どうも、このオケアノスを執筆するためにパイレーツオブカリビアン再履修している作者です。
先週はハロウィンで別の作品に時間を使ってましたね。
今回はオケアノス二話目。
楽しんでいただけると嬉しいです。
嵐が唸る。
暴風が理不尽に叩きつけ、雨が大砲のように降り注ぐ。
大海原は黒く染まり、荒れ果てていた。
「砲弾装填! 準備完了しました!」
「よし、撃ぇぇえええ────!!」
そんな大海に飲み込まれることなく、咆哮が轟く。
続けて途轍もなく重い音とともに、嵐の中で振り子のように揺れる船から鉛玉が発射された。
それははるか遠方、その船を執拗に狙うもう一隻の船に半分ほどが命中し──しかし、無意味。
「チクショウダメだ! ろくに効いてねぇ!」
「見りゃわかるよアホンダラ! こいつぁマトモに相手する方が間抜けってもんさね!」
報告をする粗野な格好の男に、船の舵を握っていた女は雷鳴に負けじと怒鳴る。
女の美貌には焦燥が浮かんでおり、雨粒が染み込んでぐっしょりと重くなった服が戦う時間を自覚させた。
今、彼女らは未曾有の危機に襲われている。
すでに十分戦った。
しかし、好き放題に暴れて
このままでは大砲の弾は切れ、雨で船員も自分も弱り、あのクソッタレな船にやられる。
「取り舵一杯、ズラかるよ! ヤロウども、風に乗って離脱するんだ!」
「風ぇ!? こいつは嵐っていうんじゃないすかねぇ!?」
「ああそうさ、いっそのことこの風に乗って空でも飛んで見せようじゃあないか! 帆を張れ! 錨を引き揚げろ! 生きて陸に上がって、船で飛んだって女を口説きたきゃそのトロい足を動かしな!」
「「「アイアイサー!」」」
腹の底まで響くような地鳴りに等しい声に、甲板にいた船員達はすぐに命令を実行する。
瞬く間に帆が張られ、そして船は──言葉の通りに、暴風で海面から浮き上がった。
「おおう!? こいつぁすげぇ! 本気で浮いてますぜ我らがペリカン!」
「ああん? テメエ今アタシの船をなんて呼びやがった!?」
「ゴールデンハインド号っす! 間違えましたー!」
ガッハッハ! と豪快に笑いを飛ばし、船員は銃をぶっ放される前にその場からトンズラした。
チッ、と舌打ちをした女は、甲板に揃った連中を見下ろす。
共に数多の航海を乗り越えてきた
誰もが笑い、あるいは歯を食いしばり、何度も海面をバウンドする船にしがみついていた。
意地汚く生き足掻いている部下達に獰猛に笑った女は、また声を張り上げる。
「ヤロウども、アタシらには幸運がついてる! 信じな、今回だって必ず生きて帰れるよ!」
「そうだ、船長を信じろ! 陸に上がれば三等船員だろうが一端の男だ、気合入れろ!」
『オオ────!!』
威勢良く答えた船員。女は豪快に笑い飛ばし、思い切り舵を回した。
再び海面についた船は、その操作に従って全くの真反対、陸地に向かって進み始める。
この暴風と荒れ狂う海すらも操り、船は生還への血路へと滑りだしたのだ。
本当に奇跡のような豪運に、一瞬間抜け面を晒していた船員達は一斉に歓声をあげた。
「「船長万歳! 船長万歳!」」
「さあ阿呆ども、勝利の凱旋としゃれこむよ! さっさと帰って、飲んで騒いで暮らそうや!」
笑って拳を振り上げる女に、船員達は同じように腕を掲げて。
『幸運たる我らが船長──
一斉に勝鬨を上げる彼ら。
「……ふ。これでこそ生ありし人というものだ」
女の後ろ、この悪天候の中微動だにせず壁に寄りかかっていた女烏は仮面の下で笑った。
「この大渦の中を逃げ延びたか……英霊でもない身で信じられん……」
そして、もう一人。
彼女らを長い間追い回し続けていた船の上、甲板にて逃げ果せるゴールデンハインドを見る男。
心底驚いた、という顔で大荒れの地平線の向こうに消えていくそれを見て、ニヤリと笑う。
「──クク、ハハハハ! だが、それでこそフランシス・ドレイク! 伝説は本当だった!」
それは歓喜か。
あるいは憧憬か。
どちらでも構わない。男は両腕を広げ、嵐に向かって一人高らかに笑うのだ。
「ハハハハハ! ア──ッハッハッハドゥーフフフフフフフwwwwww!!!」
若干、嵐の中にノイズのような雑音が混ざった。
●◯●
藤丸 SIDE
──僕達を信じてくれ。必ず安全な場所にレイシフトさせる。
コフィンに入る前、ドクターは俺とマシュにそう言った。
俺達はその言葉を信じた。
彼──ドクター・ロマンはこれまでの二つの特異点で的確に俺達を指揮し、導いてくれた。
時々勝手に貴重な糖分であるお菓子を漁ったり、俺の料理つまみ食いしたり、ネットアイドル見てたりするけど。
それでも、彼がいなければここまで生き延びてこられたかわからない。
そう、だから信じたのだ。
信じたのに──
「あばばばばばばばばば!!」
なァ────んでパラシュートなしスカイダイビングしてるんだぁあああああああ!!!
「……たしかに、海の上ではありませんでした」
「ああ、空の上だがな」
「せ、先輩っ!」
「しぬぬぬぬぬぬぬぬっ!!!」
びゅうびゅうと吹き荒れる風でうまく喋ることすらできない。
やばいやばいやばい! どんどん海面が近づいてきてる!
あまりに速度をつけて海面に叩きつけられるとコンクリートのような硬さになる、と前に聞いたことがある。
つまりこのままだと、俺は聖杯探索の前に木っ端微塵になってしまうというわけだ。
──なんて冷静に考えてる場合じゃない! 早くなんとかしなきゃ死ぬ!
「ドドドクタタァアア!!!」
『すまない! まさかここまでずれるとは思わなかった! と、とにかくマシュ! バーサーカーくん! どうにかしてくれ!』
「言われなくてもそのつもりですっ!」
「火防女、捕まっていろ」
「はい」
ドクターの指示に隣を落下中のマシュ達を見ると、彼女はこちらに手を伸ばしている。
どうにか手を伸ばして引き寄せてもらい、顕現した大盾で暴風が防がれ、顔の肉が震えるのは止まった。
続けてルーソフィアさんを片手で抱いたまま、バーサーカーがうまく体を捻ってこちらにやってきた。
「いいか、よく聞いてくれ。今から私が海面に向かい、全力で〝放つフォース〟を使う。その衝撃で幾らか速度が緩和されるだろうが、それでも足りないだろう」
「で、では私の宝具を!」
「ああ、頼む。いいか、タイミングが重要だ。よく見極めてくれ、マスター」
「わ、わかった!」
頷くと、バーサーカーは両手を胸の前に持っていく。
「──〝放つフォース〟!」
何度か見たことのある形ある衝撃が、白い波動になって発生。
突き出した白い奔流は海面に向けて勢いよく飛んでいき、空中で弾けた。
「マシュ、今だ!」
「真名、偽装登録──〝
マシュが宝具を展開し、大盾から淡い青色のシールドが展開される。
俺たち全員を十分に覆えるそれに、バーサーカーの使った力の余波が叩きつけられた。
ズン、とシールドにすごい衝撃が加わり、加速していた俺たちの体は一瞬止まる。
立て続けにバーサーカーが力を使い、同じ要領で少しずつ速度を落としていった。
俺はマシュの腰に回した両腕の力を強くする。
「だ、大丈夫なのかこれ!?」
「信じてくださいマスター!」
情けないながらも、マシュに全力でしがみつくしかない俺。
もうすぐ着水だ、構えて──
「ではマスター、なるべくじっとしていたまえ」
「へ?」
スポン、と体に何かつけられる。
自分の腰を見下ろすと、そこにはダ・ヴィンチちゃんの浮き輪がついていた。
急いでバーサーカーを見ると、上半身の鎧を脱いだ彼は、浮き輪をつけたルーソフィアさんに逆に捕まっていた。
「衝撃に備えてください!」
「え、あ、うん!」
何か言う暇もなく、俺は慌てて目蓋を閉じ、右手の指で鼻をつまむ。
そして、最初より随分と遅い速度で、いよいよ海面に叩きつけられた。
ドン! という強い衝撃。
昔友達とプールに行って、飛び込み台からプールに飛び込んだ時と似た感覚。
着水時の衝撃で右手が外れそうになり、なんとか力を込める。
幸いにも、浮き輪のおかげですぐに浮かんでいった。
「ぷはっ!」
顔が出た途端、勢いよく息を吸い込む。
ああ、空気が美味しい。
「ふぅ、ふぅ……マシュ! バーサーカー! ルーソフィアさん!」
「ここです!」
後ろから聞こえた声に振り向くと、浮き輪をつけたマシュがこちらに泳いで来ていた。
すぐ側にはルーソフィアさんもいて、浮き輪にバーサーカーが捕まっている。
「藤丸様、どこか痛みはありませんか?」
「平気です。みんなも大丈夫だった?」
「はい。海に落ちるのは初体験でしたが、なんとかなりました」
「私も何も」
「私もだ。生憎と泳ぎは不得手なので、このような不格好だがな」
自嘲気味に言うバーサーカーに、ああだから鎧を脱いだのかと思う。
あんな重そうな鎧着てたらそのまま沈んじゃいそうだからな。
というか、バーサーカーにも苦手なことってあったんだ。普通は当たり前なのに、びっくりだった。
「でも、これからどうしましょう」
「泳いでいく、しかないのかなぁ……」
何がいるのかわからないので、なるべく早めに陸地に上がりたい。
「ドクター、一番近い陸地は?」
『待って、今全力で調べてる』
「早くしてくださいドクター。マスターが風邪をひいてしまいます」
『う、うん、わかってる。流石にこんな事態になるとはなぁ……』
マシュがちょっと呆れてる……いや、怒ってる?
「……いや。その必要はなさそうだ」
「え? バーサーカーさん、どういうことですか?」
「あれを見たまえ」
バーサーカーの指差す方向を見る。
すると、こちらに向かって一隻のボートが近づいてきていた。
真っ黒な旗を掲げたそれは、波に揺らされながら緩やかにこちらに近づいていくる。
「あれは……」
「簡潔に言うならば──迎えだ」
そのバーサーカーの言葉を証明するように、徐々に近づいてきたボートから何か投げられた。
パシャン、と海面を打って着水したのは……ロープだ。
マシュと顔を見合わせ、頷くと全員一緒にそのロープで船に近づいていく。
ロープをうまく伝う方法を使ってなるべく素早く近づくと、ボートは割と大きかった。
不意に、上から手が差し伸べられる。
顔を上げ──手を差し出した人物を見て、俺は驚いた。
「さあ、手を。我が王の契約者よ」
「ユリアさん!」
知っている人に会えてほっとする反面、なぜこんなピンポイントにと疑問が浮かぶ。
とはいえ、このままだと海水で塩漬けになるので彼女の手を取り、ボートに引き上げてもらった。
続けてマシュ、ルーソフィアさん、バーサーカーもボートに乗り込んでくる。
全員無事に乗り込んだところで、ボートの舵を持っているユリアさんの方を向いた。
「お待ちしていました、我が王。そしてその仲間達。お迎えにあがりました」
「助かった」
『いやはや、すごいなぁ。こんなにすぐ見つけるなんて、やっぱり火の時代の人間は飛び抜けてるよ』
今はドクターの言葉に同感だった。
「それで、どこか行くあてがあるのか?」
「ええ。あなた方があの杯を手にすることを望むならば、適任の人物が」
「じゃあ、連れていってくれるんですか?」
「無論だよ、我が王の契約者。私はあなた方を導くためにいるのだから」
そう言ったユリアさんの手によって、ボートは何処かへと動き始めた。
読んでいただき、ありがとうございます。
思ったこと、感じたことを書いていただけると嬉しいです。