日曜日の昼、昼食を済ませた俺の携帯に電話がかかってきた。画面には、「三沢真帆」と書いてある。
「はい、もしもし。」
「あ、ゲッソー?今暇?」
「まあ、特にこれと言った用事はないが。」
「じゃあさじゃあさ、アタシと紗季の練習に付き合ってくれない?」
「ああ、いいぞ。」
「ありがと、ゲッソー!学校近くの公園で練習してるから早く来てね!」
と言って、真帆は電話を切った。それにしても、練習か…。この状況では少しでも練習をすることが大事だし、悪い事ではないな。さっさと準備を済ませて、公園に向かうとするか。
歩いて十数分の所で公園が見えてきた。ゴールの側に真帆と紗季、それから誰かが揉めているようだが、一体何があったんだ…?
「今日は一日、アタシがここを使うって決めたんだかんね!アンタたちに使わせるつもりはないから!」
「なんだと!そもそも公園はみんなの場所じゃんか!だったらアタシたちが使っても問題無いだろ!」
「フン!小学生のくせに、中学生に意見しようっての?笑っちゃうわ!」
「なにをー!」
「こら真帆、いったん落ち着きなさい。」
「離せ紗季!アタシがコイツをバスケでぼこぼこにしてやる!」
「やれるもんならやって見なさいよ!」
聴いている感じ、真帆は中学生とバスケのコートを取り合っているようだな。それにしても、これじゃ小学生以下の喧嘩にしかなっていないぞ…。しょうがない、仲裁に入るか。
「…何をしているんだ、真帆。」
「あ、ゲッソー!聞いてよ!こいつがゴールを独り占めしようとしてんだ!」
「それの何が悪いってのよ。どうせヘタクソなアンタたちより上手くて、中学生の中ではトップクラスの実力者であるアタシが使う方がいいに決まってんじゃない!」
もの凄い自信だな…。
「ねえ創玄、どうにかならないかしら。中学生相手に今の真帆が勝てるわけないし…。」
「なるほどな…。大体事情は把握した。ここは俺に任せてくれ。」
「ごめんなさいね、創玄。真帆にはきちんとお説教しておくから!」
「ああ、任せたぞ。」
俺はいまだ言い争いをしている中学生の方に話しかけた。
「ちょっといいか。」
「なによ、ていうかアンタ誰?。」
「俺はそこの二人の友人でな。それでだ、俺達には今どうしても練習しなきゃいけない理由があるんだ。どうだ?今日のところは俺たちにこの場所を譲ってくれないか?」
「フン!あんたたちの事情なんか知ったこっちゃない!アタシが使うって決めたんだから、今日はアタシが使うの!」
…なんという横暴な発想だ。ここまで身勝手だと、最早感動さえ覚えてくるな。
「どうあっても、ここを譲る気は無いと?」
「だーかーら。さっきからそう言ってんでしょ?でかい図体のくせに、物覚えが悪いやつ!」
「しょうがないな…。じゃあ、勝負をするか。」
「は?勝負?」
「ルールは簡単。アンタがボールを持った状態で俺を抜いて、そのままゴールに入れられたら勝ちということで。」
「…なあにそれ?そんな楽勝な勝負、わざわざする価値あんの?」
「楽勝かどうかは、やってみればわかる話だ。それともなんだ?まさか中学生の中でトップクラスの実力者ともあろうお方が、でかい図体のくせに物覚えが悪い奴に勝てないとでも?」
「…結構ムカついてたんだな。ゲッソー。」
「あんなこと言われたらね…。」
後ろで何か言っているような気がするが、この際無視しておこう。
「…言ってくれるじゃん。いいよ、その勝負受けて立つ!」
「OK。なら、さっさと勝負を始めるとしようか。」
「フン!後で泣き事言っても許してやんないからね!」
互いに火花を散らしながらゴール前に向かう。
「(口ではかなりの実力者だとか言っていたが、恐らくそこまで強くはないと見た。作戦を練ってくるタイプにも見えんし、昔通りのプレーでやって大丈夫そうだな。)」
俺が考え事をしている最中に、目の前のアホは何を思ったか、とんでもないことを言い出した。
「アンタに普通に勝っても面白くないから、あえてアタシは自分の作戦を宣言してあげる!」
どういう事だ…?自らの手の内を明かして揺さぶりでもかけるつもりか。
「アタシは右からドリブルでアンタを抜いた後に、華麗なシュートで雌雄を決すると宣言するわ!」
「…いいだろう。かかってこい。」
相手の狙いが何か当てれば勝率は上がる。だが、もし外したとすれば俺は負ける可能性がある。
「(…こんな時、あの男ならどうやって相手の思想を見破る?)」
―――いいか、相手の思想という物は身体の動きか顔に出る。特に、余裕を見せびらかしている奴は顔によく現れる事が多い。そこの見分けが出来れば勝ったも当然だ。―――
「……なるほど。」ニヤッ
「何急に笑ってんの?キモ…。」
「俺の事より、今のうちに精々自分が勝つ妄想でもしていたらどうだ?」
「ふん、そんなの別にしなくてもアンタには勝てるからするだけ無駄でしょ。」
「無駄かどうかは分からんものだ。まあ、アンタ程度の脳みそじゃ大した思考も無いんだろうがな。」
「な!アンタ、小学生の癖にアタシにそんなこと言うなんてどうなるかわかってんの?」
「大した事にはならんだろうさ。粋がっている中学生に灸を据えてやるだけだからな。」
「~~~!!今に見てなさい、ボッコボコにしてやるんだから!」
そう言い放ちながら、宣言通り右からドリブルをして俺を抜こうとしていた。
「(宣言通り来たか…なら!)」
自信満々に突っ込んでくる相手には対策方法がいくつかある。そのうちの一つは―――
「そこかッ!」パンッ
「な!?」
―――相手のスピードと同じ速度でボールを叩き落とす。単純だが、かなりの有効打になっただろう。
「……あり得ない。あたしが、こんなやつに負けるなんて!」
「あり得ないことは無い。現に、アンタは俺に負けたんだ。」
「ふざけんな!もう一回やれば―――」
「何度やろうと同じ事だ。自分の惨めさをこれ以上味わいたくなければ、さっさと家に帰るんだな。」
「~~~!!!覚えてろーーッッ!!」
あの中学生は悔しそうに叫びながら走り去っていった。
「やれやれ……。」
「すげー!ゲッソー普通にバスケ上手いじゃん!」
「…確かに。昔やってたとは聞いてたけど、ここまでとは思ってなかったわ。」
「俺は別に大したことはしてないんだが。」
「十分すごいよゲッソー!ねえねえ、あたしにも今の教えて!」
「私にもお願いできるかしら?ディフェンスは出来るようになった方がいいと思うの。」
「…そうだな。教えてもいいが、まず最初にやってもらう事がある。」
「やってもらうこと?」
「ああ。お前たちはまずシュートの練習を少しやってもらう。」
「シュートの練習?私たちがシュートする立場になるの?」
「そこの部分はまだ決まってないが、いつ誰がどのタイミングでボールが来るかわからないからな。とりあえず、いろんな角度からシュートをうってもらう。」
「でもさ、ボールが入らないと意味ないんでしょ?」
「取り敢えずはお前たちに、『ボールをキャッチしてゴールに向かって投げる』ということを体に覚えてもらう。」
「そっか。体が覚えておけば幾らかは有利になるわけね。」
「そういう事だ。さっき見せたディフェンスはその後だな。」
「にしし、そういうことなら任せとけ!」
「ええ。私たちは何時でも大丈夫よ。」
「よし、それじゃ行くぞ!」
こうして夕方まで俺達の練習は続いた。有りとあらゆる場所からのシュートやドリブル。そしてディフェンスについても軽く教えた。そして…
「はあ、はあ、はあ、つ、疲れたぁ…。」
「ふへ~…。あたしも疲れた…。」
「二人とも上出来だ。今教えたことは暇なときにでもやるといい。」
「うん…。わかった…。」
昴さんが戻ってきたときの為にある程度練習をさせておいたが、少しやり過ぎてしまったかもしれんな。
「二人とも、今日はもう遅いし、家に帰ってゆっくりするといい。」
「分かったわ。ほら真帆、行くわよ。」
「待ってよ紗季~…。」
二人の姿が見えなくなってきたし、俺も帰るとするか。
晩飯を済ませ、風呂から出た直後に携帯にメールが届いた。確認するとどうやら美星先生からのようだった。
「どれどれ…。」
『昴がコーチを続けてくれることに決まった。あたしも色々と忙しいから、後はアンタたちに任せるよ。』
「そうか…。昴さんは戻ってきたか。なら、こっちも作業開始といくか。」
そう言って俺は自室のパソコンに向き合った。
少し時間を遡り昴sideへ
智香と一緒に晩御飯を食べながら作戦会議をした俺は、母さんに智香の見送りを任せて一人ミホ姉の所へ向かっていた。
「よ、昴。どうした?こんな時間に。」
「何でもいい、男バスのデータを持ってないか?些細な情報でもあった方がいいんだけど。」
「ん、ちょっと待ってな。」
ミホ姉は一度家の中に戻っていった。しかし…。
「(なんなんだろう…。あの遅かれ早かれ来ると思っていたみたいな反応は。)」
もしかして、ミホ姉は分かってたのか?俺がコーチを続けることを。
「(いや、まさかな…。)」
「お待たせーっと。」ポイッ
「う、うわっと。」
戻ってきたミホ姉が渡してきたのは、段ボール一箱分だった。
「こんなにあるのか?いったいどうやって…。」
「にゃはは、男バスの顧問がムカつくやつでさー。そいつのパソコンにウイルスかけてデータを引っこ抜いてやったの。」
な、なんと言うえげつないことを…。
「ミホ姉、そんなことできたんだな…。」
「おいおい、勘違いするな。その作業をしたのはアタシじゃなくて創玄のやつだぞ。」
「え?」
創玄が…?いったいどうやってそんなことを…。
「どうやってやったかはアタシもよく分かんないんだけどさ。創玄は、アンタが戻ってくることを想定してたみたいだったよ。」
「創玄が…。取り敢えずありがとうな、ミホ姉。」
「ねえ昴。…勝てそう?」
「…普通は無理だろうな。」
そう、普通に考えて女バスが男バスに勝てるはずはない。けど…
「だけどよ、その無理をひっくり返すのが楽しいんじゃねえか。」
俺はミホ姉にそう言って、家に帰っていった。
「…おかえり、昴。」
如何でしたか?ようやくここまで来れました。ここまでに来るのに十話以上ってどうなってるんですかね。まあ、これからも気楽に見て言ってください。それではまた次回~。