灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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すみません、またかなり開きました。

実は……ヒスイ地方に旅立っていました。

今回も楽しんでいただけると嬉しいです。


黒髭惨状 1

 

 

 

 

 

 〝彼〟の夢だ。

 

 

 

 

 

 ぼんやりと曖昧な視界の縁に、そう確信した。

 

 彼は変わらず、軽装の鎧と上質な衣服に身を包み、その左手を腰の剣に添えていた。

 

 顔はやっぱり見えなくて、ただ真剣な表情であることはなんとなくわかる。

 

 今は、どこかの部屋の前に立っている。そこを守っているかのようだ。

 

 

 

 

 何をしているのだろう、と思っていると、ノック音がする。

 

 それはドアの内側からで、彼も気づいて振り返った。

 

 カチャリ、と控えめな音を伴い、ドアが開かれる。

 

 中から顔を出したのは──あの、白銀の少女だった。

 

「姫。いかがなさいましたか?」

 

 膝をつき、優しい声音で彼は聞く。

 

 隙間から顔を覗かせた少女は、もじもじと恥ずかしそうに視線を右往左往させた。

 

 やがて、その顔の下半分を隠すようにして、手に持っていた本を見せる。

 

「あのね。今日のお勉強のことで、分からないことがあって。貴方なら知ってるかなって」

「私に理解できる事であれば、お教えできますが……」

「地理の勉強なんだけど……」

「ああ、なるほど。それなら少しはお力になれるでしょう」

 

 そう聞くと、少女は表情を明るくした。

 

 ドアを開け放ち、彼の手を取る。そのまま部屋の中へと引っ張った。

 

 彼も抵抗することなく入っていき、手を引かれるままに机の方へと向かう。

 

「それで、何がわからないのですか?」

「えっとね、これ。読み方がわからないの」

 

 本を机の上で開き、指で示す少女。

 

 後ろから覗き込むように見た彼は、「ああ」と納得したような声を漏らした。

 

「これはメルヴィアですね。魔術と呪術、その両方に長い歴史と強力な力を持つ術士の国です」

「へえ、メルヴィアっていうんだ。どこにあるの?」

「我が国からですと、北西になりますね。海を越えた遠方です」

「ふうん……」

 

 少女が説明を受けたことで、興味深そうに文字列を眺める。

 

 俺にはわからない言語だったけれど、彼の言葉でどこかの国の記述だということだけはわかった。

 

「じゃあ、ここは?」

「アストラです。優秀な騎士を多く抱える国であり、特に上級騎士と呼ばれる者達の祝福された武具は強い力を持つ。礼節のある国柄ですよ」

「じゃあじゃあ、こっちは?」

「それは……ドラングレイグ。遥か昔にあった、大きな力を持つ王が収めた大国です」

 

 スラスラと出ていく答えが面白いのか、少女は次々と質問を投げかける。

 

 その全てに澱みなく答える騎士はとても博識で、まるで実際に見てきたような……

 

「すごい、すごいわ! 貴方、なんでも知っているのね!」

「はは。私も驚きです」

 

 答える彼の心が、その時伝わってきた。

 

 

 

 

 

 ──何故、私は知っているのだろうか。我が主に仕える以前のことは、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 少女に答えた言葉の通り、どうやら彼自身も自分の知識に戸惑っているようで。

 

 それでも微笑みながら、彼は手を伸ばして本のページを捲る。

 

 現れたのは、おそらく世界地図。

 

 そこには先程答えた国の名前もあって、地形は……俺の全く知らないものだった。

 

「よいですか、姫。この世界には多くの国があります。様々な技術、土地、人々、文化……その全てが、我らのすぐ隣に存在しているのですよ」

「はぁ……世界って広いのね」

 

 キラキラとした目で、地図を眺める少女。

 

 以前は勉強から抜け出していたが、子どもらしく未知への興味は強いのだろう。

 

 彼に地名を教わりながら、その国についてのページを繰って、目を輝かせる。

 

 

 

 

 それを見守る彼に、彼女は振り返ってこう言った。

 

「ねえ! いつか私も、この国々を見られるかしら!」

「そうですなあ。我が国は外交も盛んですし、姫も赴くことがあるかもしれません」

「本当!? それだったら私、とても楽しみ! 知らないものがいっぱいだもの!」

 

 まだ見ぬ世界を知りたい。

 

 そこにある、未だ知らぬ輝きを、その目で見たい。

 

 どうしてだろう。彼女の考えていることが、手に取るように俺にはわかった。

 

 どこか眩しそうにそれを見ていた彼の、剣の柄頭に乗せられた手に彼女が触れる。

 

 驚く騎士に、少女はあどけない笑顔で囁いた。

 

「その時は守ってね。私の隣で、いつものように」

 

 少し、彼は息を呑む。

 

 驚きだろうか。守ろうとしている相手からの、それができていると証明するような言葉への。

 

 けれども彼は、少し口角を上げて、自分の手を彼女の小さなそれに被せたのだ。

 

「ええ、必ず。外の国々は、()()()()()()()()()()?」

「ふふ、楽しみにしてるわ!」

 

 彼の言葉に、あれ、と思って。

 

 

 

 

 

 

 

 そこで、視界が滲んで…………夢が溶けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「──ぱい、先輩」

「んぅ……ましゅ…………?」

 

 揺り動かされ、目を覚ます。

 

 瞼を上げて、最初に見えたのはこちらを覗き込むマシュの顔だった。

 

「はい、マシュです。お目覚めですか?」

「うん……俺、寝ちゃってた?」

「はい。島での探索は相当大変でしたから、無理もありません」

「ごめん、先輩として不甲斐ないね」

「いえ、そんなことはっ」

 

 話しているうちに眠気も覚めてきて、よっと声を上げて立つ。

 

 後ろを振り返ると、そこには波打つ青い海。

 

「島から随分と離れたね」

「そうですね。もう影も形も見えません」

 

 流石はドレイク船長の船と言うべきか。半日もあればあっという間だった。

 

 夜が明けるまでは、俺も警戒して気を張っていたんだけど……そこで限界がきた。

 

 そのうち波に揺られる船に、うつらうつらとしてしまったんだ。

 

「航路は?」

「順調です。敵船も無し、例の日記に従い航行中。この調子なら、いずれは何かを見つけられるかもしれません」

「そっか」

 

 マシュの報告を聞いて、俺は甲板上に視線を巡らせる。

 

 

 

 

 先頭の辺りで、縁に腰掛ける女神エウリュアレの姿があった。

 

 ドレスの裾を海風に靡かせ、物憂げな顔で海原を見つめながら、彼女は小さく歌を口ずさむ。

 

 それが、風に乗って聞こえてくる。

 

 傍では、アステリオスが膝を抱えて、歌声に合わせ体を揺すっていた。

 

「流石はエウリュアレさん、見事な歌声ですね」

「アステリオスも元気そうでよかった」

 

 迷宮で、あれ以上傷つけなくてよかった。

 

 あどけない顔でエウリュアレの歌を聞く彼を見ていると、そう思えてくる。

 

 そんなことを考えていると、不意に後ろから肩に衝撃が走った。

 

「おわっ!」

「なーに二人とも、こんなとこでボケッと見てるんだい?」

「せ、船長!?」

「どうせなら特等席で聞こうじゃないか、ねえ?」

 

 そう言ったドレイク船長は、俺達が答える暇もなく引きずっていった。

 

 とても女の人とは思えない力で近づいていくと、彼女も気がついてこちらに振り返る。

 

 自然と歌うのも止まって、目の前に来た時は怪訝な顔になっていた。

 

「なんだい、もう終わりかい? せっかく聞きに来たってのに」

「聞いていいなんて言ってないのだけど」

「う?」

「そんな意地悪言うなよぅ」

 

 す、拗ねてる……相変わらず欲望に忠実だなぁ。

 

「はぁ……ずっとそんな顔されると面倒だから、一回だけ聞かせてあげるわよ」

「おっ、気前がいいねぇ」

「まったく……それで」

 

 エウリュアレが、こちらをもう一度見る。

 

 俺達を超えた先に向かっている視点に、三人で揃って振り向くと……

 

 そこには、静かに佇むバーサーカーがいた。

 

「あなたも観客、でいいのかしら?」

「まあ、そのようなものだ」

「ふぅん……まあいいわ」

 

 一瞬目を細め、しかし彼女はそれ以上なにかを尋ねることはなく。

 

 海を見て小さく口を開き。

 

 

 

 

 

「La——♪」

 

 

 

 

 

 また、歌い始めた。

 

 美しい。それだけが心に浮かんだ言葉だった。

 

 完璧な少女の偶像として定義された女神。その名に恥じることなく、芸術品のような歌声。

 

 歌詞はなく、具体的な意味を持つわけでもなく。ただ気ままに紡がれるだけの、繊細な旋律。

 

 そこにこれほどの美があることを、俺は生まれて初めて知ったのだ。

 

「ほぉ……こいつはいいねぇ」

「先輩、とても綺麗ですね」

「うん……」

 

 感嘆のため息を吐いたのは、きっと俺達三人全員だったと思う。

 

 それから数分ほどで、彼女の歌は終わった。そのことに名残惜しさが心を撫でる。

 

「はい、おしまい。あなた達にはこれで十分でしょ」

「素晴らしかったです、エウリュアレさん」

「すごく良かった」

「ああ! あんたらを船に乗せて正解だったよ!」

 

 思わず拍手をすると、周りからも聞こえてきた。

 

 見れば、甲板にいた全員が手を打っている。皆が聞き惚れていたようだ。

 

「ほらあんたら! いい見世物を見たんだから、ビシバシ働きな!」

「「「アイアイ、キャプテン!!」」」

 

 威勢良く答え、彼らは仕事に戻っていく。船長も指示を出しに行ってしまった。

 

 後には俺達だけが残されて、ふとまだ何も言わないバーサーカーを見た。

 

 彼はやはり、黙してその場に立っている。

 

「バーサーカー、どうだった?」

 

 彼は、少しの間そのまま沈黙していて、やがて少し顔を上げる。

 

「…………かつて、我ら不死の時代の話だ。()()()()()()()という国の祭壇に、その美しき歌声で怪物達を鎮め、眠らせた者達がいたという」

「っ!」

 

 ドラン、グレイグ……それって…………

 

「その話を、貴公らを見ていると思い出したよ」

「う?」

「……私の知らない伝承と同じにされるのは遺憾だけれど。まあ、褒め言葉として受け取っておきましょう」

「先輩、どうやらバーサーカーさんも楽しんでいらっしゃるようです。…………先輩?」

 

 ドラングレイグ……あの夢の中で、騎士が少女に説明していた国の名前……

 

 だとすれば、あれは火の時代の……? なら騎士は不死の……彼の正体は、一体──

 

「先輩? 先輩!」

「っ、え、あ、どうかした?」

「いえ、先輩がぼうっとしていたので……大丈夫ですか?」

「うん、全然平気。ちょっと考え事をしていただけだよ」

「それなら良いのですが……」

 

 心配させてしまったな。気をつけないと。

 

 とりあえず笑いかけて、なんでもないことを証明しておく。

 

「この私の歌声を聞いたんだもの。そうなってもおかしくないわね」

「……そういえば、ずっと聞き忘れていました。エウリュアレさん、貴女は誰に追いかけられていたのですか?」

 

 思い出した、といった表情で問いかけたマシュに、エウリュアレが顔を険しくした。

 

 もう、これでもかというほど苦々しい顔に、よっぽど嫌な記憶なのだと悟る。

 

「貴女、嫌なことを質問するわね……」

「申し訳ありません。ですが、懸念事項はしっかりと把握しておく必要があるんです」

「……まあ、悪気はないようだし。許してあげる」

 

 ふぅ、とため息を吐いた彼女は、海の方へ顔を向ける。

 

 そのまま、しばらく黙り込んで……やがて、とても重々しい口調で語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら。私って、可愛いじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「「……はい?」」

「だから、私って可愛いでしょう?」

「は、はぁ……それはまあ、そうですが……」

「確かに、女神様なだけはあるけど……」

「そう。可愛いし、可憐な私。だから男共に狙われるのは当然よね。だけど……」

「だけど……?」

「今回は、とびきりタチの悪いのに引っかかったみたい。ドレイクと同じ、でも正反対に妙な海賊にね」

「海賊、ですか……」

「ただの海賊ではないわ。()()()()()()()()()よ」

 

 俺が息を呑むのと、マシュが同様の反応をするのは同時だった。

 

 後ろにいたバーサーカーも身じろぎをしたのか、ガチャリと金属音が聞こえてくる。

 

 海賊のサーヴァント。それはもしかしたら、俺達が追っている敵と同一の存在かもしれない。

 

「真名は知らないわ。知りたくもないし。ただ、世界であれ以上に気持ち悪いものは滅多にいないでしょうね」

「き、気持ち悪い……?」

「ええ。あれを見たら、スキュラでさえ自分の体を見直すでしょうね」

「強いでも怖いでもなく、気持ち悪いって……」

「どんなサーヴァントなのか、見当もつきませんね……」

 

 だが、情報が入ったのはいいことだ。

 

 それが同じ敵でも、そうじゃなくても、おかしな敵だということはわかった。

 

 海賊の英霊なら船を持っていることは確実だし、気持ち悪いというのも何かの力かもしれない。

 

 用心した方が良さそうだ。

 

「私からも一つ、質問をしていいかしら?」

「何でしょうか? 答えられることでしたら良いのですが」

 

 数度目にこちらを見たエウリュアレが、片手をもたげる。

 

 そして、ほっそりとした人差し指で示したのは、またしても俺達の後方。

 

 バーサーカーだ。

 

「貴方。とてもおかしな存在よね」

「……人類史に刻まれし女神よ。私は前時代の遺物だ。そう思うのも仕方があるまい」

「そうじゃないわ」

 

 はっきりと断言した彼女は、次にこう言った。

 

 

 

 

 

「貴方──呪いにかかっているでしょう?」

 

 

 

 

 

 っ!? 

 

「バーサーカーさんが、呪いに……?」

「エウリュアレ、どういうこと?」

「あら、マスターなのに解っていないの? その男、呪いで霊基が雁字搦めになっているわよ。それも、とても強力……神々でも早々解呪できないレベルね」

 

 むしろどうして動けているのかしら? と、彼女は首をかしげる。

 

「それじゃあ本来の半分も実力を発揮できないでしょう。英霊になって格下げされた私といい勝負よ」

「バーサーカーさん、本当なのですか……?」

「もしかして、ずっとそんな状態で俺達と旅を……?」

 

 思い出した。そういえばローマでも、カエサルが似たようなことを言っていた。

 

 あの時は必死で、記憶の隅に押し流したけど……英霊にはすぐに見抜けるほどの呪い。

 

 それを、俺はマスターのくせにずっと気付けなかったのか……? 

 

 

 

 じっと、バーサーカーを見つめる。

 

 胸の中には驚きとか、悲しみとか、不甲斐なさがぐるぐると渦巻いていて。

 

 かなり混乱していると──彼は、面頬の奥で嘆息した。

 

「……神というのは、いつの時代も理不尽だな。人が隠すものを遠慮なく暴き立てる」

「あら。むしろ感謝してほしいわね。貴方、自分からそこのマスターに言うつもりはなかったでしょう」

「まあ、な。だがそれは、重責を背負う彼に、私などの事情を上乗せしない為だ」

「大した詭弁ね。神にも等しい力を持ちながら、それと一緒に人間らしい傲慢さも封じられたのかしら」

「耳の痛い話だ」

 

 かぶりを振ったバーサーカーは、先ほどとは比べ物にならない大きなため息を漏らす。

 

 そして俯くと、しばらくの間黙っていたが……やがて、俺とマシュの方を見た。

 

「女神の余計なお節介に乗じ、告白しよう。そうだマスター、私は呪いに侵されている」

「…………それは、どんなものなの?」

「大したものではない。精々が、我がソウルに収められた武具の多くを使えなくなるのみ。あれらがなくとも、君達の力にはなれるだろう」

「それは、確かに戦力的には今のバーサーカーさんでも十分以上ですが……それ以外の害はないのですか?」

「無い、と言っていいだろう。それにな、マスター。マシュ殿」

 

 バーサーカーは、その手を自分の胸に当てる。

 

 そこに宿るソウルに触れるように、彼はゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「これは、誰かから戒められたものではない。()()()()()()()()()()()呪いなのだ」

「えっ……!?」

「自分自身で!?」

 

 呪いを自らにかけるなんて、何があったんだ!? 

 

「最初は誓いだった。しかし、英霊として召喚されるにあたって逸話となり、効力を持つ呪いに昇華された。つまりは自業自得なのだよ」

「ほんと、人間って馬鹿よね。自分の首を絞めることを、好き好んでやるのだから」

「ああ、私はとても愚かだ。必要以上の力は持ちながら、己を縛ることでしか保てない……とても、英雄や神と呼ばれる器ではない」

 

 その言葉は、冬木で出会ったあの時にも聞いたもので。

 

 もし呪いが、自分に戒めた何かがその理由なのだとしたら。

 

 俺は、藤丸立香は……

 

「私は所詮、遺物以上の何者でも」

「英雄だよ」

「……マスター?」

 

 声を、張り上げる。

 

 まっすぐにバーサーカーを……そのスリットの奥にある、彼の瞳を見るつもりで。

 

「誰がなんて言おうと……たとえ、貴方自身がそうでないと言っても。俺にとってバーサーカーは、確かに英雄なんだ」

「……君は…………このような私を、そう呼ぶのか」

「何度だって呼ぶ。貴方は、英雄だ。他でもない、藤丸立香の、一番の大英雄なんだよ」

 

 

 

 思い出す。

 

 

 

 あの時、あの瞬間。

 

 

 

 目に見えた死を、打ち払ってくれた彼の後ろ姿を。

 

 

 

 あの日から、俺の思いは色褪せてはいない。

 

 

 

「……私も、そう思います」

「マシュ……」

「オルタさんを前にして挫けそうになった時、バーサーカーさんの激励が、私を奮い立たせてくれたんです」

 

 彼女はぎゅっと、胸の前で拳を握る。

 

 その手をもう一方で包み込んで、掛け替えのない思い出を抱きしめるように。

 

 心からの想いがこもった微笑みで、バーサーカーを見てくれた。

 

「私が挫折を、死を選ばずにいられたのは。今先輩の隣に居られるのは、貴方という英雄がいたからです、バーサーカーさん」

「………………」

「だから、どうか恥じないでください。貴方はどんな英傑にも見劣りしないと、マシュ・キリエライトが断言します」

 

 …………あぁ、本当に。

 

 なんて綺麗な目をしているのだろう、この()は。

 

「…………私は」

「お気が晴れましたか、灰の方」

「ルーソフィアさん」

 

 いつの間にかやってきた彼女は、柔らかく微笑む。

 

 そしてバーサーカーの手を、寄り添うように両手で包んだ。

 

「灰の方。彼らでも足りないのであれば、私が貴方の素晴らしさを語ることにいたしましょう」

「…………いいや。それは少々、気恥ずかしい」

 

 大きな手でルーソフィアさんの手を握り返し、彼は踵を返す。

 

 怒っただろうか。不安に思ったその時、彼は顔だけこちらに振り返る。

 

「見張り台に行ってくる。もし敵を見つければ、誰より早く撃滅してみせよう。貴公らの仲間として、な」

「「っ!」」

「では、失礼する」

 

 甲板を蹴り、バーサーカーはメインマストの上へと跳んでいった。

 

 俺達は顔を見合わせて、互いの笑顔を確認し合う。

 

「まったく。とんだ茶番だこと」

「みんな、なかよ、し?」

「そうね。これだから人間は」

 

 

 

 

 

 いつかの日。

 

 

 

 

 

 彼の抱える呪い(なやみ)について、話してくれるといいな。

 

 

 

 

 

 




読んでいただき、ありがとうございます。

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