最近雨音の顔を見る機会が減っていた。たまに会っても、どこか思いつめた目つきをしてすぐに口を閉ざしてしまう。普段から大人しく感情を外に出さない性格で、周りには大人びていてしっかりしている子だと言われるが、本当は気弱な時雨と同じくらい脆い一面があることを鏡華は知っている。日に日にやつれてゆく姿を見続けて、あまつにはその弱った身体に自ら杭を打たなければならない。おそらくそのことで雨音は心を痛めているが、わざと何ともない素振りをして誤魔化している。悲しい時に心で泣くのは当主の血の定めなのだ。
……きっと零華への情を必死に押し隠しているのでしょう。
子の気持ちに気づけない鏡華ではなかった。いくら聞き分けが良いといっても、まだ雨音は子供だ。そんな迷いを抱えたまま巫女に接していて大丈夫だろうかと鏡華は心配に思う。
即今、久世の宮内では刺青の巫女を鎮める戒の儀の準備が始まっている。何度も見てきた光景だったが、その度に鏡華はよそごとのように傍観してやり過ごしてきた。どの道が正しかったのかは今でも分からない。当主として与えられた使命に向き合うべきだったのか。人を捨てず、立場に背いてきた自分は間違っていたのか。ただ、一つだけ確かに言えることがあった。……それは、同じ過ちを繰り返してはならないと言う事だ。
鏡華は秋人の死を知ってから、本当の意味で己と向き合わなければならなかった。約束の時を待ちわび続け、それが叶わぬものだと知った瞬間、鏡華は底知れぬ闇に飲まれてしまった。唯一の支えを失い、放心で何も考えられず、鏡華は暫くの間現実を受け入れられずにいた。そしてふと途切れた思考が追い付いた時、死に別れの実感が伴い鏡華は激しく悲嘆した。そこから悲しみを助長する聲がどんどんと鏡華の内に膨れ上がっていったのだ。やがて自我をも見失い、己の思考が完全に柊に支配されそうになった時、鏡華は生きる事を諦めてしまった。……しかし、寸での所で引き留める存在があったのだ。
数奇な縁だ。この出会いが無ければ、きっと今回も見送ってしまっていただろう。
鏡華には零華が己に重なって見えていた。想い人と一緒に居たい。ただそれだけの儚い願いを、残酷な運命に引き裂かれてしまった不憫な少女。秋人を失った鏡華にはどうしてもそれが他人事には思えなかった。
このままでは要を同じ目に遭わせてしまう。秋人の忘れ形見が、鏡華を突き動かす。もう一人の血を分けた我が子の為に、鏡華は腹を据えゆっくりと筆を取った。