緋弾のアリア ~千里眼の矢《second sight》~ 作:リバポから世界へ
皆さん、こんにちは。リバポから世界へです。
約一月ぶりの更新になります。お待たせしました!
それではどうぞ!
「それキンジの?」
朝食を終えると、白雪は漆塗りの重箱に一人分の食事を詰め始めた。メニューは先ほどまで自分たちが食べていたのと同じもの。それを手際よく皿から移していく。
「うん、キンちゃんもコンビニのお弁当ばかり食べてると思うから……。洗い物終わったら届けてくるね」
「俺が持ってくよ。大変だろ?」
「え、いいの?」
「ああ。……最近、話せてなかったしな」
「そっか……じゃあ、お願いします」
「ラジャー」
風呂敷に包まれた重箱を手に取ると、靴を履き玄関から外に出る。そして階段を降りて外廊下を鼻歌まじりに歩いて行くと……もう一人の幼馴染の部屋の前に辿り着いた。
『遠山』と書かれた表札をチラリと確認すると、インターホンのボタンを押す。
十数秒後、スピーカー越しにくぐもった声が聞こえてきた。
『……はい。あれ……ショウ?』
「Room Service」
『……は?』
ショウのおどけた口調に家主は眠そうな声を上げる。そして近づいてくる足音から数秒後……ドアが開き、一人の少年が顔を出した。
「キンジ、モーニングーッド」
ショウは手をヒラヒラと振るとニコニコした顔のまま、持っていた風呂敷包みを少年に押し付ける。
「お、おう。何だコレ?」
この部屋のたった一人の住人である少年・遠山キンジは、押し付けられるまま包みを受け取ると怪訝そうにショウと包みを見比べた。ずっしりとした重みと温かさが彼の手に感じられる。
「我らが愛しき幼馴染から賜ったものだ。有難く受け取るがよいぞ」
芝居がかった様子でそう言ったショウにキンジは呆れながらも、包みを下駄箱の上に置いた。
「何だよその口調は……。白雪から?」
「そう。朝飯まだだろ? 心配してたぞ。食ったら電話の一本でも掛けてやりな」
「分かった。お前からも礼言っといてくれ」
「ハイハイ」
「じゃ、またな」
そう言ってキンジが閉めようとしたドアをショウが掴み、押さえつける。
「なあ、キンジ」
「……何だよ?」
「……今日来るよな?」
今までおどけていたショウの表情が変わった。寂しそうに笑うとジッとキンジの目を見つめる。キンジはため息をつくが、確かに頷いた。
「ああ、分かってる。行くよ」
「そうか。約束だぜ? Bang!」
ホッとしたショウは、パチッとウィンクをして指で銃のシルエットを作る。それを見たキンジは苦笑いを浮かべたままドアを閉めた。
「……無理強いは良くねえのかな」
自分の部屋に戻る途中、そんなことを考えてしまう。
彼は……キンジは武偵高を辞めようとしている。3年生に進学すると同時に一般校に転入しようとしているのだ。武偵を辞め、一般人として生きていく。それが今の彼の願いだった。
ショウも白雪も引き留めようとしているが、キンジの意志は固い。もう自分達では彼を止められないだろう。だが彼が居なくなれば、3人の関係はバラバラになってしまう。それだけは絶対に嫌だった。
(何でも構わない、ほんの少しでもいい。何か……何かきっかけがあれば……)
良くない頭をフル回転させて必死に考えを巡らせる。だが、どれだけ考えても良い案は思い浮かばなかった。
「おかえり。キンちゃんどうだった?」
「ああ、大丈夫。今日も来るってさ」
「そっか……良かった。あ、
白雪がハンガーに吊るしてあった臙脂色のブレザーをショウに着せる。
「そういや脱ぎっぱだったっけ。ありがとな」
「いいえ、あなた♪ な、なんちゃって」
「恥ずかしいから、その呼び方やめて……」
恥ずかしそうに顔を逸らしたショウの襟を整えていた白雪の手が止まった。彼女の目線はショウの胸元をジッと見据えている。
「どした?」
「ショウくん、ネクタイ曲がってるよ」
「え、どこが? ちゃんとなってるだろ」
「ほ、ほら……ちょっとだけ曲がってる。始業式なんだから、ちゃんとしないとダメだよ。ほら、こっち向いて?」
「ハイハイ」
どこからどう見ても、真っすぐ結ばれたネクタイを白雪の綺麗な指が緩めていく。ちょっと曲がってるだけ(彼女はそう言い張っている)なら最初から結び直さなくても良いだろうに……。
ショウは吹き出しそうになるのを堪えながら、おとなしく成り行きを見守っていた。まあ、良い。彼女の好きなようにさせてあげよう。自分もこういうのは……ハッキリ言って嫌いじゃない。
「苦しくない?」
「大丈夫」
「はい、出来ました」
「あんがと」
彼女が結んだネクタイは襟が苦しくないように、しかし同時にだらしなくないように丁度いい具合でショウの首に巻かれていた。白雪はこういう家庭的な作業が本当に上手い。料理も上手だし、掃除も洗濯も何でもござれだ。きっと将来は良いお嫁さんになるだろう。
洗面所で髪を整えると、自分の部屋に戻って通学鞄にペンケースとモバイルバッテリーだけを放り込む。教科書とノート? そんなものは教室の机の中だ。
布団をたたみ、枕元に置いてあった拳銃―――――『グロック17』をホルスターごとベルトに差し込む。そして机の横に鎮座していたガンケースを開けた。中には黒い細身の狙撃銃が収まっている。
『ステアー・スカウト』
命中精度が高く狩猟用や競技用、更には軍用モデルも存在するこのライフルは、先日の逃亡犯の追跡・確保でもその能力を遺憾なく発揮してくれた。
ボルトをオープンすると、.308 ウィンチェスター弾が顔を覗かせる。
再び銃をしまうと、ガンケースを肩に掛け部屋を出た。リビングに居る白雪に
「どうよ? キマってる?」
ポーズを取って得意気に彼女の前に立つと、白雪はうっとりした表情でショウを眺めた。
「うん……ショウくんカッコイイよ。ショウくんは星伽の……私のヒーローだから」
もじもじと、それでもハッキリとそう言った白雪に彼女の通学鞄を渡してあげると
「そんな立派なもんじゃないさ」
ショウは苦笑いを浮かべ、彼女と一緒に部屋を出た。
寮を出ると最寄りのバス停まで歩いていく。まだ早い時間のせいか、自分たち以外は誰も並んでいなかった。
「恐山行くの明日だっけ?」
「うん……」
「……そっか」
白雪は星伽神社という由緒正しい神社の長女だ。巫女である彼女は、家の事情や所属学科の都合で頻繫に神社や山に合宿に行く。
先日も伊勢神宮に一週間程滞在し、戻ってきたのは昨日の夕方頃。ショウも護衛役として同行し、陰から彼女を守っていた。と言っても護衛とは名ばかりで、実際は彼女の運転手や雑務ばかりである。
星伽の巫女は長い歴史の中で狙われることが多く、ショウの家が代々彼女達を守り続けてきた。しかし、最後に星伽巫女が襲われたという記録は今から100年以上も前のこと。
自分たちの役割は今のご時世、そこまで重要なのか? ショウは口にこそ出さないが、時折そう感じることがある。
「ご、ごめんね? 今回の合宿は完全に男人禁制みたいで……」
白雪が申し訳なさそうにショウの顔色を伺う。
そう、明日からの合宿は恐山の奥地にある男人禁制の古い神社。いつもは彼女に付き従うショウも今回ばかりはお留守番である。珍しいことだが仕方がないとショウは諦めていた。
「仕方ないさ、決まりなんだから」
欧米人のように肩をすくめるが、白雪は……マズイ目に涙が浮かんでいる。
「でもでも……」
「お、おい泣かないでくれよ……頼むから」
長年の付き合いで、こういう時は頭を優しく撫でてやれば泣き止むとショウは知っていた。今回も……
「……うん」
ほら、泣き止んだ。
しょんぼりとした表情でも、先ほどに比べれば元気に見える。
「姉貴と連絡取れたよ。向こうに行ってる間、お前の護衛はあの人がやるから」
「お姉さんが?」
「そう。蒔江田さんと一緒に夕方には迎えに来るってさ」
「……そうなんだ。でも今日の晩ご飯どうするの?」
「どーにでもなるさ。キンジ誘って食いに行っても良いし。
ショウがおどけて笑うと、白雪の顔にようやく笑顔が戻った。
そんなことをやってる内に通学バスがやって来る。キンジの姿はまだ見えない。まだ時間的余裕はあるが、新学期早々遅刻しないだろうなと少しだけ不安になった。
(……いや、あいつは来るって言ったんだ。大丈夫だろ)
そう自分を納得させると、ショウは白雪に続いてバスに乗り込んだ。
―――――しかし、この日キンジがバスに乗ることはなく……それが彼だけでなく、ショウの運命さえも変えてしまう事になるとは全く想像すら出来ていなかった。
空から女の子が降ってくるなんて……誰一人として考えつかなかったのだ。
ショウ。本名は
かつて源平合戦で源義経に仕え、弓の名手として名を残した那須与一
弓を銃に持ち替え……代々、受け継がれてきた
目の前の少女を……星伽の巫女を護るために……。
今回はこれで以上になります!
ようやくキーくんを出せました・・・(汗) ここまで長かった・・・
次回から他の主要キャラも出てくると思います。仕事が忙しくなってきたので、更新が遅れる事もあるとは思いますが、「それでも」と言ってくださる方が居れば嬉しいです。
ちなみに最後のショウのセリフに「なもけね」という言葉があるのですが、これは青森の方言で『大丈夫』という意味らしいです。使い方合ってるのかな・・・?
それでは今回も読んでくださってありがとうございました。次回もお楽しみに!
失礼します。