灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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なんというか、うん。

ネタが安っぽい。

楽しんでいただけると嬉しいです。


「右腕」は誰だ?

 

 

「うーん、これは派手にやったねぇ」

「いたたっ!」

 

 ドクターに右手を揺らされ、走った激痛に思わず声を上げる。

 

 黒ずんだ指先はろくに動かないくせに、痛みだけは嫌というほど主張するのだ。

 

 だというのに、ドクターはニコリと笑って手元の用紙……確かカルテルと言ったっけ……に書き込む。

 

「うん、痛みを感じるのならまだ平気だ。定期的な治療魔術と鎮痛剤で元に戻るよ」

「そ、そうですか……」

 

 ほっとした。

 

 もしこれで痛まないようなのなら……右手の指を切断しなくてはいけない、なんてことにならなくてよかった。

 

 慎重に、あまり動かさないように包帯を巻き直して、首から下げた包帯に吊るす。

 

 それからドクターに向き直ると、カルテルを書き終えた彼は振り向いて柔らかく笑った。

 

「無茶をするのはあまりよろしくないが、そう言ってもいられない状況なんだよね。藤丸くんには負担をかけることになる」

「なんとか頑張ってみます」

「頼もしいね。いやぁ、しかしよく頑張ったねえ。これほど大きな特異点を二つも修復して、まだ五体満足なんて驚いたよ」

「マシュやバーサーカー達のおかげですよ」

 

 マシュが、バーサーカーが。今回味方になってくれたサーヴァント達が。

 

 みんながいたからこそ、特異点修復……聖杯を回収できた。

 

 今回のローマでも、一人でも欠けてたら俺は死んでいたかもしれない。

 

「うんうん、そうだね。聞けばあの竜の魔女様もかなり言うことを聞いたみたいじゃないか」

「はは……」

 

 ドクターの言葉に曖昧に笑い返しながら、彼女のことを思い出す。

 

 なんの因果か、オルレアンから帰還後に召喚された彼女はかなりアクの強い英霊だった。

 

 度重なる戦闘シミュレーションによる連携や、危うく燃やされかけながらのコミュニケーション……

 

「本当に大変でした……」

「素直に君のコミュニケーション能力には脱帽だよ……さ、検診は終わりだ。これ鎮痛剤、服用方法はこれね」

「ありがとうございます」

「あまりここに来ないようにね。あ、僕がサボれ……雑談ならいいけど」

「またルーソフィアさんに怒られますよ」

 

 俺みたいに。

 

「じゃあ、失礼します」

「お大事にねー」

 

 ほんわかと笑うドクターに会釈して、薬を片手に医務室を後にする。

 

 そして廊下の方に体を向けたところで、きゅうとお腹が鳴った。

 

「そろそろ昼時かな……」

 

 サバイバルで培われた体内時計によると、だいたい正午を少し過ぎたくらい。

 

 自室に向かおうとしていたところを、食堂に行くことに変更して歩き出した。

 

「いや、でもどうするかな……自分で食べられるかなこれ」

 

 吊るされた自分の右腕を見下ろして、思わず独り言を呟いてしまう。

 

 

 

 ローマから帰還した俺に待っていたのは特異点での活動報告と検診……そして山のような反省文。

 

 

 

 最後に関しては、ルーソフィアさんから戦闘シミュレーションや小テストの際に課せられるもの。

 

 そして今回十枚を超える反省文を書かされた理由は、言わずもがなこの右腕が原因だ。

 

 最後の合戦において、俺は令呪三角も自分の魔力も全部使い切り、文字通りすっからかんだった。

 

 それなのに、その後のアルテラとの戦いにおいて米粒ほどの魔力を絞りに絞ってサポートしたせいでこうなった。

 

 

 魔力回路の酷使によって右腕の末端神経がダメージを受け、壊死寸前だったらしい。

 

 あの場で直ぐルーソフィアさんが治療してくれたからよかったものの、放っておけば危なかったとか。

 

 最悪、その後の経過でダメなら指を……と最初に聞かされた時は、心の底からゾッとしてしまった。

 

 

 だが幸いにも、ルーソフィアさんの優れた魔術によってどうにかそれは免れた。

 

 ドクターの見立てでは、定期的な処置によって二週間程度で元には戻るらしい。

 

 体と同様に魔術回路も疲労しているので、しばらく座学以外のトレーニングは控えるように、とのこと。

 

「ルーソフィアさん怖かったなー……」

 

 もうあの説教は受けたくない。

 

 口調こそ丁寧。いや、そうだからこそ渾々と正論と反省点を指摘され続けるのは、実に心に響いた。

 

 最近ではルーソフィアさんのことが、厳しい学校の先生に思えてきて仕方がない。

 

「言ったら怒られ……はしないけど、困らせちゃいそうだな」

 

 いや、案外ノリがいいからもしかしたら本格的に教師になるかも……なんちゃって。

 

「フォウ!」

「あ、フォウ。お前もお昼食べにいくのか?」

「フォフォウ!」

「そっか。乗っていく?」

「ンフォウ!」

 

 元気よく答えたフォウに、その場で立ち止まって片膝をつく。

 

 そうして吊るされた右腕を不恰好につきだしたのだが……フォウはスンスンと嗅ぐだけで乗らない。

 

 

 かと思えばトテトテと移動し、ぶらりと垂らしていた左腕からよじ登って。

 

 しばらく俺の首の周りをぐるぐると回って、最終的に左肩に収まった。

 

「珍しいな、いつも右側に来るのに」

「ンフォっ」

「もしかして、気遣ってくれたのか? 可愛いやつだな〜」

「フォフォ〜♪」

 

 頭を撫でると、気持ち良さそうに耳を動かすフォウ。

 

 ほんとなんの生き物なんだろうね、これ。まあ可愛いからいいけどさ。

 

 

 フォウと一緒に、のんびりと廊下を進んでいく。

 

 なんだかんだ、気難しいサーヴァントとの交友やトレーニングでカルデアでの日々は忙しい。

 

 それらを苦とは思わないが、怪我のおかげで時間的なゆとりがあることに、微妙な嬉しさがある。

 

 

 自然と足取りも緩やかになり、いつもよりかなり時間をかけて食堂に到着する。

 

「さて、中の様子は……っと」

 

 ちょうどお昼時だからか、中は結構賑わってるな。

 

 休憩時で、俺と同じように昼食をとっているカルデア職員の人に、サーヴァントもいる。

 

 最初は環境を整えるためにスタッフの人たちは無休で働いていて、ほとんど誰もいなかった。

 

 

 最初は、俺とマシュ。それと早々にキッチンの主になった無名の王。

 

 それからオルレアンで出会い、縁を結んだ英霊が来てくれて、この数日のうちにまた増えた。

 

 随分賑やかになったなぁ、と思いながらもカウンターに行った。

 

「すみません、注文いいですか」

「はいはーい、今聞くよ……って、マスターじゃない」

 

 寸胴鍋の中身をかき回しながら振り返ったのは、際どい衣装の綺麗な女性。

 

 ローマ軍で一緒に戦った英霊、ブーディカ。彼女は三人目のキッチン英霊になっていた。

 

「いつもはもう少し遅いのに、今日は早いね。何食べる?」

「手がコレなんで、なるべく食べやすいものをお願いします」

 

 右腕を見せると、彼女はほんの一瞬だけ心配そうな顔をした。

 

 

 カルデアにやってくる英霊は、特異点での記憶を持たない。

 

 

 現界中の記憶は座に経験として送られ、記録の一つとして保存されて、次に召喚されても連続はしない。

 

 オルタの方のジャンヌみたいに、特殊な英霊でもない限りは、基本的に初対面から始まる。

 

 なのに、その顔はローマで戦っていた時に何度も見た彼女とそっくりだった。

 

「うん、わかった。それじゃスープ系のものでいい?」

「はい、それなら左手でも食べられそうです」

「席に座って待っててね、持っていくから」

「ありがとうございます」

 

 そうお礼を言って、なるべくカウンターに近い席で開いている場所に座る。

 

 右腕をそっとテーブルの上に置いて、ふぅと一仕事終えた後のようなため息が出た。

 

「おや藤丸くん、腕は平気かい?」

「はい。カルデアスの整備は大変ですか?」

「そりゃあもう。この前もちょっとね……」

 

 たまたま近い席にいた職員の人の話を聞きながら、料理がやってくるのを待つ。

 

 ほとんど専門的な話で詳しく理解はできないが、それでも職員の人達の話は聞きごたえがあった。

 

「っとまあ、こんな感じかな。まあ、君にはよくわからないだろうが……」

「いえ、いつも楽しいです。真剣に、一生懸命に仕事をしてるのが伝わってくるので」

「はは、そう言ってもらえると生き残った甲斐があるよ」

 

 照れ臭そうに笑う男性に、「いつもありがとうございます」と言う。

 

 彼らの尽力がなければ、俺は安全にレイシフトもできないのだ。

 

 なら、真剣に聞くのは当然のことだ。

 

「お話中失礼します、先輩」

「あ、マシュ。ちょうどひと段落ついたところだよ」

「おっと。じゃあ僕はこれで」

「あ、はい」

 

 そそくさと行ってしまう職員の人。マシュと二人で顔を見合わせ、首をかしげる。

 

「どうして私と先輩が会話を始めると、いつもどこかに行ってしまうのでしょう?」

「どうしてだろうね。それに、なんか時々変な目で見られるし……」

「私もです。なんだか、微笑ましいものを見るような……」

 

 なんでだろ。普通に喋ってるだけなのに、特に職員の人に限って遠巻きに見ている。

 

 ニヨニヨというか、ニヤニヤというか……なんだろ、保護者的目線? 

 

「とりあえず、隣に失礼してもよろしいでしょうか?」

「もちろんいいよ」

 

 左手を使い、椅子を引いてどうぞと言う。

 

 失礼します、と言って彼女はスカートを押さえながら座った。

 

 一つ一つ丁寧なその所作が、なんというか見ていてほっこりする。

 

「先輩。右手の調子はどうですか?」

「見ての通り。あんまり良くない、かな……でも、なんとか日常生活は「それなら!」うわっ!?」

 

 きゅ、急にマシュが身を乗り出してきた。

 

 右肘で体を支えながら、椅子からお尻を浮かしてズズイッとこちらに接近したマシュの目を見る。

 

 いつ見ても綺麗だな……肌も白くてシミひとつないし、睫毛とか長くて眉毛も細くて……じゃなくて。

 

「私が先輩のサポートをする、というのはどうでしょう?」

「さ、サポート?」

「はい。その様子では何かと不便だと思いますので、後輩として、先輩のサーヴァントとしてお手伝いを……」

「あらあら。面白いお話ですわね」

 

 マシュの勢いに押されかけていると、新しい声が聞こえた。

 

 二人揃ってテーブルの下を見ると、そこからにゅっと清姫が顔を出す。本当ににゅって感じだった。

 

「きよひー!?」

「清姫さん、そんなところから……」

「ごきげんよう、ますたぁ」

 

 にこりと笑った彼女はテーブルの下に潜り、またしてもにゅっとマシュと俺の対面の席に姿を現す。

 

「それで私、不自由なますたぁの右手となる、という話に興味がありますわ」

「あーうん、えっと。マシュが提案してくれて……」

「ええ、ええ。ですから不肖、この清姫がその役目を担いますわ」

 

 胸に手を当て、にっこりと笑う清姫。

 

「待ってください清姫さん。ここは発案者である私がやるのが妥当だと思います」

「マシュさんったら、おかしなことを言いますわ。安珍様(ますたぁ)のお世話は私こそが……」

「いえ、私が……」

「いやあの、確かに大変だけど一人で」

 

 その瞬間、右足の脛にものすっごい痛みが走った。

 

 いってぇ!? なんだ、今誰かに思い切り足を蹴っ飛ばされたぞ!? 

 

 

 なにやら睨み合っている二人から目を離して周りを見るが、他には誰もいない。

 

 職員の人は遠くの席だし、サーヴァント達の一部は面白そうにこっちを見てるだけだし。

 

 そうなると……下手人は一人。

 

「……あの、なんで蹴るんですかね」

 

 近くにいる二人に聞こえないようにつぶやくと、カタンとテーブルの上に置かれた観葉植物が音を立てる。

 

 そーっと二人から少しだけ離れて、左腕を伸ばして植物の葉っぱをめくると……光で書かれた文字が。

 

 

 〝女の子からの好意は受け取っときなさい、このバカ〟

 

 

「ええ……そんなツンデレ幼馴染みたいな」

 

 思わずそう言った瞬間、また脛に鋭い痛み。さっきより威力上がってるぅ!? 

 

「? どうしましたかマスター、足を押さえて」

「い、いや、なんでもない……」

「さあマシュさん、私にその場所を譲ってくださいな」

「いえ! 先輩の後輩としてここは譲りません!」

 

 だんだんヒートアップし始めた二人。そ、そろそろ止めないと……

 

「なになに、なんか面白そうなこと話してるじゃない!」

 

 その時、超弩級にヤベェトラブルメイカー(エリザベート)がやってきた。

 

「子イヌにご飯食べさせるって話、気に入ったわ!」

「あらこの蜥蜴娘、どこから湧いて出てきたのでしょう、ふふふ」

「あんたこそマシュの提案をかすめ取ろうとして、いい根性じゃないアオダイショウ」

「「……ふふふふふ」」

 

 まずい。オルレアンでの二人の仲の悪さがここでも発揮された。

 

「二人とも強敵……ですが、ここは発案したものとしての責任を!」

「あの、本当にいい……」

 

 

 バシィッ!! 

 

 

 三度目の脛蹴り。どうしろってんだよもう。

 

 

 

 

 結局三人のキャットファイト? は、タマモキャットがシチューを持ってくるまで続いたのだった。




読んでいただき、ありがとうございます。

次回どうすっかなぁ

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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