灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

80 / 98
すみません、やっぱりボリュームが1万文字を超えてしまうので、あと一話だけやります!

その分幕間が一話減ってしまいますので、ご了承下さい。

楽しんでいただけると嬉しいです。


魔神、顕現

 

 この、声は……っ! 

 

「レフっ……!」

 

 半ば確信しながら、ネロ陛下のさらに背後を見る。

 

 そこに立って、憎らしげな笑顔で拍手をしていたのは──紛れもない、レフ・ライノールだった。

 

 緊張で体が強張る。自分でも驚くほど怒っているのがわかる。

 

 隣にいるマシュが、大楯の持ち手を強く握る音が不思議と大きく聞こえた。

 

「いや、いや。その程度の戦力でロムルスを倒しきるとは、冬木の時より多少力を付けたのか? デミ・サーヴァントふぜいがよくやるものだ」

『……やはり君か。おかしいと思ったよ、ロムルスを倒したのに特異点の修復は始まらない。ならば聖杯を所有する連合の魔術師……つまり君を倒さないと、事態は収束しない』

 

 通信機越しのドクターの言葉に、レフはフンと鼻を鳴らした。

 

「だが、所詮はサーヴァントだ。いくら力をつけようとも──聖杯の力には敵わない」

「「「「っ!」」」」

 

 息を呑む。

 

 レフが胸の前で掲げた手の中──そこに、ジル・ド・レェが持っていたものと同じ黄金の欠片が現れたのだ。

 

「あれは……聖杯!」

「はい、前回のものと形状は一致しています。感じる魔力の膨大さから見ても、間違いありません」

「あれがお前達の求めていた……むう、凄まじい力だな」

「油断するな。あの男……不気味だぞ」

 

 ……聖杯はとても強大な力を持っている。

 

 オルレアンでは、ジル・ド・レェがとんでもない怪物を召喚していた。

 

 同じようなものを出されたらまずい。あの時よりずっとここにある戦力が少ない。

 

『宮廷魔術師が、王の危急をあえて見過ごすとはね。すっかり裏切りが板についた……というより、それが素なのかな。活き活きとしてるよ、君』

「……聖杯を渡せ、レフ・ライノール」

 

 一歩前に出て、正面から睨みつける。

 

 俺がこんなことをしても意味がないのはわかってる……でも、所長を殺された恨みがあった。

 

「ほう、いっぱしの口を利くようになったじゃないか少年。聞けばフランスでは大活躍だったとか……まったく、おかげで私は大目玉だ!」

 

 カッと目を見開いたレフが、大きく口を開けて叫んだ。

 

 無意識に、一歩後ずさる。すかさずマシュが隣にやってきた。

 

 見た目は人間のはずなのに、その気迫はまるで……あのジル・ド・レェの怪物のようなそれだ。

 

「本来ならばとっくに〝神殿〟に帰還しているはずなのに、貴様達のおかげで子供のお使いさえできないのかと追い返された! ああなんと腹立たしい!」

 

 本心から苛立っているように、顔をものすごい形に歪めるレフ。

 

 ……まるで八つ当たりだ。子供のように感情を剥き出しにして、俺たちへ怒りを向けてきている。

 

 じっと睨み返していると、レフはフッと息を吐いて表情を元に戻す。それから心底面倒そうな顔をした。

 

「結果、こんな時代で後始末だ。聖杯を相応しい()()に与え、その顛末を見物する愉しみすら堪能できなかった」

『……そうか。その時代を狂わせる人間や英霊に聖杯を預けてしまえば、その力で自然と時代は狂っていく』

「……だが。あの方は、誉れ高き神祖はそれを望んではいなかった」

 

 ネロ陛下が引き継いだ言葉に、神祖ロムルスの最後の言葉を思い出す。

 

 〝ローマは永遠だ。故に世界(ローマ)は永遠でなくてはならない〟……彼は時代の崩壊を望んでいなかった。

 

 むしろその逆、自分でローマをもう一度導こうと……そしてネロ陛下に負け、後を託していた。

 

「フランスでは、召喚されたジル・ド・レェがそうでした。ですが神祖ロムルスは違ったからこそ──」

『──君が自らの手で干渉するしかなかったということか。皮肉だなレフ教授、この時代に君のような人類の裏切り者はいなかったわけだ!』

「──ほざけカス共。どいつもこいつも思い通りに動きもしないゴミの寄せ集めが、最初から期待などしていないわ!」

 

 叫び、レフは俺を見る。

 

「君もだよ藤丸君。凡百のサーヴァントをかき集めたところで、私を阻めるとでも?」

「……俺はもう、あの時とは違う」

 

 無力なままなのは変わらない。でもただ所長が殺されるのを傍観していた時とは違う。

 

 あの時より、少しは魔術を知った。マスターとは何かを知った──英霊達と、絆を結んできた。

 

「俺は、皆が繋いでくれた絆があなたに負けるとは思っていない!」

「ああ、確かに君は変わった。立派に成長したのだろう。無駄にあがけば無駄に苦しむとも理解できない、その愚かさが実に増長したとも!」

「っ!」

「そしてやはり思い違いをしているようだ。聖杯を回収し、特異点を修復し、人類を──人理を守るぅ? 馬鹿め、すでに貴様らにはどうにもならんわ!」

 

 ……あの時も、こいつはそう言った。

 

 所長を嘲笑い、カルデアの人たちを殺して、全ては無意味だと罵った。

 

 その時からこいつは何も──何も、変わってない。

 

「抵抗は無意味、結末は確定した。貴様らが何をしようと無意味、無為、無能! 実に哀れだ、ハハハハハッ!!!」

「っ、そんなことはない……!」

「レフ・ライノール! ここであなたを倒します!」

「事情はよくわからんが、あやつを倒せばローマは元に戻るのだな?」

「ここまでやってきたのだ、助太刀しよう」

 

 ネロ陛下と、荊軻さんも並ぶ。

 

 そんな俺たちに──やはりというか、レフは醜悪な笑みを浮かべた。

 

「せっかくだ。哀れに死にゆく貴様たちに、今私が! 我らが王の寵愛を見せてやろう!」

「っ!?」

「聖杯が……!」

 

 輝いている……!? 

 

 オルレアンで見たものよりもさらに強く、そしておぞましい光を発する聖杯。

 

 レフの手の中で輝くそれは、全身が寒気立つような威圧感を発した。

 

 

「お、おおおぉぉぉオオオオ────!」

 

 

 その輝きに、レフが包まれて──! 

 

「くっ!」

「フー、フォウッ!」

「下がってくださいマスター、危険です!」 

「なんだ、このオーラは……!」

「なんと邪悪な……!」

 

 輝きはどす黒い瘴気に変わって、俺は思わず両手で顔をかばった。

 

 ロムルスの一振りに匹敵する風圧が吹き荒れ、気を抜けば吹き飛ばされてしまいそうだ……! 

 

 

《──ハ、ハハハハハ》

 

 

 やがて、それが収まった時にいたのは。

 

 この世のどんなものよりも大きくて、おぞましくて、恐ろしい──何より醜い怪物だった。

 

「なんだあの怪物は……! 醜い! この世のどんな怪物よりも醜いぞ、貴様!」

《ハハ、ハハハハ! ソレはソの通リ! この醜さこそが貴様ら人類の証明、これこそが貴様らを滅ぼすのだ!》

 

 声すらも恐ろしい。

 

 大元はレフのものだが、まるで男や女、若い人や年老いた人のものがいくつも重なって聞こえる。

 

 それは互いが互いを汚し、聞くに耐えない気持ちの悪い声を作り出しているのだ。

 

『この反応、この魔力……サーヴァントでも幻想種でもないぞ! これは──伝説上に存在する、本物の〝悪魔〟の反応か……?』

《改めて自己紹介しよう。私はレフ・ライノール・()()()()()! 七十二柱の魔神が一人! 魔神フラウロス──これこそが我が王の寵愛そのもの! 我が真の姿だ!》

 

 魔神、フラウロス……

 

「おぞましい……やはりおぞましいぞ貴様! これでは悪逆そのものではないか!」

「地に突き立つ、巨大な肉の柱……通常のサーヴァントの比ではない大量の魔力……ドクター、これは!」

『……フラウロス、七十二柱の悪魔……まさか、彼の言う王とはまさか……』

「ドクター!」

「マシュ、油断しないで!」

「っ、はい!」

 

 皆が武器を構える。

 

 俺もほとんど魔力は残っていないが、それでも王座にそそり立つ巨大なイカの足のような怪物を睨んだ。

 

 

 

「──レフ・ライノールッ!!!」

 

 

 

 その時──〝彼〟の声が聞こえた。

 

「っ!?」

 

 思わず後ろを振り返る。

 

 すると、開けっ放しになっていた扉の向こう──俺たちの頭より上を、一つの影が飛ぶ。

 

 目で追うと、その影は俺たちの上を飛び越えて、そのまま怪物になったレフに激突した。

 

《グオオオォオオオオッ!? き、貴様……!》

「焼きつくされよ! その醜きソウルごと!」

「「バーサーカー(さん)!?」」

 

 怪物の四角い目玉の一つに大斧を突き立てているのは、バーサーカー。

 

 外で《薪の王》と戦っていた彼は、蠢く怪物に雷を発する大斧を更に深く沈み込ませていく。

 

「マスター、退避しろ! 宝具を使う!」

「っ! マシュ、ネロ陛下、荊軻さん! 今すぐ逃げよう!」

「は、はい!」

「むう、あの怪物を前にして逃げるというのか!?」

「それほど危険な攻撃をするということだ、急げ皇帝!」

 

 冬木で一度だけ見たバーサーカーの宝具が脳裏をよぎる。

 

 あれは死の概念そのもの、解き放たれたら英霊であっても死んでしまう──そんな危険なものだ。

 

 全力で走って、マシュたちと一緒に部屋の外に出ると、四人でとても重い扉を閉め始めた。

 

 

 

「〝──これより開くは禁断の扉、人を貶める呪縛の監獄〟」

 

 

 

 その途中で、バーサーカーの詠唱が始まった。

 

「〝其はかつて一人の小人見出したる、悲しく、恐ろしき人の真実なり。されど真は永遠に変わることなく。ならばこそ我は受け入れよう、その絶望を。謳え、嗤え、狂え。意思あるならば全てを嗤うがいい〟」

 

 少しずつ狭まっていく玉座の間の光景、その中で魔神フラウロスの体よりも黒く輝く光。

 

 天井高く、フラウロスの屹立で崩壊した天井の向こう側に、赤く蠢く黒い空の穴が見えた。

 

 刻一刻と迫るタイムリミットに、俺は全身の力を両手に込めて扉を押す。

 

「〝その果てに、すべからく絶望すべし。あまねく人よ、我が苦しみを見よ、憎しみを聞け。この残酷を、その身をもって知るがいい〟」

《貴様ぁあああああッ!! 既に終わった時代の残りカスの分際で、王の寵愛たるこの姿に傷をぉおおおお!》

「〝来たれ死よ、我らが人の内に眠る暗黒よ。呪いの輪《ダークリング》の下に、解き放て〟──一度滅びてもらうぞ、レフ・ライノール!」

 

 そして、ついに扉を閉め切ろうかという刹那、その瞬間。

 

 

 

「宝具解放──《 我が闇を見よ、人の性を(ダークソウル) 》」

 

 

 

 固く閉ざした扉の向こうで、激震が轟いた。

 

「ぐうううぅ!」

「くうっ!」

「す、凄まじい衝撃だぞ! あの騎士は何をしたのだ!?」

「今はこの扉を抑えろ! さもなければ吹き飛ぶぞ!」

 

 あの時は遠くで見てるだけだったけど、こんなに威力があるなんて! 

 

 他の三人に比べればちっぽけな力だが、この壁のような巨大な扉を破壊せんと迫る衝撃を押し返す。

 

 それは城そのものすらも揺らして、天井から今にも蝋燭のシャンデリアが降ってこないかと慄いた。

 

 

 

 耐えて、耐え続けて、何秒が経過しただろう。

 

 少しずつ揺れが収まっていく。それに伴って扉を内側から押す力も弱まっていき。

 

 ほどなくして、完全にピタリと振動が収まった。

 

 あまりの落差に、俺たちは思わずバランスが崩れて扉に体を押し付ける。

 

「「あ……」」

 

 その際。偶然にもマシュと手が重なった。

 

「す、すみませんマスター」

「う、うん、俺も」

 

 すぐにパッと体ごと引く。いけない、こんな状況なのに何やってるんだ俺。

 

 数秒ほどマシュと見つめあって、「んんっ!」というネロ陛下の咳払いにハッと我に返った。

 

「な、中はどうなっているのでしょうか?」

「ドクター、そっちの観測ではどうなってますか?」

『ううん、魔神フラウロスの反応は……微弱だね。どうやら彼の宝具は効いたようだ』

「それならば早く開けるぞ! あやつ一人にあの怪物を任せ続けるのは余は心苦しい」

「ああ、そうだな。藤丸、マシュ、開けるぞ」

「はい、荊軻さん」

「バーサーカーを助けないと」

 

 あの宝具はすごい力を持っていたが、その分かなり消耗していたはずだ。

 

 はやる気持ちを抑えながら、扉に手を伸ばした──その時。

 

 バン! と大きな音を立て、扉が内側から開いた。思わず尻餅をついてしまう。

 

「マスター! まだここにいたのか!」

「バーサーカーさん!?」

「ば、バーサーカー、レフは──」

()()()()()()()()()()()()! とにかく、今すぐ()()から──」

 

 とても慌てた様子でまくし立てるバーサーカー。

 

 ふらふらと体を揺らし、今にも倒れそうな彼の後ろをふと見ると。

 

 

 

「──人は」

 

 

 

 そこに、()()があった。

 

 

 

「私をこう呼ぶ。〝神の鞭〟と──」

 

 

 

 

 

 そして、視界は極光によって白一緒に塗り潰され──暗転した。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回で本当の本当に終わり。

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。