灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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いやほんと、ほんとありがとうございます!こんな稚拙な文章を気に入っていただけて嬉しいです!感想もありがとうございます!
低評価ついてへこんだりもしましたが、これからも頑張ります。
楽しんでいただけると嬉しいです。


探索

「ふっ!」

「ガッ……」

「マシュ、今だ!」

「はぁっ!」

 

 バーサーカーの射った矢が髑髏仮面の心臓に刺さり、動きが止まったところをマシュが大楯で叩き潰した。

 

「戦闘終了です。敵性反応はなし、お疲れ様でしたマスター、バーサーカーさん」

「ふぅ……」

「二人ともお疲れ様。怪我とかない?」

 

 武器を下げた二人に近づいて、声をかける。こちらに振り返った二人は問題ない、と頷いた。

 

 探索を初めてから、体感で二十分。街の様々なところへ行き、髑髏仮面とそれの引き連れる骸骨たちと戦闘を繰り返していた。

 

「もう戦うのも何回目かだけど、マシュは平気?」

「はい、融合したサーヴァントの霊基が戦闘技術を教えてくれましたから。それに、バーサーカーさんが的確な射撃で動きを止めてくれますので」

「これでも多少弓には自信があってね。大楯の貴公が戦闘経験を積む程度の手助けはできるさ」

 

 それまでの遠慮がちな態度とは違い、少しだけ得意げな声で言うバーサーカー。どうやら弓の腕は自ら自慢するほどらしい。

 

 今まで見たところ、バーサーカーの矢が外れたことは一度もない。どんな相手でも確実に心臓や頭を狙い撃っている。

 

 すごい時なんか、5本同時に射ってまとめて骸骨を倒していた。映画の中でしか見たことないような絶技に興奮しちゃった。

 

 本人曰く、〝犬に比べたら遥かにマシ〟らしい。声にはわずかに怒りのようなものが混じっていた。苦い思い出があるようだ。

 

「ふぅん……マシュ、あなたなかなかサーヴァントの力を使いこなせてるじゃないの」

「あ、所長。影に隠れていましたが、お怪我はありませんか?」

「一言余計よ!……ええまあ、なんともないわ」

 

 ご苦労様でした、と偉そうに胸を張る所長。なお張っても膨らみの方は……と一瞬考えたら足を踏まれた。痛い。

 

「バーサーカー様も、見事ですわ。さすがは火を継いだお方です」

「そうかい?まあ、弓の腕を褒められてそう悪い気はしないね」

「はい、バーサーカーさんはアーチャークラスで召喚されてもおかしくないです」

 

 ……むむ。

 

「ねえマシュ、一つ気になってたんだけど。そのアーチャーとかバーサーカーとか、なんなの?」

 

 失礼ながら会話に割って入って、そう尋ねる。所長が「あんたそんなことも知らないの?」みたいな顔をした。

 

 本人がそう名乗ったからバーサーカーのことはバーサーカーって呼んでたけど、よく考えたら狂戦士っておかしい。

 

「あ、説明していませんでしたね。英霊を使い魔として召喚することは話しましたよね?」

「うん、そこまでは聞いた」

「それで召喚の際、サーヴァントは逸話や神話によって七つのクラスに分けられます」

 

 なんでも英霊を完全なものとして召喚するには、人間の魔術師では例えるならリソースやメモリが足りないらしい。

 

 だからその英霊の一部の側面を強く固定化し、召喚する。そうすることで召喚の難易度を低くして、ようやく使えるとか。

 

 そのクラスとは、剣騎(セイバー)槍兵(ランサー)弓兵(アーチャー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)

 

 そして、狂戦士(バーサーカー)。他にもエクストラクラス?というのがあるらしいけど、所長からそこは今は省けとお触れが入った。

 

「クラス名は、そのサーヴァントの真名を隠すためのプロテクトでもあるわ。そうすることで、英霊の弱点を隠蔽するの」

「えーと……それじゃあ織田信長だったら焼き討ち、とか?」

「それはちょっと曖昧だけど……要約するなら、そういう解釈でもいいわ。その結果、バーサーカー様はアーチャークラスにも適性があってもおかしくないくらいの腕なの」

「ふぅん……あれ、でもそれなら他の適性は?」

 

 バーサーカーは槍も、魔術も凄まじい腕前を持っていた。ランサーやキャスターの素質もあるんじゃないだろうか。

 

「一応、一通りの武器は全て使えてね。いや、だからこそバーサーカー(このクラス)に当てはめられたというべきか」

「バーサーカーは特にこの武器だから、という適性で決まるわけではないですからね。どちらかで言えば、逸話の中の人物像によって決まります」

「ある意味融通が利くとも言える……?」

 

 でもバーサーカーから狂気なんて感じないけどなぁ。あ、犬の話をした時はちょっと鬼気迫るものがあったかも?

 

「……まあ、そもそもの話。私は正規の英霊ではないのだがね」

「というと?」

「簡単な話だ、私は()()()()()()()

 

 なんでもないように、バーサーカーはすんごいカミングアウトをした。これにはマシュも所長もあんぐりとする。

 

 さっき出発する前の話では、バーサーカーは何千年も前の人のはずだ。それなのにまだ死んでないって、もしかして不老不死──?

 

「不死人とは文字通り、()()の怪物のことだ。ダークリングが現れた瞬間に老化は止まり、いずれ亡者となる」

「じゃあバーサーカーさんは、現代まで生き続けていたと?」

「君たちの言う生きているという定義に当てはめるならば、少し違うのだろうがな……つまるところ、私はサーヴァントという枠組みに擬似的に当てはめることで、この世に現界しているのだよ。半ば受肉しているようなものだ」

 

 はえー、そんなこともあるのか……サーヴァントって色々いるんだなぁ。

 

 と思ってたら、こしょっとマシュから普通ならそんなことはあり得ないと言われた。やっぱり特別なことらしい。

 

 あとどうでもいいけど、耳にマシュの吐息が触れてくすぐったい。だめだ俺、煩悩退散だ。爺ちゃんにゲンコツ入れられるぞ。

 

「旅の中で、我ながら凄まじい量のソウルを吸収した。抑止力も迷った末、このバーサーカーの霊基にしたのだろうな……と、無駄話をしている場合ではない。何か手がかりはないか探そう」

「そうですね。ほらフジマル、マシュ!早く動きなさい!」

「あ、はい!」

「いえっさー!」

 

 所長の覇気に押され、慌てて周囲の捜索を始める。何か、この特異点に関するものがないか目を皿にして探した。

 

 これまでいろいろなところに行ったが、どこにも何もなかった。いや、違うな……人は全て死んで、瓦礫ばかりがあったんだ。

 

 一体この街で、何があったのか。焼け焦げた人の死体を見るたびにやるせない気持ちに襲われ、俺は必死に原因を探る。

 

「……そういえば所長は」

 

 ふと後ろを振り返ると、所長はバーサーカーと話していた。お、俺たちに面倒ごとは任せておいて……

 

 けど、その顔はとても楽しそうで、いつもの神経質そうなところは感じられない。ごく普通の、年頃の女性っぽい柔和な表情だ。

 

「しかめっ面してなかったら、いい人だと思うんだけどなぁ……」

『まあまあ、そこは大目に見てあげてよ』

 

 思わず溢れたつぶやきに、ミニマムになったドクターのホログラムが現れて答えた。そろそろ驚かなくなってきた。

 

『彼女はね、かなり波乱万丈な人生を送ってきたんだよ。三年前、まだ学生の頃に前所長……お父さんが死んで、急遽跡を継いでね』

「それは……」

 

 所長に同情の念が浮かんでくる。

 

 父親が死ぬというのは、どんなに辛かったのだろうか。俺は爺ちゃんが死んだ時は人生で一番泣いたけど……

 

 両親が共働きで一人が多かった俺にとって、爺ちゃんの存在は救いだった。厳しかったし、時々ものすごく怖かったけど。

 

 でも、それでも大好きだった。爺ちゃんも婆ちゃんが早く亡くなったから、俺のことを可愛がってくれてた。

 

 両親も俺が爺ちゃんに懐いてたのを知ってたので、今じゃ爺ちゃんの残した家に住んでるくらいだ。

 

『そこから緊張の連続の日々で、彼女の気が休まることはなかった。なにせ魔術師の総本山とも言われる時計塔の12のロードの一柱、天文学科を管理するアニムスフィア家の家督を継ぐことになったんだからね』

「俺だったら絶対音をあげてますね」

『どうかなぁ……マリーはカルデアの維持で手一杯だったのに、そこに今回の異変。スポンサーや出資者の教会からは非難轟々、さらにマリーにはマスターの適性がなかった。もうストレスは極限だ』

 

 それほどまでの責任を一人で負うのだ、きっと生半可なものではない。ヒステリックになるのも仕方がなかったのだろう。

 

『それでもこの半年、彼女はなんとか持ちこたえている。だから多少きつい物言いなのは勘弁してくれないかな?』

「……そんな話聞いたら、いちいち目くじらなんて立てられませんよ」

 

 もう一度所長を見る。

 

 心から楽しそうなその顔は、これまでの苦労をひと時でも忘れていると考えると、邪魔なんてしようとは到底思えない。

 

 もうしばらく、そっとしておこう。俺は意識を探索に戻して、瓦礫の下を調べ始めた。

 

「先輩、こちらは終わりました」

「うん、俺もちょうど終わったとこ。何かあった?」

 

 数分して、反対側を探していたマシュと合流する。マシュは首を横に振り、特に成果がないことを示した。

 

「先輩は?」

「残念ながらなんにも。所長のところに報告に行こうか」

「はい」

 

 所長たちのところに戻って、経過を伝える。所長は特に期待していなかったのか、そうとだけ言った。

 

「しかし、改めて考えるとどうしてこうなったのでしょう?データで見た2004年の冬木は、いたって平和のはずですが……」

「私が考察するに、特異点とはボルトのようなものよ。抑止力の働かない、人類史に点在する人類滅亡の致命的な選択を、悪い方に間違えたもの……」

 

 要するに、ゲームでいうバッドエンド状態ってことなのか。

 

 そこから続いた所長の話によると、ラプラスという装置によるデータ集計の結果、この年冬木では〝聖杯戦争〟なる儀式が行われたらしい。

 

 聖杯とは、所有者の願いを叶える万能の器。魔術の根底にあるなんでもできる伝説の魔法の釜とか。

 

 それを起動するために行われたのが聖杯戦争。七騎のサーヴァントを召喚し競い合い、最後に残ったものが手にするという。

 

「カルデアがこの事実を知ったのは2010年、お父さ……前所長はこのデータをもとに召喚式を作った」

「それがカルデアの英霊召喚システム・フェイトですね。私に力を与えてくれた英霊もフェイトで召喚されました」

「ふーん……あ、じゃあカルデアには他にも英霊がいたりするの?」

「はい、あと2名ほどいると資料に」

「それは今はいいわよ。重要なのは、ここはサーヴァント発祥の地ということ。かつてサーヴァント同士が戦いあって、セイバーが勝利を収めた。街は破壊されることなく、人々に知られずに聖杯戦争は終わったわ」

「でも……」

 

 見渡す限りの焼け野原。とてもではないが、無事にその聖杯戦争が終わったとは思えない光景だ。

 

「そう、そこよ。きっと特異点が生じたことで結果が変わったのよ。その結果カルデアスに異変が起きて、100年先までの未来が見えなくなった」

「つまり、そのせいで本来死ぬはずのない人が大勢死んだんですか?」

「でしょうね。本来の歴史では、街は燃えていないもの」

 

 それは……許せないな。なんとしても、特異点を消さなくては。

 

「本来あるべき姿の改変、か……なるほど、悪い方向に行けばこうも無残な有様になるのか」

「バーサーカーさん?」

「……マスター、この異変を解決しよう。曲がりなりにも人理を作った要因の一端として、この事態は看過できない」

「うん、そのためにも探索を続けよう」

 

 俺の提案に全員が頷き、引き続き町の中を移動し始めた。




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