やはりお気に入りもアクセス数も乱上下しましたね。
早く調子を取り戻さなくては。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「……マスター、こんなことをしていていいのでしょうか」
「……仕方がないよ、海賊だもの」
飲めや歌えや、時には殴り合いまでなんでもござれの大騒ぎ。
これまでに類を見ないほどの奔放っぷりを見せる海賊の宴。
その片隅で、俺達はちびちびと食べ物を口に運んでいた。
「君も中々に順応が早くなっているな、マスターよ」
「はは、流石にね……」
二つの特異点を経験して分かったことの一つ。
それは、ある程度流れに身を任せ、状況に慣れた方がいいということ。
特異点とは未知の世界。柔軟に対応していき、かつ然るべき時に的確な判断をしなければならない。
俺なりにその手法を考えた結果、なるべく早く適応するのが最善だった。
「ですが、いつまでもこうしているわけにもいきませんし。フランシス・ドレイクさんと情報の共有を……」
「アタシを呼んだかい?」
「ひゃわっ!」
内緒話をするように声を潜めていたマシュが、眼前から投げかけられた声に肩を跳ねさせる。
いつの間にやってきたのか、聖杯を片手に携えたドレイクさんがどっかりと向かいに座り込む。
「なんだいアンタら、揃いも揃ってしけたツラして。そんなんじゃあ財宝が逃げちまうよ?」
ある意味目の前にあるようなものだけど、という言葉は胸の内に仕舞い込んで。
「すみません、今後の相談をしてて」
「ああ、そういうことかい。で、アンタらはどんな航海をアタシらにさせてくれるんだい?」
片膝を立て、身を乗り出したドレイクさんは楽しそうな顔をする。
乗り気ならしい彼女の頬は多少赤らんでいるが、先ほどまでよりは素面だろう。
仲間達に目配せする。
マシュが頷き、続けてルーソフィアさんも微笑んだのを確認して、話を切り出した。
「えっと、まずこの海について知りたいんですけど」
「ん、具体的には?」
「ここはどの海域なのでしょうか? イングランド、あるいはスペイン近海? それともカリブ海?」
「あー…………」
ドレイクさんは、しばらく思い出すように虚空へ視線を右往左往させて。
それから、二ヘラっと酔っ払い特有の笑みを浮かべると海賊帽を空いた手で叩いた。
「ごめん、さっぱりわかんないね!」
「「分からないのにこんなに騒いでたの(んですか)!?」」
「あっはっはっ!」
だめだこの人、適当だ! これが海賊か!
「なるほど、豪胆さも英雄の資質というわけか」
「火の時代の勇士達に通ずるものがあります」
「お二人とも感心しないでください!」
「けどねえ、この海域が異常だってことは分かってる」
「異常?」
「そうともさ」
更に身をこちらへ乗り出し、ドレイクさんは獰猛に笑う。
一瞬前とは一風変わったその雰囲気に、思わず喉を鳴らした。
「アタシも長いこと海賊やってて、それなりに修羅場ってのをくぐり抜けてる。だからこそ、厄付きかどうかってのもなんとなく嗅ぎつけられるのさ」
「と、いいますと……」
「ジャングルがあったと思えば、地中海の温暖な海に出る。バカみたいに海流の複雑な海域に出た時なんか、沈むのを覚悟したね」
なんて破茶滅茶な。さすがは特異点と言うべきだろうか。
なによりと、驚く俺達にドレイクさんは前置きして。
「大砲の弾ぶち当ててもピンピンしてる超人がうろついてるんだ。これが異常でなくて、なんだってんだい?」
「サーヴァント……!」
「やはりいたか、この特異点にも」
明確になった〝敵〟の存在。あるいはカウンターとして召喚された野良サーヴァントか。
いずれにせよ、この怪奇的な海で平然と航海をしているというのなら、海に慣れた英霊なのだろう。
もしかして海賊の英霊か……?
「ってわけさ。よく分からない敵、海流も風もしっちゃかめっちゃかのマトモじゃない海。ついでに言やぁ「大陸」も見当たらないときた」
「そこまで把握していたのですね……では、今後はどのような方針を取っていたのですか?」
「そう、まさにそれさ。明日にでも新しい船旅に出ようって時に、ユリアがアンタらを連れてきたってわけ」
ドレイクさん曰く、ユリアさんからいずれ俺達がやってくる事は聞いていたらしい。
彼女がドレイクさんの船に加わったのは数ヶ月前、海が
「〝いずれこの荒海を、美しき大海へと戻す星見がやってくる〟……最初に聞いた時はよく分からなかったが、アンタらの力を見るとホラ吹いたってわけでもなさそうだ」
「では、先程の戦闘はその真偽を確かめるために?」
「いんや? 面白そうだったからだけど?」
「「えぇ……」」
この刹那的な生き方、現代に残るイメージ通りの海賊というべきか。
しかし、あれでサーヴァントと互角に戦える可能性があるという認識は持ってくれただろう。
反対に、聖杯を所有している彼女の力を考えると、最良の協力者を得られた。
流石はユリアさん、と言うべきか……
「そういえば、さっきその聖杯を手に入れた時の話をしていましたけど」
「ん、ああ。このヘンテコな金ピカのことかい。アタシなんて言ったっけ?」
「アトランティスとか、ポセイドンとか……」
「ああそうだったね。いやぁ、あの時は爽快だった! おかげで食うにゃ困らないし、あの超人どもにど
酔った勢いとか、聞き間違えじゃなかったらしい。
アイパッチの人が話していたことを今度は自ら語り出すドレイクさんを見つつ、マシュと顔を寄せ合う。
「マスター。信じられないことですが、どうやら私達が来る前に人理定礎は崩壊しかけていたようです」
「みたいだね……それをドレイクさんが解決しちゃって、聖杯を手に入れた……この場合どうなるんだろう?」
「聖杯に認められた正式な所有者、ということになるのでしょう。自在にその魔力を引き出していることからも、明らかです」
改めてとんでもないな、この人。
どうしたらいいのだろうか。あれを回収して終わり、というのは簡単すぎる気がするし。
一度頼んで受け取ってみて、ドクターに指示を仰ぐのが一番いいかな?
「すみません、ドレイクさん」
「あん? なんだい?」
「その聖杯、一度持たせてくれませんか?」
「は? そりゃいいけど。命以外はくれてやるって話だしね」
ぐい、と中にあった酒を飲み干し、ドレイク船長は無造作に聖杯を放る。
宙を舞うそれに手を伸ばし、なんとかキャッチした。
「聖杯回収、完了……なんて」
「…………何も変わらないですね」
十秒、二十秒と待ってみるが、何も変化がない。
マシュと顔を突き合わせ、互いに困惑した顔を見せ合ったところで、第三の声が上がった。
「ふむ。もしやと思っていたが、やはりか」
「バーサーカー?」
「マスター。その聖杯からはあの男……レフの魔力を感じ取れない。思うに、それは
「別物……ですか」
「本来この時代にあった、正しい聖杯ということです。歴史上、
二人の意見は、確かにある程度の説得力を持っている。
これまで聞いた話と比較し、頭の中で色々推察してみるけれど、やはり俺一人じゃ確証が持てない。
そこで初心に返って、俺はブレスレットの通信機能を立ち上げた。
「ドクター、聞こえますか? ちょっと確かめたいことがあるんですが」
『ああ、こちらでも話を聞きながら観測していたよ。依然として時代のボルトは外れたままだ。エミリアさんの言う通りだろうね』
ドクターはいやはや驚いたね、なんてどこか気の抜けた困り笑いで言う。
常にこちらの状況を観測している彼がそう言うのであれば、この推察は真実となった。
「じゃあ、人理を乱しているレフの聖杯がどこかに?」
『その予測は正しい。そしてこちらの見解では、そこにある〝世界を救ったフランシス・ドレイクの聖杯〟と〝世界を壊すレフの聖杯〟。相反する二つの聖杯が存在することがそんな海になっている理由だ』
ドクターの説明によれば、ドレイクさんとこの聖杯がある限り、この時代は壊れない。
けれど、レフの聖杯がある限りは人理も海も元に戻ることもない。
停滞した特異点。そう呼ぶべき状況のようだった。
「つまりこれまでの特異点ほど切迫はしていませんが、目的は変わらないのですね?」
『そういうことだね。ということで、その聖杯は……』
「はい。ドレイクさん」
「ん?」
「これ、返します。この聖杯は貴女が持っているべきものです、キャプテン・ドレイク」
「お、そうかい? こりゃ丁寧にどうも……」
受け渡した聖杯には、どこからか湧き出るように酒が満ちていく。
「……こんなにあっさりお宝渡すのも、返されるのも初めてだよ」
聖杯をゆらゆらと回しながら、彼女は拍子抜けした表情で呟いた。
それを尻目に、通信越しにドクターを交えてその場の全員で幾つか相談を交わす。
ある程度まとまった後に、マシュが声をかけた。
「キャプテン・ドレイク。改めてお話があります」
「聞こうじゃないか」
「それと同じものが、この海のどこかにあります。それを回収しない限り、この海は永遠に元には戻らないのです」
「……へえ」
ふと、彼女の顔が引き締まる。
海の話となれば聞き捨てならない、という言は本当なのだと思わせる真剣な色を目に帯びた。
「
「
「ふぅん……で、その為の
「こちら側としてはそうなります。そして……」
通信映像を立ち上げ、その方向をドレイクさんの方へと向ける。
面食らった表情をする彼女に、ホログラムの中のドクターが柔和な笑みを向けた。
『初めまして、キャプテン・ドレイク。僕はドクターロマン。彼らの補佐役とでも思っていただきたい』
「ああ、さっきのナヨっとした声のやつかい。んで、アタシになんか用?」
『こちらの都合で協力してもらうので、ちょっとしたメリットの可能性を提示しておこうとね』
「メリット、ねぇ」
気のない声だったが、その目線には興味が浮かんでいるように思えた。
『聞いての通り、その聖杯には世界を捻じ曲げるほどの力がある。それこそ望みさえすれば、どんな財宝だって生み出せる代物だが……どうだい?』
「馬鹿言ってんじゃないよ。お宝ってのはね、知恵と勇気と冒険で手に入れるもんさ。苦労せず手に入れたもんなんざ、アタシにとっちゃ価値がない」
『それを聞いて安心したよ』
コホン、といつものように咳払いを一つ。
ゆるふわな表情を引き締め、ドクターがドレイクさんに語り出す。
『キャプテン・ドレイク。今回の協力にあたって、我々は経験したこともないような波乱万丈の航海を貴女にさせることになるだろう』
「へえ、面白い。そっちの鎧を着た連中はあの超人どもとも渡り合えそうだしねえ、派手なことになりそうだ」
『だが、その他にもう一つ。これは可能性の話だが……』
「もったいつけるんじゃないよ。そら、酒が回り切らないうちに言いな」
『では遠慮なく。その海は今、貴女の聖杯ともう一つの聖杯の力が相殺しあい、停滞している。その閉じた世界には、ある種の思念もまた、閉じ込められているかもしれない』
思念? とドレイクさんは首を傾げた。
俺もドクターが何をどのように話すのか、と言うのは聞いていないので、耳を傾ける。
『大航海時代。良きにつけ悪しきにつけ、財宝と夢を求めて誰もが旅をした時代。これによって世界は一回り大きくなり、結果として多くの国々が栄え、あるいは滅んだ。そんな彼ら、星の開拓者達の願望とでも言うべきものが、その特殊な世界で形を成しているとしたら?』
「つまりドクター、それは所謂……金銀財宝、のようなものですか?」
「ほう!」
これ以上ないほどドレイクさんが反応した。
身を乗り出す、というかテーブルに片膝を立てて、ホログラムに鼻先がつきそうな勢いだ。
こちらから見ると左右反対のドクターは苦笑しつつ、話を続ける。
『そう、お宝の山ってやつさ。その時代だと香辛料とかも貴重品かな?』
「そうさね! 要するにアンタ、あるって言うのかい! このおかしな海のどこかに、船に積み切れないほどのお宝が!?」
『ああ、その可能性は──高い!』
「くぅ──っ!」
ドレイクさんが、それはそれは楽しそうに、これ以上ないと言うほど口元に笑みを浮かべる。
それは満面の笑みと言って差し支えなく、見開いた青い双眸までもが爛々と輝いていた。
ダン! と思い切り靴裏をテーブルに打ち付ける。そして彼女は、聖杯を天へ掲げた。
「燃えてきた! 俄然燃えてきたよ! ヤロウども! これから無理難題な航海をするよ! 明日から命の保証はない、しこたま飲んどきなぁ!!」
「「「イャッホォオオオウ!」」」
ガシャン、とそこかしこからジョッキを打ちつけ合う音が鳴り響いた。
さながら合奏のように盛大な音を立て、続けて歓声や怒号、果ては肩を組んで歌う人まで現れる。
その誰よりも上機嫌さを全身から発するドレイクさんは、高笑いしながら酒を煽った。
「成功したようですね」
「うん。積極的になってくれてよかった。ドクターもありがとうございます」
『うん、まあ100%じゃあないんだけどね。その可能性はあるっていう話を、僕はしただけさ』
どちらにしろ、未知の冒険ができるのだからいいだろう? と悪戯げに笑うドクター。
やる時はやるドクターに、俺はマシュ達と顔を見合わせて笑わざるを得ない。
映像の端っこで、ダ・ヴィンチちゃんが同じ顔をしているのが印象的だった。
読んでいただき、ありがとうございます。
さあ、次回から航海の始まりだ!