灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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はは…お気に入り900超えって、ちょっとすごすぎて全身が震えます。どうも作者です。
評価、お気に入り、本当にありがとうございます。ご期待に応えられるよう頑張ります。
あ、7話を微修正しました。ご指摘ありがとうございます。
楽しんでいただけると嬉しいです。


サーヴァント襲来

「ここにも特に何もない、と……」

「なかなか見つからないですね」

 

 持ち上げていた瓦礫をそっと地面に置いた。そして中途半端に顔が炭化している女の人の焼死体を隠す。

 

 特異点のことについて話してからかれこれ二十分、いくつかの場所に行ったがどこも結果は同じだった。

 

 あるのは炎と瓦礫、そして死体。そろそろそれを見ても少し慣れてきてしまったことが複雑だ。

 

「もう、焼死体を見ても吐き気がしなくなったなぁ……」

「それはいいこと、なのでしょうか」

「どうだろう」

「フォフォウ!」

「ありがと、フォウ」

 

 頬を舐めてくれたフォウの頭をモフモフしつつ、少し高いところで待機している所長たちのところに戻った。

 

「マスター・藤丸、マシュ・キリエライト。ただいま帰還しました」

「所長、今戻りました」

「ご苦労。やっぱり何も成果は持って帰れなかったようね?」

 

 俺たちの変わらない表情を見て察したか、所長は鼻を鳴らして言った。事実だけに苦笑気味に頷く。

 

 これでも、最初の頃に比べたら結構きつくなくなったのだ。その理由は言わずもがな、所長の護衛についているバーサーカーの存在。

 

「何事も地道な継続が大切だ。注意を怠らずにいれば、いずれ何かを見つけられるさ」

「……バーサーカー様がそう言うのなら」

 

 バーサーカーの言葉に、所長のつり上がっていた眉が下がる。数秒もすればピリピリとした様子は霧散した。

 

 それぞれにサーヴァントを一人ずつつけて行動すると決めたのだが、なるべく一緒がいいかとバーサーカーは所長についてもらった。

 

 その試みは、どうやら正解だったようだ。マシュと顔を見合わせて、ふっと笑いあう。

 

『結構な時間探索しているけど、そろそろ休憩したらどうだい?近くに敵対反応は無いし、一度食事をとるといい』

 

 と、そこでドクターから通信が入った。たしかに、慣れないところで色々歩き回って腹が減ったな。

 

「そうですね。所長、それでいいですか?」

「……そうね。マシュとバーサーカー様と契約をしているあんたが倒れでもしたら一巻の終わりだし、一度足を休めましょうか」

「では、私は周囲の警戒に努めよう」

 

 周囲をすぐに見渡せる少し高い場所に移動して、瓦礫でバリケードを作って奇襲されてもいいように備える。

 

 そうするとマシュが盾の格納スペースから軍用食(レーション)を出し、三人でモッサモッサと頬張った。うん、無味。

 

「初めて食べたけど、レーションってあんまりうまくないな……」

「そりゃエネルギー補給だけを目的としてるんだから、味なんて無いに等しいに決まってんでしょ」

「うーん、ヤモリは食べたことあるんだけどなぁ……」

 

 主に爺ちゃんとの夏季休暇をほとんど使ったキャンプで。最初の七日間以降は全て自分で調達するという。

 

「なんでヤモリなんて食べるのよ……」

「いやー、慣れると意外と美味しいんですよ」

「せ、先輩は意外と過酷な体験をしているのですね」

 

 爺ちゃんとは長期休暇になると、いろんなとこ行ったなあ。山とか、爺ちゃんの友達の持ってる無人島とか……

 

 ……今考えるとサバイバルしかしてないね。二人で食える山菜探して血眼になってたのはいい思い出だ。

 

「それにしても、ちょっとは指揮が様になってきたじゃない。まあ素人の域は出ないけど」

「え…………」

 

 唐突に所長に褒められて、思わずレーションを落としかける。「何よその顔は」と睨まれた。

 

 いや、所長から褒められるとは思わなかった。そりゃバーサーカーのおかげで多少マイルドだけど、まさか面と向かって褒められるとは。

 

「えっと……ありがとうございます」

「ふん、最初から素直にそう言いなさいよ。ていうかどこで指揮のやり方なんて教わったの?」

「特にそういうのは。あえていうなら爺ちゃんのスーパーギリギリ将棋のやりかたを思い出しながらやってたかな?」

「なにそれ」

 

 説明しよう!スーパーギリギリ将棋とは!

 

 俺が全ての駒を使っていいのに対し、爺ちゃんは王将と金将、飛車、角行、歩が三つだけというトンデモルールな将棋のことだ!

 

 ちなみに十回やって八回負けてた。すっごい差があるはずなのにすぐ負けた。爺ちゃんは駒の使い方がうますぎる。

 

「マシュ、知ってる?歩って怖いんだよ……」

「ふ、歩?ジャパニーズチェスの兵士(ポーン)のことでしょうか」

「あんたのお祖父様何者よ」

「普通の旅好きでちょっとサバイバル訓練が厳しいだけの人ですけど?」

「あの先輩、一般的な普通の人はそんなことしないんですけど」

「そう?」

 

 まあ爺ちゃんがすごかったとしても、俺自身は普通だ。せいぜい爺ちゃん直伝の日本料理が少しと食料探しできるくらい。

 

「あれ、そういえばバーサーカーは食べなくてもいいのかな?」

「あんた忘れたの?サーヴァントは英霊、食事も睡眠も必要ないのよ」

「でも半受肉してるって話じゃ……」

「バーサーカー様の場合はね。でも不死人はそういう概念をとっくに放棄したと言っていたわ」

 

 そんなことを聞けるほどになってたのか。所長のバーサーカーへの熱意の賜物なんだろうな。俺も積極的に話しかけよう。

 

 そんなこんなで談笑すること数分、レーションも食べ終わったのでゴミを片付けて立ち上がる。すると、ププーとブレスレットが鳴った。

 

「先輩、通信です」

「みたいだね。また盗み聞きでもしてたのかな?」

 

 軽口を叩いて、ブレスレットを押す。するとドクターのホログラムが浮かんで……

 

『みんな、すぐにそこから逃げるんだ!』

「ドクター?何かあったの?」

『今そっちに一つの反応が接近している!パラメータからして、これは──』

 

 

 

 

 

 

 

「──おや」

 

 

 

 

 

 

 

 その声を聞いた瞬間、ぞっと背中に怖気が走った。

 

 ばっと背後を振り返る。するとそこには、不気味な黒いオーラを漂わせる〝何か〟が佇んでいた。

 

「まだいたんですね、生き残り」

 

 心臓が早鐘を打つ。恐怖で体が震える。頭の中で警報が鳴り響く。

 

 フードをかぶり、黒い装束に身を包み。そして手に黒い鎌を持つその〝何か〟は──

 

「まあ、問題ないです。今ここで殺してしまえばいいのですから」

 

 ──そう言って、ニタリと唇をゆがめた。

 

『逃げろ!そいつは──サーヴァントだ!』

「では、死んでください」

「先輩!」

 

 ドクターの叫びと〝何か〟……サーヴァントが無造作に鎌を振るったのは、同じタイミングだった。

 

 立ち尽くしているとマシュに襟首を掴まれ、所長と一緒に盾の中に押し込まれる。次の瞬間、激しい衝突音が盾を打った。

 

「くっ……!」

 

 マシュが踏ん張ってくれて、なんとかことなきを得る。

 

 風圧が収まったところで、そっと盾から顔を覗かせてみれば……瓦礫のバリケードが全て壊れていた。

 

「そんな、たった一撃で……!?」

「ひぃっ、な、なんでこんなところにサーヴァントがいるのよ!」

「お二人は逃げてください!ここは私が!」

 

 マシュがそう言うが、いったいどうすれば……!

 

「へえ、なかなか頑丈ですね。なら……」

 

 迷っているうちに、敵のサーヴァントが攻撃を始めた。マシュの支える大楯を、何度も甲高い音と衝撃が襲う。

 

 所長が悲鳴をあげて縮こまり、マシュは険しい顔をしてなんとか攻撃をしのいでくれた。俺はそれを見ているだけだ。

 

「何か、俺にできることは……!」

『マスター、聞こえるか』

「……! バーサーカー!?」

 

 頭の中にバーサーカーの声が響いてきた。周りを見渡すが、どこにもいない。

 

『すまない、少し離れたところで厄介な相手と交戦中だ。そちらは平気か?』

「サーヴァントがきて、攻撃を受けてる!」

『異質なソウルを感じたと思ったが、やはりそうか…………マスター。十五秒後に援護射撃をする。その隙に、もう一つ上の高台へ逃げろ』

「わかった、マシュ!もう十五秒耐えてくれ!」

「っ、はい!」

 

 マシュはひときわ踏ん張って、サーヴァントの攻撃を耐えた。俺は所長に同じことを伝え、頭の中でカウントを始める。

 

「しつこいです、ねっ!」

 

 

 ガンッ!

 

 

「くぅっ……!」

 

 カウントをする間にもサーヴァントの猛攻は続き、どんどんマシュの声と顔が苦しげになっていく。

 

 どうにかできないかと思い、思考を巡らせると……ある一つのことを思い出した。ぱっと自分の手の甲に目線を落とす。

 

 〝令呪〟は、一種のエネルギーだとバーサーカーは言っていた。

 

 

 

 なら、これをマシュに──!

 

 

 

「令呪をもって命ずる!マシュ、踏ん張れ!」

 

 その瞬間、体の中から何かが抜けていく感覚を覚えて──その代わりとでもいうように、マシュの体が淡く輝いた。

 

「了解ですマスター、はぁぁああっ!」

「っ!?」

 

 

 ガァンッ!

 

 

 力強く大楯を振るい、マシュはサーヴァントの攻撃を跳ね返した。サーヴァントは驚愕を顔に貼り付ける。

 

『──よく持ちこたえた』

 

 

 

 ヒュンッ!

 

 

 

 脳裏に声が響き、空気を切って鈍色のきらめきが飛来した。

 

 それは体勢をわずかに崩したサーヴァントの肩を貫き、動きを止める。今だ、と所長に目配せして盾の中から飛び出した。

 

「っ、逃がさ──」

「いかせませんっ!」

 

 背後で、マシュが大楯を地面に振り下ろす轟音が聞こえる。振り返りたい衝動にかられながら、俺は上を目指して走った。

 

 螺旋状の階段を駆け上って、高台に出る。そうすると休憩する間もなく、手すりから半ば身を乗り出すように広場を見下ろした。

 

「くっ……!」

 

 右肩に槍のような矢が刺さったサーヴァントは、距離を取りつつマシュを睨んでいる。マシュの方も油断なく、盾を構えていた。

 

「その怪我での戦闘は困難と判断します、退いてください」

「──なめるな!」

 

 サーヴァントの姿が消える。かと思えばマシュのすぐ目の前まで来ており、左手で槍を振るっていた。

 

 防ぐマシュ、しかしその防御の穴をつくように槍が差し込まれ、とっさにかわすが脇腹を鎌の先端が掠めた。

 

「あ……!」

「マシュ!」

「ちょっと!」

 

 手すりに足をかけたら、所長に引き止められた。

 

 何するんですか、と言おうとして……所長の真剣な顔を見て、開きかけていた口を閉じる。

 

「ここでおとなしくしてなさい」

「でも……」

「見てわからないの?」

 

 もう一度、広場の方を見る。

 

「シャァアッ!!」

「くっ、らぁっ!」

 

 そこでは、凄まじい戦闘が繰り広げられていた。暴風が吹き荒れ、地面が砕け、激しい音を立てて大楯と槍がぶつかり合う。

 

 とても、俺がいってどうにかなるようなものじゃない。

 

「キミができることなんて、何もないの」

「っ…………」

 

 所長の言う通りだった。

 

 手も足も震えている。必死に我慢しなけりゃ、あのサーヴァントから発せられている殺気だけで泣き出しそうだ。

 

 俺はこの場において、どうしようもないほど無力だった。

 

「信じなさい、マシュもサーヴァントよ。同じサーヴァントなら、勝つ可能性はあるわ」

「……同じ?」

 

 けど、その言葉にピクリと体を揺らす。

 

 マシュが、あれと……あの殺意をたぎらせる怪物と、同じだって?

 

「それは、違うと思います」

「え?」

 

 ほぼ無意識に言葉が口から漏れる。

 

 そうだ、思い出せ。

 

 

 

 マシュは管制室にいた時──どんな顔をしてた?

 

 

 

 怖がっていたじゃないか、自分が死ぬのを。俺と同じように……ごく普通の人間と、なんか変わらないように。

 

 それなのに俺はまた、見ていることしかできないのか──!?

 

「シッ!」

「しまっ──」

 

 マシュの焦った声に、はっと我にかえる。

 

 だが、その時にはもう遅かった。サーヴァントの蹴りが腹に入って、マシュが激しく壁に叩きつけられる。

 

「かはっ……!」

「弱いですね、あなた。手負いの私にすら防戦一方とは、同じサーヴァントとは思えません」

「くっ……!」

 

 マシュは歯を食いしばって、盾を支えにしてなんとか立ち上がる。

 

 でも、その足は小刻みに震えていた。なのにサーヴァントを毅然と見据え、まだ戦おうとしていた。

 

「では、さよならです」

 

 鎌を振り上げるサーヴァントに、マシュは諦めず盾を構えて──

 

 

 

 

 

 

 

 ──やっぱり、違う。

 

 

 

 

 

 

 

「う、うぉおおぉおおおおおおお!」

「ちょっ、フジマル!?」

 

 近くにあった大きな瓦礫を持って、俺は手すりを飛び越えた。

 

 流石に予想外だったのか、サーヴァントは驚いてこちらを見上げる。俺は瓦礫を両手で振り上げ、サーヴァントめがけて落ちていった。

 

 怖い。もしこのまま落ちて死んだら。あの鎌に斬り殺されたら。浮遊感に包まれながら、そんなことを考える。

 

 けど、マシュを失うくらいなら──!

 

「こん、のぉおおおおおおお!」

「くっ、小癪な……!」

 

 鎌が振られる。その衝撃だけで手の中の瓦礫はあっさりと粉砕され、俺は手ぶらの状態になった。

 

「おりゃぁっ!」

 

 だが、だからといって、諦める道理はない!

 

「がっ!?」

「入った……!」

 

 がむしゃらに振った足の先端が、負傷した右肩に入る。サーヴァントの動きが止まった。

 

「き、さまァ……!」

「──せぁあああっ!」

 

 サーヴァントが俺の足をつかもうとした瞬間──勇猛な叫びが聞こえてきた。

 

 視界の左端から、見慣れた大楯が迫る。それはサーヴァントの脇腹にめり込んで、ゴキリと大きな音が耳に響いた。

 

「が、ぁあ……!?」

 

 目を見開くサーヴァントは、そのままどこかへ吹っ飛ばされる。

 

 それを見ながら、俺は地面に体を打ち付け……

 

「先輩!」

 

 る前に、マシュに抱きとめられた。

 

 受け止められたのはいいが、マシュもバランスを崩して二人でもつれ合いながら倒れる。

 

「っつつ……」

「先輩、平気ですか!?」

「な、なんとか……」

 

 ジンジンという痛みに耐えつつ、尻餅をついて平気だと手を振る。

 

「それよりサーヴァントは……」

 

 広場を見回すと、数メートル離れたところでサーヴァントは倒れていた。

 

 程なくして、光の粒子になって消えていく。それを見て全身から力が抜けていった。

 

「か、勝った……よかった……」

「申し訳ありません、私が不甲斐ないばかりに先輩が無茶を……」

「何言ってんの」

「……え?」

 

 首をかしげるマシュに、俺は無理やりニッと笑って。

 

「髑髏仮面の時も、今も……マシュがいるから、俺は生きてるんだよ。だから、ありがとう」

「っ!」

 

 心からの感謝を述べると、マシュは顔をそらしてしまった。あれ、俺何か間違えただろうか。

 

 

 

 まあ、なんにせよ……俺たちはなんとか、サーヴァントを撃退することができた。




うーむ、微妙。
次回あたりでキャスニキ出します。
感想をいただけると嬉しいです。

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