結城リトのToLOVEるな日々   作:竜宮 黍

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前回の話を投稿してから、お気に入り数が5倍になってて普通にビビりました。まあ、私が次の投稿めっちゃ遅れちゃったからってのもあるんですけど……

日刊ランキングに一瞬載ったらしいですね。確認しました。ありがとうございます。

色んな人に読まれてると思うと緊張します。こんな駄文をわざわざ読んでくれるとは……

感想、評価、閲覧、誤字報告いつもありがとうございます。


ToLOVEるな日々ー6話ー

夏休みに入って間もなく、私は鬱蒼と植物の生い茂る洋風の館の前に来ていた。

館の周りにはカラスが飛び回り、より一層不気味さを演出している。

 

敷地内には地球の物では無さそうな植物が根を張っていた。近隣に人が住んでないからやりたい放題だな。

 

今日はララは新しい発明に夢中で、美柑も用事があり、珍しくフリーになれたので、以前から考えていたことを実行することにした。

 

とりあえず、呼び鈴ーーは無いから、ドアを二、三度ノックする。

 

「あら……結城君、どうしたの」

 

少し待ってドアの向こうから現れたのは、下着の上に白衣を羽織っただけという、嫌に扇情的な格好をした御門先生だった。

眠たそうに目元を擦っている。寝起きなのだろう。もしかしたら起こしてしまったのかもしれない。申し訳ないことをした。もう昼過ぎだが。

 

「……すみません。お休みの所だった様で。急な用事では無いので、出直した方が良いでしょうか?」

 

格好にはめんどくさいからツッコまず、アポ無しで訪問したこちらに非があるので、そう提案する。

 

「ああ……大丈夫。昨日急患があったから、ちょっと寝不足なだけよ。上がりなさい」

 

「ありがとうございます。失礼します」

 

促され、玄関に足を踏み入れる。

館の中は昼間なのに、どこか薄暗く感じた。

 

 

「それで、どう言った用事? ……病気なら、貴方は地球人用の病院に行くはずだものね」

 

御門先生がいつもの服装に着替え、お互い椅子に座って向き合う。

 

少しうつむき、深呼吸をする。

部屋には薬品とコーヒーの香りが漂っていた。見た目が古い割に埃臭くはない。衛生管理がしっかりしてるんだろう。

 

床のリノリウムが剥がれ、人の様な形になっている所を一瞥し、御門先生に目を向ける。よし。

 

「ご相談があります」

 

 

「……つまり、貴方は二ヶ月程前に結城君に成り代わってしまった。そしてそれを元に戻したい、と」

 

「はい。……荒唐無稽なことを言ってることは自覚してます。でも、これが俺から見た事実なんです」

 

御門先生に事情を話して、協力を取り付けるのが今回の目的だ。

いつかは力を借りることになるかもと思っていたが、想定より早く御門先生の正体を知る機会が来たので、予定を早めることにした。

無論、全部は話さない。

『ToLOVEる』という物語のことは流石にトップシークレットだ。これだけは話せないし話す理由も無い。

 

「二ヶ月ってことは……ララちゃんと会う前? 後?」

 

「……前です」

 

「なるほどねぇ……まあ、人が他人の身体に乗り移るなんて、珍しい現象には研究者として興味が湧くけれど……貴方は良いの? それで」

 

ララのことを持ち出されると弱い。彼女がこの件において、最も取り扱いにくい存在だ。

自惚れでなく、私が結城リトになってから、最も影響を与えてしまったのはララだ。

 

デビルーク星に初めて行ったあの日に見た、煌々と輝くエメラルドの瞳は、一生忘れられそうにない。

 

ああいうのは苦手だ。本当に。

 

出そうになる溜め息をグッと堪えた。

 

「……ララのことは、自分で決着付けないといけないとは思ってます。結城リトに押し付ける様な無責任なことは出来ません」

 

そう言うと、御門先生は目を細め、薄く微笑んだ。

 

「そう。ま、そこは二人の問題よね。じゃあ、まずは触診から初めてみましょうか。服を脱いでくれる?」

 

「あ、はい」

 

どうやら、協力してくれるらしい。

ほっと息を吐き、Tシャツを脱ぐ。

今日は暑かったから、少し汗を吸っていた。

 

 

「うーん……特別肉体的な異常は見当たらないわね……もう服着てもいいわよ」

 

「はい」

 

モゾモゾとTシャツに首を通しながら、御門先生の持つ機械に目を向ける。

肉体(ソト)に異常が無いのは想定内。問題は精神(ナカ)だ。

 

「でも……波長パターンが少し変わってるわね。何か理由があるのかしら?」

 

「波長パターン……」

 

「ほら、これよ。こっちが通常の人間の波長パターン」

 

立ち上がり、機械を見せてもらうが、ぶっちゃけ違いはよく分からなかった。

しかし、『特殊な波長パターン』という言葉から、ある人物を連想する。

 

これは、意外と予想が当たってるかもしれない。

 

「ふむ……脳波に異常とかは無いんですか?」

 

「脳波? そうね……特に異常は無いわね」

 

「……え?」

 

「ん?」

 

ピタッ…と動きが止まる。

 

異常が……無い? 馬鹿な。私の仮説が正しいなら、結城リトの精神が弱まって来ているはず。それは脳波を調べれば分かる。

 

最悪の可能性が出てきたことに、頭が真っ白になる。

待て。御門先生が訝しげにしている。何とか取り繕わないと。

 

「そ、うですか……えぇーと、まあ、調べてすぐにヒントが出てくるはずありませんよね。ええと、他に分かったことは?」

 

「……いいえ、他は特に異常が見当たらないわ。さっきの話が、貴方の妄想だったと説明された方が納得できるわね」

 

「…………そ」

 

そんなことない。

 

「そうです。ごめんなさい。さっき話したことは俺の妄想です」

 

気付けば、御門先生に頭を下げていた。

 

診療室がシン……と静まり返る。静寂が耳に痛かった。

 

「馬鹿な話に付き合わせてごめんなさい。ちょっと夏休みの思い出にふざけてみたかったんです」

 

唇が震えるのが分かる。息が震えない様に唇を噛み締めた。

頭は上げない。顔を見られたくなかった。

リノリウムの床が視界に広がる。横たわる人形(ヒトガタ)をジッと見つめた。

 

「貴方ーー」

 

「このお詫びは、後日します。本当にごめんなさい。失礼します」

 

御門先生が何か言う前に、踵を返す。

 

我ながらあんまりな言い分だが、私の状況を「妄想だ」と言われてしまったら、それを否定出来る要素はどこにも無い。

最初から簡単に信じてもらえるとは思ってなかった。

逆に言えば、信じてもらわなくても良かった。頭がおかしい奴だと思われたなら結構。そう思われても問題無いからこの人に相談した。

 

足早に館から飛び出す。

 

来た時は晴れ間が広がっていた空は、どんよりと曇っていた。

今日の予報は晴れだったはずだが、天気予報とは時に外れるものだ。

 

湿った生温い風が体にまとわりつく。気持ち悪い。

 

足を止めずに、フラフラと当てもなく歩く。

 

雨はまだ、降りそうになかった。

 

 

 

気付けば、公園に足を運んでいた。

ベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。

 

視界の範囲に、人はいない。

 

ふぅ……と溜め息が出る。我ながらよく溜め息が出る人間だ。まあ、意味合いはそれぞれ違うだろうが。

 

適当にさ迷わせていた視界を下げ、膝に両肘を着き俯く。右手は無意識に左手首を握っていた。

 

あーー……結城リトの精神が、既に消えているかもしれない。

 

かもしれない、という言い方をしているのは、ただの私の希望的観測だ。消えていて欲しくないと思っている。

 

当たり前だ。もし消えていたら、悪気は無くてもそれは私のせいになる。そんなのは嫌だ。

 

嫌だ。他人の意志を奪うなんて、私が最も嫌うことなのに。

 

ギュッ、と左手首を握り締める。

 

これまで私がこの世界でやってこれたのは、結城リトに身体を返せる可能性を信じていたからだ。信じないとやってられなかった。

 

リト本人や、美柑や西連寺と言った、リトと以前から関係のある人物には、当然負い目がある。

彼女たちが実際に接してきた結城リトは、ここにはいないのだ。

 

ああ……最悪だ……なんでこんなことになったんだろう……

 

項垂れていると、視界の端に人の気配を感じた。

 

まだ夕方だ。公園を人が通ることもあるだろう。

このまま顔を見せずにやり過ごそうと思っていたら、見覚えのあるボストンテリアが視界に入ってきた。

 

……マジか。このタイミングで来るのかよ。

 

確かな主人公力ーーいや、この場合ヒロイン力か?ーーを感じ、無理矢理口角を上げ、笑顔を作る。

 

「結城君……?」

 

「……やあ、1学期ぶりだな。西連寺」

 

顔を上げるとそこには、リードを持った、私服姿の西連寺が立っていた。

 

 

「マロンの散歩か?」

 

「あ、うん」

 

自分から声をかけてきた割には、黙り込んでしまった西連寺に話しかけるが、2秒で会話が終わってしまった。

 

「結城君……大丈夫?」

 

「何が?」

 

「手」

 

手?

 

視線を落とすと、右手は左手首を握ったままだった。それも結構な強さで。

手を離すと、手首は赤くなっていた。左手の血色が悪い。これは後で痺れてくるかもしれない。

 

「ああ……大丈夫。なんでもない」

 

手を下ろし、立ち上がる。

今は西連寺の相手をする気になれない。そもそも人と話す気分じゃない。

 

「じゃあ、俺、用事あるから」

 

「待って!」

 

何かな?

 

「結城君……どうしたの? 何か……様子が変だよ」

 

曇り空の隙間から夕日が射し込み、西連寺の顔を照らす。

夕日が目に入って眩しいのか、何度も瞬きを繰り返していた。

 

様子が変……か。変だと言うのなら、私が結城リトになった時から、ずっと変なのだが。

 

「そう? ……普通じゃないかな」

 

「ううん……ララさんと何かあった?」

 

「ララは関係無いよ。ありがとう、西連寺」

 

「え、うん……」

 

西連寺の横をすり抜け、公園を出ようとする。

 

帰ろう。いや、心境的には結城家には帰りたくない。どうしよう。でも帰らない訳にもいかない。

 

「ワンワンッ!」

 

「きゃっ!?」

 

「えっ」

 

丁度西連寺の横を通り過ぎようとした所で、マロンが突如走り出した。

 

突然のことにバランスを崩した西連寺が倒れて来たので、仕方なく受け止める。

すると、右手にふにょん、と柔らかい感触がした。

 

「ん?」

 

「ひゃっ!?」

 

おもっくそおっぱい揉んでしまった。

 

「ご、ごめん!」

 

しまった。今まで散々注意してきたのに、こんな所でラッキースケベに遭うとは。

 

しかも今割としっかり揉んでしまった。何やってんの。

 

「う、ううん……こちらこそ」

 

一旦離れると、何とも言えない沈黙が場を支配した。なんだこれ。

 

「ねー、見てあのカップル」

 

「顔真っ赤にしちゃってかわいー」

 

いつの間にか公園にいた二人組にクスクスと笑われてしまった。

バーロー。夕日のせいだよ。

 

ふと、そこである異変に気付く。

 

「あれ? マロンは?」

 

「え? あっ、あの子、どこかに行っちゃったみたい!」

 

マジかよ。碌なことしねーなアイツ。

 

「まだそんなに遠くに行ってないだろ。探そう」

 

「う、うん」

 

公園を出て、キョロキョロと周りを見ながら走る。

多分、原作でもたまにあった様に、蝶々か何か動き回る物に気を取られてどこかに行ってしまったんだろう。

願わくば、道路に出ていなければいいんだが。

 

「あっ、いた!」

 

西連寺の声に振り向き、指差す方を見ると、マロンが道路の向こう側にいた。

マロンも主人の声に気が付き、走り寄って来る。いや待て。

 

「あの馬鹿!」

 

「待って! マロン、そこ赤信号!」

 

案の定、乗用車が迫って来た。交通量の多い場所でもないのに、間の悪い。

 

全速力で走り、そのままじゃ間に合いそうに無いので、1メートル程手前で思いっきり地面を蹴って跳ぶ。ヘッドスライディングの要領だ。

 

空中でマロンをキャッチし、受け身も取れずに地面を転がる。

電柱に背中をぶつけて止まった。

 

「ぐっ……ゴホッゴホッ!」

 

し……死ぬかと思った……いやマジで、今マロンをキャッチした瞬間に足引っ込めなかったら、両足持ってかれてたぞ……やべぇ。

 

「結城君! マロン!」

 

西連寺が悲痛な声を上げて走り寄って来た。まだ赤信号だぞ。

 

「大丈夫!?」

 

「ああ……マロンは?」

 

「くぅ~ん……」

 

寝転がったまま腕の中に抱え込んだマロンを解放すると、マロンは悲しそうに鳴いて、ペロペロと私の顔を舐めてきた。

 

お前、男の顔も舐めるんだな。

 

「大丈夫……っぽいけど、念のため病院に行った方がいいかもな。俺もマロンも」

 

とりあえず、命に別状は無さそうと知り、ホッと息を吐く西連寺。

 

「そうだね……今からだと、病院開いてるかな?」

 

診察の時間にはもう間に合わないだろう。病院はだいたい夕方5時~7時頃までしかやってない。

 

「……ねぇ、結城君、もしかして、起き上がれないの?」

 

ずっと寝転がったままの私を見て不審に思ったのか、西連寺が心配そうに屈んで訊ねてきた。パンツ見えるぞ。

 

「ああいや、大丈夫大丈夫」

 

慌てて起き上がり、大丈夫ですよーと体を動かす。

うん、致命的に痛い所も動かない所も無いし、本当に大丈夫そうだ。運が良い。

 

「大丈夫な訳ないでしょ」

 

不意に、横からペチン、と頭を叩かれる。

振り向くと、御門先生が呆れた様に立っていた。

 

「見てたわよ。随分無茶をするのね貴方……ほら、ちゃんと診てあげるから付いて来なさい。今はアドレナリンが出てるから、自分じゃ気付けないだけよ」

 

「……はい」

 

まあ、同意見ですけども。

正直、あと数日は御門先生と顔を合わせたくはなかったな。

 

てか、いつから見てたんだろうこの人。

……まさか最初からとか言わないよな?

 

 

 

「はい、これでお仕舞い。もうあまり無茶しちゃ駄目よ」

 

「はい」

 

手当てが終わり、脱いでいた服を着る。

幸いにも大した怪我は無かった。右足首の軽い捻挫と、背中の打撲、腕や足の擦り傷ぐらいだ。

 

「この子も、特に怪我は無かったけど、ストレスで食が細くなるかもしれないから、気を付けてあげてね」

 

「はい。ありがとうございます。御門先生」

 

西連寺もマロンを受け取り、安堵の表情を浮かべていた。

 

湿布と包帯を巻いた右足に靴下と靴を履かせ、帰り支度をする。

 

「ありがとうございました。今日はさっさと帰って安静にしてます」

 

「ああ、待って。それには賛成だけど、貴方にはちょっと話があるの。少しだけ時間いい?」

 

「……いいですけど」

 

「西連寺さん、少し席を外してもらえる?」

 

「えっ」

 

退室を促された西連寺は、不安そうに瞳を震わせていた。

 

「結城君、どこか悪いんですか?」

 

「そうじゃないわ。ちょっと彼に言っておきたいことがあるだけ。でも、貴女がいるとちょっとだけ話しにくいのよねぇ」

 

「……分かりました」

 

人差し指で口を隠し、少し申し訳無さそうに言う御門先生に、渋々ながら西連寺は頷いた。

 

 

「ーーさて、そう言えば、貴方の本当の名前を聞いてなかったわね?」

 

「へ?」

 

西連寺が退室すると、藪から棒に御門先生がそんなことを言い出した。

 

「貴方の本当の名前、教えてくれる?」

 

「……どういうことですか?」

 

確かに先刻の話では、私自身のことはほとんど話してなかったけど、それはもう終わった話ではなかっただろうか。

 

「これを見てもらえる?」

 

そう言って御門先生は、手の平サイズの心電図やら何やらを測る機械を取り出した。

 

「はあ」

 

覗き込むと、先程と特に変わりなく周期的な波を表示していた。

 

「これが何か?」

 

「さっき貴方が公園で西連寺さんと密着した時、一瞬だけ貴方とは別の脳波が検出されたの」

 

「は?」

 

御門先生が機械を弄ると、周期的な波が一瞬乱れ、二重の波になった後、また再び元に戻っていった。

 

「だからと言う訳では無いのだけど、貴方の話を信じてみようと思ったのよ」

 

心電図から目を離し、御門先生を見上げる。

 

「突き放す様なことを言ったのは悪かったと思ってるわ。でも、貴方だって私に全てを話した訳でも無いでしょう?」

 

その通り。最初から全てを話す気なんて無かった。

『ToLOVEる』のこと以外にも、私自身のことや、彩南町という町が私にとって存在しない町であること。どこまで話すのが適切か判断できなかった。

 

いや、全てを話さなかったのは、私が御門先生を信用してなかったから?

 

協力してもらおうってのに、私がそんなんじゃ、御門先生だって信じてくれる訳ないよな。

 

不思議と、笑みが溢れた。

 

「……すみません。私、御門先生のこと、多分全然信用してませんでした」

 

「漸く、本当の貴方の言葉で話す気になってくれた?」

 

「はい。私の、本当の名前はーー」

 

 

 

「今日はお世話になりました。色々と」

 

「いいのよ。私は教師で、貴女は生徒なんだから」

 

「……ありがとうございます」

 

結城リトはともかく、私自身は御門先生の生徒ではないのだけれど、御門先生がそう言うなら、そう思ってもいいのだろう。

 

結局、『ToLOVEる』のこと以外は全て話すことにした。

そのことが不思議と心を軽くしている。

まあ、今日はもういい時間だから、何もかも話せる程時間はなかったが。

 

「また、気になることや相談したいことがあったら来ます」

 

「ああ、だったら、これ、私のアドレス」

 

御門先生からメールアドレスの書かれた紙を受け取る。

 

「どうも……」

 

「いつでも来てくれていいわよ? 私、夢子ちゃんのこと気になってるから」

 

それは研究対象としてという意味ですね?

 

「ははは……」

 

思わず苦笑いが溢れたが、一つだけ主張しておきたいことがあった。

 

「ちゃん付けは止めて下さい」

 

 

 

帰り道、時刻は7時前。

今の季節だと、この時間でもまだ空は明るさを残していた。

 

「帰り遅くなっちゃったなぁ……西連寺は家に連絡とかしたのか?」

 

「うん、大丈夫」

 

「そっか」

 

私もさっき美柑に『今から帰る』と連絡したばかりだ。

 

あー……怪我もしたし、色々説明を求められそうな気がする……めんどい。

 

「結城君」

 

「うん?」

 

ふと、西連寺が立ち止まったので、私も立ち止まる。

自然と、西連寺との間に数歩分の距離が生まれた。

 

「ごめんなさい」

 

沈み行く夕日を背に、西連寺は深く頭を下げた。

胸に抱えられていたマロンが息苦しそうに呻いたので、すぐに姿勢を戻す。

 

「今日は、凄く迷惑かけちゃって……怪我もさせて……」

 

「いや、別に大したことないよ」

 

「あるよ」

 

謝罪に対して、つい反射で出た言葉に、思いの外強い否定が返ってきた。

 

「あるよ。大したこと。もう少しで、結城君、車に轢かれちゃうところだったんだよ?」

 

「……うん」

 

ごもっともだ。

それに関しては御門先生からもお小言を貰っている。「体を大事にしなさい」ってね。

勿論、人様の体を蔑ろにする気なんてない。今回のは、うん、例外だ。

 

「私、凄く怖かった。結城君が、どこか遠くに行っちゃう気がして……」

 

随分抽象的な物言いをする。

 

弱々しく残る夕日の光が、西連寺の顔に影を落とす。

 

私じゃ、頼りにならないのかな……

 

「え?」

 

何かボソボソと言っているが、聞き取れない。

普段なら多少聞き取れなくても、表情や口の動きでだいたい分かるが、今は逆光で顔が見えにくかった。

 

「結城君、一人で無理しないでね……私じゃなくても、御門先生でも誰でもいいから頼って」

 

「……うん」

 

何か、余計な心配をかけてしまってる気がする。

 

「約束だよ?」

 

「分かった」

 

「うん。じゃあ、またね」

 

「ああ、また」

 

守れる保証の無い約束を交わし、西連寺と別れる。

 

西連寺……か。

 

今日、公園で西連寺と密着した時に、結城リトの意識が確認出来た。

 

んー……『西連寺との接近』が重要なのか?

『女の子との肉体的接触』が鍵の可能性も否めないんだよなぁ。

 

その辺は追々調べていくしかない。

とにかく今回は、結城リトの意識を確認出来たことと、それを取り戻せる可能性が出てきただけで収穫だ。

 

空を見上げると、一番星が光っていた。

一面に広がっていた雲は西の方に流れていったらしい。

今日の予報は概ね当たっていたと言っていいだろう。

今日は傘を持っていなかったから助かった。

 

 

ああ、雨が降らなくて良かった。

 




なんでこの主人公無駄にシリアスぶるんだろう(遺憾の意)

西連寺との雲行きが怪しいですが、次からシリアスは殺します。

シリアスが復活してきたら私がシリアスに殺されたと思って下さい。

あ……そう言えば新キャラ出してない……存在仄めかしてるだけだ……
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