灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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ようやく重い腰を上げ、連載再開します。

楽しんでいただけると嬉しいです。


海賊女王 中編

 

 藤丸 SIDE

 

 

 

 目の間には銃を構えたドレイクさん。

 

 マシュと顔を見合わせて、互いになんと対応すればいいのかと表情に出す。

 

 かなりぶっ飛んだ話が聞こえてきたり、聖杯を持ってたりするものの、彼女は人間のはず。

 

 しかし、この状態で話が通じるのか……

 

「なんだ、来ないのかい?」

「ええと……」

「なら、こっちからいくよ!」

 

 大きく笑ったドレイクさんは、躊躇なく引き金を引いた。

 

 パンッ! と鼓膜が破けそうな音を立てて銃弾が飛び出し、咄嗟にマシュが盾を顕現させて防ぐ。

 

「ほう、いい反応だね! ならこれはどうだい!?」

 

 ドレイクさんが手を掲げ、驚くべきことが起こる。

 

 彼女の背後から空中に、()()()()()()()()()()のだ。

 

「なんだあれ!?」

「まさか、聖杯の力!?」

 

 先ほどとは比べ物にならない轟音を響かせ、大砲が火を噴く。

 

 またマシュが防いでくれるが、彼女も驚いていたのか、受けた後に少しよろけた。

 

「マシュ!」

「平気です! それよりもマスター、彼女は通常の人間を遥かに超えた力を所有しています!」

「ああ! バーサーカー!」

「わかった」

 

 バーサーカーが前に出て、マシュの隣に並ぶ。

 

 防御はマシュに任せて、バーサーカーに無力化してもらう……それが一番早く終わりそうだ。

 

 魔力のパスを通じて二人に方針を伝えると、バーサーカーは籠手をつけた拳を構え、マシュが盾を構えた。

 

「準備はいいかい? それじゃあいくよ!」

「フランシス・ドレイク、接近します!」

「マシュ殿は作戦通りに。正面からの相手は任せろ」

「はい!」

 

 それから、ドレイクさんとの戦いが始まったわけだが……

 

 

 

 彼女の強さは、本当に人間なのか疑わしかった。

 

 

 

 一発ずつ弾を込める仕組みのはずの銃は乱射され、大砲の弾が降り注ぎ、蹴りでマシュの盾を弾く。

 

 聖杯による恩恵を受けている、というのはわかってるんだけど、それにしても非常識な強さだ。

 

 倒してしまうわけにもいかないので、些か二人の動きが鈍いのも理由の一つ。

 

「そらそら、こんなもんかい!? あたしゃまだ酔ってるよ!」

「くっ!」

「っ……」

 

 人間にはありえない砲撃の嵐に、一旦後退した二人。

 

「……これは、多少本気を出さざるをえまい」

 

 すると、バーサーカーが右手を掲げた。

 

 そこに宿っているのは、炎に似た揺らめく力──見たことのない呪術。

 

「〝内なる大力〟」

 

 自分に向けてそれを発動したバーサーカーは、体が炎に包まれた。

 

 まるで焦げ付くようなその姿に息を呑む。

 

「自分から火だるまになるとはね。驚いたよ」

「悪いがあまり保たないのでな、勝負を決めさせてもらおう」

「その強気、嫌いじゃないよ!」

「マシュ殿、防御を頼む」

「了解しました!」

「二回戦といこうじゃないか!」

 

 そして、戦闘が再開される。

 

 

 

 

 豪快に暴れるドレイクさん。応戦するバーサーカーとマシュ。

 

 構図は変わらない。

 

 しかし、明らかにバーサーカーの動きが見違えていた。

 

「大砲だけ頼む。あとは気にしなくて良い」

「はいっ!」

 

 片手に長槍、もう一方に盾を携え、バーサーカーが前進する。

 

 ドレイクさんが発砲する。合わせるように大砲が火を吹いた。

 

「せぁっ!」

 

 大盾を地に突き立て、マシュが一回転するように跳躍。

 

 空中でさらに体を回し、飛来した鉄塊を打ち返すようにして受け止めた。

 

 その下をバーサーカーがくぐり抜け、盾で弾丸を防ぎながらドレイクさんに肉薄した。

 

「そらぁ!」

 

 怯むことのない、威勢良いドレイクさんの蹴りが炸裂。

 

 さっきまではそれで後退させられていたが……激しい音を立て、バーサーカーは受け止める。

 

 どころか、さらに一歩踏み込んだバーサーカーによって、伸ばされた彼女の膝が大きく曲がった。

 

「へえ? いいパワーじゃないか」

「今度はこちらが攻めるぞ」

「そうかい、っと!」

 

 不安定な姿勢のまま、マスケット銃の銃口が彼へと向けられる。

 

 その引き金が完全に惹かれる前に、バーサーカーの手から盾が消えた。必然的にドレイクさんはたたらを踏む。

 

「ふんっ!」

「っ!?」

 

 そのタイミングを見逃さず、高速で回転した長槍の柄が銃を手中から弾く。

 

 勢いを落とすことなく、石突がドレイクさんの鳩尾に吸い込まれていくように入れられた。

 

「ぐっ!?」

「まだやるか?」

「──あはははっ! あんた面白いねぇ!」

「っ!」

「バーサーカーさんっ!」

 

 直後、轟音。

 

 それは空中から地面に向け、砲門を向けた大砲から発射された砲弾によるもの。

 

 海賊たちが飛ばしていたヤジがかき消され、砂塵が舞い、俺は身構えた。

 

「どうなった!?」

「ふむ。今の王が相手とはいえ、やはり中々のものだ」

 

 隣に佇むユリアさんの気がかりな言葉に反応する間も無く。

 

 俺の言葉に呼応するように、豪快な金属音と共に土煙が吹き飛んだ。

 

「ははははぁ! さっきのはいい一発だったよ! もう一回食らったら酔いが覚めそうなくらいねぇ!」

「それはありがたいっ!」

「はぁっ!」

 

 手加減無しに大砲やマスケット銃を乱れ打ちするドレイクさんに、矛と盾の役割を見事に分担した二人が対抗している。

 

 真偽のほどはともあれ、神の名を持つ存在に打ち勝ち聖杯を手に入れたという彼女。

 

 俺達も二つの特異点を修復し、苛烈な戦いを共にくぐり抜けてきたのだ。連携力は負けてない! 

 

「マスター、魔力を!」

「了解!」

 

 魔術礼装起動、瞬間強化。

 

「せぁあああっ!」

「ぬぐっ!」

 

 パスを通じて受け取ったマシュが、裂帛の叫びと共に大盾を振るう。

 

 一息に流星のように落ちてくる砲弾や銃弾を撃ち払い、風圧でドレイクさんの動きを止めた。

 

 観衆がどよめく中、地面に突き立てられた大盾の上部に向けて跳躍する人物が一人。

 

「ふっ!」

 

 大盾を足場に、更に地面へめり込むほどの脚力でバーサーカーが跳んだ。

 

 宙で一回転し、そしてようやく動き始めようとしていたドレイクさんに向けて回転のかかった蹴りを見舞った。

 

 さすがと言うべきか、彼女は交差させたマスケット銃でそれを受け止めた。

 

 彼女の足元に亀裂が走る。それでどれだけの膂力がかかったのかは一目瞭然だった。

 

「ぐぅっ! 痺れるねぇ!」

「ならば、もう一度どうだ?」

「何を──っ!?」

 

 肉薄する黒影。

 

 それは大盾を手放し、バーサーカーの一撃を隠れ蓑に接近したマシュ。

 

 地面に張り付くような姿勢で走り寄った彼女の、固く握り締められた拳が──! 

 

「はぁっ!」

「ご、はっ──!」

 

 渾身の右ストレートが、ドレイクさんの腹に入る。

 

 マシュがそのまま腕を振り切ると、彼女は両足で地面を抉りながら大きく後退した。

 

 距離にして凡そ5メートル。その地点で停止して、同時に全ての音がその場から消えた。

 

「目標、沈黙しました。それなりに手加減はしましたが、聖杯の加護があるとはいえやりすぎたでしょうか?」

「……さて。それはどうだろうな」

 

 微動だにしないドレイクさんを注視する。

 

 誰もが固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと顔を上げた彼女は──

 

「いやあ、気に入った! アンタ達やるねぇ!」

 

 快活に笑っていた。

 

 それは戦闘中に浮かべていた、豪快でいっそ残忍なほどの凄惨な笑みではなく、気持ちの良いもの。

 

 そしてふと気がつく。最初に顔を見た時からあった赤らみが、かなり薄れていることに。

 

「酔いもすっかり覚めた! ラム酒なんざ問題にもなりゃしないよ!」

「……これは、勝利したということでいいのでしょうか?」

「そのようだな。戦意はないらしい」

 

 すっかり闘志が消えたドレイクさんに、二人も警戒体制を解除する。

 

 楽しげに笑っている彼女に、あのアイパッチの人が恐る恐ると近づいた。

 

「姉御、大丈夫なんですかい?」

「あん? そりゃ当たり前さ……さて」

 

 ぐるりとこちらを見るドレイクさん。

 

 無意識に身構えてしまうのは、彼女が生身とは思えない強さの持ち主だからかだろう。

 

 ズカズカと大きな足取りで歩み寄ってきた彼女は、俺に真っ直ぐ視線を向けてきた。

 

「さっき言った通り、アタシの敗北さね。煮るなり焼くなり、抱くなり好きにしな!」

「だ、抱く……」

「いやあの、そういうのは遠慮します」

 

 これまた古典的な。

 

 ていうかちょっと顔を赤くしてるマシュ可愛い……じゃなくて。

 

「なんだ、じゃあ本当に足が欲しいってだけかい? 海に不慣れな坊主と古臭い鎧を着た連中が、海賊に頼るって?」

「っ」

 

 顔を近づけてくるドレイクさん。

 

 強い眼光を放つその青い瞳は、俺に覚悟を問うているかのようだった。

 

 

 

 

 本物の海賊。

 

 創作物や空想の中のそれではなく、略奪を生業とする、時には殺人さえする海の荒くれ者。

 

 規律正しいフランス軍とも、ローマ軍とも違う。

 

 そんな相手に協力を求める意味を、お前は本当にわかっているのかと、そんな風に睨みつけてくる。

 

 だから、俺は。

 

「フランシス・ドレイクが、必要だ」

 

 ただそれだけを、俺にできる最大の敬意を声に込めて、そう言った。

 

「……へえ? ふーん、はーん?」

 

 めちゃくちゃ観察されている。

 

 ふぅん、とか、はぁん、とか声を漏らしながら、ドレイクさんは俺のことを全身くまなく見て。

 

 視界の端でマシュがハラハラとし、バーサーカー達が見守ってくれていて、ごくりと唾を飲み込んだ。

 

「なるほど、なるほど。アンタは他でもないこのアタシを必要だと、そう言うんだね?」

「はい」

「そーう、なのかい。ふむ……」

 

 最後に大きく頷いたドレイクさんに、ギュッと拳を握る。

 

 すると、そんな俺を見てニヤリと笑ったドレイクさんは。

 

「よしわかった! アンタらに力を貸してやろうじゃないか! 文字通り大船に乗ったつもりでいな!」

 

 あっはっはっ、とまた豪快に笑うドレイクさんに、俺は心底安堵した。

 

 なんとか気に入る答えを返せていたようだ。どっと脱力しそうになる。

 

「ってぇことだ、アンタらもそれでいいね!?」

「「「アイアイサー! 姉御のおっしゃる通りでさぁ!」」」

 

 一斉に拳を振り上げ、あるいは声を張り上げた海賊達に、小さく苦笑する。

 

 と、そんなふうに油断していたのが悪かったのか、突然ドレイクさんが首を腕を回してきたのに反応が遅れた。

 

「アンタらとアタシらは今日この瞬間から仲間さ! まずは乾杯といこうじゃないか!」

「え、いやちょ、俺未成年……」

「「「待ってましたァ!!」」」

 

 俺の抗議は見事、今度はジョッキを持って再び腕を振り上げた海賊達の叫びに呑まれた。

 

 いつの間にかドレイクさんも並々と酒の注がれた聖杯を手にしている。どうやら拒否は無理らしい。

 

 

 

 

 

 ……とりあえず、飲まされないように気をつけることから始めよう。

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。
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