主人公のモノローグばかりでアレですが、まあどうぞ良しなに。
自分が『結城リト』であるという現実を受け止めた後、とりあえず部屋に戻ってベッドに寝転んだ。別にふて寝している訳ではない。
単に、家にいるだろう妹の『美柑』と鉢合わせするのが怖かっただけだ。
今はとにかく冷静になる時間が欲しかった。なに? 十分冷静に見える? 馬鹿を言え、冷静な人間は過呼吸になったりしない。あれが本当に過呼吸だったのかは知らないが。
それはそうと朝勃ちが勝手に収まったのは助かった。収まらない様なら自分で処理する必要があったからな。やり方は知っているが、当然やったことが無いから本当に助かった。
とは言え、この状況が続く様なら野放しに出来ない問題である。男の子ってめんどくさい。
逆の場合は生理の時に大変なことになるんだろうな。そんなことはどうでもいい。
「はあ……」
何度目とも知れない溜め息を吐く。ああ駄目だ……お家帰りたい……この世界に私の実家があるのかは甚だ疑問だが、まあどうせないだろう。あっても無くても怖い。この件も保留だ。
むくりと起き上がる。男性器の話ではない。体ごとだ。誰もそんな勘違いはしないか。
心の中でジョークを飛ばしてないとやってられない。
一先ず今日の日付を確認しようとカレンダーを見る。が、カレンダーを見た所で分かるのは今日が5月であることだけだ。予定は特に書き込まれていない。GWも真っ白だ。寂しい奴め。しかしその方が助かる。カレンダーがあるのに予定を書き込んでないということもないだろう。その場合は潔く諦めるしかない。
しかし、現在が『結城リトが彩南高校一年生の5月』であることが分かったのは大きい。ベッドにララがいないことも踏まえて、原作が始まるちょっと前ってことか。面倒だな。どのタイミングでも面倒だが。
思えば、普通に朝勃ちする程度には性欲をもて余してるのに、毎朝……とはいかないでも、頻繁に裸の女の子が朝隣に寝ているというのは、非常に苦しいものがあるな。原作のリトはよく耐えているものだ。
閑話休題。
話がすぐに脱線するのは悪い癖だ。
あ、そうだ。確か結城リトは携帯電話を所持していたはず。時代が時代だからガラケーだ。
えーっと、よし、あった。ベッドの端に置かれてることには気付かなかったな。
閉じられた隙間に指を通せば後はほぼ自動で開いてくれる。カチリと音がして完全に開いた。懐かしいなこの感じ。
『5月22日(日)』
日曜日か。助かったが、結城リトになってる時点で何も助かってないのでプラマイはマイナスのままだ。
ついでに時間はAM6:45。結城家の休日の朝食が何時なのかは知らないが、美柑の性格から考えて、平日とそう変わらないだろう。あまり時間は無い。覚悟を決めておこう。本当はそこの窓から飛び出してでも逃げ出したいが。
どうでもいいけど携帯の待ち受け西連寺なんだな。原作通り立派にストーカーしてるじゃないか。後で変えておこう。
そのまま携帯を一通り操作してみる。ガラケーなんて親のを触らせてもらったぐらいで、まともに操作したことなんてほとんど無い。
お、これがメニューボタンだったか。ふんふむ…おい、西連寺の盗撮画像がちょいちょいあるぞ。ローアングルとか際どいのが無いのは幸いだが、普通にバレたら引かれるだろこれ。西連寺なら喜ぶか? いや、少なくとも恥ずかしがるな。引いていいんだぞ。
その後、メールの履歴を見たり、電話の発信履歴を見たりして情報収集をした。
良い様に言っているが、ただのプライバシーの侵害である。決して誰にも言わないから許して欲しい。機会があれば謝ろう。
「リトー? 朝ごはん出来たよー」
うわ、もうそんな時間か。そしてCV.花澤香菜だ。ToLOVEるって有名な声優ばっかだよな。別に声優オタクって訳でもない私でも知ってる人が多い。
「はあ……行くか……」
通算10回目は越える溜め息を吐きながら、重い腰を上げる。
……あ、服着替えてなかった。
Tシャツにパンツ一枚という格好でリビングに出れば、どんな罵詈雑言が帰って来るか分からないので、とりあえずは適当なゆったりめのズボンを取り出して穿いてから部屋を出る。
シャツはめんどいからそのままだ。多分後で外に散策しに行くし、着替えるのはその時でいい。
階段を降りながら考える。美柑は兄がTシャツパン一で現れたら、怒るタイプだろうか。イメージとしては、怒るというより叱られそうだ。それも呆れながら。
私にも以前兄がいたが、私だったらスルーするだろうな。風呂上がりとかパン一多かったし。
閑話休題。
今考えるのはそんなことではない。
もうすでにリビングが目の前だ。凄いドキドキする。これが恋か。もちろん違う。知ってる。
まあ、無駄に身構えてもしょうがない。やってみなければどうなるのかは分からない。なるようになる。考えるより行動派なのだ、私は。嘘だ。実際はどうでもいいことを考えながら行動する派だ。見ての通りだ。
「おはよーリト。珍しく早いじゃん」
「ああ、おはよう。ふぁ……」
あ、素で欠伸出た。能天気かよ。
本当に丁度ご飯が出来た所みたいで、食卓にはご飯と味噌汁と焼き鮭がそれぞれ、真ん中の大きな器にはポテトサラダが盛ってある。隣に置いてある小皿にそれぞれ欲しい分を取り分けるのだろう。察するにこれは昨日の晩の残りかな?
美柑がエプロンをほどきながら食卓に着く。ほぼ同時に私も対面の席に座る。
「「いただきます」」
あー、旨い。ほかほかのご飯、しじみの出汁が利いた味噌汁、丁度よい塩加減の鮭、そしてこのポテトサラダ……旨い!! ポテトサラダを旨く作れる人は料理のセンスが良いと思う。芋の蒸かし具合、潰し加減、味付け、全てパーフェクトだ。結婚して下さい。
「ごちそうさま」
「あれ? いつもみたいにおかわりしないの?」
なん……だと……
そ、そうか……男子高校生だもんな……朝からご飯の1杯や2杯お替わりするよな……言われてみれば物足りない気がしてきた。ご飯をお替わりする習慣が無いから全く気付かなかったわ。
しかも鮭一切れ食べちゃったし……皮まで全部食べちゃった……美味しかったです。いや、そうじゃなくて。
「あー……そうだな。うーんと……あ! 卵残ってたっけ?」
「うん。冷蔵庫にあるよ」
「よっしゃ、卵かけご飯にしよ」
ついでに味噌汁もお替わりしよう。しじみの味噌汁好きなんだよな。シンプルに豆腐も好きだが。
冷蔵庫を開けてザッと全体を見渡す。ふんふむ、綺麗に整頓されている。イメージ通りだ。左下にある取っ手を引っ張ると案の定卵ポケットが出てきた。残り3個。近い内に買いに行く必要があるだろう。
結城家の冷蔵庫はよく見かける三段の冷蔵庫だ。今は一番広い一番上の段を開けている。下の二つは冷凍庫と野菜室だろう。興味が湧いたらまた見てみよう。
卵を1個取り出し、ご飯と味噌汁を装う。
席に着いてから片手で卵を割ってご飯に乗せ、殻は鮭が乗っていたお皿に乗せておく。
「美柑、醤油をーー」
「リト、いつの間にそんなこと覚えたの?」
「えっ」
え? なんだ? 結城家では卵かけご飯は邪道なのか? それとも、この世界にはそもそも卵かけご飯が存在しない? いや、それならそもそもさっき「卵かけご飯」という単語が出た時点でツッコミがーー待て、違う。思い出せ。私はさっき何をした?
ーー片手で卵を割ってーー
あ"やっべ
めっちゃいつもの癖で卵を片手で割っていた。そうだよな。リト料理なんかしないもんな。卵を片手で割れる訳が無いっつーかそんなこと出来る理由が無い。ボロ出すの早っ。
「あ、あー……こないだテレビでさ、やってたんだよ。卵を片手で割る方法。こう親指と人差し指と中指でさ、グイッて開く感じで。結構簡単そうだからやってみた」
「へ~…って、そんなことできる様になる前に普通に料理出来るようになるのが先じゃない? 普通」
「ははは……ごもっとも」
呆れられてしまった。いや、まあ、当然私自身は料理出来るんだよ。調理師免許持ってたし。これ美柑の前で料理すんのは絶対止めた方がいいな。我ながら迂闊過ぎる。
「はい、醤油」
「サンキュー」
まあ、一先ず誤魔化せたから良しとしよう。料理もそうだが、積極的に何か行動するの自体控えた方がーーいや、それもそれか。めんどくさいなあもう。
「ごちそうさま。洗い物は俺がやるよ」
「そう? ありがと」
手早く洗い物を済ませて、手を拭きながら美柑に話しかける。
「俺この後出掛けるから。多分昼には戻る」
「どこに?」
「ん? ただの散歩」
「ふーん? じゃあ、ついでに買い物頼んでもいい?」
「りょーかい」
やや訝しげだが、下手な嘘を吐くよりはいいだろう。特に目的地も無いし嘘でもない。
美柑から買い物袋とメモを渡され、部屋で適当な服に着替えて身支度を整える。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
靴を履きながら呼びかけると、間延びした返事が帰ってきた。家族だなあ。
玄関を出た所で、庭先の植物に目が行く。
あー……そう言えば、リトって植物の世話好きだったよな。どうしよう。やったことないからわかんねぇ……
とりあえず、水道の横に置かれたジョウロに水を注ぎ入れ、全体に水を撒いておく。
ごめんな。詳しい育て方とか管理方法はまた後で調べるから。今はこんな感じで我慢してくれ。
さて、町の散策とは言ったが、無闇に歩いても迷うだけだし、目的ははっきりさせておきたい所だ。
買い物メモを見る。この内容なら、普通にスーパーで事足りるだろう。
それと、明日は学校があるはずだから、学校の位置も確認しておきたい。
とりあえずは、学校とスーパーを目的地にしよう。多分どちらも歩いて行ける距離にあるはずだ。
歩き出す前に携帯を取り出し、家の周りの景色を撮る。パシャリ。
ちょいちょいこうやって景色や目印になる物を記録しておかないと、目的地に辿り着いても家の場所を忘れましたでは話にならない。
そんじゃまあ、散策しますか。
二階の部屋から見た時も思ったが、普通の町だ。
彩南町、という町は現実には存在しない。しかし、地球の日本のどこかにあるのだ。
現実ーー今はここが現実と仮定して言い方を変えようーー前の世界と地理はそう大きく変わってないはず。
前の世界のどこかの町と入れ替わってるのか、日本の面積が彩南町の分増えてるのか、そんなとりとめのないことを考えながら町を眺めていく。
特別田舎という訳でも特別都会という訳でもない町並みと言った所。
もうすぐ夏、ということもあり、空気は暖かかった。
今のところ目的のスーパーや高校は見つからない。家を出て左手にずっとまっすぐ歩いている。下手に曲がると自分がどこにいるのか分からなくなりそうだから。
でも、どことなーく原作で見たことがある様な風景が広がってるので、そう見当違いの方に向かってる訳でもないと思いたい。
「もし」
「はい?」
「◯◯って所に行きたいんだけど、どうやって行ったらいいかねえ?」
突然見知らぬお婆ちゃんに道を訊かれたが、当然分かるはずもなく、たじろいでしまう。
買い物袋片手に身軽な格好で歩いていたから、この辺に住んでると思われたのだろう。正しい。正しいが、この場においては見当違いだった。
「えぇ~…っと…」
反射的にキョロキョロと周りを見てみるが、そんなことをしても全く分からない。そも、見て分かる位置にあるなら人に訊ねたりはしないだろう。
申し訳ないが、他をあたってもらうしかーーん?
……あれ、西連寺じゃね?
前方の方に青みがかった黒髪のボブカットで、二つのヘアピンで前髪を留めている美少女がいる。変わった犬を連れてるから間違いない。
「おーい! 西連寺ー!! ーーちょっと待ってて下さい」
お婆ちゃんに一言声をかけてから西連寺の所まで小走りに向かう。
「結城君?」
「おはよう。偶然だな。犬の散歩?」
「おはよう。本当だね。うん、この子マロンって言うの。結城君はこんな所でどうしたの?」
「俺はちょっと散歩ついでに買い物に……と、その前に、西連寺は◯◯の行き方知ってるか? 」
「? うん、知ってるけど」
「助かった。あのお婆さんに道を訊かれたんだけど、俺もよく分かんなくて困ってたんだ。教えてあげてくれないか?」
「そういうことなら、喜んで」
ニコッと人当たりの良さそうな笑顔で応じる西連寺。結城リトならトキメいてる所だな。
「結城君のお買い物って、スーパー?」
お婆ちゃんに道案内をした後、「ありがとう。それじゃあまた」とさっさと別れようとしたら、そんな風に西連寺に声をかけられた。
「…そうだけど?」
「スーパー、そっちじゃないよ?」
oh…そういうツッコミを受けたくないから、さっさと別れたかったのに……じゃあ地元民の癖に道訊く時点でおかしいが、それはそれである。
「元々散歩のついでだし、遠回りしていこうかなって」
「そうなんだ。……その、良かったら、ちょっと一緒に歩かない? 私も散歩の途中だし……」
言ってから恥ずかしくなったのか、視線が右往左往する西連寺。徐々に眉が下がってきて不安そうにされると、結城リトとしては断りづらくなってくる。
いや、結城リトなら間違いなくドモりながら応じるだろう。そしてそれを見た西連寺は緊張が解れて、結果的にリトの一人相撲に映るのがいつものパターンだ。
実は両想いなのに、西連寺の方の想いを知ってる人間が少ないのは、基本的にそのせいだろう。
「ーーうん、いいよ」
到底結城リトらしいとは言えないが、今の私にはこう応じる以外の選択肢がなかった。
無事散歩と買い物を済ませ、西連寺と別れた後に彩南高校も見つけ、帰った頃にはもう昼前だった。
8時過ぎに家を出たから、3時間近くウロウロしていたことになる。道草食い過ぎたかな。高校を見つけるのに思いの外時間がかかったのだ。先に美柑が通ってるだろう小学校の方を見つけてしまったし。
彩南高校から記憶を頼りにまっすぐ家に向かった所、25~30分はかかったので、明日はそれを目安に余裕を持って家を出ればいい。慣れれば20分程で辿り着ける様になるだろう。
で、今家の前まで帰ってきてる訳だが。
……家の前に、不審者がいるな。
と言っても、見た所小学生だから、美柑の同級生だろうか。原作に出てたかな。こんな奴ら。
小学生の三人組が、鉄格子の隙間から家の中を覗こうとしている。
……ストーカーかな?
結城リトの身としては、他人のことを言えた義理ではないが、流石のリトも、休日に西連寺の家まで様子を見に行ったりはしないだろう。しないと思いたい。
道中に見かけた『不審者注意』のポスターが不意に頭を過る。
うん、リトが部活に入らずに、極力家を空けない様にしている理由はよーく分かった。
よくよく考えたら、この町はあの
ごめんリト。今後は美柑がいる時は出来るだけ家にいる様にするから。
まあ、端から見たら、兄のフリをしている私も大概不審者なのだが、その辺は多目に見てほしい。
私は怪しい者ではありません。不審者はみんなそう言うが。
「うちに何か用?」
「え?」「うわっ!?」「す、すみません……」
話しかけると、
そんなこともありつつ、今はもう美柑お手製の昼ご飯も食べて、部屋でゆっくりしてる所だ。
机の上にノートを開き、シャーペンを持って宿題か勉強をしているフリをする。
これなら突然美柑が来ても、どうとでも誤魔化せる。
因みに宿題が出てるかどうかは、西連寺から聞いて把握済みだ。さっき確認したらちゃんとやってあった。真面目で何より。
とにかく今の考えを纏めるために、ペンを動かしてみる。
『結城梨斗』
漫画では『リト』と表記されることが多いため、あまりしっくりこないが、今の私は『結城梨斗』だ。面倒だから今後は『結城リト』と表記するが。
『結城夢子』
これが私の名前だ。苗字は偶々同じな訳だが、果たして偶然なのか。
とにかく、今は結城夢子の精神が結城リトの身体に乗り移っている状態だ。
『結城夢子』から『結城梨斗』に矢印を書き込む。
さて、ここで重要になってくるのは、夢子の身体とリトの精神の所在だ。
この世界に現存していればいいんだが……私がリトになった経緯も原因も分かってない以上、雲を掴む様な話になってくるな。
トントン、とシャーペンで『結城夢子』の辺りを叩く。
目下の目標は、『結城リトに結城リトの身体を返す』ことだな。
とりあえず、目に見える物から手を付けていくしかない。
この世界に結城夢子が存在するかどうかを確認する。
望み薄だが、もしいるならその中に結城リトの精神が宿ってる可能性も出てくる。
いないなら世界を跨いで入れ替わってる可能性と、入れ替わってるのではなく私が勝手に憑依していて、リトの精神がまだこの身体に残存している可能性も出てくる。
最終的にはあの人の力を借りることも視野に入れておくしかないだろう。
出来れば原作が始まってバタバタする前に色々調べておきたいが、同時進行で結城リトのフリも続けなければいけない。
特に美柑なあ……バレる可能性が一番高い上に、一番バレると厄介な相手だ。
身内が知らない間に赤の他人に成り代わってるなんて、恐怖でしかないだろう。サイコホラーだ。絶対にバレてはいけないが、バレてしまった場合は誠心誠意、悪意も害意も無いことを説明するしかない。
とは言え、完全に結城リトを演じるつもりは毛頭無い。
そもそも『ToLOVEる』という作品は、主人公結城リトが、ララや西連寺を始めとしたヒロイン達に振り回されるラブコメディだ。
『無印』の頃はララと西連寺との三角関係が主流だが、『ダークネス』からはグッとヒロインが増えて、元々フラグが立ちかけてた子も正規ヒロインになったりして、総勢10名を越えた気がする。
そしてこの作品を語る上で外せないのが、結城リトの超常現象的体質『ラッキースケベ』だ。
結城リトは作中で何度も転び、吹っ飛ばされ、女の子にぶつかる。その度に神がかり的なテクニックで(わざとではないが)、女の子とくんずほぐれつな事になるのだ。
そしてそれ相応の制裁を加えられる。
冗談じゃない。あまりにも身に余る。
私は基本的に男女関係無く恋愛はする気が無いし、痛いのだって嫌いだ。
とは言え、中に私が入ってる状態でそうなることもないだろう。
ヒロイン達はみんな、純情で、優しくて、いざと言うときには頼りになる『結城リト』を好きになったのだ。私からは程遠い。
ラッキースケベは体質の可能性が高いので、半分くらい諦めておこう。
さて、そんな『ToLOVEる』な日々が始まる発端は、『ララとの出会い』だ。
ぶっちゃけこれが無かったら、遅かれ早かれ結城リトは西連寺春菜と結ばれて、大きなToLOVEるも無く、幸せになっていた可能性も高い。
いや、ララとの出会いがあったから、奥手な二人があそこまで急接近出来たのかもしれないが。リトはララとの日々も楽しんでいたし、あの出会いが別に悪かった訳ではないと思うけども。
この『ララとの出会い』をどうするかだよなあ……
風呂場に出現するのは、恐らく避けられないとして、態々『婚約者候補』なんて面倒な肩書きを背負う必要があるのか。
率直に言って嫌だ。下手すれば原作通り地球そのものを背負うことになりかねないし。
とは言え、『婚約者候補達とのお見合いに嫌気が差した』ララを見捨てるのも忍びない、という気持ちもある。
覚えてる限りでは、ララの婚約者候補達はリトとレンを除けば、ほとんどが碌でもない奴ばかりだった。
ちゃんと書類選考で落とせよ、とデビルーク王に抗議したくなってくるが、そこは銀河を束ねる王、そこまで手が回らないのかもしれない。
書類上では分からないことも多いだろうし、なんだったらララが気に入っても、碌でもない奴だと思ったら、デビルーク王もそれ相応の処置をしたかもしれない。
まあ、私の正直な意見を言わせてもらえば、ララの婚約者をこなせる奴なんて原作の『結城リト』以外いないと思う。
レンには悪いが、彼には少々荷が重いと言うか、残念ながらララから異性として全く意識してもらえてなかったというのが事実だろう。
だから原作が始まる前に結城リトに身体を返したいんだよ……!
大丈夫。お前なら出来る。お前ならララの婚約者だって、デビルークの後継者だってハーレムだってなんだってこなせるはずだ。
が、基本的に最悪の事態を想定して動いた方がいいだろう。
結城リトに身体を返せる様に努める。努めるが、もし原作に間に合わなかった場合、ララの婚約者候補になるのも吝かではない。
正直嫌だが、そもそもララは多分、リトと出会った時点で『嘘の婚約者候補(好きな人)をでっち上げる』という考えが浮かんでいたと思う。リトの告白(勘違い)を受けて、都合が良いみたいな反応してたし。断固拒否すればララも諦めるかもしれないが、そこまで強く出れるかと聞かれれば、難しいかもしれない。
地球の命運に関しては、ララがそんなことをさせないと信じるしかない。デビルーク王は子煩悩のきらいがあったし、多分大丈夫だろう。
で、それに際して、ララの発明品に振り回されたり、他の婚約者候補から狙われたり、果ては暗殺者が現れたりする訳だが。
……鍛えるか。
ぶっちゃけ、私に原作のリト程の回避スキルがある自信が無いし、万が一にも死ぬ訳にはいかない。
人様の身体だから大切にしないといけない。
『結城夢子の身体を捜す』
『結城リトのフリをする』
『回避出来そうになければ、ララの婚約者候補にはなる』
『死なない。そのために鍛える』
ま、こんなものだろう。
シャーペンを机に置き、書き込んだノートのページを破き、クシャクシャに丸めて捨てた。
主人公は自覚はありませんが、割とお人好しです。