灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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ども、作者です。

オケアノスでは召喚する英霊を募集せず、漫画版に準じて彼女とします。

楽しんでいただけると嬉しいです。


【第三特異点】封鎖終局四海 オケアノス
遥かな海へ


 

 

 

 

 

 ──ああ、兄よ。

 

 

 

 

 

 

 

 恐ろしきデーモンの王子を屠りし、勇敢なる我が兄よ。

 

 

 

 

 

 

 

 我が呪いをその身に移した、心優しき兄よ。

 

 

 

 

 

 

 

 私達は、いつまでこの血と呪いに囚われるのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 たとえ火の時代が終わり、人の時代が来ようとも、我らが呪い()は消えませぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、ああ、それならば。

 

 

 

 

 

 

 

 我が剣たる兄、ローリアンよ。

 

 

 

 

 

 

 

 どうか、今一度立ち上がりますよう──

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 ──目が覚める。

 

 

 

 

 

 今日も、同じ時間に。

 

 体温を確認し、次に五感を確認する。

 

 正常。

 

「──、──────」

 

 客観的に、自分の存在を認識できるよう名前を口にする。

 

 自分の記憶、意識が連続していることを確認すると、深呼吸をして。

 

 

 眠るたびに消えてしまうのではないかと思う自意識が続いていることに安堵した。

 

 私は私だ。今日も私は、私としてこの世界に存在することを許された。

 

 

 ホッとしたのか、それとも別に何かを感じたのか。

 

 そんな薄氷の上を歩くような気分でいると、電子音が鳴って部屋に声が木霊する。

 

「やあ、おはよう〝二号〟。寒くないかい? 今朝はとても冷え込んでいてね、外の気温はマイナス70℃だ」

 

 男性の声。聞き慣れた声。

 

 

 それは大変ですね、と率直に返した。

 

 

 思ったことを口にして、その寒さとは無縁な清潔で快適な部屋を見回してみる。

 

 すると、次にガラス越しの彼から聞こえてきたのは、やや躊躇うような。

 

 どこか、苦しそうな声だった。

 

「……何か不都合はある? 気に入らないコトがあったらなんでも言っておくれ」

 

 彼は表情を崩してそう言った。

 

 辛そう、なのだろうか。

 

 きっと彼の体の一部……手で触れている胸部が痛いのだろう。

 

 

 大丈夫ですか、と口にした。

 

 

 すると、更に彼は眉根を寄せてしまう。

 

「……ああ、僕は大丈夫だよ。余計な気遣いをしたね。おはよう□□、5110回目の覚醒、おめでとう」

 

 

 ありがとうございます、と返事をした。

 

 

 心からの気持ちだった。

 

 私は、とても幸せだ。

 

 

 

 

 

 今日も一日、この綺麗な世界を見ていられるのだから。

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 ──暖かい場所だった。

 

 

 

 

 

 木漏れ日が差し込み、花が咲き誇る公園のような場所。

 

 昔世界史の授業の教科書で見た、お城の庭園が想像できる中で一番近いだろうか。

 

「姫。姫、どこにいるのですか?」

 

 その庭園を、一人の男が闊歩している。

 

 

 彼は、一目で騎士とわかる佇まいをしていた。

 

 こんな平和そうな場所なのに両手と両足には鎧をつけて、多分服の下にも何か着込んでいる。

 

 左手は腰に下げた剣に添えられていて、彼がどんなに穏やかな場所でも〝それ〟に構えているのがわかって。

 

 

 不思議と顔だけはピントが合わないようにぼやけていて、よく見えない。

 

 ただ、その短く切りそろえられた黒髪や、隙のない姿勢だけはどこか既視感が……

 

「姫。隠れておいでなのなら、お戻りください。勉学の時間が終わっておりません」

 

 彼は、この広大な庭園の持ち主に仕えているのだろうか。

 

 かしこまった口調で、何度もこの庭園のどこかにいるらしい〝姫〟を探して回っていた。

 

 

 ゆっくりと歩き回っているのは、走って探せば〝姫〟が逃げるからなのか。

 

 あるいは、〝姫〟を怯えさせないようにしているのか……そんなふうに思えた。

 

 

 その時、ガサリと近くの茂みから音がした。

 

「?」

 

 彼はピタリと足を止めて、そちらを振り向く。

 

 そこには名前のわからない、見たことのないような花がいくつも咲き誇っていた。

 

 

 花弁が、綺麗に舗装された石畳の上に数枚落ちている。

 

 整えられている庭園の中でそれは不自然で、彼は花びらを摘み上げると笑った。

 

「姫。近くにいるのはわかっています、聞こえているのでしょう?」

 

 さっきよりも少しだけ大きな声で、彼は呼びかける。

 

 すると、ふふっと小さな笑い声がどこからか聞こえた。

 

 耳聡くその声を聞き分けた彼は、最初の茂みの数メートル先の別の場所を見る。

 

「そこですね、姫」

 

 そう告げた瞬間、ガサガサと茂みが揺れて誰かが逃げていった。

 

 

 今度は音だけではなく、その茂みからちらりと白い布のようなものが見え隠れする。

 

 確信を深めた彼は、しかし歩く速度は変えずにゆっくりと追いかけだした。

 

「姫、すぐそちらに行きます」

「ふふふっ」

 

 〝姫〟は、徐々に近づいていく距離に楽しそうに笑いながら逃げ続ける。

 

 彼もいつものことのように柔らかに笑って……そんな気がした……庭園の奥に入っていく。

 

 

 そして、急に視界が開けた。

 

 

 そこにあったのは、色とりどりの花が咲き誇る、小さな円形の庭。

 

 

 箱庭のようだ、と思った。

 

 

 その中心で座り込んでいる、一人の小さな女の子が。

 

 白銀と言うのだろうか。透き通るような長い髪をふわりと広げた彼女は、彼を見て笑っている。

 

「姫」

「ふふ、見つかっちゃった」

 

 ニコニコと笑っている女の子に、彼は近づいていく。

 

 そして小さな庭の前で立ち止まって、片膝をついて女の子と目線の高さを合わせ。

 

「探しました、今回も」

「見つけるのが早すぎるわ。せっかくお休みしてるのに、つまらない」

「勉学の授業から抜け出すのは休みではありません」

「自主的な休憩よっ」

 

 ふんす、と膝立ちで胸を張る女の子。

 

 可愛らしい女の子に彼は「ふっ」と堪え切れなくなったのか笑い、女の子も笑う。

 

「さあ姫、戻りましょう。魔術師の方が困っておいでです」

 

 彼が鎧に包まれた、大きな手を差し出す。

 

 女の子は見つかった時点で満足したんだろう、満面の笑みで彼の胸に飛び込む。

 

 ガシャリと音がして、やはり彼が服の下に鎖帷子を着ていたことがわかった。

 

「っと。これは危ないと以前から言っているではないですか」

「いーの、私がこうしたいの」

 

 短い両腕では回し切れない彼の体を抱きしめて、女の子は言う。

 

 無邪気な様子に彼も毒気を抜かれて、彷徨わせていた右手で女の子を抱き抱える。

 

 

 あっさりと剣から左手も離して、女の子の背中とお尻に手を回して支えると立ち上がった。

 

 女の子も慣れているのか、彼の太い首に手を回して鼻歌など歌っている。

 

「あなたは、こうやっていつも探しにきてくれるわ」

「姫の警護が、私が主から与えられた使命でございますので」

 

 

 

 ──そう。これが我が使命、私が今一度剣を携える意義。

 

 

 

 彼の心が伝わってくる。

 

 この女の子が今より小さな時……いや、生まれたその時に生涯守り抜くと、そう主人に誓った。

 

 

 なんのことはない。

 

 朽ちることのないこの身、たとえ記憶がいずれ薄れようと決して失うものか。

 

 老いぬ我が身、死なぬ我が肉の体。

 

 その全霊をかけ、この小さな宝を誰にも傷つけさせはしない。

 

「それじゃあ、私を城のお部屋から抜け出させた時点であなたの負けね」

「はは、それもそうですな」

 

 言葉を交わしながら、元来た道を引き返す。

 

 来た時と同じようにその足取りは急がず、この小さな主人の笑顔が曇らぬよう。

 

 

 怯え、全てを放棄したこの手に今ある暖かさを失うことを恐れたのかもしれない。

 

 それでもいい。

 

 私が罪深いのだとしても、このソウルがくすんでいたとしても……この手で壊さず、守る。

 

 

 

「安心ください、姫。あなたの事は我がソウルにかけて、必ずお守りいたします」

「ふふっ! そう言う時のあなたの瞳、とっても輝いて、まるで宝石のようね!」

 

 

 

 そんな、どこか聞き覚えのある彼の言葉を最後に、二人の後ろ姿はぼやけて。

 

 

 

 

 

 そのまま、微睡みのような暗闇に閉ざされていった──

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

「──んぱい、先輩。起きてください」

「んっ……」

 

 肩を誰かに揺さぶられてる……

 

 うっすらと目を開け、それからゆっくりと目蓋を持ち上げていく。

 

 

 そうして自分の肩に手を置いた人を見ると、そこにいたのはピッチリとしたスーツを着た女の子。

 

 ……というか、レイシフト用の服に着替えたマシュだった。

 

 

 不思議そうに俺の顔を見ているマシュに、だんだんと意識がはっきりしてくる。

 

「またレムレムしていたみたいですね。昨晩はねむれなかったのでしょうか?」

「……ん、いや。少しうつらうつらしただけだよ。平気」

「それなら安心です──もう少しで三つ目の特異点の探索が始まりますから」

 

 マシュがそう言った時、スピーカーから音がしてドクターに招集をかけられた。

 

 椅子から立ち上がり、二人揃って隣の司令室に入る。

 

 

 そこには既に、俺たち以外の全員が。

 

 ドクター、バーサーカー、ルーソフィアさん、そしてダ・ヴィンチちゃん。

 

「フォウ!」

 

 ついでにフォウもいて、俺を見るなり走ってきて肩に飛び乗った。

 

 あっという間に右肩に収まった謎生物の頭を撫でつつ、四人の前にマシュと一緒に立つ。

 

「やあ二人とも、いよいよ三つ目の特異点だ。昨夜はよく眠れたかな? 僕は正直あんまり眠れてないよ」

 

 マシュと似たようなことを言うドクターは、確かにクマが目元に浮き出ている。

 

 その原因が前回の特異点だろうことは、実際に戦っていた俺達がよくわかっていた。

 

 

「レフ・ライノールは死に、第二の聖杯を回収した……と、これだけを言えば聞こえはいいが。疑問は増えるばかりだ」

「レフ教授……あの七十二柱の魔神を名乗る肉の柱のことも気になります」

「その辺りを解析する余裕も欲しいところだったが、時間も設備も足りなくてね」

 

 やれやれ、とかぶりを振るドクター。

 

 あのフラウロスと名乗っていた肉柱の怪物……バーサーカーがいなくては戦うことになっていた。

 

 ただ目の前に立っただけで、そのまま押し潰されてしまいそうなほどの途轍もない威圧感だった。

 

 

 あれがまた出てきたら……そう考えただけで心が震え上がる。

 

「七十二柱の魔神と言えば……」

「古代イスラエルの王、ソロモン。該当する資料の中で最も合致する可能性の高いものはそれです」

「ソロモン?」

 

 また歴史の授業で聞いたような名前だ。それとゲーム友達の会話にも出てきたっけ。

 

「彼は魔術世界の最大、最高の召喚術士と名高く……」

「……そして、彼が本当の魔術と共に操り使役したものが七十二柱の魔神というわけだ」

「あれ、バーサーカーも知ってるの?」

「少し、な」

「あっちゃあ、全部説明されちゃったかー。せっかくマシュにカンペも渡しておいたのに」

「はい、驚くリアクションをしそこねました」

「何をやってるんだ君達は……」

 

 呆れるドクターと一緒に苦笑いしてしまう。

 

 残念がるマシュがはい、と紙切れをダ・ヴィンチちゃんに渡す。本当にあったのかカンペ。

 

 

「とにかく、まだ確定してはいない。バーサーカー君の見解では相当強大なソウル、魔力を持っていたのは間違いないようだが、本当に魔神かどうかは定かではない」

「最新の見解ではただの七十二の用途に別れた使い魔に過ぎない、となってはいるがね。そこから天使の起源とも言われている」

「実際に名乗った以上、騙りかあるいは無関係ではないかのどちらかだろう。確かめねばなるまい」

 

 モニターに表示されたフラウロスを見て、はっきりとバーサーカーが告げる。

 

 その様子はどこか鬼気迫るというか……是が非でも確かめるという気迫を感じた。

 

「ただ、悪魔の疑念はもっと後の時代に誕生したものだから、伝説通りすぎて怪しいけど。もしもこの事態の黒幕が()()()を召喚し使役しているにしても、宝具はあんないかにもな悪魔じゃなくて、もっとシンプルかつスマートな……」

「はいはいロマ二、考察は後回しにしたまえ。今は三つ目の特異点、そうだろ?」

「おっと、そうだった。ということで、あの魔神に関しては新たに情報が出てきたら適宜調査。それより当面の課題、三つ目の聖杯の話をしよう」

 

 画面が切り替わり、別のデータが映し出される。

 

 フラウロスの3Dモデルの代わりに表示されたのは、俺達が二つ集めた杯のモデルだった。

 

 

「唐突だが藤丸君、君船酔いはしたっけ?」

「いえ、全然。祖父とは船でよく無人島に行ってましたし」

 

 ただしローマでの船旅、あれはノーカンだ。ネロ陛下の操船技術がアグレッシブすぎた。

 

「それならば結構。というのも、今回はこれまでの二つと違い、陸地が極端に少なくてね」

「つまり、陸路ではなく海路での探索が主になると?」

「その通りだ。行き先は1573年、場所は見渡す限りの大海原! つまり具体的に「ここ」と定められた地域ではないのさ」

「海域にあるのはまばらに点在する島だけ。ある意味対象が絞られているが、逆に言えばそうでなかった場合は……」

「水をかき分けてでも、というわけでございます」

「そ、それはかなりキツいんじゃ……」

 

 別に泳げないわけではない。主にDHAやタンパク質を取るのに魚の確保が必須だったので。

 

 だがしかし、この過酷な旅においては慣れ親しんだそれさえもまるで意味が違ってくるに違いない。

 

「あっちに行ったら、もしや海の真上なのでは?」

「それについてはこちらのレイシフト転送の技術を信用してほしい、としか。海の上にはならないように努力するさ」

「はい、ということでもしもの状況のためにこれを持って行きなさい」

 

 ダ・ヴィンチちゃんから、何やら折りたたまれた物が収納されたビニール製の袋を受け取る。

 

「それは私特製のゴム浮き輪だ。万が一の時はこれを使いなさい」

「ありがとうございます、ダ・ヴィンチちゃん」

「その時は有効活用させていただきます!」

 

 俺たちの分はルーソフィアさんに預かってもらって、「よし」というドクターの声にもう一度視線を向ける。

 

「それでは、いざ16世紀の大航海へ! くれぐれも十分な注意をして探索に当たるように!」

「「はい!」」

「かしこまりました」

「最大限、彼らを守ろう。このソウルにかけて」

 

 そのバーサーカーの一言が、やけに耳に残った。

 

 

 

 

 

《アンサモンプログラム スタート。 霊子変換を開始 します》

 

 

 

 

 

 フォウを胸元に詰め込んでコフィンに入ると、アナウンスが流れる。

 

 これまでの二度と変わらず、深呼吸をして、気持ちを落ち着けて。

 

 

 

 

 

《第1 工程(シークエンス)を開始。 4名のパラメータ を確認》

 

 

 

《全コフィンのパラメータ 確認完了。 続いて術式起動 〝チャンバー〟 の形成を開始 します》

 

 

 

《〝チャンバー〟形成。 生命活動「不明(アンノウン)」へと移行》

 

 

 

《第1工程(シークエンス)完了。 第2工程(シークエンス) 霊子変換を開始》

 

 

 

《全コフィンの準備……終了。 補正式 安定状態へ移行。第3工程(シークエンス) カルデアスの情報 を確認》

 

 

 

 

 

《──完了。全工程(シークエンス)オールクリア》

 

 

 

 

 

《〝グランド・オーダー〟 実証 を開始 します》

 

 

 

 

 

 三度目の、聖杯探索が始まった。

 




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第三特異点 人理定礎値 A

A.D.1573 封鎖終局四海 オケアノス

嵐の航海者
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読んでいただき、ありがとうございます。

いよいよ第4章の開始。

思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。
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