冬至を少し過ぎたこの時期、日が落ちるのは早い。故郷に着いた直後はまだ明るかったと言うのに、黄昏の風景が闇に飲まれるまであっという間であった。
久世の宮まで足を運んだ要だったが、来るもの全てを拒む要塞のような外壁と閉ざされた重厚な門を目にし、中へ入る為にはどうしたらよいかと思考を巡らせていた。
見張りであろうか、門の前には久世特有の装束を纏った人間が二名立っている。接触するのは容易いが、素直に事情を説明して通して貰えるとは思えなかった。まず巫女と零華の関係を聞いた所で、頑なに儀式を表出させる事のない久世が真実を語るはずはない。確証がない以上、言質を取るのは諦めた方が良い事は明白だった。せめて故郷についてだけでも知りたかったが、一度交渉が決裂してしまえば来訪者への警戒心は強まり、以降巫女との対面は困難を極めるだろう。
正攻法は不可能である。だからせめて門が開く一瞬の隙があればと、要は近くから様子を伺っていた。
しかし、その機会は一向に訪れる気配はない。日を改めて久世の情報を集め、用意周到に立ち回るといった手段もあるが、あの故郷の惨状と巫女の夢を見た要にそんな冷静さは露ほども存在していなかった。
早い人間はもう就寝し出す時間帯だ。それでも要は頑として待ち続けた。そうして一刻が過ぎようとした頃、ようやく要の願いが通じたのか、殆ど会話もなく突っ立っているばかりだった見張りが互いの顔を合わせた。そして振り返った一人が大きな声を上げると、ゆっくりと門は開かれていった。
機はようやく巡ってきた。いつかこうなる事を要は見越していた。開門の理由は分からないが人間である以上、その活動には限界がある。食事や用を足すなど、必ず見張り達が動く瞬間があるだろうと、虎視眈々と狙い定めていたのだ。
要は音を殺し、門を潜る見張りの後を追う。夜とはいえ、すぐ内側に誰かが控えていたならさすがに見つかって一貫の終わりだ。だが、おそらくもうここしか突破口はない。二つの背に張り付きながら見張りの視界を上手く避け、すぐさま目に入った民家の影まで静かに走り去る。幸いな事に門を開けた者は見張りと共に場を離れ、他に内側で待機する者もいなかったようだ。
後は巫女の所在を探すだけである。やはりあの奥深くに佇む社からの探索が懸命であろう。そこに巫女がいなくとも、久世がひた隠す儀式について何かと知識を得られるはずだ。明方まで時間は限られていることを考えれば、無駄な行動は出来ない。
要は懐にしまっていた耳飾りを取り出し、手の平に乗せる。きっとこれが零華の元へ導いてくれるはずだと、あの日の約束を思い出していた。