ドクンッ! と激しい激痛がエーテルの体を駆け巡り、ジークバルトは思わず片膝をついた。

 

 その隙を見逃さず、ヨームが真っ赤に染まった大鉈を振り下ろす。

 

「フンッ!」

 

 すかさず灰が割り込み、ストームルーラーを振るって打ち返した。

 

 よろめいて後退するヨームをひと睨みし、灰は胸当てのあたりを押さえているジークバルトに近寄った。

 

「平気か?」

「……何の、これしき。約束を果たすまでは、屈さんよ」

「そうか……では、その言葉を信じよう」

 

 片手でジークバルトの片腕を持ち、重量のある鎧に包まれた体を規格外の膂力によって立たせる。

 

 そこでジークバルトは自分で立ち、今一度ストームルーラーに風を纏って、二人を睨め下ろす巨人を見上げた。

 

「さあ、決着をつけるぞ!」

「ジークバルトオオオッ!!」

 

 吠えた二人は、互いに剣を振り上げる。

 

 灰は黙してジークバルトに付き従い、その動きに合わせて嵐の力を解放した。

 

 

 

 ズン、と言う鈍い音と共に、またヨームの体は傷ついていく。

 

 しかしそれまでと違ったことは、ヨームは野太い声で叫びながら、そのまま突撃してきたことだ。

 

 振り下ろされた超重量の大鉈を、灰は即座にストームルーラーをソウルに仕舞い込み、別の武器を取り出す。

 

 

 ガゴン、と大きな衝突音を立てて大鉈を受け止めたのは──ヨーム自身のソウルから作り出された、全く同じ大鉈。

 

《薪》とされた彼のソウルの残滓から作り出されたそれはいくらか小さく、灰の怪力によってどうにか拮抗する。

 

「今だ!」

「セァッ!!」

 

 大鉈を大鉈で支える灰の後ろから飛び出したジークバルトは、近距離でストームルーラーを斬り上げる。

 

 ほぼ横一直線に飛んだ風の刃は、辛うじて差し込まれた左腕に深い傷跡を残し、ヨームは苦悶に顔を歪めた。

 

 

 緩んだ力の圧に灰は全身の筋肉を奮い立たせ、声無き絶叫と共に大きく大鉈を外側へと弾いた。

 

 ありえざる膂力に、ヨームはまるで大鉈のみならず右肩の根本から腕が弾け飛ぶような衝撃を覚えた。

 

「ハッ!」

 

 灰の猛攻は終わらない。

 

 振り回した大鉈を虚空で消し去り、再びストームルーラーを握りしめた。

 

 回転する体の勢いに身を任せ、精神力を消費させて風を刃に纏わせると振り抜いた。

 

 

「グッ!?」

 

 

 ズグン、という鈍い感触がヨームを襲い、次の瞬間右肩がパックリと割れて鮮血が迸る。

 

 吹き出す端から、全身に盛る炎で蒸発していくそれに、さしもの巨人とて大きく後ろにタタラを踏んだ。

 

 

 明確な隙。

 

 攻撃とは最大の防御なりという言葉を体現するように、ヨームの鬼神の如き強さはその猛攻に由来する。

 

 だが、特攻宝具とも呼べるストームルーラーを二本同時に相手する、という特殊な状況に置かれてはその優位性を保てず。

 

 

 

「──友よ」

 

 

 

 頭上にストームルーラーを掲げたジークバルトは、目を見開くヨームに語りかけた。

 

 その刃には、それまでで最大の風が集まっている。

 

「再びこうして会えたこと、感謝しよう。たとえどのような主であろうとも尽くすその忠義、変わらずにいたことが何より嬉しかった」

 

 ジークバルトの持つ魔力全てを注ぎ込まれた風は、確実にヨームのソウルを削り切る威力がある。

 

 それはつまり──これがジークバルトにとっても、最大最後の一撃であることを意味していた。

 

「だから──友情と敬意を持って、また約束を果たそう。何度でも、何度だろうと!」

 

 覚悟を決め、柄を握りしめ、腰に力を入れて。

 

 最後にちらりと、最後まで共に戦ってくれた古騎士を見てふっと笑い。

 

 

 

「これで終わりだ──さらばだ、我が友よ」

 

 

 

 ジークバルトは、静かに嵐を解き放つ。

 

 ストームルーラーが直下へ真っ直ぐに落ちた瞬間──それまでの数倍は大きな刃が通過した。

 

 それは、ヨームの大鉈を、傾いた体を、その後ろの首都を守る堅牢な壁さえも切り裂いて。

 

「オ、ォオオオオオオ……」

 

 ゆっくりと、その巨躯が倒れ臥す。

 

 その背中が先の一撃で脆くなった外壁に倒れ込み、盛大な瓦礫の山を作りながら巨人は転倒した。

 

 

 

 しばし、戦場に轟音が響く。

 

 やがて外壁からポロリポロリとこぼれ落ちていた瓦礫が止み、振動が収まっていく。

 

 それが終わった時……もう、巨人の王は動かなかった。

 

「はぁ、はぁ……ッ!」

 

 ぴくりともしないヨームを見ていたジークバルトは、先ほどより更に荒く息を吐いて仰向けに倒れた。

 

 その手からストームルーラーがこぼれ落ち、わずかに渦巻いていた風が掻き消える。

 

 しばらく無言で空を見上げたジークバルトは──兜の下で、清々しい笑顔を浮かべたのだった。

 

「これで……また、約束を果たせた」

「………………」

「ありがとう、貴公。また付き合わせてしまったな」

 

 すぐ隣に立っている灰は、黙って彼の言葉を聞いた。

 

「勝利の祝杯を、と言いたいところだが……どうやら此度は、その時間もないらしい」

 

 ジークバルトの鎧から、白い粒子が立ち昇る。

 

 

 

 英霊、カタリナの騎士ジークバルト。

 

 

 

 セイバーの霊基として現界した彼の持つ宝具、その名を〝嵐を統べる者(ストームルーラー)〟。

 

 

 

 魔剣たるその剣の逸話の最後は、巨人の王ヨームの討伐。

 

 

 

 共に刻まれるは──騎士ジークバルトの死。

 

 

 

 確定されたその逸話は、宝具の展開とヨームの撃滅を条件として……ジークバルトを消滅させる。

 

 

 

「また、貴公に背負わせてしまうことを詫びる」

「……気にしないでくれ。私の旅は、そういう旅だ」

 

 灰はそれをわかっていた。

 

 分かっていながら……かつてのように見送ると分かっていながら。

 

 それでも、この陽気な騎士の願いを叶えたかったのだ。

 

「はっはっはっ、心優しき我が友よ! 貴公がいつか救われることを、私は心より願っているぞ!」

 

 最後に陽気に笑ったジークバルトは、右手を燦然と輝く太陽に伸ばし。

 

 

 

「我らのソウルに──太陽の栄光あれ!」

 

 

 

 そう言って、消滅した。

 

 共に、まるで寄り添うようにヨームも魔力の粒子になって消えていく。

 

 やがて、重なり合った二人の魔力が空へ消えていった時──ゴボッ、と大量の血を面頬の中で吐き出した。

 

「ゴフッ……どうにか隠し通せたようだな」

 

 二人の魔力が散っていった方を見上げ、やれやれと呆れながら独白する灰。

 

 そのままぐらりと後ろに倒れ、受け身も取れずに先ほどのジークバルトのように仰向けになった。

 

「……やはり、使えないか」

 

 既に手の中から消えたストームルーラー。

 

 

 

 かつてもヨームを倒すことそれだけに使った剣は──数ある武具の中で唯一、見事に砕け散ってソウルの中にあった。

 

 

 

 ジークバルトが必ずヨームを倒すのと同時に消滅するように、灰もまたその霊基に特殊な呪いがかけられている。

 

 

 

 その呪いは、誰かにかけられたものでもなければ、生まれつき持っている類のものでもない。

 

 

 

 ただ単純に──最後の薪の王(この霊基)である限りは決して破れぬ呪いなのだ。

 

 

 

「……すまない、マスター。そちらに行くにはもう少しかかりそうだ」

 

 

 

 疲れと、友への哀愁と。

 

 

 二つの苦しみを呑み下すため、しばし灰は戦場の空を見上げ続けた。

 




あと二話で収まるかなっと。

にしても随分とアクセス数減ったな…

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