「死んだと思っていたものが、生き返ったのだ」

「子牛を屠り祝うのは当たり前ではないか」

- 『新約聖書』ルカによる福音書の15章「放蕩息子」より -

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 あるところに男がいた。多くの財産があり、2人の息子がいた。

 弟は父に「自分のものとなる予定の財産をほしい」といい、父はこれに応じた。

 弟は放蕩の末、考えられるすべての悪徳を楽しんだ結果、財産を全て使い果たした。

 ついに飢饉の時、着るものはおろか、その日の食べ物にすら困る有様となった。

 異教徒の元に身を寄せたが、豚の餌ですら恵んでもらえない境遇であることに変わりはなかった。

 弟はそこで我に返った。

 弟は数年ぶりに父の元へと訪れ、父にこれまでの行いを謝罪した上で懺悔した。

「私は罪を犯しました。彼方の息子と呼ばれる資格はありません」

 父は放蕩息子の帰還を大いに喜んだ。

「一番よい服を着せておやり、一番よい靴を履かせておやり、一番よい指輪をあげておやり」

「肥えた子牛を屠って祝おうではないか」

「さぁ、家におあがり」

 これを聞いた兄が怒った。

「お父さん。私はこの数年、一度も言いつけに背かず貴方に仕えました」

「しかしお父さんは、私のために子牛一つくれたことはありませんでした」

「だというのに、何故あのような不孝者が帰ったからといって、そこまでするのですか」

 父は兄へと語った。

「子よ。お前は私と常にともにある。そして私のものは、何れは全てお前のものになるだろう」

「だがあの弟は死人であった」

「死んだと思っていたものが、生き返ったのだ」

「子牛を屠り祝うのは当たり前ではないか」

- 『新約聖書』ルカによる福音書の15章「放蕩息子」より -


放蕩娘

【PART 1  気前のよいOB】

 

 学園艦は古代ローマに起源を持つとされる、洋上における教育システムである。

 

 国家や組織の次世代を担う候補者に、共通の体験を通じた帰属意識を育てることに狙いがあったとされ、その対象も一部の貴族や有産階級の子弟を対象としたエリート教育であった。

 

 大航海時代において造船技術が飛躍的に発達したことから、船舶をいくつか合体させた巨大洋上艦が作られるようになると、教育機関だけではなく都市機能も有するようになった。

 

 フランス革命と一連の大戦争を経て、高等教育がより多くの階級へと開放されるようになると、巨大洋上艦は学園艦と呼称されるようになり、その規模と数を拡大させた。

 

 明治維新以降、西欧の教育システムを導入した日本であったが、建艦技術が未発達であったことや、海洋国家であるために戦艦や商船が優先された。

 

 そのため学園艦の導入は、一部の私立を除いて長らく見送られることになる。

 

 

 日本の公共教育において本格的に学園艦の導入が検討され始めたのは、第2次世界大戦以降である。

 

 教育の民主化が叫ばれる中、引き上げてきた大量の居留民の受け入れ先確保、大和型や空母建艦で培われた造船技術の蓄積、軍事技術の民間への転用解禁等々、さまざまな要因と需要が合致した結果である。 

 

 また日本以外の西側諸国も、大学を除く公立の高等教育機関を積極的に学園艦へと移行させていたことも、この動きを後押しした。

 

 各国は戦後のベビーブームにより増加した若年人口の増加や、過激化する学生運動に頭を悩ませており、すでに深刻化していた大学紛争が、公立の高等教育機関に波及することを警戒していた。

 

 ともかく「生徒の独立性と自主性を養う」という名目で、過激活動家の学園艦外からの流入と再生産を阻止する狙いは成功した。

 

 この巨大プロジェクトの需要は、西側諸国における経済成長を支える大きな柱となった。

 

 日本においてもそれは同様であり、今太閤と呼ばれた日本の総理は、その著作である『日本列島改造計画』においてわざわざ1章を使い、全ての公教育機関の学園艦への移転構想を高らかに主張した。

 

 

 これに冷や水を浴びせたのが、第1次石油ショックである。

 

 要需要抑制策の一環として、学園艦への移行計画は一時凍結された。

 

 ところが80年代からの財政再建の流れに逆行して、列島改造計画の著者である元総理が闇将軍として復活するのと軌を一にするかのように、この巨大公共事業は突如として蘇った。

 

 私学助成金の大幅な条件規制緩和もあり、私学の間でも学園艦への移行が相次いだのだ。

 

 政界や財界、各省庁の管轄をめぐる綱引きや、文科省内における旧文部省と旧科学技術庁系の派閥争い、海上自衛隊、海上保安庁、あるいは各学園艦を通じて日本国内における影響力を強めたい外国勢力の暗躍等々……

 

 様々な勢力の思惑が絡み合いながら、バブル崩壊まで増加を続けた日本の学園艦は、国際色豊かという建前とは裏腹に、いつしか誰にも手の付けられない巨大な聖域と化した。

 

 かの闇将軍の娘が、文部科学大臣として「学園艦は伏魔殿」であると記者会見で述べたのは、歴史の皮肉であろうか?

 

 ともあれ現在、学園艦を統括する文部科学省学園艦教育局にとって、老朽化の進む各学園艦の財政問題は頭の痛い問題であることに変わりはない。

 

 先日話題となった大洗女子学園の廃校問題は、氷山の一角といえよう-

 

***

 

- ジャパン・愛知県名古屋港 継続高校学園艦内 来客用応接室 -

 

継続教師「いやぁ、今回の御支援の申し入れには、感謝の言葉の申し上げようもありません」

 

継続教頭「本校と、戦車道関係者一同を代表して、御礼申し上げます」

 

継続OB「いやいや」

 

継続教頭「OBの先生なら御承知のことかと思いますが、我が校は手元不如意な状況が続いておりまして、戦車道に支給可能な予算も限られております。かといって切るわけにもいかない。なまじ歴史と伝統があるが故の悩みです」

 

継続教師「お恥ずかしい話、演習用の燃料にすら事欠く有様。戦車倉庫に屋根さえつけてやれない状況です。履修する生徒達には苦労をかけております」

 

継続教頭「やはり札束で殴りあう武道は、我らのような貧乏学園艦には、いささか荷が重いのかとも……」

 

継続教師「……教頭」

 

継続教頭「おっと、これは失言でした。どうか気を悪くなされないでください」

 

継続OB「私も卒業生ですからね。その気持ちはわかります」

 

継続教頭「そう言っていただけると私としても助かります」

 

継続OB「大学選抜における活躍は私もTV中継で見させて頂きました。単騎で質も数も上回る選抜チームと渡り合った姿は、卒業生として実に誇らしい気持ちになりましたよ」

 

継続教師「戦車道履修者が聞けば喜ぶでしょう」

 

継続OB「今回、学園艦がこちらに寄港すると聞き、少しでも貢献させてもらいたいと思った次第です。些少ではありますが、少しでもお役に立てればと思いまして」

 

継続教頭「御謙遜を。燃料に演習用の砲弾、戦車まで提供していただけるとか。関係者一同、恐縮しております」

 

継続OB「……ところで、その彼女たちの姿が見えないようですが」

 

継続教頭「い、いや、そのですな」チラッ

 

継続教師「実は、その……本日先んじて到着していました燃料を使い、さっそく野外演習をするということで」

 

継続教頭「支援の御礼を申し上げてからにしろと注意したのですが、風がどうとか理屈をこねましてな」

 

継続教師「なまじ予算で苦労をかけているがゆえに、こちらとしてもあまり強くはいえないのです。御不快な思いをおかけして、誠に申し訳ありません」ペコペコ

 

継続OB「はははっ、構いませんよ。私としては早速役立てていただけるのなら、それに越したことはありません。彼女達に会うことが楽しみだったので、多少は残念ではありますが」

 

継続教頭「あの風来坊……失礼、夕方に戦車の組み立てが完了する時刻までには戻ってくると思うのですが……」

 

継続教師「まったく困ったものだ」

 

継続OB「いやいや、何物にも縛られず何物もおそれない。ただ我が信じた道をゆくのみ。それでこそ継続高校というものですよ」

 

継続教頭「そう言って頂けますと、こちらとしても安心致します」

 

継続教師「ところで、何ゆえ戦車は部品のまま学園艦に持ち込まれたのですか?」

 

継続OB「お恥ずかしい話ですが、そのほうが部品扱いで関税が安いんですよ。輸入手続きも完成品を持ち込むよりも簡単ですしね」

 

継続教頭「なるほど」

 

継続OB「ところで私、実は全国大会の壮行会で顔合わせだけはしたことがあるんですよ。あの子でしょう?チューリップハットの、会場の片隅でカンテレを延々と弾いていた……」

 

継続教師「御存知ならば話は早い」

 

継続教頭「札付きの変わり者ですが、腕は確かです。その点だけは認めざるを得ませんな」

 

 

【PART 2 継続高校戦車道の紅白戦】

 

- 継続高校 戦車道第2野外演習場 -

 

アキ「ミカ」

 

ミカ「なんだいアキ?お腹が空いたのかい?」

 

アキ「それはミカでしょ!そんなことよりさ。いいの?こんなところで焚き火なんかしてても」

 

ミカ「アキは焚き火は嫌いかい?」ポロロン

 

アキ「いや、気分とか風とかじゃなくてさ。援助をしてくれたOBの人が来るから早く戻ってこいって、先生にも言われてたじゃない」

 

ミカ「風がね……」

 

アキ「その都合が悪くなったら、風を持ち出して誤魔化すの止めない?」

 

ミカ「……」ポロローン

 

アキ「カンテレも」

 

ミカ「そんなひねくれたことを言う子には、この焚き火で炙ったマシュマロはあげないよ」

 

アキ「あ!それとっておきのやつ!隠しておいたのに、どうやって見つけたの!」

 

ミカ「この子達が私に食べて欲しいと語りかけてきたんだよ」

 

アキ「そんなわけないでしょ!」

 

ミカ「……食べないのなら私が」

 

アキ「食べるよ!」

 

ミッコ「お、やっぱり炙ったマシュマロはうめーな!」モグモグ

 

アキ「どこから出てきたの!?」

 

ミッコ「最初からいたよ」モグモグ

 

ミカ「ほら、そんなに眉間にしわを寄せてちゃ、アキの可愛い顔が台無しだよ?」モグモグ

 

アキ「誰のせいだと思ってるの!」モグモグ

 

ミカ「……風、かな?」ポロン?

 

アキ「怒るよ」

 

ミッコ「でもさーミカ、どうしてわざわざ相手が来る時間に、紅白戦をぶつけたんだよ」

 

ミカ「ミッコもあの子(クリスティ突撃砲)を思う存分動かしてみたいと言っていたじゃないか」

 

ミッコ「それはいいんだけどさ。せっかく燃料や砲弾をただでくれるっていうんだからさ。それに戦車まで。これだけ気前のいい支援者なんて、なかなかいないぜ」

 

アキ「ちゃんとお礼を言っておけば、これからも定期的に援助してもらえるかもしれないのに」

 

ミカ「あのね2人とも。この世にはね、タダより高いものはないんだよ」

 

ミッコ「演習用の燃料すら十分じゃないのに、そんなこと言われてもさ」

 

アキ「私もう嫌だよ?プラウダの警備隊に追いかけられながら燃料を借りに行くの」

 

ミカ「簡単に手に入るものは、それだけの価値しかないものかもしれないよ?今は苦しくても、いつかは良い思い出になるものさ」

 

アキ「どっかの誰かさんが隠れてるのにカンテレ弾かなきゃ、見つからなかったんだけどね!」

 

ミカ「……」ポロローン

 

ミッコ「反省してねぇ!」

 

 

 

ミカ「……どうやら紅白戦の決着がついたようだね」ポロロン!

 

アキ「みたいだね……この話の続きはあとでするからね!」

 

ミッコ「うーん、やっぱり全体的に動きが鈍いかな。あとレギュラー連中と補欠連中とは、腕の差というよりも、実際に戦車を動かした時間の差が出てるなぁ」

 

アキ「装填や通信は個別に練習出来ても、実際に乗って動かすとなると違うからね。それに配置転換をしたばかりだし」

 

ミッコ「だから今のうちに基礎叩き込んでおきたいんだけど、その肝心の油がないんだよな」

 

ミッコ「……で?どっかの誰かさんは、そこのところをどう考えてんの?」

 

ミカ「焦っても仕方ないさ。今、私達に出来ることをやるだけだよ」ポロロン

 

アキ「……お願いだから、夕方の戦車受領にはちゃんと出席してね」

 

ミカ「考えておくさ」

 

ミカ「ミッコは白組の、アキは紅組を頼むよ。それぞれ気になった点があれば個別に指導してあげて」

 

ミカ「16時から第3格納庫で全体ミーティングと紅白戦の講評、終了後は小隊長と各車長を交えての反省会と行こうか」

 

ミッコ「あいよー」

 

アキ「ミカはどうするの?」

 

ミカ「待つのも私の仕事さ。放任主義を気取るわけじゃないが、箸の上げ下ろしまで口を出すことが良いことだとは思えないしね」

 

ミッコ「はいはい。確かにいつまでもミカ頼りじゃね」

 

アキ「それはそうなんだけど。なんだか釈然としないんだけど!」

 

ミカ「期待しているよ、お2人さん」ポロローン

 

 

【PART 3 カンテレを弾く少女】

 

ミカ「……」ポン、ポン、ポン

 

ミカ「(タダより高いものはないか)」

 

ミカ「(この違和感をはっきりと口に出せるほど素直な性格なら、私は今ここにいないんだろうね)」

ズンチャズンチャズンチャズンチャチャッチャ♪

 

ミカ「(最も、その厄介な性格のおかげでアキやミッコと出会うことが出来た)」

チャンラランランランランラン♪

 

ミカ「(その点では、このひねくれた性格に感謝するべきなのかもね)」

 

ミカ「(恥ずかしいから言わないけど)」

チャンチャランランランランラン♪

 

ミカ「(ダージリンなら、こんな時に何というのだろう)」

 

ミカ「(……たしかにミッコやアキの不満もわかるけどね)」

チャンラランランランランラン♪

 

ミカ「(プラウダの『御好意』にいつまでも甘えるわけにはいかない)」

 

ミカ「(カチューシャはあれでお人好しのところがあるから、やり過ぎない範囲で黙認してくれてはいるが)」

チャンチャランランランランラン♪

 

ミカ「(やれやれ、縛られることがいやだから風にこの身を任せたというのに。結局は家でやっていた事と大差がないとはね)」

 

ミカ「(むしろ金の苦労がなかっただけ、家のほうが楽だったかもしれない)」

チャンチャランランランランラン♪

 

ミカ「(その苦労が嫌というわけじゃないんだけどね……ん?)」

チャラララララララ...

 

 

 

ミカ「……」キョロ

 

ミカ「…………」キョロキョロ

 

ミカ「……気のせいか?」

 

 

 

???「継続高校戦車道の隊長だな?」

 

 

 

ミカ「……っ!」

 

ミカ「……(この男、いつの間に私の背後に)」

 

???「……」

 

ミカ「……そうだよ。名無しの権兵衛さん。あるいはジョン・スミスとでもお呼びしたほうがいいかな?」

 

???「話がある」

 

ミカ「せっかちな男は嫌われるよ」

 

ミカ「それに、断りもなく、いきなり人の背後に立つ人間と話すだけの勤勉さを、あいにく私は持ち合わせていないものでね」

 

???「……」

 

ミカ「(まぁ、このMr・スミスがその気になれば、私なんて一瞬でねじ伏せてしまうんだろうけど)」

 

ミカ「(これでも忍道には自信があったんだけどね)」

 

ミカ「(自慢じゃないが、ここは私の庭みたいなもの)」

 

ミカ「(その中で、こうも鮮やかに背後を取ることが出来る相手に勝てると思うほど、私は己惚れてはいないつもりだ)」

 

ミカ「(しかし、この男はそれをしなかった)」

 

ミカ「(話を持ちかけてきたということは、少なくとも私と何らかの交渉を持つ意図があるということだろう)」

 

ミカ「(もっとも、こちらに拒否権があるとは思えないけどね)」

 

???「カンテレを続けろ」

 

ミカ「……おや、中々の渋い男前じゃないか(呆れた。一体、いつの間に私の正面に移動したんだ?)」

 

ミカ「そんなに私の演奏が気に入ってくれたのかな?」

 

???「普段の慣習を突如として変える。その意味がわからないほど、俺は楽観的ではいられない。それだけの話だ」

 

ミカ「……そうかい(これは本当にヤバイかもしれないね)」ポローン

 

 

【PART 4 Mr・スミスの依頼】

 

???「今日の午後6時、新たな戦車の納入があるのは知っているな」

 

ミカ「Mr・スミスが指摘したとおり、私がこの学校での戦車道の学生責任者であるというのなら、知っていてもおかしくはないだろうね」チャンチャンチャン

 

???「T-28中戦車で間違いないな?」

 

ミカ「……やれやれ。どうやらMr・スミスには隠し事は出来ないようだ」

 

ミカ「そうだよ。かのソビエトが開発した、世界で最も生産されたとされる多砲塔戦車さ」

 

ミカ「わが継続高校の戦車道は『立っているものは親でも使え、なければ借りろ』がモットーなんだよ。フランス、ドイツ、そして旧ソビエト。大洗ほどじゃないけど、うちの戦車も多国籍というか、無国籍というか……そんなところまでフィンランドを真似しなくてもいいと思うんだけどね」

 

???「……」

 

ミカ「(……少なくともこちらの言うことに耳を傾けるつもりはあるということか)装甲にいささか不安があるけど、そこは腕と経験かな」ポロローン

 

ミカ「それで、Mr・スミスは、この私に何を御望みなんだい?」

 

???「戦車納入時、隊員を立ち合わせるな。それ以外のことは望まない」

 

ミカ「……」ポロロン♪

 

ミカ「……理由を聞いてもいいかい?」

 

???「……」

 

ミカ「……(ま、答えてもらえるとは思ってなかったさ)」

 

ミカ「それは拒否してもいいのかな?」

 

???「構わない」

 

ミカ「(おや?)」

 

???「その場合。隊員達がこうむるであろう精神的なショックに関しては、俺の感知するところではない」

 

 

 

ミカ「っ!(この男!)」

 

 

 

ミカ「……そうきたか。いや、わざわざ教えてくれてありがとうというべきなのかな?」

 

???「……」

 

ミカ「……貴方がどうやってこの学園艦に侵入したかは、私は知らない」

 

???「……」

 

ミカ「もっとも、歓迎されたわけじゃないことだけは想像がつくさ」

 

ミカ「昔ほどではないとはいえ、学園艦の警備は外から来る人間に対してはそれなりに厳重なんだよ。中から外に出るのに関しては、それほどじゃないけどね」

 

???「……」

 

ミカ「貴方がここで何をしようと、私は感知しないさ……この学園と生徒に危害を加えない限りは」

 

???「それは約束しよう」

 

ミカ「……貴方は自分にも人にも厳しい性格のようだね」

 

ミカ「だからはっきりと言わせてもらおう」ポロローン

 

???「……」

 

 

 

ミカ「貴方は、誰かを……人を殺すためにここに来たのかい?」

 

 

 

???「……」

 

 

 

ミカ「だとするならば、私は貴方に協力出来ない」

 

???「……ジャージのポケットに入っている防犯ブザーを鳴らすつもりなら、止めておけ」

 

ミカ「やはり気が付いていたのかい?普段から鉄と油にまみれているとは言っても、これでもか弱い乙女なものでね。悪く思わないでほしい」

 

???「……協力するつもりがないのなら、それでいい」

 

ミカ「待ちたまえよ。Mr・スミス」

 

???「……」

 

ミカ「まだ私の疑問に答えてもらっていない」

 

???「……」

 

 

【PART 5 少女の依頼】

 

???「……何故、知りたがる」

 

ミカ「好奇心は猫を殺すというしね」

 

???「……」

 

ミカ「私は自分の知識欲を満足させるために知りたいんじゃない。この学校の戦車道の隊長として、知る義務があるんだよ。隊員達の命を預ける新しい戦車に関することならば特にね」

 

???「……」

 

ミカ「……貴方は」

 

ミカ「いや。人の生き方に注文をつけるつもりはない。まして貴方は人生の先輩だ」

 

ミカ「だけど……そうだね。うまく言えるか自信がないが、よければ聞いてほしい」

 

 

 

ミカ「特殊カーボンが開発されてから、戦車道の安全性は飛躍的に向上しているのさ」

 

ミカ「だけど今だって怪我人は絶えない。かつては死者が出たこともあるそうだ」

 

ミカ「部品や装甲を交換しているとはいえ、実際に戦場で使われていたものと同じ戦車を使うんだ。戦争ごっこと陰口をたたく人もいるし、英霊や戦没者への冒涜だと批判する人も多い」

 

ミカ「ひょっとして貴方もそう思っているのかもしれないね」

 

???「……」

 

ミカ「だけどね。傷つかずに生きていける人間なんか、この世にはいないんだ」

 

ミカ「だから私は、戦車道が好きなんだ」

 

ミカ「骨董品のような戦車の中で、みんなと一緒に鉄と油にまみれ、粉塵と火薬で臭くなった体でフィールドを駆け回るのが、どうしようもなく好きなんだ」

 

ミカ「一度はやめようとしたけど、結局はここに戻ってきた」

 

ミカ「その選択に、後悔はない」

 

???「……」

 

ミカ「自分たちが扱うものが『兵器』であることは理解しているつもりさ」

 

ミカ「貴方からすれば覚悟が足りないと切り捨てた感情なのかもしれないけどね」

 

???「……」

 

ミカ「だからこそ、私は皆に笑っていてほしい。心置きなく、ただ戦車道をやってもらいたい」

 

ミカ「それこそが、私の戦車道なんだ」チューリップハットヲトッテ、タチアガル

 

ミカ「私には貴方を止めることは出来ない」ペコ

 

ミカ「だから、こうやってお願いするしかない」

 

ミカ「貴方のお願いは理解した」

 

ミカ「貴方が何をしようとしているのかは知らないし、知るつもりもない」

 

ミカ「だからお願いだ」

 

ミカ「私は、あの子達に戦車道をさせてあげたい……違うな」

 

ミカ「私はあの子達と、戦車道が一緒にしたいんだ」

 

ミカ「だから、お願いだ」

 

 

 

???「……」

 

 

 

ミカ「……」

 

 

 

ミカ「…………」

 

 

 

アキ「……どうしたのミカ?そんな直立不動で最敬礼して」

 

ミッコ「やっべ、ミカのそんな格好初めてみたかも」

 

ミカ「……アキ、ミッコ?」

 

アキ「ど、どうしたの?顔真っ青だけど、何か変なものでも拾い喰いでもしたの?」

 

ミッコ「馬鹿!だから判らない野草や茸は食べちゃいけないって、珍百系で岡本信○さんがあれだけ言ってるのに!吐け、いや、塩水流し込んで口から吐かせてやるから、こっちにこい!」

 

ミカ「……君達が普段、私のことをどう思っているか。よーくわかったよ」

 

 

【PART 6 違和感】

 

- 継続高校学園艦 貨物搬入エレベーター前 -

 

ミカ「……という具合に、久しぶりの実戦形式の演習で隊員はすっかり疲れ果ててしまいまして、私だけが立ち会うことになった次第です」

 

継続教師「やかましい!どうせつくのなら、もう少しまともな理由を考えろ!」

 

継続教頭「裏道を使うならいざ知らず、いきなり大浴場とサウナに戦車で乗り付けて貸切にしておいて、疲れきっているはずがあるか!」

 

継続教師「いくら使用する人間が少ない時間帯とはいえ、やっていいことと悪いことがあるぞ!」

 

ミカ「おや、ずいぶんとお耳の早い」

 

継続教頭「貴様ぁ!!」

 

継続OB「ま、まぁ、まぁ。どうか先生方。落ち着いてください」

 

継続教頭「いや、しかし!」

 

継続OB「久しぶりの練習で、彼女たちも気が高ぶったのでしょう。私としても提供した物資が有効に活用されているとわかりましたので、文句などありませんよ」

 

継続教師「そ、そういっていただけますと助かります……おいっ!さっさとお礼を言いなさい!」

 

ミカ「感謝するよ」ポロローン♪

 

継続OB「はっはっは。次の大会は期待していますよ」

 

継続教師「本当に申し訳ありません」

 

継続教頭「それで、こちらですか?」

 

継続OB「ええ。開発した旧ソ連よりもフィンランド軍のほうが有効活用したとも皮肉られるT-28です。装甲こそ30ミリといささか不安ですが、その分足回りは……」

 

継続教頭「(おい、聞いているのか!)」

 

 

 

ミカ「(……やっぱり妙だな)」

 

ミカ「(何だろうこの感じは)」

 

ミカ「(たしかにT-28なんだけど、何か違和感がある)」

 

 

 

ミカ「……これ、T-28ですよね」

 

継続OB「あぁ、そうだ。ロシアの地方の戦争博物館で眠っていたのを、私が取り寄せてレストアしたものだよ」

 

ミカ「……」

 

継続OB「一部劣化していた装甲や部品を取り替えたが、レギュレーションに従い復元している。ただ内部のカーボンに関しては、安全性にかかわることなので、工場で再度チェックしてからの引き渡しになるが……先生方は、それで構いませんかな?」

 

継続教師「えぇ」

 

継続教頭「こちらとしてはそれで問題は……」

 

 

 

ミカ「……よくないね」

 

 

 

継続OB「は?」

 

継続教師「おい、何を言う!」

 

ミカ「泣いているよ、この子。よくないね」

 

継続教頭「何をわけのわからないことを!」

 

継続OB「……いえいえ。大丈夫ですとも」

 

継続OB「それにしてもこの子の突拍子のない物言いは、TVのままなんですね」

 

ミカ「……普段、戦車と触れ合わない先生たちにわからないのは無理もないけど」

 

継続教師「なんだと気様!」

 

ミカ「ねぇ、貴方」

 

継続OB「何だい?」

 

ミカ「貴方、戦車道は好きですか?」

 

継続OB「……無論、好きだよ。だからこうして、君たちに援助をしようと」

 

ミカ「そうかな?私にはどうも、そうは思えないんですけどね」

 

継続教頭「お、おい!」

 

ミカ「……これ、何か装甲に-」

 

 

 

   ズキュ---ンッ!!!

 

 

 

 

【PART 7 2度目の狙撃】

 

ミカ「?!」

 

継続教頭「うわっ!」

 

継続教師「な、なんだ!事故か!」

 

継続OB「……っ!」

 

 

 

ミカ「……(あの人か)」

 

 

 

継続教師「……っ、おい!大丈夫か!」

 

継続教頭「怪我はないか!」

 

ミカ「大丈夫ですよ。私はピンピンしています」

 

継続教師「そ、そうか!よかった!」

 

ミカ「何です先生、大げさで……」フリカエル

 

 

 

ミカ「……嘘」

 

 

 

ミカ「……せ、戦車の装甲に、穴が開いてる」

 

継続教師「だから大丈夫かと聞いたんだが」

 

継続教頭「……おい、おいこれ、まさか狙撃か!?」

 

継続教師「馬鹿な!ここは銃器の取り扱いに関しては陸の上以上に厳しい学園艦ですぞ!」

 

継続教頭「し、しかし。現にこうして……」

 

継続OB「……」

 

 

 

???「はいはい、動かないでください」

 

 

 

継続教頭「な、何ですか、貴方達は!」

 

小畑「これは失礼しました。私、愛知県警国際捜査課の小畑と申します」

 

継続教師「け、警察?警察が一体どうして」

 

継続教頭「ここは学園艦ですよ。大体、令状はお持ちなんでしょうな」

 

小畑「はい、こちらに」

 

継続教頭「え?えぇ、はいどうも……関税法違反?第三者所有物の没収手続に関する応急措置……なんですこれ?!」

 

小畑「まぁ罪状は山のようにありますが、主なのは麻薬取締法違反でしょうな」

 

継続教師「ま、麻薬?!」

 

小畑「いやぁ、ようやくお会いすることが出来ました」

 

小畑「貴方、こちらのOBだったんですねぇ」

 

 

 

継続OB「……」

 

 

 

刑事A「警部補、ありました!」

 

刑事B「装甲とカーボンの間に空白があります!そこから破れた袋と粉が」

 

小畑「ご苦労。すぐに簡易検査に回せ」

 

小畑「尤も、小麦粉やベーキングパウダーを、戦車の装甲と特殊カーボンの間に挟んで密輸する必要性があるとは思えないが」

 

継続OB「っ!」

 

小畑「逃げられると思ったか?」

 

継続OB「っく……」

 

 

 

継続教師「ま、まさか」

 

小畑「残念ですが、御想像の通りでしょう」

 

小畑「この男は、愛知県内の広域暴力団が御得意の運び屋なんですよ。金さえ出せば、何でも運ぶと評判の男でしてね」

 

継続教頭「何ということだ……」

 

小畑「戦車道関連の部品は税関の検査が甘いですからね。パーツに分解して運べば、誰も注目しない」

 

小畑「特に戦車道大国のロシアからは毎日のように大量の部品が輸入されています」

 

小畑「そして組み立てて動かしてしまえば、物好きな趣味人としか思われない」

 

小畑「学園艦で組み立てを行えば、陸運局など地元当局への車両登録の申請も必要ないというわけです……目の付け所は悪くはなかった。だが詰めが甘かったな」

 

継続OB「し、知らん!俺は知らんぞ!麻薬が入っているだなんて、俺は知らなかったんだ!」

 

小畑「観念しろ。すでに名古屋港近くの貴様の拠点は確保している」

 

刑事B「手下が吐いたぞ。内部のカーボン張替えを名目に運び込むつもりだったそうだな」

 

 

 

継続OB「畜生、畜生!」ガキッ

 

 

 

刑事B「うわっ!」

 

小畑「公務執行妨害!確保!」

 

 

 

継続OB「このアマぁ!貴様が余計なことを言わなければ!!!」カチャ!

 

 

 

ミカ「っ……!」

 

小畑「(ナイフ!)っ、発砲しろ!」

 

 

 

   ズキュ---ンッ!!!

 

 

 

継続OB「ぐわ!」

 

刑事A「ナイフを落とした!」

 

刑事B「この野郎!」

 

継続OB「は、離せ!離せええ!!!」

 

小畑「馬鹿野郎、罪を重ねるんじゃない!」

 

継続OB「畜生、畜生おおおおお!!!!」

 

 

ミカ「……」

 

 

【PART 8 少女と刑事】

 

 

小畑「ミカさん。申し訳ありません」

 

ミカ「刑事さん。頭を上げてください。怪我もなかったですから」

 

小畑「覚せい剤反応が出てから逮捕しようとした、私の判断ミスです。怪我がなかったのは結果論に過ぎません。貴方と、先生方を無用な危険にさらしてしまったことに変わりはありません」

 

ミカ「……やれやれ、真面目なのは結構ですけど。もう少し肩の力を抜いてはどうです?」

 

継続教師「おい、失礼なことを言うな!」

 

小畑「ははっ、いや、耳が痛いです」

 

ミカ「ところで刑事さん。あのナイフはやっぱり狙撃で弾かれたんですか」

 

小畑「それは……捜査上のこともありますので」

 

ミカ「ほらそれ」

 

小畑「は?」

 

ミカ「また肩に力が入ってる」

 

ミカ「規則も大事でしょうけど、この状況なら可愛い女の子のお願いを聞いても、罰は当たらないと思いますよ」

 

小畑「……本当に敵いませんね」

 

小畑「詳しいことはお答えできませんし、部外秘でお願いしますよ」

 

小畑「正式な調査を待たないと、はっきりとしたことは申し上げられませんが、戦車の狙撃に使われた銃弾と、ナイフを弾いた銃弾は同じものでしょう。ただ、後者に関してはどうやらナイフだけを弾くように射撃角度を微調整したようですが」

 

ミカ「2発目が打たれるまで、私の体感では5分もなかったと記憶しています。そのわずかの間で、戦車の装甲を貫通するだけの銃弾を打ち出す銃の微調整を行うことなど、本当に可能なのですか?」

 

小畑「……お嬢さんにはお分かりにならないかもしれませんが、世界には人知の及ばない領域に到達した人物がいるとだけ、お答えしておきましょう」

 

ミカ「刑事さん、ちょっと」

 

小畑「?」ミミヲチカヅケル

 

ミカ(ひょっとして、警察に電話があったんじゃありませんか?戦車の引渡し時を狙い狙撃する。そこを取り押さえろと)

 

小畑(っ!)

 

小畑「……私は今日という日ほど、女性特有の勘の鋭さに驚かされたことはありませんよ」

 

ミカ「肯定と受け取っても?」

 

小畑「御自由に」

 

 

 

小畑「それと、厚かましいようですがお願いがありまして」

 

ミカ「?」

 

小畑「サインをいただけませんかね?甥っ子宛と、あと私宛で」

 

 

【PART 9 大学戦車道連盟理事長からの依頼】

 

- 数日前/ジャパン・東京都内 大学戦車道連盟 -

 

ゴルゴ13「全日本大学戦車道連盟理事長の、島田千代だな?]

 

島田千代「……ゴルゴ13、いやデューク東郷。および立てして申し訳ありません」

 

千代「貴方の事は、米国大使館のマッケンジー氏からお聞きしました」

 

千代「旧紙幣で3億、こちらに用意してあります」

 

千代「すでに資料は机の上に。依頼内容についてお話しても?」

 

ゴルゴ13「あぁ」

 

千代「はい。まずこちらの写真ですが」

 

ゴルゴ13「……運び屋だな」

 

千代「はい。東海地方の裏の社会ではそれなりに名を知られた男のようです」

 

千代「ですが今回の以来は、この男の狙撃ではありません」

 

ゴルゴ13「……どういうことだ」

 

千代「この男の麻薬密輸を、貴方の狙撃で阻止して頂きたいのです」

 

 

千代「……というわけです」

 

ゴルゴ13「学園艦内の捜査権限に関してはグレーゾーンだからな」

 

千代「はい。海上保安庁や母港である都道府県警と、それぞれの学園艦の自治警察組織が管轄権を主張しているためです。改正教育基本法により正常化が進んでいるとはいえ、つい先日までは、麻薬取締局や公安ですら迂闊に学園艦には手を出せませんでした」

 

千代「だからこそ、現行犯でなければ、逮捕は困難となります」

 

千代「仮に今回の手口が成功すれば、裏社会の人間は同じ手段で密輸を試みるでしょう。そうなれば学園艦が麻薬取引の温床になる可能性も。発覚した場合は戦車道にも大きなマイナスイメージとなります」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「言葉は悪いですが、今回に関しては貴方が狙撃すること自体に価値があるのです」

 

ゴルゴ13「抑止力か」

 

千代「その通りです」

 

ゴルゴ13「……俺は秘密の漏洩は許さない」

 

千代「承知しています」

 

千代「ですがこの状況で対象を狙撃することが可能な人物は、世界に数えるほどでしょう。この事実を相手組織がどう分析し、そして考えるかまでは、私の関与するところではありません」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「麻薬組織にとって今回の密輸は然程大きな規模ではないそうです。にもかかわらず貴方か、貴方に匹敵する狙撃手が計画を潰した」

 

千代「実際にどうであれ、貴方がこの密輸ルートを破壊した。あるいは快く思っていない可能性がある。そう思わせることが出来れば、今は十分です」

 

千代「裏社会が様子を見ている間に、こちらも手を打ちます。学園艦内の治安組織を一元化するように政府と文科省に働きかけ、同時に戦車道に関する部品輸入について調査を厳格化するよう法制化の準備も進めています」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「それと難しいお願いだとは承知しておりますが、この一件に関しては、死者を出さないで頂きたいのです。学園艦内のことであれば、ある程度の根回しは可能ですが、流石に死人が出たとなれば、それも難しいので」

 

千代「これが貴方の流儀でないことは十分に承知しています。貴方が御自分の名前を利用されることも嫌うことも。今回、通常の倍となる報酬を用意しました。足りなければ、3日頂ければ追加で用意可能です」

 

 

 

ゴルゴ13「……学園艦への危険物持込のハードルは理解しているか?」

 

千代「こちらの地図をご覧ください」

 

ゴルゴ13「ゆっくりとだ」

 

千代「……失礼」

 

千代「御指摘頂いたように、学園艦ほどの巨大艦が接岸できるのは名古屋港においても場所が限られています。港湾施設から狙撃するのは困難かと」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「以前、WAモータースとトミダ自動車との会談を狙った爆弾犯を『射殺』する事件がありました。そのため名古屋港の監視体制は強化されています」

 

千代「この赤丸全てが監視カメラ、あるいはダミー、もしくはダミーに見せかけた本物です」

 

千代「この厳重な監視下の中、いくつもの捜査機関が目を光らせている学園艦内に武器を持ち込み、かつ警察の捜査にあわせて対象を狙撃する。そして死者を出さない」

 

千代「このような条件をクリアできるのは世界広しといえども貴方しかいない。マッケンジー武官はそのようにおっしゃっていました」

 

ゴルゴ13「……」

 

 

【PART 10 母である前に】

 

ゴルゴ13「……ひとつ、いや。2つ疑問がある」

 

千代「どうぞ」

 

ゴルゴ13「何故、政府の人間でも捜査機関でもないお前が、こんな依頼をする?まして県警内部の捜査情報を入手するというリスクの高い手段を使ってまで」

 

 

 

千代「……許すことが出来ないからです」

 

 

 

千代「戦車道は常に批判に晒され続けてきました」

 

千代「やれ軍国主義の復活、やれ再軍備の世論工作だ、戦争ごっこだ……」

 

千代「実際、戦車道黎明期に政府が私達を支援したことに、思惑がなかったと言えば嘘になるでしょう」

 

千代「ですが私の母や祖母、西住流のしぽ……家元や、その先代も」

 

千代「私達だけではありません。戦車道に関わるあらゆる流派の人間が、苦難と誹謗中傷の中を、仲間と、家族と共に歩んできました」

 

千代「私もその1人です」

 

千代「多くの批判もありました。ですがそれ以上に多くの人が理解と応援をしてくれました。多くの犠牲と支援の上に、私達の、戦車道の今がある」

 

千代「私は1人の戦車道に関わる人間として、それを汚そうとする人間を断じて許すことが出来ないのです」

 

ゴルゴ13「……」

 

 

 

ゴルゴ13「俺は依頼人に嘘は許さない」

 

千代「承知しております」

 

ゴルゴ13「……何故言わない。言えない理由でもあるのか」

 

千代「……」

 

 

 

千代「デューク東郷」

 

千代「たとえ離れていようとも、今は歩む道が異なろうとも、親にとって子供は子供なのです。いくら放蕩者であろうとも……」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「そして、私が先ほど述べた点にも、嘘はありません」

 

千代「私は戦車道に関わる人間として、戦車道を私利私欲のために利用しようとするこの男が、どうしても許せないのです」

 

千代「たとえあの子の存在がなくとも、他の学園艦であったとしても、私は同じ事をしたでしょう」

 

千代「もしも今回の依頼に関して、私が身内可愛さを優先したのであり、貴方にそれを隠そうとした。そう貴方がお考えになるのであれば、貴方の流儀通りに処していただいても構いません」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「その上で、この依頼を受けて頂きたいのです」

 

ゴルゴ13「……」

 

千代「……」

 

 

 

ゴルゴ13「……継続高校学園艦の到着予定日は」

 

千代「っ、ありがとうございます」

 

 

【エピローグ】

 

- 継続高校学園艦内・旧第3港湾区画 -

 

ミカ「やぁ、Mr・スミス」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「ここで待っていれば、貴方と会えると思ったよ」

 

ゴルゴ13「何故、ここがわかった」

 

ミカ「女の勘さ……といいたいところだけど、貴方はそれでは納得しないだろうね」

 

ミカ「簡単な話さ。私もそれほど熱心な学生じゃないのでね。この学園艦内で監視カメラが少なく、人気の多くない場所となれば、大体は想像が出来るのさ」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「実は貴方にお礼が言いたくてね」

 

ゴルゴ13「……俺は俺の仕事をしただけだ」

 

ミカ「だろうね」

 

ミカ「戦車道の隊員を遠ざけるように私に要請したのは、狙撃の障害物を少しでも減らすためだろう?」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「答えないのなら、それが事実だと勝手に解釈するさ」

 

ミカ「貴方の仕事が愛知県警の捜査の援護なら、私に迫ったナイフを狙撃する必要はなかった。まして威力を弱める必要もない。違いますか?」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「私はおしゃべりは嫌いでね。悪友に押し付けられるまでスマートフォンすら手にしたことがなかったアナログ人間なんだよ」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「それに格好のサボり、もとい隠れ家を人に教えるほどお人よしでもない」

 

ミカ「だけど御礼だけは言っておこうと思ってね」チューリップハットヲトル

 

ミカ「あの戦車は故障品ということで回収。お偉いさん方の縄張り争いで、事件が表ざたになることも避けられた」

 

ミカ「皆は何も知らないまま。今日も何時も通り、風と共にある」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「それと変に注目されるのは好きじゃないので、正直助かったよ」

 

ゴルゴ13「……」

 

ミカ「……貴方と私は、違う世界の人間なんだろう。だからこれから先、私達が道を同じにすることはないと思う」

 

ミカ「貴方は貴方の仕事をしただけだと言った」

 

ミカ「なら私も、私の流儀を通すだけのこと」

 

ミカ「私の大切な仲間と戦車道、そして私を守ってくれて、ありがとうございました」ペコ

 

 

 

ゴルゴ13「……」

 

 

 

ミカ「……さて、しんみりしたのは嫌いなんだ。これで失礼するよ」ボウシカブル

 

ゴルゴ13「……」

 

 

 

ミカ「じゃあね。Mr・スミス」ポローン

 

 

 

ゴルゴ13「……放蕩娘、か」

 

 

 

 

 日本における戦車道は、その知名度とは裏腹に競技人口の低下に悩まされ続けてきた。

 

 その理由として、新規参入へのハードルの高さが指摘されている。

 

 第63回戦車道全国高校生大会における県立大洗女子学園の優勝劇や、一連の廃校騒動を通じて、競技としての戦車道に注目と歓心が集まった。また世界大会の日本誘致や、非公式競技であるタンカスロンへの参加者増加といった、関係者にはうれしい悲鳴が続いている。

 

 その一方、大洗廃校問題で焦点となった学園艦の財政的な問題が解消されたわけではない……

 

【完】




島田千代「素敵!!ああ……雨のサントロペ!!恋のサントロぺ!!」

西住しほ「-とでも、ちよきちが言うと思ったか!」

(まさに家元!)

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