灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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なんとか書き上がった…

すみません、何かと忙しくて更新が途絶え気味で…

今回は黒髭編パート3。よろしくお願いします。



黒髭惨状 3

 

 

 

 

 

 静けさ。

 

 

 

 それがこの場にあるものだった。

 

 元凶は、バカにし腐った表情をしている髭面の大男の一言。

 

 そのたった一言によって、見事に空気が凍りついたのだ。

 

「……お前、今、なんて言った?」

「だーかーらー、BBAはお呼びじゃないの! 何その無駄にデカい乳、ふざけてるの?」

 

 再度、ドレイクが聞き直しても変わらなかった。むしろ酷かった。

 

 藤丸達もぽかんと口を開けるほど呆気にとられている中、男……黒髭の口撃は止まらない。

 

「まあ、刀傷はポイント高いと思うよ? うん、それはいい。でもね、ちょっと年齢が行き過ぎてるよね。ホント」

「……………………」

「せめて属性が半分くらいなら拙者も許容範囲でござるけどねぇ。ドゥルフフフ!」

 

 何を言っているんだろう、この男は。

 

 一様に藤丸達の思考から出た疑問はそれであった。

 

 なんか現代のオタクみたいな口調だとか、笑い方が気持ち悪いとか、色々と言いたいことはある。

 

 しかし、ただ純粋に…………ドン引きしていた。

 

「……はっ!? 著しく黒髭のイメージを崩壊させる言動に意識が飛んでいました! マスター、これは現実でしょうか!?」

「うーん、残念ながらそうみたーい……」

「マスター!? 遠い目になっています!」

「姉御? 姉御ー? ……ダメだ、こっちも目が死んでる…………」

「無理もないわよね。だってアレだもの。……私、よく生き残れたわね。精神的に」

「うぅ……!」

 

 唸るアステリオスの肩の上から、ゴミを見る目で見下すエウリュアレ。

 

 彼女が喋った途端、耳聡くその声を聞きつけた黒髭は凄まじい勢いで振り向いた。

 

 

 

 

 グリン、という擬音が似合いそうな動作に藤丸らが顔を引きつらせる中、黒髭は発狂する。

 

「んほほおおおおおおおおおお! やっぱりいるじゃないですかエウリュアレちゃん! ああ、やっぱり超可愛い! 天上の女神! かわいい! kawaii! ペロペロしたいしされたい! 主にあそことかこことか!」

「うわ……」

「あ、踏んだり蹴ったりもいいよ! 素足で、ゴキブリを見る目で蔑みながら踏んでほしい! そう思うでしょう皆さん!」

 

 ウォオオオ!! と黒髭の船から多くの雄叫び。

 

 藤丸は額を手で覆い天を仰いだ。

 

 彼の中の、某映画等で培われた海賊黒髭のイメージが現在進行形で木っ端微塵にされている。

 

 現実を受け入れるには、もう少し時間がかかりそうだ。

 

《……マスター。あの、女性の尊厳を酷く貶める外道の頭を射抜いていいだろうか?》

《………………ごめんバーサーカー、もうちょっと待って》

 

 既に見張り台で大弓を構えている灰にそう返しながら、何とか目の前を見る。

 

 ハァハァと興奮している黒髭は、非常に視界に入れておきたくないものの、周囲には複数の人物がいる。

 

 大柄な女性と、小柄な少女の二人組。気怠そうな雰囲気を醸し出す、槍を持った中年の男。

 

 どちらも異様。そして、これまでの戦いで魔力や特有の存在感に慣れた直感が告げる。

 

 アレは、サーヴァントであると。

 

 

 

(黒髭を含めて、少なくとも四騎のサーヴァント……一筋縄じゃいかなそうだな)

 

 

 

 戦闘能力は無いというエウリュアレを除き、こちらのサーヴァントは四騎。

 

 マシュ、灰、アステリオス。

 

 そして清姫も既にこの場に集っている。今は霊体化し、藤丸の背後を守護していた。

 

「ウゥウウ……!」

 

 戦略を組み立てていると、不意にアステリオスが大きく威嚇の声を唸らせる。

 

 肩からエウリュアレを下ろし、背中に庇うと斧槍を構えた。

 

「アステリオス……」

「あん? なんだこのデカブツ、エウリュアレちゃん隠しやがってよぉ! 出せよー! エウリュアレ氏だーせーよー!」

「マスター、色々な意味で今のうちに撃滅しておいたほうが良いのでは……」 

「……ん?」

 

 アステリオスに騒ぎ立てていた黒髭が、ふと視線を移す。

 

 その目が向かう先は、藤丸の隣にいるマシュと、そして火防女。

 

 

 

 

 スッと、真剣な表情で目を細める黒髭。

 

 何やらただならぬ雰囲気に、マシュが藤丸や火防女を守るように大楯を顕現させる。

 

 十字の盾の間から睨みつけてくる少女に、黒髭はカッ! と目を見開いた。

 

「ンンンっ、マル!」

「…………え?」

「片目メカクレ美少女に、完全メカクレな華奢な美女! どちらもいいですなぁ!」

「…………は?」

《…………ほう?》

 

 今、何故か藤丸はイラっとした。魔力回路を通じて、灰の低い声が重なる。

 

 それに気付かず、品定めするように目を輝かせた黒髭は相も変わらずまくし立てていた。

 

「あれ? メカクレ属性なのってバーソロミューだっけか? まあどうでもいいや。それよりもそこの淑女お二人!」

「……な、何ですか」

「我々に何か?」

「お名前を聞かせるでござる! さも無いと──」

「「……さもないと?」」

「今夜、拙者は眠る時に君達の夢を見ちゃうゾ☆」

「マシュ・キリエライトと申しますデミ・サーヴァントです以上ですっ!!」

「火防女でございます。僭越ながら、我が借り身の名は彼女の尊厳を守るために慎んでお断り致します」

「マシュたんに火防女たん……二人揃って焼きマシュマロコンビ、何つって……ふひひひ…………」

《マスター。ソウルの奔流を使う許可を》

《本当に待って。俺も同じ気持ちだけど、マジで待って》

《嘘偽りがないのが余計に気色悪いですね。旦那様、焼き焦がしてもよろしくて?》

《清姫もステイ》

 

 口の端をピクピクと引きつらせながら、どうにかこうにか二人を抑える。

 

 全身を震え上がらせているマシュはポンポンと頭を撫でながら、黒髭を睨みつけておいた。

 

 だが、あの変態サーヴァントをどうしたものか。いっそ灰と清姫にゴーサインを出そうか。

 

 

 

 

 

「………………撃て」

 

 

 

 

 悩む藤丸に答えを出したのは、その一言だった。

 

 地の底から響いてきたような声に、一斉に全員の目線がそちらに向かう。

 

 その中心にいるのは──俯いたドレイクだった。

 

「あ、姉御? 今なんて?」

「大砲。ありったけ全部、ぶち込め」

「た、大砲ですかい? でも──」

 

 あまりの剣幕に狼狽していたアイパッチ船員の頭に、ガッと被さる手。

 

 ゆらり、と振り向いたドレイクは──額にいくつもの青筋を浮かべ、ニッゴリと笑った。

 

「いますぐ大砲を用意するか、あんたが弾になってあんにゃろうとキスするか。どっちか選びな」

「ヒィっ!! あ、アイアイマム!!」

 

 どうにか答えたアイパッチ船員は、解放されるや否や周囲の部下に命令を叫んだ。

 

 慌てて固まっていた船員達は船中にかけていき、大砲の準備を始める。

 

 後には藤丸達だけが残り、黒髭はドレイクを見て非常に腹の立つ表情を作った。

 

「あれ? BBAおこ? おこなの? ぷんすかしちゃってるの? 年甲斐もな──」

 

 その時、発砲音が轟いた。

 

 大砲に弾を込めていた船上の者達が一斉に見ると……ドレイクが銃を抜いている。

 

 煙の立ち上る銃口から飛び出た鉛玉は黒髭の髭をかすめ、チリチリと燃える毛先にさしもの彼も押し黙る。

 

 そんな黒髭へ、ゆっくりと顔を向けたドレイクが言い放った言葉は。

 

 

 

 

 

「────ブッ殺す」

 

 

 

 

 

 単純、かつ明快な絶許宣言であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「総員ッ! 大砲発射用意ッ!! あのクソボケを地獄の底まで叩き落とせェエエエエエッ!!!」

「「「アイアイマム!」」」

 

 にわかに船中が騒がしくなり、いよいよ開戦の火蓋が切って落とされた。

 

「あらやだ、ガチギレしちゃった」

「いやいや、そりゃあんだけ煽り倒したら誰でも怒るでしょうに」

「本当、人をイラつかせる才能だけは一級品ですわね。それだけは」

「おまけに臭いし気持ち悪いんだから、一種の才能だよね」

「酷くない? これでも拙者船長よ?」

 

 くすん、と泣き真似をする黒髭に、同船上のサーヴァント達が嫌な顔をする。

 

 しかし流石は大海賊と言うべきか、軽やかにその反応を無視すると獰猛に笑ってみせた。

 

「ブラッドアクス・キングさーん。出番でおじゃるよー」

「…………ギ、ギギギィ」

 

 ゆっくりと、甲板上に新たな影が立ち上がる。

 

 ゴールデンハインド側で臨戦体制だった藤丸達は、それを見て目を見張った。

 

 

 

 

 現れたのは、黒髭に回るとも劣らぬ巨漢。

 

 全身を分厚い筋肉の鎧で包み込み、頭に黒角を備え、血染めの大斧を携えた戦士。

 

 まるで悪鬼の如き様相の戦士は、真紅に染まった瞳でドレイク達のことを睨んだ。

 

「ちょいとBBAから、アレ奪い取ってきてねー」

「あいつは……!」

「ドレイクさん、あの方をご存知なんですか!?」

「ああ、いっつもアタシを付け狙ってきた厄介な野郎さ……!」

「っ、ヴァイキングのサーヴァント……!」

「ブラッドアクス・キング……そう呼ばれるヴァイキングは唯一、〝エイリーク血斧王〟。その獰猛さと比類なき勇猛さで名を残す九世紀頃の英霊です……!」

 

 口早に告げられた敵対サーヴァントの真名に、藤丸達は即座に身構える。

 

 同時、目の輝きを昏く増したエイリークが両足を撓ませ、一足飛びに跳躍した。

 

「血ダ、血ダ、血ダァアアアアアアアッ!!」

「敵性サーヴァント接近! これより戦闘に入ります!」

「バーサーカーっ!」

《応ッ!》

 

 空中にいる隙を逃さずに、すかさず藤丸が叫ぶ。

 

 半霊体化していた灰が完全に顕現し、既に引き絞っていた大矢を解き放った。

 

「ウォオオオオオッ!!!」

 

 唸りを上げて飛来した大矢へ機敏に反応し、エイリークが斧を薙ぎ払う。

 

 甲高い音を立てて大矢が弾かれ、代償として一瞬エイリークの動きが止まった。

 

「ふっ!」

 

 見張り台から、灰が飛び上がる。

 

 その手の内から竜狩りの大弓が消失し、代わりに大斧が出現した。

 

 分厚いエイリークの体を両断せんと、空中で回転しながらの一撃を見舞った。

 

「おおおぉっ!!」

「──()()()()()()()()()。だが、アンタがいるのは想定済みなんだよ」

 

 宙を舞う灰に、槍兵が不気味に笑う。

 

 

 

 瞬間、アン女王の復讐号より飛び出す大きな影。

 

 

 

 それは真っ直ぐに灰めがけて飛んでいき、まず藤丸達が気付いて目を見張る。

 

 次に、自分に向かってきた絶大な殺気を察知した灰がそちらへ視線を投じた。

 

「貴公は──っ!!?」

「オォオオオオオ!!!」

「ぐぅっ──!?」

 

 薙ぎ払われた影の得物。灰は大斧を盾にして受け止める。

 

 だが、凄まじい膂力を殺しきることはできずに、そのままゴールデンハインドに叩き返された。

 

 船上の大砲を一つ吹き飛ばし、ついでに船員も弾きとばしながら着弾した灰に藤丸が駆け寄った。

 

「バーサーカー! 大丈夫!?」

「…………ああ、マスター。大した痛手ではない」

 

 大砲の残骸を払いのけ、灰が立ち上がる。

 

 そのまま兜を敵船へと投じ、つられて藤丸も彼の視線の先にあるものを追いかけた。

 

 

 

 

 アン女王の復讐号の船上。

 

 そこにはマシュやドレイクの追撃を察知したエイリークが、既に舞い戻っている。

 

 そして、血斧王の隣。

 

 不敵に笑う槍兵の側で、燻んだ黄金の鎧に身を包んだ戦士がこちらを見ていた。

 

「オオォォ……!」

「アレって、まさか……!」

「……察しの通りだ、マスター」

 

 驚く藤丸に、灰は静かに告げる。

 

「《薪の王》の強大なる守護者。ただ一人デーモンの王子を撃滅せし、火の時代の英雄……〝ローリアン王子〟!」

「っ、火の時代……!」

 

 今一度、藤丸はそのサーヴァントを見る。

 

 死人のように白い、顔の下半分。それ以外の全てを鎧で包み、燃え盛る大剣を携えた王子。

 

 足を患っているのか、膝立ちで構える姿からは、しかしローマで相対したヨームに等しい力を感じる。

 

「新たな火の時代のサーヴァント! ルーソフィアさん、何か情報はありますか!」

「かの英雄は、最も火の時代の終わりに近しきもの。謳われるは無双の豪剣と……」

「それと……?」

「……いえ、今は必要な情報ではありません」

 

 何か、含むような声で話を切る火防女。

 

 マシュと藤丸が首を傾げていると、不意に灰が呟く。

 

「……おかしい。何故、()()()()()()()()()なのだ?」

「え? それってどういう……っ!?」

 

 答えを得る前に、甲板が轟音とともに揺れて藤丸はバランスを崩す。

 

 なんとか手をついて体を支え、周囲を見ると、ついに大砲が黒髭達へ発射開始されていた。

 

 至る所から船員達の怒号と、大砲が火を吹く音が轟き始める。

 

 負けじと、アン女王の復讐号からも同じように大砲が撃たれ始めていた。

 

「マスター! どうやら詳しい情報を聞くのは後にした方が良いようです!」

「みたいだね! バーサーカー、まだいける!?」

「無論。ローリアン王子が相手と言うのなら、不足はあるまい」

 

 力強く立ち上がる灰に頷き、藤丸は意識を大サーヴァント戦へと切り替えた。

 

「清姫! マシュの援護を! バーサーカーはローリアン王子が来たら迎え撃ってくれ!」

「承知しましたわ、ますたぁ!」

「承った!」

 

 顕現した清姫を加え、こちらにやってきたマシュが、灰と共に構える。

 

「てつ、だう!」

「アステリオス!」

「私も、ここであんた達が死んだらアイツに捕まりそうだから協力してあげるわ。一応、支援くらいはできるから」

「助かります!」

 

 サーヴァントとしての全戦力が集結した。

 

 皆が戦意を宿した目で睨みつけ、黒髭はニヤリと笑う。

 

「おっ、マシュちゃん達もやる気のようだねぇ。そんじゃ──心置きなく、海賊しようじゃありませんかァ!」

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●◯●

 

 

 

 

 

 

 

「ブッコロス!!」

「オォオオオッ!」

 

 最初に仕掛けたのは、エイリークとローリアンから。

 

 示し合わせたように、エイリークはドレイクへ狙いをつけて。

 

 そしてローリアンが、全くそちらを気にすることなく灰へと向かってくる。

 

「皆、そちらは頼んだ!」

「了解しました!」

「言われずともっ!」

「う、ぉおおおおっ!」

 

 混戦状態を回避する為に、灰が自らローリアンへと跳躍する。

 

 エイリークが横を掠めるように通過していき、そして再び空中で衝突した。

 

「今一度、打ち倒させてもらうっ!」

「カァアァアァアッ!」

 

 声にならない雄叫びを撒き散らし、ローリアンが両手で大剣を薙ぎ払う。

 

 二の舞になる前に灰は重心の起点を移動させ、大斧を軸に一回転して避けた。

 

 そのまま、捻りを加えた蹴りをローリアンの横面にねじ込む。

 

「ハァッ!」

「ギッ──」

 

 蹴り飛ばされたローリアンは、ゴールデンハインドの船首方向へ落下した。

 

 灰もまた、それを追いかけて落ちていく。

 

「コロ、スゥウゥウウウウ!!」

「させませんっ!」

「野蛮な輩にはご退場願いましょう!」

 

 一方で、乗り込んできたエイリークにマシュ達も真っ向から戦いあっていた。

 

 見た目にそぐわぬ剛力で振るわれる血斧を、大楯が悉く防いでいく。

 

 その壁を突破しようと夢中になっている隙に、清姫が扇子をかざした。

 

「焼失なさい!」

 

 宙に出ずる火玉。それらは弾丸のように素早くエイリークを襲う。

 

 爆炎が咲き誇るが、すぐさま炎を血斧が斬って捨てた。

 

「アツィ、ィイイイ!」

「まあっ、なんて頑丈な……!」

「清姫さん退避を!」

「ウォオオオオオッ!」

 

 標的を変え、エイリークが清姫に突撃する。

 

 が、踵を返した凶戦士が走り出す前に、その顔が拳の形に歪んだ。

 

「ぶっ、飛べ!」

「オゴァァアァアッ!?」

 

 見事な鉄拳を炸裂させたアステリオスにより、エイリークが甲板に叩きつけられる。

 

 血斧で姿勢を立て直した凶戦士はアステリオスを睨むが、何かに気付いたように上を見上げた。

 

 そこには既に、大きな顎門を開いて待ち構えていた、炎の大龍がいたのだ。

 

「今度こそ燃え尽きなさいな!」

 

 

 

 

 

 ゴォァァアアァアァアッ!! 

 

 

 

 

 

 炎龍が、激しくうねりながらエイリークに向けて落ちる。

 

 先ほどとは比べ物にならない炎の花が咲き、それを見ていたドレイクが青い顔をした。

 

「おいちょっと、清姫! あんた船を沈没させる気かい! もう少し手加減しておくれよ!」

「ご心配なく、修繕できる程度に留めます!」

「そういうことじゃあない!」

「──ウォオオオオオッ!!」

 

 問答をしているうちに、エイリークが炎を突き破って現れた。

 

 多少焦げてはいるが、やはり軽傷だ。恐るべき頑強さに藤丸は慄く。

 

「サーヴァントとはいえタフすぎないか!?」

「あの様子ですと、エイリーク血斧王のクラスはバーサーカー。狂化による能力強化の影響でしょう」

「くっ、バーサーカーならではってことか……!」

 

 己の身を顧みない凶戦士は、目的を果たすべくマシュ達に襲い掛かる。

 

 マシュが防御、その間に清姫が攻撃、という分担で応戦しているが、勢いは止まらない。

 

「コロス、ウバウ、ウバウゥウウウッ!」

「くっ! この、サーヴァントはっ! 何かを、狙って!?」

「何が目的にせよ、厄介極まりますわね!」

 

 戦況を見ながら、藤丸は思考を回転させる。

 

 二人がうまく噛み合って互角ではあるが、大きく優勢になれる決定打がない。

 

 清姫が宝具を使えば撃退が可能そうなものの、その時はゴールデンハインドが沈没するだろう。

 

 それはあまりに致命的な為、選択できない作戦だ。

 

 

 

 

 

 最も手っ取り早いのは、灰がローリアンを撃退してこちらに参戦することか。

 

 一度、マシュ達から目を離して、激しい戦闘音が響く船首の方を見る藤丸。

 

「カァァア──ッ!」

「シィッ──!」

 

 そこではやはり、超常的な戦いが繰り広げられている。

 

 目に見えぬ程のスピードで巨剣を乱舞するローリアンと、その全てを紙一重で防ぐ灰。

 

 時に武器で、時に左腕に装備した盾でいなしながら、猛烈な攻撃の合間に反撃を叩き込んでいる。

 

 だが、決着はまだまだ着くことはなさそうだ。

 

 

 

(くっ、あれじゃあすぐには難しいか……!)

 

 

 

 現状の戦力でどうにかするしかない。

 

 意識を切り替えた藤丸は、マシュ達の様子を確認しようと振り向き──

 

「戦場で余所見はいけないなぁ」

「──ッ!?」

 

 いつの間にか、背後に立っていた槍兵に息を呑んだ。

 

 不気味な笑顔を浮かべた男は、既に黄金の槍をその手に携えている。

 

 しまった、回り込まれた。

 

「んじゃ、お疲れさんカルデアのマスター。悪いけどこれも戦いなんでね」

 

 そう思ったのも束の間、男は躊躇なく槍を藤丸の心臓に突き込んだ。

 

 避けられない。せめて直撃は回避しようと体を捻ろうとするが、その速度は槍が迫るより遅い。

 

 

 

 

 

 よもや、ここでおしまいか。

 

 絶望的な考えがよぎった、まさにその瞬間。

 

 激しい激突音と共に、槍の穂先が受け止められた。

 

「…………へえ? まだ伏兵がいたとはね」

「悪いが、この少年をやらせるわけにはいかない」

 

 その女──ユリアは、見えぬ刃で男の槍と拮抗しながら涼しげに答える。

 

 ごく自然に不可視の刃へ手を添え、穂先の力の向きを外へずらすと男の首に一閃した。

 

「っと!」

 

 一瞬の差で男はそれを後ろへ躱して、そのまま飛び退く。

 

 ユリアは残心を解き、藤丸を守るようにゆるりと刀を構え直した。

 

「やれやれ、おっかない航海士がいたもんだ。バーサーカーが手こずるのも納得だね」

「お褒めに預かり光栄だ。……さて、王の契約者よ。怪我はないか?」

「ありがとうございます、ユリアさん」

「何、礼を言うほどの事でもない。貴公には王の旅路を最後まで見届けてもらうのだから」

 

 フッ、と烏面の下で笑うユリアは、非常に頼もしく思える。

 

 藤丸は頷くと、今度こそ油断しないように槍兵の男を見た。

 

「これは面倒だな。おじさん、ちょっと本気出しますかね」

「さて。それはこちらの台詞だな」

「先輩、大丈夫ですか!?」

「ああ! ユリアさんが力を貸してくれる!」

 

 ホッと安堵しながら、すぐに表情を引き締めたマシュと清姫は今も交戦中。

 

 灰とローリアンの剣戟音も止むことはなく、大砲の大合奏は終わることを知らない。

 

 それどころか、ロープを使って黒髭達の船からこちらに飛び移る海賊まで現れ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 早くも黒髭海賊団との戦いは、混戦の様相を見せ始めた。

 

 

 

 

 

 





ローリアン登場。

しかし、呪われた王子はどこに…?

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