緋弾のアリア ~千里眼の矢《second sight》~   作:リバポから世界へ

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皆さん、こんにちは。リバポから世界へです。

なんとか今月中に投稿することが出来ました! 



それではどうぞ!


Snipe 05 「LOVE REVOLUTION」

「さっきキンジに電話した。やっぱりチャリジャックの被害者はあいつだったよ」

 

午後の授業も終わり寮に戻る途中。ショウが隣を歩く白雪に呟くと、それを聞いた彼女は顔面蒼白になった。

 

「キ、キンちゃん大丈夫なの?」

「話を聞く限りじゃ問題無さそうだ。タフな奴だよホントに」

「そっか、良かった……」

 

電話で話した会話を思い出す。キンジは怪我は無いと言っていた。だが声には疲労が混じっていた気がする。相当ストレスが溜まっているのだろう。何かガス抜きしてやらないと……。兄を無くした時のように自分で抱え込んでしまうかもしれない。

 

「ユキ。合宿から戻ってきたらキンジと3人で飯食わないか? 作るの手伝うからさ」

「もちろん!」

「ありがとう。ところでさ……」

 

元気よく返事をした白雪に、ショウは次第に膨れ上がっていった疑問を投げかけた。

 

「こっち男子寮なんすけど……?」

「うん、そうだね?」

 

”ちょっと何言ってるか分からない”と言わんばかりに可愛らしく小首を傾げる彼女に、ショウは別の方角を指差す。

 

「女子寮があっちなのは知ってるよね?」

「もちろん♪」

 

当たり前のように言う白雪をジッと見た。

毎日のように食事を作ってくれるのは嬉しいが、特に理由も無いのに女の子を男子寮に連れ込むのは色々とマズい気がする。だが料理だけ作らせて後は来るなって言うのは、いくら何でも最低だ。どうするのが正解なんだろう?

”何か問題でもありますか? ありませんよね”?と言わんばかりに、ニコニコと自分を見上げる彼女を見て―――――

 

(まあ、可愛いからいいかぁ……)

 

ショウは色々考えるのが馬鹿らしくなった。

 

「そうか」

「そうです♪」

 

そんな調子で男子寮まで戻ってくると、門の前に1台の高級車が止まっている。あの車は……

 

「「あっ」」

 

中にいる女性の顔を確認すると、ショウと白雪の顔に笑みが浮かぶ。2人の見知った顔だった。

運転席に乗っている人物もこちらに気づき、後ろの座席に乗っていた人物と共に表へ出た。2人ともスラッとした美人で周囲の通行人がチラチラと彼女達を見ている。『あまり目立つ人間は寄こすなよ』とショウは心の中でため息を吐いた。

 

「薪江田さん、静香さん! お久しぶりです!」

 

白雪が嬉しそうに2人に駆け寄る。名前を呼ばれた女性たちは恥ずかしいような嬉しいような表情で挨拶を返した。

 

「白雪様、翔資様。お久しぶりで御座います」

 

そう言って星伽家お抱えの美人運転手・薪江田深雪(まきえだみゆき)は頭を下げ、そんな彼女にショウはフランクに手を振った。

 

「薪江田さん久しぶり。調子どう?」

「はい。皆様もお元気ですよ。翔資様もお変わりないようで」

 

年下のショウに慇懃に答える深雪にショウは苦笑いを浮かべる。

 

「うーん……前から言ってるけど、その”様”付けは止めてくんないかなあ。俺の方が年下だし」

「ですが……叱られてしまいます」

「誰にさ。ウチの親父? それともユキのお袋さん(おばさん)?」

「そ、それは……」

 

深雪が言い淀むと、今まで黙っていた隣の女性が口を開いた。

 

「こらこら、ショウ? あまり深雪さんを困らせないの」

「でも俺らが小さい頃から遊んでくれてたんだぜ? 姉ちゃんみたいなモンだし……って、おお!? こっちにホントの姉貴がいた!」

 

おどけたようにオーバーリアクションをするショウに彼の姉・那須静香(なすしずか)の額に青筋が浮かぶ。

 

「あ、あんたねえ……久しぶりに会ったのに第一声がそれ?」

「ハハ、冗談だよ。姉貴マジで久しぶり。元気そうで良かった」

「アンタもね」

 

お互いにからかう時もあるが、姉弟仲は良いほうだ。

電話では何度も話したが、こうして顔を合わせるのは1年ぶりぐらい。ショウと白雪が年末に帰った際は静香はスコットランドの教会で別の星伽巫女の護衛を務めていた。

 

「それにしても、ここ男子寮だよ? ユキの女子寮はあっち。よくここに居るって分かったね?」

 

白雪を迎えに来た2人には女子寮の場所は伝えてあったが、まさか先回りされているとは思わなかった。

しかし、静香も深雪もお互い顔を見合わせると肩をすくめる。

 

「え? 分からないと思ってたんですか?」

「『どうせ、お嬢様が通い妻状態になってるんだろうなー』って深雪さんと話してたのよ。案の定だったわ」

「…………」

 

”お前、何バカ言ってんの?”。彼女たちは口にこそ出さなかったが、そんな風に言われた気がしたショウは閉口した。

 

「お嬢様、このバカ弟がご迷惑をお掛けしてませんか? 何か色々と不安なんですけど……」

「い、いいえ! むしろ一緒に居れて嬉しいというか、弟さんをお婿にくださいというか……え、ええっと、その……末永くよろしくお願いします!」

 

ビッシリ90度の体制で頭を下げた白雪に静香はドン引きし、ショウは眉間を指でほぐす。

そして、姉弟にしか聞こえないボリュームでヒソヒソ話を始めた。

 

「……俺、疲れてるのかな? 何か今プロポーズされた気がするんだけど……」

「知らないわよ、アンタ彼氏でしょ? 何とかしなさいよ」

「待て待て、俺ら付き合ってねえよ……」

「は……? 冗談よね?」

 

愕然とした静香にショウはコクコクと頷く。傍から見れば恋人に見えるかもしれないが、お互いに明確に”好き”と言ったことは無い。ただの一度も。

 

「ショウくぅん……」

「ハ、ハイ!?」

 

背後から甘ったるい声(キンジ曰く粉砂糖をまぶしたイチゴ大福みたいな声)が聞こえ、ショウの肩がビクッと震えた。恐る恐る振り返ると、白雪が涙目になって自分の目をジッと見つめている。マズい……今の会話が聞かれただろうか?

 

「何かあったら、すぐに電話してね? 何も無くても電話して良いからね? ねっ?」

「そんな今生の別れみたいに言わんでも……」

 

よ、良かった。静香との会話が聞こえていた訳ではないらしい。

 

「あー……盛り上がってるトコ申し訳ないんだけど、もうそろそろお時間ですよお嬢様?」

「え? あ、ホントだ……」

 

腕時計を見た白雪は何度もショウに「きちんとご飯食べてね?」「怪我しないでね?」などと言い、ようやく車に乗り込んだ。

深雪も運転席に戻り、表にいるのが那須姉弟だけになると静香がショウに尋ねた。

 

「で、アンタはどうなの?」

「何が?」

 

平静を保っているように見せたが、静香は彼の目が泳いでいるのを見逃さない。相変わらず演技が下手くそすぎる。

 

「すっとぼけないの。白雪ちゃんのこと、ちゃんと考えてるんでしょうね?」

 

先程とは打って変わって大真面目な口調で問いただす静香にショウは何と答えたらいいか分からなかった。

 

「……今更こんなこと聞くのもアレだけどさ、いいの? 家柄的にマズいんじゃ……?」

 

躊躇いながらも、ようやく言葉を選び口を開く。それを聞いた静香は一瞬キョトンとした後、小さく吹き出した。

 

「プッ……クスクス」

「…………?」

 

自分では変なことを言ったつもりはないが、笑われると気になる。怪訝な表情で首を傾げると静香は穏やかな表情を浮かべた。

 

「アンタ意外と前時代的ね……。父さんやお爺ちゃんの年代ならともかく、今21世紀よ? 昔みたいな政略結婚なんて簡単には出来ないんだから。もし、そうなら私もとっくに良家の御曹司にでも嫁いでるし、アンタたちだって引き離されてるわよ?」

「そりゃあ、まあ……そうかもしれないけど」

「どんな決断をするかはアンタの自由だけれど、後悔だけはしないようにね? こんなに良い()……中々居ないんだから。アタシが男だったら、お嫁に欲しいくらいよ」

 

静香は弟が心配だった。普段はおどけて何も気にしないで生きてるような男だが、実は繊細で傷付きやすい子だということも知っている。だから言いたいことは全部言ってしまおうと次々にまくし立てた。

 

「”好き好きアピール”を受けてる間は良いわよ。でも『自分が一番この()に近い男なんだ』って驕りは今すぐに捨てなさい。白雪ちゃんモテるんでしょ? 油断してると、そこらのチャラ男にサクッと持ってかれるわよ? こう! サクッと!」

 

感情が昂って身振り手振りの姉を普段は鬱陶しいと感じるはずが、ショウは珍しいほど深刻な表情で彼女の言葉を噛みしめている。

そして、何処か吹っ切れたようにコクリと頷いた。

 

「……分かった」

「よろしい……ってアンタ何してんの?」

 

ショウは車のサイドウィンドウをコンコンとノックすると静香の目を見て、こう言い放った。

 

「姉貴の言った通りだ。俺も後悔したくない」

「…………? ショウくん、どうしたの?」

 

スライドドアを開けた白雪の顔を覗き込む。そして普段は愛称で呼んでいる彼女をファーストネームで呼んだ。

 

「白雪」

「は、はい?」

「帰る前日に連絡くれ」

「……え?」

「俺がHILUX(サーフ)で迎えに行く」

 

珍しいこともあるものだ。ショウはこういう風に、半ば強引に何かを決めるということはしない。特に白雪のことでは皆無と言ってよかった。白雪だけでなく、彼を焚きつけていたはずの静香や運転席の深雪も驚いた表情で顔を見合わせる。

 

「だから、その……あれだ。ドライブデートしながら帰ろう」

「え……ええっ!?」

 

白雪は車の座席の上で飛び上がるほど驚いた。実際に少し頭をぶつけて涙目になっている。

いたた……と頭を擦る彼女にショウはクスリと笑みを浮かべた。

 

「ほ、本当!?」

「ああ。行きたい場所があったら言ってくれ。連れてってやる」

 

チラリと姉の表情を伺う。しかし、静香は手をヒラヒラさせるだけで何も言わなかった。”好きにしなさいな”という意味らしい。

 

(ショウくんが初めてデートに誘ってくれた!)

 

白雪は舞い上がるほど喜び……合宿に行かなければならない憂鬱な気分も吹き飛んでしまった。

 

「嬉しい……じゃあ私、お弁当作るね! ショウくんの好きな物いっぱい作るから!」

「うん。楽しみにしてるよ」

 

2人で指切りを交わすと、ショウは運転席の深雪と後ろの静香に視線を移した。

 

「蒔江田さん、くれぐれも気を付けて。姉貴、2人を頼むよ。皆によろしく」

「承知致しました」

「当然」

 

2人が”面白いものが見れた”と言わんばかりに満足気に頷いた時、白雪が車内から外に出てきた。

 

「ユキ、どうした? 忘れ物か?」

 

ショウがキョトンとしていると、彼女は意を決したように――――――

 

「えいっ!」

 

ショウの胸に飛び込んだ。

 

「うおっ!?」

 

白雪に抱き着かれたショウは心臓が口から飛び出そうになり、池の鯉のように口をパクパクと動かす。声を出そうとしても出ない。感じるのは彼女の桃のような甘い香りと柔らかい2つの感触だけ……。

 

「じゃあ行ってきます! 電話してね!」

「え……あ……」

 

白雪はショウから離れると彼が何か言う間も無く、車内へと戻ってしまった。

その数秒後、彼女たちを乗せた車は静かな駆動音と共に動き出す。

 

「ショウくぅ~ん~! 待ってるからね~!」

「お嬢様! 危ないですからっ! 首引っ込めて!」

 

交差点を右折するまでずっと窓から顔を出し、こちらに向かって手を振る白雪にショウはポカンとしながらも手を振り返した。

そして車が見えなくなると、真っ赤になって寮の外壁にもたれ掛かる。

 

「……い、今のはズルいだろっ……!」

 

幸いなのは、今の光景と自分の情けない顔が誰にも見られていない事だった。

 

 





いかがでしたか?

なんか、白雪とのイチャイチャシーンだけで物語が全然進まない・・・
流石に「くどい」って言われるかな?

星伽家のお抱え運転手、薪江田さんは原作でファーストネームが不明だったので深雪という名を勝手に考えました。もしも分かりづらいという方がいらっしゃったら、名字に変えます。

最後のシーンで白雪に何をさせるか少し悩みました。

キス→いくら何でもまだ早い(頬でも)

手を握る→第一話でやったからインパクトが弱い

ハグにするか・・・って感じですね。

次回はすぐに投稿出来る予定です。
ついに”あの子”が出ます!

それでは今回も読んでくださってありがとうございました。失礼します。

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