高く掲げた松明の光が無情に照らす屍の数々。それらは手前から奥に行くに連れて、徐々に人の形を失っていく。歳月を経たばらばらの白骨がまだましに思えるほどに、近間の溶けた肉を中途半端に残した遺体は凄惨そのものである。
……これが、久世の儀式。どんな理由があれ、こんな事は許されることではない。世をはばかり、秘密裏に積み重ねられる無慈悲な犠牲者達の姿に、要は行き場の無い憤りを覚えた。
片目をしかめ、己の口鼻を片手で覆った要は、前方に明かりを向け零華を探す。背格好の似た女性の変わり果てた姿を目にする度に、激しく気が動転しそうになる。顔の造形が無残にも崩れ、表情を伺えない事が拍車をかけていた。しかし、冷静に考えれば、こんなに腐敗が進んでいるはずがない。零華がここに閉じ込められてからまだ数日しか経っていないのだ。
不幸中の幸いというべきか、手遅れのほんの一歩手前で間に合えた。この機会は偶然の産物か、はたまた人知の及ばぬ何かの手引きか。この世は理路整然としているようで、稀に不可思議な事が起こる。……帰郷へと思い立ったあの夢。まるで定められた運命のようだった。きっと目に見える物だけが全てではないのだろう。唐突に与えられた庇護の神秘に、要の胸が熱くなってゆく。
とにかく、衰弱はしているだろうが、少なくとも痛ましい身体ではないはずだ。そうして要はさらに奥へと進んだ。
比較的儀式の痕跡の少ない方に向かいながら、巫女達の顔を丁寧に確認する。真新しさを残したそれらを拝み、おそらくこの辺だと要は直感し足を止めた。
と、その場でゆっくりと見渡していた要の動きがふいに固まる。旅立つ時にはなかった刺青と、痩せこけた身体。しかし、まぎれもなくそれは要の想い人の姿であった。
「零華……、なのか」
呼びかけに返事もなく、表情も変わらない。が、僅かに零華の瞳が動き、こちらに焦点を合わせた。
「やっと会えた」
生きていてくれた事への安堵と共に、率直な気持ちが口から勝手に零れる。そして、すぐに要は己の後悔と不甲斐なさを零華に語った。どうしてもいち早く伝えたかったのだ。だがその間、零華は反応を一切示さない。我に返り、要は首を振った。言い訳なら後でどうとでもなる。零華の為にも、今は即刻ここを脱出しなければならなかった。
「とりあえず話は後にしよう。安心してほしい。僕はもうどこへも行ったりはしないから」
やはり、零華の返答はない。急がなければ。不安に駆られ、要はもう一度零華の名前を呼びながら零華に近づいていく。すると、心なしか零華が小さく笑ったような気がした。……そんな一筋の希望の光が差した瞬間であった。
―――からん。
突然、駆け寄ろうとした要を追い越す様に、後方から何かが転がってくる。音からして生き物ではなかった。小石に思えたが、そもそもなぜ勝手に動いたのか。そんなはずはないが、自らの意思で視界に飛び込んできたようにすら感じられる。咄嗟の事で、要の頭は混乱していた。
何度か地面に打ち付けられた後、その小さな影は身を晒し、意外な正体を現したのだ。