楽しんでいただけると嬉しいです。
「うぉえっぷ……」
「先輩、大丈夫ですか……?」
「ごめん、まだちょっと無理……」
先輩と呼んでくれる女の子に背中をさすられ、桟橋の上で四つん這い。
我が事ながら情けなさすぎて、実に恥ずかしい。
でも気にならないくらい気持ち悪い。今にも吐きそう。
「まさか、テンションの上がったドレイク船長に無理やりお酒を飲まされるとは……」
「めっちゃ力強くて抵抗できなくて……おぇ」
「ああっ先輩、喋らないで結構です! 余計に気分が悪くなってしまいます!」
「ごめん……ほんとごめんねマシュ……」
迷惑かけて申し訳なさすぎる。バーサーカーが霊体化してくれてるのも居た堪れない。
船長達は船の準備、エミリアさんもユリアさんと一緒に行っている。
そしてグロッキーな俺……出だしから格好つかないなこれ……
「後でエミリアさんに治療してもらいましょうね、先輩」
「そうだね……うぇっ、爺ちゃんも酒に関してだけは、忠告くらいしかしてくれなくて……うぷ」
「重症ですね……」
これで一口二口とかだったら違うんだろうけど、ジョッキ3杯分は無理だった。
人類最後のマスターは大変だなぁ……
「先輩がとても遠い目を……」
「お、なんだい藤丸。あんたまだ悪酔いしてんのかい?」
「ドレイク船長……?」
脳みそが頭の中で回っているような気持ち悪さを覚えながら、顔を上げる。
すると、俺を見下ろしているドレイク船長は呆れたように笑っていた。
「なっさけないねぇ。初めて酒を飲んだガキでもあるまいに、いつまでへばってんだい」
まさにそうなんだけどね!?
などと叫びかえしたくても、大声を出した途端にゲロりそうなので無理だった。
「藤丸様、こちらに。治療いたします」
「あ、ありがとうございます……」
「ささ、足元にお気をつけを
「ありが……ん???」
「え?」
マシュと二人、疑問の声が重なった。
一瞬悪酔いの気持ち悪さも忘れ、立ち上がりかけた自分の腕を支える人物を見る。
そして、にこりと微笑み返してくる着物姿の美少女に顔の青さが深まるのを実感した。
「…………清姫? なんでここにいるの?」
「うふふ、旦那様がおられる所にこの清姫あり、ですわ」
「答えになってません! まさかフォウさんのようにレイシフトに便乗して……!?」
「フォフォウ!」
一緒にするな! と言わんばかりに足元でフォウが吠えた。
なんで、とかいつから、とか色々思考が巡り、しかしそれは今の俺には悪影響でしかない。
「うぷっ……!」
「先輩!」
「これは、早急に治さなくては乗船もできませんね」
「ったく、いよいよ出航だってのにしまらない連中だよ」
あなたのせいでしょ、というのは喉を上ってきたものを抑えるのと一緒に呑み込んだ。
エミリアさんの治療と酔い覚ましの薬で、どうにか少し回復できた。
恨めしい目を船長に向けるが、彼女はガン無視で別の方向を見ている。
「さあ、よく見ておきな! こいつが今からアタシを、アンタらを見果てぬ財宝の山まで運ぶ船さ!」
もはや気にしても意味がないと悟り、ため息をひとつ零しながら彼女の言うものへ振り返る。
それは、ずっとそこに在ったもの。
威風堂々、何にも遠慮することなく浜辺に鎮座する黒き大船。
この世界において、生身では最強の海賊フランシス・ドレイクが駆るその船の名は──
「〝
「すごい……!」
「これが正真正銘、大航海時代を旅した海賊船なのですね……!」
圧巻。その感想は、この旅を始めてから何度も抱いてきた。
それでも色褪せることなく、乾くことなく。いつだって驚きは俺に感動を与える。
それはきっと、俺以上に隣で目を輝かせて見上げるこの女の子だって──
「「と、いうわけで」」
「え」
感動していたれたのもそこまで。
がっしりと両肩に手が置かれる。一つは船長の、一つはいつの間にかそこにいたアイパッチさんの。
悪い予感を感じつつも、俺は引きつった下手くそな笑顔で二人の満面の笑みを見返した。
「男っ手が足りな〜い♪」
「具体的に言うと水っ夫が足りな〜い♪」
「ま、まさか……!」
「野郎ども! 水夫見習いが増えたよ! しっかりしごいてやんな!」
「「「ハイホー!」」」
「ヒィっ!?」
二つだった手が一瞬で何倍にも増えたぁ!?
いつからいたんだよとツッコむ暇もなく、俺は海賊達に担がれて船の方に運ばれた。
「この船に乗る以上、アタシの言うことは絶対だ。せいぜい頑張りな!」
「せ、せんぱーい!」
「旦那様ー!」
「あら、これは困ったことに……」
「私がついていこう。一応男であるしな」
「お、やる気だね。それじゃあアンタとそこの二人は藤丸とだ。アンタは頭が良さそうだから甲板のユリアんとこ行きな」
そうして俺達は、あれよあれよと言う間に船に連れ込まれたのであった。
えっさほいさと、まるで米俵のように船内を運ばれることしばらく。
足取りの荒さと海賊達の熱気に気持ち悪さがぶり返してきた頃、とある部屋で降ろされる。
「いってぇ、腰が……」
「そうら、追加だよ!」
「わわっ!」
「きゃっ!」
「ぐへっ!?」
は、腹に二人分の体重が……
いくら女の子とはいえ、全身鎧と着物を着てる分結構な重量がいい感じにレバーを直撃した。
「うごごご……」
「す、すみません先輩!」
「貴女、もう少し丁寧にできないんですの!?」
「あっはっはっ、海賊に何求めてんだい!」
は、吐き気が……吐き気がぁ……
「平気かマスター。火防女を呼んでくるか?」
「ぐぐ、なんのこれしき……!」
「おっ、ガッツあるじゃないか。ちょっと見直したよ」
「どうも……」
ニカッと笑う船長に、何だか毒気が抜けていった。
連れてこられた部屋の中を見渡す。そしてすぐに顔を顰めた。
一言で言うならば、汚部屋。
そこかしこに散らばった衣服の類、転がっていたり粉々になったままの酒瓶、果ては銃まで。
壁には酒や、あるいはもっと汚いものらしき染みが散見し、すえた匂いが何よりもキツかった。
「じゃ、まずは掃除からだ。男所帯だからねえ、とびきりに臭いし汚いよ!」
「……ええ、存分に感じているところです」
「これは、酷いの一言に尽きますね……」
「不潔な……」
「船に乗った以上はアタシの船員、まずは下働きからってね。そんじゃ頑張りなよ〜」
ドレイク船長が行ってしまった。
残された俺たち四人+フォウは顔を見合わせ、なんともいえない表情をする。
「先輩、どうしましょう」
「全く野蛮ですこと」
「まあまあ、清姫……とにかく、船に乗せてもらった以上やることはやらないと」
せっかく上手くいっているのに、ここで腐ってて気分を損ねても大問題だ。
不安そうな顔をするマシュに、俺はあえて得意げに笑って力瘤を作る仕草をする。
「任せて。一人暮らししてたから、一通り家事はできるよ。炊事洗濯掃除、特に掃除はね」
爺ちゃんの家は結構広かったので、掃除スキルの向上は必須だった。
蔵の中にわんさかあった、おそらく旅中で集めたのだろう品々の分別だってやったことがある。
それに比べれば、この部屋くらい、ただ臭いと見てくれがキツいだけだ。
「清姫はどう? できれば手伝ってほしいんだけど」
「ええ、ええ。あの者達は気に入りませんが、他ならぬ旦那様が言うのであれば私もお力添えしましょう。これでも花嫁修行はしていましたので」
「では私も、後輩として精一杯頑張らせていただきます!」
「ありがとう、助かるよ二人とも」
二人の了承は得られた。
俺は、腕組みをして佇んでいるバーサーカーを見る。
「バーサーカーも、手伝ってくれる?」
「無論だとも。これでも目利きにはそれなりに自信がある。使える物と使えない物の選別程度はできるだろう」
「それで十分だよ」
ようし、早速始めよう。
袖をまくり、靴を爪先までしっかり履き込むと、三人と頷き合った。
「じゃあ、まずは服の仕分けから」
「船が動くぞぉ──!! 荷物しっかり抑えとけぇ──ー!」
暗闇と衝撃が全身を覆うようだった。
大きな振動と共に両足が床から浮き、間髪入れず汚れた服とゴミの山が吹っ飛んできた。
それは痛みというよりも、四方八方からこの世のものとは思えない汚臭を押し付けられるようで──
「──かはっ」
「せ、せんぱ──い!!?」
そうして、俺達の船旅が始まった。
●◯●
「ヨーホー、掲げよー。ドクロの旗ー」
海賊映画で聞いた歌を口ずさみながら、ブラシでデッキを擦る。
出港してから数日。
最初は船の揺れとブラシの質の悪さに悪戦苦闘したが、すっかり慣れた。
今では歌いながらだって清掃できる。
「よし、こんなところかな」
「よう藤丸、板についてきたじゃねえか」
「水夫見習いも卒業か? がっはっはっ!」
「ありがとうございます」
通りがかった船員の言葉に、ちょっと嬉しくなったりもする。
「さて、次は船首の方の点検を──」
しようか、なんて口にしようと振り返る。
けれど言葉は尻すぼみになって、俺の視線はそこにいる彼女に釘付けとなった。
彼女は、海を見ていた。
ギラギラと照りつける陽光を和らげるように吹く潮風に、紫の美髪が揺れている。
そうして露わになった両方の瞳を輝かせ、どこまでも広がる大海原を眺めているのだ。
とても楽しそうに。慈しむように。
何より、嬉しそうに。
その横顔があまりに可愛らしくて……
「おぉーい藤丸、サボってねえで身体動かせー!」
「あっ、はぁい!」
怒号で我に返った。
慌ててバケツとモップを片付けて、彼女がいる船首へと小走りで駆けていく。
足音で気がついたのだろうか、こちらに振り返った彼女……マシュは柔らかく笑った。
「お疲れ様です、先輩」
「マシュもね。怪しい影は?」
「ありません。サーヴァントの優れた視力でずっと目を凝らしていましたが、海賊船の一隻も現れませんでした」
「みたいだね」
見張りというよりは、観賞も楽しんでいたみたいだけれども。
そんな野暮な言葉は、うきうきと全身から聞こえてきそうな様子を見れば引っ込んでしまう。
「何日か経ってるけど、気分は悪くなってたりしない?」
「はい。むしろ快調なんです。ローマでも船に乗りはしましたが、ここまで本格的な船旅は初めてで、眼に映るもの全てが新鮮で……はっ!」
「あはは! マシュが楽しそうで良かった」
「う、うぅ……すみません、そんな状況でないことは理解しているつもりなのですが、つい……」
「いいんじゃないかな。俺も気持ちはよくわかるよ」
きっと、小さい俺を船に乗せた時の爺ちゃんはこんな気持ちだったんだろうな。
見るもの、聞くもの、感じるもの。
その全てが未知で、ちょっぴり恐怖で。
けれど、その恐れをあっさりと上回る感動は、人生において掛け替えのない体験だ。
「綺麗だもんね、この船の上から見る景色」
「はい、とても。あっ、先輩! あそこにカモメの群れがいますよ! あっちにはイルカも!」
「おっ、ほんとだ。沢山いるなぁ」
マシュと二人並んで、甲板の淵から身を乗り出しそうな彼女に少しハラハラしながら海を見る。
普通じゃない海域。この世界のどこにも存在せず、ズレ落ちた、封鎖された海。
でも、キラキラと陽の光を受けて輝く海原も、空を飛ぶ鳥や、魚や、水生生物も。
ともすれば、時折現れる「海賊」の概念が物質化した敵だって。
「マシュ。俺、思うことがあるんだ」
「思うこと、ですか?」
少し強く吹いた潮風に、髪を手で押さえるマシュに頷いて。
「この旅はさ、決して楽なものじゃない。本当はもっと、常に緊張感を持っていなくちゃいけないのかもしれない」
「……それも、ある意味では正しいと思います」
きっと、それが本来正しい姿勢なのだろう。
「でもさ。それだけじゃないんだ」
そう、決して嫌なことばかりじゃ、苦しくて辛いことばかりじゃない。
「フランスの時だって、ローマの時だって。出会いが、発見が、冒険があった。そこにはどこか、楽しさも感じていたんだ」
「……はい。私も、いつも感じています」
もしも。
人類最後のマスターとして、カルデアの使いとして、使命と責任を以って臨む以上に。
この旅に俺という一個人、藤丸立香という人間として意義を持たせることが許されるなら。
「俺達は、俺は、きっと。
「先輩……」
「って、クサいこと言っちゃったかな」
今更に照れくさくなって、俺は照れ隠しに笑ってみせる。
けれどマシュは、ゆっくりと左右にかぶりを振って、優しく笑ってくれた。
「先輩は、不思議です。私がこの胸の中に抱えている、漠然とした感情に形を与えてくれます。沢山のことを教えてくれるのだと、いつも感謝しているのです」
「そ、っか。なら、ちょっとはマシュの先輩として格好がついたかな?」
「はい! 先輩のそういうところ、とても好感が持てると思います!」
「んっ、あ、ありがと」
……急にこういうこと言われると、心臓がグッと締め付けられる。
もっと気障でいいカッコしいな人間だったら、あっさりとこの返答をできるのだろうか。
俺の方こそ、君のその笑顔をとても魅力的に感じてる、だなんて。
「あの、マシュ。俺」
「でっけぇのが出たぞぉ──! 大物だぁ──! マシュぅ──ー!」
「マシュ・キリエライト、ただいま参ります! 先輩、失礼します!」
一瞬で水夫の格好からサーヴァントの戦装束に変わったマシュがすっ飛んでいった。
船のすぐそばに現れたらしい大怪魚を討伐しに行った彼女を目で追いかけて、俺は苦笑いする。
「格好、つかないなぁ」
「いいや、良い言葉だった。私が保証しよう」
「うぇいっ!?」
いきなり後ろから聞き覚えある声が!
振り返ると、大魚の突き刺さった銛を担いだ上裸のバーサーカーがいた。
「バーサーカー、いつからいたの!?」
「失礼、少々盗み聞きをしてしまった。許してくれたまえ」
「あ、あはは。まあこんな場所だし、誰かに聞かれてもおかしくないよ」
むしろ、バーサーカーにしか聞かれてなかった方が珍しいケースだろう。
「ていうかそれ、獲ったの?」
「ああ、今あちらで騒いでいるやつの相方だ。奇襲して片方を仕留めてきた」
「さすがだね」
「以前は不得手だったが、泳ぎも修練中だと報告しておこう」
「俺が船から落ちた時は頼りにするよ」
「それはよく習熟しておかなくてはな」
力強く笑うバーサーカーに、俺も笑って頷いた。
それからふと、彼はいつもの真面目な顔に戻る。
「マスター。世界を救う旅の経験者として、君に一つ助言をしよう」
「それって?」
「使命と意思は、同等だ。その義務が誰かから背負わされた物であれ、自ら定めた物であれ、同じほどに己の願いを持つべきなのだ」
自分自身の願い……
「旅の終わり、その最期には必ず強大なものが立ちはだかる。それは敵かもしれない。あるいは使命そのものということもある」
「……もしその時は、どうしたら?」
「忘れるな。信じろ。己の心に、慈しむと定めたものを。その為にこそ、この旅の終着は成し遂げられる」
その言葉には、実感と実績が秘められているように思えた。
力強く断言する声の裏に確かな確信と、決意めいたものをも感じた。
だから俺は、こう尋ねた。
「……バーサーカーは、そうしたんだね?」
すると、彼は少し目を見開いて。
それから、これまで見たこともない笑い方をした。
「その為に、多くを見て、多くを知り、多くを斬って、そしてきっと──多くを裏切ったのだろうがね」
「え……」
その、言葉って──
「マシュが仕留めたぞぉ──!」
「藤丸ぅ──! 騎士野郎ぉ──! 引き揚げ手伝えぇ──!」
「ふむ、呼ばれたな」
「……そうだね、行こっか」
バーサーカーと二人、大海魚の引き揚げを手伝いに向かう。
胸に生まれた引っ掛かりを、今は押し込めて。
●◯●
「はふはふ……!」
「おいひいでふ……!」
元の見た目から警戒してたけど、この怪魚のソテー美味い!
口の中で野菜と一緒にほぐれていく白身もさることながら、ソースが絶妙に良い味を出している。
手が止まらないとはまさにこのこと、マシュと二人で競い合うように口に運ぶ。
「ふふ、気に入っていただけたようで何よりですわ」
「んっ、清姫さん」
「お疲れ様、清姫。料理番は慣れた?」
「ええ、それなりに。これも旦那様の為と思えばこそです」
うふふ、と笑いながらこちらに熱のこもった視線を向けてくる。
ぐっと飲み込みかけた魚が詰まりそうになった。相変わらずこういうのには弱い。
「ですので褒めて下さい、そうすればこの清姫より一層──」
「何サボってるでちか」
こちらに寄ってこようとした清姫は、しかしコック帽を被った頭をがっしりと掴まれた。
いつの間にやら彼女の背後にいた、清姫より頭二つと半分くらいは大きいだろうコック長。
そんな彼は容赦なく清姫を担いでいった。
「まだまだ仕事は終わってないでち、さっさと来るでち」
「御無体な! というかその口調逆らえないんですけど何なのですか!?」
旦那様ぁ〜、とエコーを残し、清姫が厨房に連行された。
「お忙しそうですね」
「みんな沢山食べるからねえ」
さすが海賊、波乱に満ちた海を旅するだけあって食べる量もピカイチ。
俺もそれなりに食べるけれど、彼らに比べると控えめに思えてしまう。
「バーサーカーも、最近は結構食べるよね?」
「……うむ。君達に感化されたかな」
実はずっと対面にいたバーサーカーは、苦笑気味に答えた。
あの料理対決以降、彼は時々だがこうして一緒に食事をしてくれる。
人の真似事と彼は言うけれど、少しだけ近づけた気がして嬉しいのだ。
「どう? 美味しい?」
「ああ。食事というものにようやく慣れてきたよ」
「そっか、よかった」
「清姫さんのおかげで、携帯食ではなく本格的なお料理をいただけるのが幸いですね」
本当に清姫様々だ。
「あ、マシュ。ソースがついちゃってるよ」
「は、恥ずかしいです。どこですか?」
「えっとね、ここらへん」
「……そう、か。そうだな。こういうものだったな」
その時、バーサーカーが小さく何かをつぶやいた気がした。
「ご歓談している所、失礼します」
「あ、エミリアさん」
「エミリアさん、お疲れ様です」
「火防女か」
同じ料理を手にやってきたエミリアさんは、俺達を見回す。
最後にバーサーカーを見て、どうしてかくすりと笑ってその隣に腰を下ろした。
「お二人とも、体調にお変わりはありませんか? 何かあればすぐに仰ってくださいね」
「ありがとうございます。おかげさまで元気です」
「エミリアさんがいるだけで、とても心強いです」
「まあ、嬉しい評価です」
実際にエミリアさんのお陰で、他の船員の人達も健康が改善されてるらしい。
どんな病気があるかわかったもんじゃない、とドクターは定期通信で忠告してきたが、今の所は平気そうだ。
「では、あと数日頑張りましょう。この速度を保っていれば、直に目的地へと辿り着きます」
「いよいよ、ですか」
「ちょっと緊張します」
緩んでいた表情を引き締めざるを得なかった。
ゴールデン・ハインド号は現在、明確な目的地を持って航行している。
俺達がこの特異点にやってくる数日前のことだ。
ドレイク船長達はとある嵐の海域にて、超人──すなわちサーヴァントと遭遇したらしい。
どうにか応戦し、嵐に乗じて逃げ切った後にあの無人島へと辿り着いた。
が、その後も件のサーヴァントの尖兵と思われるサーヴァントが襲撃してきているのだという。
そのサーヴァントは執拗にドレイク船長を狙い、しかしユリアさんとの二体一になるとすぐに撤退するとか。
撤退の仕方は、ユリアさん曰く〝空間転移〟。莫大な魔力を使ってサーヴァントを瞬時に移動させる魔術。
それを何度も可能とできるのは──聖杯からの魔力供給のみだと。
何度目かの応戦の後、比較的自由に動けるユリアさんが出撃者の痕跡を元に海域を探索。
結果、とある島にて襲撃者が残したと思われる航海日記と海図を入手。
それを参考に、俺達は大きな印が書き込まれたある島を目指していた。
「ドレイク船長、及びユリア様からの情報提供により、そのサーヴァントはヴァイキングの英霊である可能性が高いでしょう」
「ヴァイキング……海賊の起源となったとも言われる屈強な戦士の一族ですね。それも英霊に昇華する程となると……」
「自ずと対象は絞られることでしょう。いずれ遭遇することも十分にあり得ます」
「気をつけなきゃいけませんね」
「重要なことはもう一つある。そのサーヴァントを差し向けている、フランシス・ドレイクが刃を交えたという敵だ」
バーサーカーの言葉に、俺達は頷く。
「数少ない情報のうち有力であるのは、〝海賊船を持つ英霊であること〟。〝複数のサーヴァントを従えていること〟。そして……」
「〝鉤爪〟、か……」
この船ではそのサーヴァントを仮称として、〝鉤爪の男〟と呼んでいる。
最初にこの話を聞いた時、ドレイク船長に当時の状況を尋ねると冷や汗を流していた。
それほどに強大な相手、ということだろう。
「これから向かう島に現れる可能性も考えられる。マスター、わかっているな?」
「ああ。なるべく万全の状態で挑もう」
「不肖、このマシュ・キリエライトも頑張らせていただきます!」
「二人とも頼りにしてるね」
「当日は私も同行いたしましょう」
マシュ達とテーブルを囲んで、上陸時の計画を立てていく。
どこか、不穏な予感めいたものを感じながら。
読んでいただき、ありがとうございます。