灰よ、燃え尽きた世界に火を灯せ   作:熊0803

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今日は間に合ったー!

どうもどうも、お久しぶりです。ようやく続きを書くことが出来ました。

楽しんでいただけると嬉しいです。



【挿絵表示】


色付けしました。




撤退

 

 

 

 

 戦況は膠着状態にあった。

 

 

 

 砲撃は互いの船に少なくない損傷を与え、船員達の交戦も一進一退を繰り返している。

 

 それはサーヴァント同士の戦闘においても、同じ事が言えた。

 

「ツブレロォオオオォ!!」

「くっ、本当に頑丈ですね!」

「私が引きつけます、その間に攻撃の準備を!」

「承りましたわ!」

 

 エイリークの勢いは衰えることを知らず、あらゆる苦痛をものともせず暴れ続けている。

 

 とはいえ全くの損傷がないわけではなく、軽傷のマシュと清姫に比べて相当な痛手を負っていた。

 

 これまでの経験から、カルデア所属のサーヴァントは対バーサーカーの戦闘訓練を積んでいる。

 

 マシュは勿論、清姫もそれを受けており、猛威の狂戦士を相手取る手法も心得ていた。

 

 そう遠くないうちに、決着はつくだろう。

 

「やっちゃいなさい、アステリオス!」

「ぜんいん、たお、す!!」

 

 二人がエイリークを抑えているうちに、アステリオスらが搭乗して来た敵船員を蹴散らす。

 

 いかに黒髭の宝具の一部として顕現した海賊達といえど、伝説に名高き怪物の前では為す術もない。

 

 女神の声援を受けたアステリオスによって次々と宙を舞い、あるいは海に叩き落とされていった。

 

「うーん。邪魔ですなぁ、あのデカブツ。エウリュアレちゃん独り占めしやがって、ズールーいー!」

「気持ち悪っ……」

「大の男が地団駄を踏む様は見るに耐えませんわね。船長、ちょっと手足を縛って頭から海に落っこちてくださる?」

「ねえそれ死ねって言ってるよね? 酷くない?」

「船長がどうなろうが別に構わないけど、せめてあれが片付けば……」

 

 二人組の一方、小柄な女がゴールデンハインドの船首を見やる。

 

 

 

 

 

「〝雷の大槍〟」

「オォオオオ!」

 

 雷鳴を轟かせ、放たれた光。

 

 兄王子は雄叫びを上げ、真正面からその剣で打ち破ってみせる。

 

 それは単なる囮。剣を振り切ったローリアンの懐へ灰は潜り込み、その姿勢を支える片腕を蹴りつける。

 

 途端にバランスを崩すローリアンへ、下から竜狩りの槍を突き上げた。

 

「カァッ!」

「フンッ!」

 

 咄嗟に身をよじり、脇腹を掠めた槍へ返礼するように剣を逆袈裟斬りに振り下ろす。

 

 間一髪、槍でいなした灰は兄王子の脇をすり抜けて前転し、脱出。

 

 互いに背中を向けた二人は振り向き、油断なく得物を構えて睨み合う。

 

「……豪胆なる剣技は変わらずか、偉大なるデーモン殺しよ」

「フゥウウ……!」

 

 一進一退を繰り返し、なおも倒れぬ英雄と英雄。

 

 火の時代にて刃を交わらせ、打ち倒した兄王子は英霊となってより勇猛さを増していた。

 

 

 

(だが貴公、守るべき主君……かの王子無き今、何故(なにゆえ)賊へ与するのだ?)

 

 

 

 冴え渡る剛技から感じるのは、強い信念の力。

 

 その所以を知る故に、彼が海賊の手先となっていることが不思議でならない。

 

「しかし、それがサーヴァントというものか……ならばその呪縛から解き放とう」

「カァアアアア──ッ!」

 

 か細く、されど猛烈な叫びを合図として、火の時代の英雄達は再び刃を交わした。

 

「──へぇ。聞いてたより実物はずっと強いな、あれ」

 

 ローリアンと互角に渡り合う灰に、ランサーが笑う。

 

 刀を構えるユリアと、その背後にいる藤丸は警戒も露わに睨みつける。

 

 一見隙があるようにも見える佇まいは、しかし強烈な存在感を放っていた。

 

「早々に我らの船から立ち去ることを勧める」

「そう簡単に引き下がっちゃあ、オジサンも面目丸潰れで──ねッ!」

 

 ニヒルに笑いながら、緩やかに構え──そして殺す。

 

 高速で黄金の槍が突かれ、藤丸達に切っ先が迫るが、ぬるりとした動きで振るわれた闇朧(やみおぼろ)に巻き取られた。

 

 ユリアはその細身から発揮されたとは思えない膂力で外へずらし、そのまま首へと一閃。

 

「っとぉ! 容赦ないねぇ!」

「フッ!」

 

 黒いスカートを翻し、舞うように闇朧(やみおぼろ)を繰り出すユリア。

 

 常人であれば困惑したままに切り捨てられただろう攻撃に、ランサーは見事に合わせてきた。

 

 金槍と無の刃が衝突しあうたび、火花だけが宙に散って奇妙な光景を作り出す。

 

 透明の刃を自在に振るう教主と、完璧に対応する槍兵。双方の絶技に藤丸は圧倒された。

 

「これでもそこそこ腕には自信があったんだが、あんた本当に無名の英霊かい!?」

「我が身は英傑にあらず。ただ人を導き、王の栄光を語り継ぐのみ」

「なるほど、従者ってわけか。立派なことだッ!」

 

 軽口のように会話をしながらも、その戦いは苛烈さを増すばかり。

 

 あと少しでも激しくなってしまえば、身の安全のために藤丸は退避せざるを得ない。

 

 

 

 

 

 何もすることができないことを早々に察し、彼は戦場になった船の上を見回した。

 

 どこもかしこも、比較ができないほど激戦になっている。

 

 今の所は拮抗しているが、あちらのサーヴァントが更に出張れば戦況は予測がつかなくなるだろう。

 

「どうすれば……っ!」

『これ以上の戦闘続行は不利だ! 彼らを撒くしかない!』

「でも、どうやって!?」

『一瞬でいいから、状況を変える必要がある! 例えば、相手のサーヴァントを一人でも倒すとかね!』

 

 ロマンの指示に従い、藤丸は改めて周囲を見回した。

 

 船員同士は一進一退。黒髭の宝具なのか、無数にあちらの船上で沸くのをアステリオスが押し留めている。

 

 次に、もう一方──マシュ達と戦闘を繰り広げているエイリークの様子を確かめた。

 

「コロ、スゥウウウ!!」

「いいですわ、少し動きが鈍くなってきました!」

「このまま押し切ります!」

 

 こちらは打って変わって、優勢に傾き始めていた。

 

 状況を鑑みて、こちらが確率が高いと判断した藤丸は魔力のパスを開く。

 

《バーサーカー! 戦っているところ悪いけど、今いいかな!?》

《マスターか! 何か策があるのか!?》

 

 激しい攻防をしながらも、灰は聡く藤丸の思惑を言い当てる。

 

 彼が見ている訳ではないのに思わず頷いて、急いで作戦を伝えた。

 

《この場から離脱する! 一瞬でいいから、マシュ達の方に行ってほしい!》

《ふ、この豪傑相手に無茶を言う。だが、任せたまえ!》

 

 頼もしい返答に藤丸は安堵し、矢継ぎ早にマシュ達へパスを変更して作戦を伝えた。

 

 エイリークを抑えながも、二人は一瞬藤丸に目線を向け了承の意思を送った。

 

 

 

 

 

 全員の意思は統一された。

 

 近寄ってきた敵船員をガンドで追い返しながら、藤丸は意識の半分を灰へ向ける。

 

 英雄同士の苛烈な戦いを必死に見極め……互いが仕切り直すために手を緩めた瞬間、カウントをする。

 

《3、2、1…………今だっ!》

 

 パスを通じて発せられた、マスターの声。

 

 瞬時に聞き届けたそれに、灰は大きくローリアンへ踏み込んだ。

 

「シィッ!!」

「カァッ!!」

 

 突き出された大槍へ、ローリアンは幾度とない反撃を試みた。

 

 空気を切り裂く音、殺意が乗せられた矛先、そして直感──全てを動員し、大剣を振るう。

 

()()()()()()()

 

「猛りすぎたな、貴公」

 

 フッと、その手から大槍がソウルの中へ消えた。

 

 代わりに、右の手の中で輝きを表したのは──呪術の火の煌めき。

 

「〝大発火〟」

「っ────!!?」

 

 ローリアンの顔面の前で、大きな炎が炸裂する。

 

 それは彼の弱点ではないが……意表を突いて動きを止めさせるのには十分だった。

 

「〝放つフォース〟!!」

 

 続けて、左手の聖鈴から放たれる祈祷の力。

 

 炎に仰け反っていたローリアンは、駄目押しに放たれたそれに大きくバランスを崩した。

 

 度重なる剣戟で最初の位置からかなり後退しており、後ろへ転げ落ちる。

 

「アァアアァ──ッ!?」

 

 転落する寸前でへりを掴んだローリアンは、宙吊りの体勢で怒りの声をあげた。

 

 しかし、既にそこに灰の姿はなく、何処かとソウルの波動を追いかければ、既に遠く離れており。

 

「ブッツブスゾォオオォオオオ!!」

「そこまでにしてもらおう、血斧王」

 

 暴れまわっていたエイリークへ高速で肉薄した灰は、手元に武器を顕現。

 

 取り出された長物──幽鬼のジャベリンを、大斧を振り上げた彼へ投擲した。

 

 

 

 

 

 唸るような音を立て、剛槍が飛んでいく。

 

 灰自身がかつて凍える絵画の世界で幾度となく貫かれたそれが、エイリークの腕を穿った。

 

「ガアアァアア!!?」

「マシュ殿、今だっ!」

「はいっ!」

 

 動きを止めたエイリークへ、マシュが姿勢を低く肉薄する。

 

 十分な距離まで来た瞬間、大きく右足を踏み込み、大楯をフルスイング。

 

 己の極太の腕を刺し貫いた槍へ意識を集中していたエイリークは、なす術なく中空へ打ち上げられた。

 

「清姫さん、お願いします!」

空中(そこ)ならば遠慮はいりませんね! 承りました!」

 

 強く笑った清姫が、その体より魔力を発する。

 

 船上という場所で実力を発揮しきれなかった彼女は、大いにその宝具を解放した。

 

「〝これより、逃げたる大嘘つきを退治します〟──燃え尽きなさい、〝転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)〟!!」

 

 その身から溢れ出た炎が形を成し、龍となる。

 

 咆哮の代わりに火花を散らした炎龍は、うねりながら全身でエイリークを包み込んだ。

 

「グォオオオオオォッ!!?」

 

 逃げ場のない火攻め地獄。その超高熱の前では、狂化によって増強した堅牢さも意味がない。

 

 抵抗虚しく、骨の髄まで焼き尽くされたエイリークは、炎の消滅と共に脱力した。

 

 床の上に落下する巨体。黒焦げになり、煙をあげる姿は無残の一言に尽きた。

 

「敵性サーヴァント、大きく負傷! 戦闘の継続は困難と判断します!」

「この身を蛇としない、ギリギリまで力を出したのです。これ以上起き上がらないでくださいましよ……!」

「グ、ァ……」

 

 油断なく構えるマシュ達の前で、僅かに身じろぎしたエイリークが声を漏らす。

 

 死に体を無理やり動かし、炭化したその腕を、ドレイクへと伸ばした。

 

「コロ、ス…………セイハイ、テニ……イレ……チクショウ…………」

 

 だが、それ以上の事は何もできず。

 

 床へ腕と頭を落とし、程なくして光の粒子となって消滅した。

 

 

 

 

 

 一瞬、戦場が静寂に満たされる。

 

 誰もがエイリークのいた場所を見つめ、僅かながらも動きを止めた。

 

「エイリーク血斧王、撃破! やりました、マスター!」

 

 それを打ち破ったのは、マシュの勝利宣言。

 

 藤丸は「よしっ」と拳を握り、立役者である清姫が安堵のため息を漏らした。

 

『やった! 藤丸くん達、ナイスファイ──』

「アンタら、よくやった! いい働きだ!」

 

 ドレイクが快活に笑うと、そこでようやく各々ハッと我を取り戻した。

 

 改めて戦闘を再開するが、黒髭側の勢いは先ほどと比べ、目に見えて落ちている。

 

「チャンスだ! 敵を蹴散らせ、帆を開け! 離脱するよ!」

「「「アイアイサー!」」」

 

 大部分の船員が士気の落ちた敵を押し留め、幾人かが舵取りに向かう。

 

 一気に状況が好転し、手の空いたマシュ達も参戦するとみるみるうちに敵船員は撃破されていった。

 

『……なんだかタイミングを取られたような気がするよ』

「ドクター、何ブツブツ言ってるんですか?」

『な、なんでもない! だが、作戦は大成功だ! 藤丸くんもあと少し頑張ってくれ!』

「はい!」

 

 藤丸も気を取り直し、マシュ達の援護に向かうのだった。

 

 

 

 

 

「むう、バーサーカーが負けたか。だがっ! エイリーク血斧王など我ら黒髭海賊団の中では最も格下! いい気に──」

「いい加減に黙りたまえ、海賊」

「フォウッ!?」

 

 アン女王の復讐号で胸を張っていた黒髭が、灰の投擲した雷の槍で黙らされる。

 

 髭の一部に擦り、チリチリと燻っているのを見て冷や汗を流した。

 

「やっべ、あの騎士めっちゃ怖。おたく冗談通じないタイプ?」

「軽口の類は大いに結構だが、あいにくと相手によるものでね」

「ぐぬぬ、イケメンムーブかましやがって。どうせその兜の下も整ってんだろあぁん!?」

「何に憤っているのだ、貴公は」

 

 野次を飛ばしてくる黒髭に、灰は船員を蹴散らしつつ呆れのため息をついた。

 

 なんとも気の抜けた会話だが、戦況は着々と撤退に向けて動き出していた。

 

「そら、こいつで……最後っ!」

 

 先ほどから船の間にかかった縄を排除していたドレイクが、最後の一本を撃ち切る。

 

 互いに向けて若干傾いていた船同士が元に戻り、大きく揺れた。

 

「っと。ふぅん、さすがフランシス・ドレイク。銃の腕前は私と互角みたい」

「どうする、アン?」

「そうですわね……状況的に、今更参戦したところであの騎士様の相手をすることになりそうですわ」

「この状況でそれは勘弁願いたいね」

「ですが、次こそは……」

「僕達の銃弾が、剣が、獲物を捕らえる。だね?」

「うふふっ♪」

 

 二人の海賊が、アン女王の復讐号の上で妖しく笑った。

 

 

 

 

 

 彼女達の読み通り、ゴールデン・ハインドの撤退準備は整いつつある。

 

 船上の敵は殆どが排除され、後は離脱するのみという段階まで来ていた。

 

「っと。ここらが潮時みたいだね」

 

 ユリアと鎬を削りあっていたランサーも、その空気を敏感に察する。

 

 構えを解いて槍を肩に担いだ彼は、彼女に向けて気の抜けた笑みを向けた。

 

「ってことで、勝負は次にお預けでいいかい? 教主のお嬢さん」

「……そちらが手を引くのなら、こちらも刃を納めることにしよう」

 

 闇朧を納めたユリアは、戦意を消していつものように胸の下で腕を組む。

 

 一瞬で戦士としての気配を消した彼女に、ランサーはキョトンとした後にまた笑った。

 

「本当に、読めないねえ。アンタ、本当のところは一体何なんだい?」

「答えたはずだよ。私は教主ユリア。人を導き、また偉大なる我が王の教えを伝え説く者。だが……」

 

 烏面の奥で、彼女は目を細める。

 

「再び相見えた時、王や、王の契約者を脅かすのであれば。私は再び、この刃を振るうことだろう」

「……肝に銘じておくよ」

 

 どこか不透明な笑顔のまま、ランサーはアン女王の復讐号へと跳び去っていった。

 

 その姿を見送るように目で追いかけて、それからユリアは「さて」と呟く。

 

「戦況は覆った。後はどうする? 我が王の契約者、そして偉大なる航海者よ」

 

 試すように、教主は呟いた。

 

 

 

 

 

「ようし、面舵一杯! あのクソッタレから逃げるよ!」

「「「アイアイ、キャプテン!」」」

 

 完全に船を動かせる状態になったことで、ドレイクが号令をかける。

 

 慌ただしく配置についた海賊達は、各々の仕事を全力でこなした。

 

 何か手伝えることはと彼らを見ていた藤丸は、自分に走り寄ってくる者達に気付く。

 

「マスター、ご無事ですか!」

「旦那様、お怪我はありませんこと!?」

「マシュ、清姫! さっきはすごかったよ!」

「藤丸様も、軽傷なようで何よりです」

「ルーソフィアさん。大丈夫でしたか?」

「はい、問題ございません」

 

 三人の様子をそれぞれ確認して、ほっと藤丸は安堵する。

 

 この中で一番身の危険があるのは自分だと分かってはいるものの、心配しないはずがない。

 

 互いの無事を喜び合っている彼らを見て、少し離れた場所にいた灰も面頬の下で微かな笑みを浮かべた。

 

「これで何事もなければ、あとは……」

「カァア──ッ!」

「っ!」

 

 背後から聞こえた声に、咄嗟に武器を構えて振り返る。

 

 すると、船首にぶら下がっていたローリアンがようやく這い上がってくる所だった。

 

「今しばらく時間を稼げると思ったが、やはり駄目か……!」

「オォオオオ……!」

 

 王子が上半身をデッキに押し付け、いよいよ膝を縁にかけようかという、その時。

 

「う、ぉおおおおおっ!!」

「っ、アステリオス殿!?」

 

 灰が動き出すより早く、その隣をアステリオスが突き抜けていった。

 

 その肩からエウリュアレを下ろし、身軽になった彼は、雄叫びをあげて突撃する。

 

 そして、ローリアンに勝るとも劣らない全身を使い、渾身のタックルを決めて海へ飛び出した。

 

「おち、ろぉおおおおおおお!」

「ク、ァァアァア──ッ!?」

 

 二つの巨躯が、へりの向こうへと消えていく。

 

 

 

 程なくして、ぼちゃんと大きな音が下の方で鳴った。

 

 

 

 灰だけでなく、藤丸達や置き去りにされたエウリュアレもが呆気に取られる。

 

 が、すぐに我を取り戻すと全員がアステリオス達の消えた場所へ走り寄った。

 

「アステリオスっ!」

「アステリオスさんっ!」

「ああもう、いっつも猪突猛進なんだから!」

 

 船首へ到着するや否や、互いに競い合うようにして身を乗り出す。

 

 そして──大砲の一つに手をかけてぶら下がっているアステリオスを見つけ、ほっとした。

 

 彼が見下ろしている海面には、大きな波紋が浮かんでいる。どうやらローリアンは沈んだらしい。

 

「び、びっくりしました……」

「まったく、殿方というのは時にどうしてこう……」

「おーい、アステリオスー!」

「う」

 

 大きく腕を振る藤丸の声に反応して、顔を上げたアステリオスも空いた手を上げる。

 

 その表情のなんとも自然な様子に、なんだか気の抜ける思いがした。

 

 彼らがそうしているうちに、全力で帆を張ったゴールデン・ハインドはその場から離れていく。

 

 みるみるうちに巨大な帆船は遠ざかっていき、黒髭達に見送られる形となっていた。

 

「フォオォオオオ! 待つでおじゃる! BBAはいいけど、エウリュアレ氏と聖杯は置いていってくだちゃい!」

 

 この期に及んでふざけた言い回しをする黒髭に、ドレイクはギリっと歯軋りをする。

 

「黒髭とか言ったな、あの野郎。次に会った時は、必ず、何があろうと! 何が何でも!! あの首叩き落として、船首に括り付けてやるからなぁ────!」

 

 

 

 

 

 

 

 ドレイクの叫びが、大海原へと木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





読んでいただき、ありがとうございます。

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