結城リトのToLOVEるな日々   作:竜宮 黍

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更新遅くなりました。

15000字を越えたので、臨海学校は前後編でお送りします。


ToLOVEるな日々ー5話ー前編

「臨海学校だーーーーっ!」

 

「おーーーーーっ!」

 

夏休みも目前。彩南高校の一年生は二泊三日の臨海学校に向かっていた。

 

「わぁー。地球ってキレイな所がたくさんあるねー春菜!」

 

「地球?」

 

「リト、菓子食うか?」

 

「ああ、サンキュー」

 

バスに揺られて海を眺めながら、友達と談笑したりお菓子を摘まむ。

懐かしい風景だ。こんな体験をもう一度することになるとは思っていなかった。

と言っても、私はこういう時友達と喋らずに寝てることが多かったから、大した思い出は無いんだが。

 

でも、こういうワイワイと楽し気な感じを眺めるのは昔から嫌いじゃなかった。

 

 

「ーーというワケで今夜はさっそく、恒例の肝試し大会があります! お楽しみに~~~!」

 

旅館に着いて、大広間にて校長による臨海学校の説明を聞き流す。

時刻は夕方。今日は飯食って風呂入って肝試しするだけだ。

 

ああ、肝試しか……

 

つい遠い目をする。このエピソードも大分印象深い。西連寺のお化け嫌いが発覚し、意外な狂暴性を発揮する回だ。

 

「んじゃ、さっそく風呂行くか」

 

「んー…そうだな」

 

宛がわれた部屋でボーっとしていると、猿山に誘われたので風呂に行く準備をするが、微妙に憂鬱だ。

男と一緒に風呂に入るのは、何とも気が滅入る。

結城リトになってから男の体は見飽きたが、元々男性経験の無い身だ。

そもそも男ばかりの場所にいること自体が窮屈に感じる。

 

「女子も今頃入ってんだろな~」

 

「ここはやはり男としてやっとくべきかね?」

 

「おい……」

 

「リトもやるだろ? ノ・ゾ・キ」

 

「しねーよ」

 

「よし、行くぞ!」

 

「おい! ノゾキなんてしないからな!」

 

グイグイと猿山に引っ張られ、風呂場に連行されていく。

 

 

「あ、リトー♪」

 

「ララ」

 

「どこ行くの?」

 

「お前と同じ所だよ」

 

風呂場の前でララ、西連寺、籾岡、沢田と鉢合わせし、ララ達の持ち物からこれから風呂に入るつもりだろうと当たりを付ける。

 

「あ、じゃあリトと一緒に入れるの? やったー!」

 

「誰も湯船まで同じとは言っていない!」

 

バンザーイと喜びを顕にするララに、頭を抱える。

ああ、周りの視線が突き刺さる……

 

「見ろ。男湯と女湯は分かれている」

 

『男』『女』と書かれた暖簾を指差す。

 

「えー? 一緒に入っちゃ駄目なの?」

 

「馬鹿なこと言ってないで西連寺達と入ってこい。どうまかり間違っても男湯には入って来るなよ? 西連寺、籾岡、沢田、こいつのこと頼んだぞ。絶対に男湯に近付けるな」

 

「それはいいけど……」

 

「普通立場逆じゃない?」

 

西連寺は真っ赤になりながら頷いたが、籾岡と沢田には何とも呆れた様な、妙な物を見る目で首を傾げられてしまった。

 

 

「へへへ……この岩場の向こうには、裸のララちゃんが……」

 

ジト……っと厭らしい笑みを浮かべる猿山ともう一人の男を睨め付ける。

誰だろこいつ。多分原作にも出てたモブだけど。名前は確か荻田。

 

「悪いが止めさせてもらうぞ。ララに男湯に来るなと言った手前、お前らを女湯に送り出す訳にはいかない」

 

どっちみち諦めるか痛い目に遭うことは分かりきってるため、見逃してやっても良かったのだが、流石に先程のやり取りの後だとそういう訳にもいかない。

 

「あァ? リトてめー……自分だけイイ思いしようと思ってんじゃねェだろうなァ……」

 

「どうせお前、家でララちゃんとあーんなことやこーんなことやってんだろ……羨ましい」

 

「さっきもお前が余計なこと言わなけりゃ、ララちゃんを男湯に招待できたかもしれねーのによォ……」

 

顔が近い。凄むな。暑苦しい。

 

「できてたまるか。お前らが想像してる様なことはねーよ……とにかく、どうせバレたら痛い目見るんだ。止めておけ」

 

流石のこいつらもララが毎日全裸で(リト)のベッドに入り込んでるとは想像出来ないだろう。

ちなみに、わざわざララ用の寝間着を買ったが、今のところララがそれを着用したのは最初の数回きりだ。

夏になって、「暑ーい!」と言って脱ぎさってしまった。買った意味が。

 

「バカ。 そんなことにびびってて、ノゾキができるか!」

 

「リトだってホントは見たいだろ? 西連寺のハダカ!」

 

こいつら、女湯に声が届かない様にトーンを抑えてやがる。

 

「……とにかく、ノゾキなんて駄目だ」

 

今ここで、「西連寺の裸になんて興味が無い」と言った所で、説得力は無いだろう。強がりかムッツリだと思われるだけだ。

もう、私がここにいる間だけでも『リトが西連寺のことを好き』って事実を誤解ってことに出来ないかな。正直やりにくい。

 

「キャーーー!」

 

西連寺の悲鳴だ。ということは、そろそろ校長が見つかる所だな。

 

「なんだ?」

 

「まだ見つかる様な位置じゃないよな?」

 

猿山と荻田が顔を見合わせる。

 

「キャーーー! のぞきよォーー! こんな所に校長がいる~!!」

 

別の女子生徒の声が聞こえ、続いて複数の打撃音と校長の悲鳴が響く。

 

「「「…………」」」

 

「……行ってくるか?」

 

「……いや」

 

「今日はやめておこう……」

 

猿山と荻田はすごすごと浴槽に帰っていった。できれば永久にやめて欲しい。

 

「俺、先に上がるよ」

 

「お~」

 

あまり男湯に長居する気にならず、さっさと出ることにする。

わざわざ猿山達を待つことも無いし、肝試しまでどこかで一人でゆったりしよう。

 

 

「リト~♪髪乾かしてっ」

 

風呂から上がって暖簾を潜ると、ララも丁度出て来て、ドライヤーとタオルを掲げて近付いて来た。

 

「臨海学校の間くらい、自分で乾かしたらどうだ?」

 

言いつつも、ドライヤーとタオルを受け取ってしまう。

ララが結城家に来てから、風呂上がりのララの髪が若干生乾きなのが気になって、一度私が乾かして以降、この習慣が根付いてしまった。

 

多分、ずっと侍女にやってもらっていたから、自分で髪を乾かすのに慣れてないのだろう。ただでさえ長くて乾かすの大変だし。

 

「だって~、リトにやってもらった方がキモチいいし♪」

 

「はいはい…」

 

ララは近くにあった長椅子に腰を下ろし、私はその後ろに立つ。

家だと私がソファーに座って、ララがその前に座るのだが、ここじゃララが地べたに座ることになるので、このポジショニングだ。

 

一先ずドライヤーは脇に置き、タオルでララの髪を挟み込んでいく。

根元から毛先まで一通り水分を吸い取った所で、ドライヤーを使って内側から髪を乾かしていく。

 

「♪~~」

 

ララが鼻歌混じりに体を揺らす。

気持ちいいのだろう。分かる。

ついでに頭や首のツボを押さえて、マッサージの真似事を試みる。以前やってみたら反応が良かったので、それ以降これも同時にやる様になった。

 

私としても、この行為は割と楽しんでる所がある。

結城リトになる以前は、私も髪を伸ばしていて、それを結構大事にしていたのだが、今となってはその必要が無い。

正直物足りなかった。私は長くてサラサラの髪を触るのが好きだったのだ。

 

ドライヤーの電源を切って、渇き残しが無いか髪に指を通して調べていく。うん、いい感じだ。

私の場合はこの後トリートメントもしておくのだが、ララの場合はその必要も無くサラサラだ。素晴らしい。

 

「はい、終わり」

 

「ありがとーリト♪」

 

終わった所で、西連寺達も風呂から上がってきた。

 

「お、ララちぃ~。急いで結城を追いかけて、ナニやってたのかな~?」

 

「は?」

 

「リトに髪乾かしてもらってたの!」

 

「髪ィ? なに、結城アンタ召し使いかなんか?」

 

「なんでだよ……てか、俺を追いかけて来たって何?」

 

「ララさん、いきなり男湯の方に結城君がいるか訊いて、先に上がったって聞いて急いで出ていったの」

 

籾岡と沢田がよく分からんことを言っていたので訊ねたら、西連寺が代わりに答えてくれた。

妙にタイミングが良いと思ったら、そういうことだったのか。

 

「この後キモダメシだよね? 楽しみ~♪」

 

ウキウキとしてるララを見て、違和感を感じる。

なんだろう、と思ったが、すぐに違和感の正体に気付いた。

 

「……ララ、そのまま肝試しに行くのか?」

 

「え? 何かダメ?」

 

「ああ、いや、そういう訳じゃなくて、うーんと……誰かヘアゴム持ってない?」

 

「あ、私予備持ってるよ。いる?」

 

「サンキュ」

 

沢田が予備のヘアゴムを出してくれたので、ありがたく頂戴する。

 

えーと、確か……

 

ちょいちょいっとララの髪を纏め上げ、原作でやってた感じの髪型にする。

うん、しっくり。やっぱ和服は項が見えてこそだよな。何言ってんだ?

 

「わっ、ララちぃ可愛い~!」

 

「やるじゃん結城!」

 

籾岡と沢田がララを囲んで私を小突いてくる。

ま、原作でやってたのだから、私がやらなくても誰かがやっていただろうが、この際だしもういいや。

 

「えへへ~。ありがと、リト!」

 

「どういたしまして」

 

「結城~。そこは『可愛いよ』とか『よく似合ってるよ』って言う所だよ~?」

 

「分かってないな~」

 

「うるせ。じゃ、俺はこれで」

 

籾岡と沢田に弄られるのがいい加減鬱陶しくなってきたので、そそくさと退散する。

女子と話すのは男子と話すのよりも気が楽だが、男子として女子と話すと言うのは、何とも言えない居心地の悪さがあった。

 

 

 

「やっと私たちの番だね! リト」

 

「ああ」

 

肝試しのペアは、原作通りリトとララ、西連寺と猿山がペアになっていた。

 

「うわ~真っ暗だぁ」

 

「この一本道を500m進んだ所にある神社の境内がゴールだってよ」

 

灯で足下を照らしつつ、山道を歩いていると、前方から先にスタートしたペアが悲鳴を上げながら戻ってきていた。

 

「ひぃぃぃ」

 

走り抜ける人にぶつからない様避けていると、聞き覚えのある声が聞こえ、見ると猿山が一人で逃げ戻っていた。

 

あの野郎、折角スタートの前に「オバケにびびって西連寺を置いて逃げたりするなよ?」って釘を刺しておいたのに、何の意味も無かったな。

 

何が「心配しなくてもオバケなんざ俺にかかればイチコロだぜ。むしろそれで西連寺が俺に惚れても文句言うなよ?」だ。ほざけ。

 

「ララ……は、やっぱいないよなぁ」

 

一通り前のペアが走り抜けた後、周りを見渡してもララの姿はそこにはなかった。

 

はあ……私ももう戻ってしまいたいが、流石に西連寺を放ったらかしは可哀想だ。

西連寺だけ回収してさっさと戻ろう。別にゴールする必要無いし。

景品でもあれば少しは考えたんだが、まあ学校の行事(イベント)だしな。

 

「おーい、ララ~! どこだー?」

 

とは言え、ペアのララを放っといて西連寺を探すのも変な話なので、表向きはララを探すのだが。

 

「ララ~!」

 

ララを探しながら歩いていると、ガサッと近くの茂みが揺れた。

野生動物の可能性もあるが、果たして。

 

「西連寺…」

 

原作通り、涙目で座り込んでる西連寺がそこにいた。ここまで完全に原作通りだな。

まあ、このまま原作通りに進むと私が一方的に痛い目に遭うので、ここからはガンガン無視していくつもりだが。

 

「うわっ」

 

近付くと、西連寺が抱き着いてきた。分かっててもびっくりするもんだ。

 

「怖い……ダメなの私……オバケとか……!」

 

だからって年頃の男子に抱き着くのはどうかと思う。まあ、好きな人(リト)だからこそなんだろうが。

 

一先ず落ち着いてもらおうと、ギュッと抱き締めて背中を擦る。

華奢だ。風呂上がりだからだろう、石鹸の香りがする。ララに比べて弾力感が乏しいがそれでも柔らかい。何を比べて分析しとるんだ私は。

 

「……落ち着いたか?」

 

「…………」

 

「西連寺?」

 

「あっ、うんっ……ありがと、結城君!」

 

話しかけても反応が無かったが、もう一度呼び掛けるとバッと音がする勢いで離れた。

多分リトに抱き締められてドキドキしてしまったのだろう。顔が赤い。

……なんか罪悪感が湧いてくるが、恋のドキドキで恐怖のドキドキが紛れたのならそれはそれで良しとしよう。

 

「……前に進んだペアは粗方戻っちまったぜ。俺達も戻ろう」

 

「え……でも、いいの? ララさんを探してたみたいだけど……」

 

「ああ、聞こえてたのか。まあでも、西連寺は戻りたいんじゃないか? ここからだと、多分スタート地点の方が近いし、進めば進む程オバケ役も増えてくると思うぞ」

 

「そ、それは……でも、ララさんのこと、心配だわ。はぐれちゃったんでしょ……?」

 

「……無理しなくて良いよ。怖いんだろ? 西連寺をスタート地点まで送った後、俺だけでララのこと迎えに行くから」

 

正直、それが一番安全だ。私は別にこういうの大丈夫だし。

 

「……ありがとう、結城君。優しいんだね」

 

「西連寺ほどじゃないよ」

 

怖いクセに、ララのことを心配して先に進もうと考えていたのだから、相当にお人好しだ。私はララのことを放っとく気満々だったというのに。

 

「ほら、行こう」

 

「!……う、うん」

 

灯を持ってない方の手で西連寺の手を握る。暗くて足下が危険だし、怖がってるならこのくらいはしてもいいだろう。

 

「「…………」」

 

無言だと、余計に周囲の音が耳に入って恐怖を煽りそうだ。こんな時はちょっとした木々のざわめきでも何か別の音に聞こえたりする。

何かで西連寺の気を逸らしたい、と思って視線を上げると、ある物が目に入る。

 

「西連寺、上を見ろ」

 

「え?……わぁ」

 

上を見上げると、満天の星空が広がっていた。うーん、我ながらありきたり。

 

「綺麗だね……」

 

「ああ」

 

西連寺の気を逸らせて安心したが、二人揃って上を見上げたのが良くなかった。

足を滑らせて、脇道に滑り落ちてしまった。馬鹿か。

 

「うおっ!?」

 

「きゃっ!?」

 

まずい! と思い、咄嗟に西連寺を抱き寄せて、庇う様に転がり落ちる。

 

「いってて……西連寺、大丈夫か?」

 

「う、うん……! ご、ごめーー」

 

「待て! 西連寺!」

 

「きゃっ、ゆ、結城君!?」

 

西連寺が身を起こそうとしたのを、すんでの所で引き留めて抱き寄せる。

西連寺の頭を胸に抱え込む様にし、視界を塞ぐ。

 

いる。

 

いるのだ。オバケ役が。落武者の様なソレが。

 

あれを西連寺に見せたらまずい。我を忘れて暴れかねない。これ以上痛い目を見るのはごめんだ。

 

「……ん?」

 

やべっ。見付かった。

 

こっち来んな! という気持ちを込めて睨み付ける。いや違う、こっちに来ないで下さい。

 

「……ちぇっ、最近の若いモンは……」

 

思いが通じたのか、何やらブツブツと言いながら落武者は退散していった。ありがとうございます。

 

「ふぅ……」

 

脅威が去り、自然と溜め息が漏れる。

はー……ドキドキした。

 

「いきなりごめんな。西連……寺……」

 

抱え込んでいた西連寺の頭を解放し、顔を向けると、西連寺が惚けた顔でポーッとこちらを見ていた。

 

え、な、何……?

 

「結城君……」

 

え!? 待って、本当に何!? 待て待て待て待て! 顔が近い! 元から近いけど!

 

ハッとする。

今まで必死で気付かなかったが、改めて見ると、めちゃくちゃ体が密着している。脚なんて、何をどうしたらそうなるのか、複雑に絡み合っていた。

浴衣だから、当然お互い素足だ。

じっとりと汗ばんで、むちっとした女の子独特の柔らかさを肌で感じる。

体の前面がピッタリ引っ付いて、ドクドクと鼓動が伝わってくる。

て言うか、待って。こいつ、もしかして、ブラ……してない……?

 

「嘘だろ……?」

 

仮にも男と一緒にいるんだぞ……? さっきまでは猿山と一緒にいた。正気か?

 

頭が混乱してきた。なんだ? 私は今どうしたらいいんだ? どうするつもりだったんだっけ?

 

「さ、西連寺……」

 

西連寺の肩を掴み、腹筋に力を入れて、勢いよく起き上がる。

 

「きゃっ!?」

 

西連寺は小さく悲鳴を上げて、ぱちくりとしていた。まだ顔が赤い。

西連寺を上にしたまま起き上がったせいで、対面座位の様な形になった。やめろ。対面座位とか言うな。

 

「……戻るぞ」

 

そうだ。戻る途中だったんだ。何を油売ってるんだまったく。

 

「……あ、うん」

 

 

その後、西連寺の下駄が紛失したのでおぶっていき、勝手にオバケ役を楽しんでたララを迎えに行って、肝試しはほどなく終了した。

 

今年の達成者は誰一人として現れなかった。

 




前編終了。

それにしてもこの主人公、軽率かつ迂闊。
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