今回はローマ…間違えた、ロムルス戦。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「な、なんとか着いた……」
「マスター、随分と疲労しています」
「うむ、ご苦労であった。マシュたちのようなサーヴァント? でないにも関わらず、お前は健脚だな」
「お褒めに預かり光栄です……」
どうにか暴徒を突っ切って城までついたけど、つ、疲れた……
いや、昔山で野犬の群れに追いかけ回された時に比べれば、まだマシだった。
犬の嗅覚って、人間の一億倍なんだよ……
「さて、我が屈強なるローマの戦士たちをしんがりに置いて、ようやくたどり着いたわけだが……本当にここか?」
『ああ、そこから強大な魔力反応を感じる。間違いなさそうだ』
「私も感じるぞ。殺すべき〝王〟の気配をな」
「皇帝暗殺の逸話を持つ荊軻さんもこう言っていますし、間違いなさそうです」
「よし。それじゃあ……行こう」
最後の覚悟を決め、俺たちは王城の門を押し開けると中に入った。
そこからはドクターの指示を頼りに、城の中を神祖ロムルスの反応に向かって進んでいく。
道中、やはりと言うべきか怪物や城に残っていた兵士に邪魔されたが、どうにか進めていた。
「ううむ、やはり……この城の構造、余の城と一致しておるな」
「確かに、よく見ると廊下の作りや扉の配置が同じです。これも聖杯の力なのでしょうか?」
『ありえるね。オルレアンではファヴニールなんて化け物を魔力で召喚してたんだ、城くらい作れても不思議じゃない』
どこか既視感を感じる廊下の中を、慎重に進んでいく。
まるでローマ帝国の首都にいる時のような気持ちになるが……あの城よりも、ここはずっと静かだ。
そうなると自然と移動も早くなって、この城にたどり着くまでの道のりが悠久に思えるほどあっさりと玉座の間についた。
最初に城に入ってきたときと同じような気持ちになりながら、マシュが重厚な両開きの扉を押し開けていく。
そうして露わになったその王座は、やはり見覚えがあって。
「──来たか。我が愛し子よ」
ただ、そこに座する人だけが圧倒的な存在感を放っていた。
「神祖ロムルスよ! 誉れ高くも建国を成し遂げた偉大なるローマの父よ! 余はやってきたぞ!」
気迫のこもった声で、歩み出たネロ陛下が宣言する。
その姿に、先ほどロムルスが現れた時の気後れのようなものは存在しなかった。
「……良い輝きだ。ならば、もう一度呼びかける必要はあるか、
「いいや、もはや必要なし。今、そなたが口にした通りに──過去も現在も、未来でも! 余こそがこの世界で唯一の第5代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウスである!」
胸を張り、剣を携え、碧眼は神祖ロムルスの赤い瞳を見据えて。
これまで通りに──いいや、これまでのどんな時よりも力強く、〝皇帝〟は始まりの人に相対した。
「故にこそ、余は余の剣たるこのもの達とともに、そなたを倒す!」
「──許す。その言葉嘘でないと叫ぶのならば、
そして、神祖ロムルスは立ち上がった。
玉座から、一歩、また一歩とこちらに進む度、ありえないほどの威容が部屋を支配する。
屈強な見た目に留まらず、それ以上の存在感が──あの邪竜ファヴニールにも劣らないオーラを醸し出す。
ただそこに立っているだけで苦しくなるのは、まるで──冬木でオルタの暴力を前にして膝を屈した時のようだ。
「マスター、気をしっかり持ってください」
「っ、そうだね」
……そうだ。
今の俺は、一人じゃない。あの時よりも少しは成長したはずだ。
だから……俺を頼ってくれる、この強い女の子の期待に応えなければ。
『魔力反応急上昇! 仕掛けてくるぞ!』
「マシュ、前衛を! ネロ陛下は遊撃、荊軻さんは隙を見て強襲!」
「了解しました!」
「うむ! この余を扱う権利を、この一時与えようぞ!」
「任せろ」
「では行くぞ──我が槍、我がローマを超えてみせろ」
手に出現した生い茂る木のような槍を掲げ──そして、振り下ろされる。
その瞬間、ゴウッ! という強烈な風が全身に叩きつけられた。た、たった一振りだけで吹き飛びそうだ……!
「怯むな! 前へ進まねばあの方は超えられぬ!」
「はいっ!」
「──来い!」
槍が振り切られた風圧を耐え抜き、本格的な戦闘が始まった。
「ヌゥンッ!」
「くっ、重っ……!」
「はぁあああっ!」
二度目の振り抜きをマシュの盾が阻み、ネロ陛下が斬りかかる。
神祖ロムルスは、それを易々と片手で受け止めた。
「なっ!」
「せぁっ!」
「ふむ」
刀身を掴まれ、動きの止まった陛下。
マシュが盾を上へ勢いよく振り上げることで神祖ロムルスの体勢をずらした。
「──ッフ!」
そこへ、背後からの荊軻さんの奇襲。
首筋に向かって匕首、という短刀が突き込まれたが──神祖ロムルスは、あえて
そうすることで、頸動脈を狙って放たれた匕首はスパルタクスさんの着ているような服に当たって阻まれる。
甲高い音を立てて鎧の表面を滑った短刀、苦い顔をする荊軻さんに下から神祖ロムルスの槍が迫る。
「ガンドッ!」
「ほう。お前も立ち向かうか、少年よ」
俺がなけなしの魔力で放った魔力弾で、一瞬気を引くことができた。
その間にサーヴァントたちと陛下は体勢を立て直し、再び神祖ロムルスに攻撃を仕掛ける。
だが、神祖ロムルスは生半可な相手ではなかった。
その鈍器のような槍を振るう剛力も、彫像のような筋肉を纏った体に相反する恐ろしいまでの素早さも。
卓越した判断技術と戦闘力、判断力も、その全てが俺の予想を大きく上回る強さを兼ね備えていたのだ。
その力は聖女マルタの操るタラスクさえ受け止めたマシュの盾を吹き飛ばし、ネロ陛下の剣撃をそよ風のように受け流す。
攻めあぐねる、とはこういうことか。二人の隙間を縫うように攻撃を仕掛ける荊軻さんもかすり傷も負わせられない。
「くっ、なんという実力だ……!」
「ポテンシャルはセイバーオルタさんに匹敵します!」
「どうした、愛し子とその剣よ。お前たちの
「なんの! 我が誇りにかけて、この程度で終わりはせぬぞ!」
「私もです! あなたを打倒し、この戦いを終わらせます!」
みんなの気合は十分。
俺もなんとかサポートできないかと頭を悩ませるが、あの激闘に介入できるような何かはない。
「何か、何かないのか……!」
そう呟いて、ふと握った自分の拳が眼に映る。
魔力が枯渇しかけて震えているその手の甲には……一画がかすれて消えた、赤い印が刻み込まれている。
そうだ、令呪を使ってなんとかできないだろうか。
単純に能力を向上させただけでは、少しの間なら圧倒できるだろうけど、あくまで一時的なものになる。
令呪の効力は短い。まだまだ余裕がありそうな今の神祖ロムルスでは、反撃されてしまう可能性が高い。
なら……
「何か考えているようだな?」
「荊軻さん?」
気がつけば、隣に荊軻さんがいた。
そうだ、速さと奇襲に特化した彼女なら……
「荊軻さん、ひとつ提案があります」
「ほう?」
そうして俺が手短に作戦を伝えた、その時。
「愛し子よ」
神祖ロムルスが、口を開いた。
「っ!」
「よく戦った。よく抗った。お前の愛は強い。そのことを
「何を、終わったようなことを!」
斬りかかるネロ陛下。それを槍で受け、神祖ロムルスは不敵に笑った。
「終わりではない。これは──
『魔力増大! 宝具だ!』
間髪入れず放たれたドクターの忠告通り、神祖ロムルスのオーラが劇的に膨れ上がった。
「これは……!」
「むう……!」
「マシュ! ネロ陛下!」
「では、受けてみよ──我が
まずい、来る!
「〝すべて、すべて、我が槍にこそ通ず! 〟」
神祖ロムルスの槍に、凄まじい魔力が収束していった。
それが最高潮に高まった──その瞬間。
「〝
部屋の中を、《大樹》が埋め尽くした。
槍から爆発的に溢れ出した大量の樹木が伸び、成長し、暴れ狂い──部屋の中の全てを蹂躙する。
あの巨人の王ヨームの背丈ほどの高さの玉座の間を飲み込んだそれは、文字通りすべてを飲み込んだのだった。
「……む」
だが、神祖ロムルスが不思議そうな声を漏らした。
俺はそれを──間一髪で宝具を展開し、大樹の侵略を防いだマシュの後ろから聞いたのだ。
強く手首を左手で握りしめ、偏食かけた右手の手の甲では……残る令呪が二つとも輝いていた。
一つは、繋がった
そして、残るもう一つは。
「〝──ここより己の死は恐れず、生も求めず〟」
「……っ」
「〝
「ぬ、う……」
神祖ロムルスの背後からその心臓を貫く、荊軻さんへ。
彼女とは昨晩、もしかしたら何かあるかもしれないということで仮契約を結び、パスを繋いであった。
これで……俺に残ったものは全部出し尽くした。
あとは……
「ネロ陛下!」
「はぁあああああああああっ!!!」
マシュとともに退避していた陛下が、白亜の壁を乗り越える。
そのまま途中で成長を止めた大樹の上を走り、一直線に硬直しているロムルスの元へ駆け抜けて──
「フッ!」
「──ッ!」
その胸に、深く剣を突き立てる。
鍔の無い真紅の刀身は分厚い胸板に半分以上埋まり、遠目から見てもその傷は致命傷だ。
「よし……!」
「神祖ロムルス、行動を停止! 大ダメージと思われます!」
「……見事だ」
思わずマシュと一緒に声をあげると、神祖ロムルスが呟いた。
口の端からは血が流れ、手の中から槍が滑り落ちる。それと同時にマシュの盾を押していた木の幹が消えた。
部屋の隅まで追いやられていた俺たちはホッと息を吐き、神祖ロムルスを見た。
「……この
「眩い愛だ、ネロ……そのすべて、しかと見させてもらった」
「…………」
「永遠なりし、真紅と黄金の帝国。その繁栄をお前に、この後に続くものに託そう」
「……その使命、我が皇帝の位に賭けて成し遂げると誓おう」
「忘れるな。ローマは永遠だ。故に、
まるで、満ち足りたような表情で。
ネロ陛下の前で、神祖ロムルスは消滅した。
ふっと、その胸を穿っていた剣が空中に投げ出され、所在なさげに揺れる。
「……偉大なる神祖よ。どうか安らかに眠りたまえ」
それを見るネロ陛下の目は、どこか寂しげだった。
『魔力反応、完全消滅……神祖ロムルスを撃破したぞう! よくやった!』
「私たちの勝利です」
「いやはや。一か八かの賭けだったが、うまくいったものだな」
「荊軻さん、ありがとうございました」
「いや。君はなかなかの戦略家だ。良い指揮官になれるだろう」
束の間の勝利に喜びながら、ふと戻ってきたネロ陛下に目を向ける。
顔を俯かせながら歩み寄ってきた彼女に、喜びも萎えて何かを言おうとした。
「──いやはや。驚いたよ、あのロムルスを倒すとはね」
心の底から嫌悪感をかき立てられるような、その声が聞こえるまでは。
次回はまた文字数が多くなります。
さあワカメ、心の準備はいいか?
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。