零 -刺青ノ聲-   作:柊@

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導魂(ドウコン)刻印(コクイン) 五ノ刻

 

 雨音に社内の隠し通路の前まで導かれ、そこから要は松明を片手に一人で奈落の底にある棘獄に降り立った。気が遠くなるほどの足場を下った先に待ち受けていた禁断の扉。こんな最果てに封印しなければならない柊というものは、世にどれだけの脅威をもたらすのであろうか。

 

 「約束はお守りください。なるべく早くお戻り願います」

 

 要は雨音から零華と会わせる上での条件をきつく言い渡されていた。零華には近寄らず、別れの挨拶が済んだらすぐに雨音が待つ先程の茂みまで帰ってくる事。その際、人に見つからない様細心の注意を払う事。そして、儀式の全貌を含め、この事を決して世に公言しない事、だ。

 

 雨音は、とにかく要を社内へ招き入れてしまった事に酷く怯えていた。もしも当主にばれてしまったら、どちらも流されてしまうと言う。要は最初意味が分からなかったので聞き返したが、それは儀式に背いた者に課せられる重い処罰の事のようで、内容は受ける者の立場や状況によって様々なようだった。雨音は明確には表さなかったが、例に上げられたそのどれもが命に関わる程の制裁だ。どうやら久世において流すという言葉は、世間一般でいう所の殺す、あるいは死刑、の隠語らしい。だから雨音は掟を破った共犯者である要に約束を強要し、必死に念を押すのだ。 

 

 ……しかし、要は表向きにはその条件に肯定を示したものの、約束を守るつもりはさらさらなかった。瀕死の零華を目の前にして黙って見過ごせるはずがない。

 

(死なせるものか。ここから連れ出し、今度こそ二人で……)

 

 ただ、雨音を裏切り見捨てることもしない。当然だ。どんなに拒もうと、雨音には一緒にここを離れて貰う。要は久世の掟について知った時から、そうすると決めていた。生まれ育った故郷や母親を雨音から一方的に奪ってしまう形になるが、その判断が間違っているとは思えない。間違っているのは生殺与奪を思いのままにし、そんな選択を迫らせる久世であるのだ。

 

 正義の誓いを胸に、要は棘獄の扉の前に立つ。近づく度に、心を根こそぎ掻っ攫われてしまいそうな感覚に陥ってゆく。正気を保つのも中々に難しかった。久世のやり方には理解は示せないが、確かに柊というのは何らかの対処をしなければならない代物ではあると要は感じた。

 

 固唾を飲み込み、勇気を出して要は扉に手をかける。扉が僅かに開き、中から吐き気を催す程の腐臭が漏れ出してきた。

 

 無論、それは過去の巫女の亡骸から放たれているのだろう。そう分かっていてもその強烈な匂いは要に零華の死を連想させる。躊躇っていたはずの要は思い浮かんだ零華の死に顔に戦慄を覚え、本能的に勢いよく扉を開け放った。

 

 

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